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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
終章 ふたりの聖女
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第68話 別離

 大聖堂に私たちは辿り着いた。ここには一般の人もたくさんいる。すごい勢いで扉を開けて、駆け込んできた私たちは中にいた一般の人たちの注目の的になった。





「ノワちゃん、手離して?」





 ロコちゃんは、私が握っている手をぶんぶんと上下に揺すった。手の力を抜くと、すり抜けるように彼女の手は私から離れた。




 ロコちゃんは走る私たちを追わずにその場で立ち止まった。最後尾にいたグレイが声をかけている。




「聖女パーラ、すぐに追っ手が来るぞ?」





「ワタシに任せろって言ったろ? 聖女様なめんなよ?」





 私も少し距離を置いたところで思わず立ち止まってしまう。そして、考えるより先に叫んでいた。





「ロコちゃんっ!!」





 私の方を向いたロコちゃんは笑ってウインクをした。その表情は、初めて出会って別れた際に見せてくれたものと同じだ。




「ノワラ・クロン、立ち止まるな! 背中の少女が捕まったら全て意味が無くなるぞ!?」




 私のとこまで来たグレイが強く手を引く。




「ノワちゃん、ごめん。教団にとっては『お飾り』かもしれないけど、ワタシはみんなが憧れる聖女様になりたいんだ」




 ロコちゃん? 今、この状況でなに言ってるの? 追っ手の人が扉をくぐってもうそこまで来ている。なんで立ち止まってるの!?





「ワタシは聖女パーラ! ここに集まっている皆さま! どうかワタシの話を聞いて下さい!」





 ロコちゃんの声が大聖堂に響き渡る。今、この瞬間に彼女は「聖女」へと変わったんだ。ここにいたすべての人の視線が、彼女一点に集中した。




 追っ手の親衛隊がパーラ様を捉えようとしている。けど、それを止めたのは名前も知らない大聖堂にいた()()……。きっと、たまたまここに来ていただけの人。その人に続くように、聖女パーラ様の周りに人が集まってくる。





「なるほどな、大勢の前で呼びかければ人々は聖女の味方をする。教団が聖女をどう思っていようとも、この国の人間にとって聖女は、象徴であり、憧れの存在なんだからな」




 私を引っ張るグレイがそう言った。




「ノワラ様、急ぎましょう!」




 ガーネットさんの声が響いた。そうだ、私が立ち止まったらいけないんだ。ロコちゃん大丈夫よね?




 すぐに追いついてくるよね?





◇◇◇





 大神殿を出てからは早かった。




 外には、ナイトレイ商会の荷馬車が待っていた。私たちはその荷台へと潜り込んだ。




「この荷馬車は、この国でも数少ない他国との交易に使われているものです。常日頃行き来をしておりますから、検問もほとんどなく外へと出られます。ですが、私たちの情報が門の衛兵に伝わるまで……、の話です」




 陽の光がほとんど入らない荷台の中でガーネットさんは諭すような口調でそう言った。




「馭者にはある程度の事情は伝えてある。隣りの国までは難なくいけるはずだ」




 続いてグレイもそう言うと、2人揃って私に背を向けた。




「待って! ガーネットさんもグレイもどこへ行くの!?」




 ガーネットさんは背を向けたまま、顔だけこちらに向けて返事をした。その横顔に、荷台の隙間からかすかに漏れた光が射しこんでいる。




「お話したように、私には責任がありますから」




 彼女はそれだけ言うと、先に荷台を降りていった。残ったグレイがこちらに歩み寄って来る。




「聖女パーラも必ず連れ出す。そのためにはここに残る人間が必要だろう?」




 なにこれ? 外へ出るのは私だけ……、いいえ、私とソフィア様だけなの?




「その少女を守ってくれ。そして、聖女パーラやガーネット、あとは両親のことも心配するな。残った人間で必ず守る」




 私の不安をすべて見透かしたようにグレイは言った。





 私の目の前でいきなり人を刺して……、でもそれは私を守るためで、その後は優しく介抱してくれて……、だけど、その後は嫌味を言ったりデリカシーが無かったり……、彼のことはなんだかよくわからない。




「グレイは……、やっぱり優しい人なのかしら?」




「さあな? とにかくこっちは任せろ」




 その言葉を最後に彼もまた、背を向けて荷台から降りていった。




 追いかけたい衝動に駆られる。だけど、ここで出ていったら、全部意味が無くなっちゃう。私は荷台の隅っこでソフィア様と一緒に大きな布を被って荷物に紛れた。




 ほどなくして、荷台が揺れて荷馬車が動き始めた。私は目を瞑ってソフィア様を強く抱きしめていた。頭の中に、ロコちゃんやガーネットさん、グレイ……、みんなの顔と言葉が繰り返し過ぎってくる。





『――ノワちゃんとなら絶対うまくやれると思ってるよ! だけど、ダメになってもノワちゃんとならワタシは納得できると思うんだ』





 街を見下ろせる高台でロコちゃんが言った台詞だ。今頃になって私は気付いた。ロコちゃんは私にも同じように思って欲しかったんだと……。それはきっと、「ダメになってる」かはわからないけど、最初から一緒に逃げるつもりはなかったからだ。




 私とソフィア様を逃がして、自分は聖女としてこの国に残る……、ロコちゃんは最初からそのつもりでいたんだ。




 私はそれで納得できる? ううん、全然納得できないよ、ロコちゃん?




 だから……、絶対もう一度会おうね?





 そのときは思いっ切り引っぱたいてやるんだから!

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