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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
終章 ふたりの聖女
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第67話 接触

「ノワラ様が大神殿の奥の見取り図を描いてくれたでしょう? とても助かりました」




 たしかに私はここの見取り図を彼女に渡していた。けど、ロコちゃんの記憶を頼りに私が描いたもので、わからないところも多くて心配だった。それにここまで入ってくるには警備とかいろいろ邪魔がありそうだけど?




「教団は組織が大きくなり過ぎて、教育が行き届いていないのではないですか? ずっと以前に教団から離れた私なんかの適当な命令に、表の警備は騙されてくれましたよ?」




 ルーベン様は険しい顔でガーネットさんを睨んでいる。そして、今ここでようやく最初に彼女に出会ったときの違和感の正体がわかった。





「家出娘が……、今まで一体なにをしていた? ガーネット?」




 ガーネットさんの面影は、どことなくルーベン様に似ていたんだわ。まさか親子だったなんて……。




「『なにをしていた?』ですって? マリンを使ってこちらの動向を探っていた癖によくそんなこと言えるわね? まさか彼女が最初から私たちを探るために送り込まれた者とは思っていなかった……。ですが、私の顔を見て捉えようとする人間がいないところを見ると、一人娘が反・教団側にいるとは言ってなかったようですね?」




 侍女のマリン、やっぱり彼女が反・教団の間者であり、同時に教団側の内通者だったのね。消去法で彼女くらいしかいないと思っていた。





「親不孝者めが……、この私にどれだけ恥をかかせるつもりだ?」




「神官長……、お父様が他国との貿易の品を横流しして私腹を肥やしていると知らなければ、私が教団に疑いをもつこともなかったと思います」





 ガーネットさんが見せてくれた『魔導書(グリモワ)』ってまさか神官長の物だったの?





「なるほどな、ノワラ・クロンを(そそのか)してこんな真似をさせたのはお前の仕業だったわけか?」




「今の聖ソフィア教団は、女神様の神託を一部の人間が利するように使用しています。そんなものを守ろうとするくらいなら、私は彼女たちの意思を尊重したいと思います」




 私がガーネットさんの方に目をやると、彼女はまるで顔に陽が射したような仕草をして見せた。一度、()()で連れ去られているからわかる。私は咄嗟に半歩前にいるロコちゃんの顔を覆うように掌を思い切り開いて前に出した。





「「「うわっ!!」」」





 男の短い悲鳴がいつくか重なって聞こえた。私の視界は真っ暗闇からゆっくりと光を取り戻す。目の前には、なにかに怯えるように体を丸めた親衛隊とルーベン様の姿があった。




 ガーネットさんの仕草で、きっと私もくらった視界が真っ白になる「なにか」を起こすんだと思った。その瞬間は目を瞑っていたからよくわからないけど、さっきの悲鳴からきっと鋭い光がこの場を襲ったんだと思う。




 私の手だけではその目を光から守れなかったみたいで、ロコちゃんも身を丸めてうずくまるような姿勢になっている。おぶっているソフィア様からは動揺の反応や、声すらも聞こえてこない。




 ガーネットさんが出口側の廊下を指差している。私はロコちゃんの腕を強引に引っ張ってそっちを目指して走った。


 ガーネットさんと並んだところで後ろにグレイが隠れていたことに気付いた。




「いっ、今なにをしたんですかっ!?」




「目くらましの魔法です! グレイが少しですが、魔法を扱えるんです!」




 私が連れ去られた時も、魔法を使っていたのね? 腕相撲の時といい、魔法が禁忌の国にいるのに案外遭遇率高いわね?




「魔導書にある通りにやってたまたま身に付いた程度のものだ。効果は長くないが、なんとかこの隙に出口まで駆け抜けるぞ!」




 ガーネットさんが先導して、続いて私はロコちゃんを引っ張りながら走っている。追っ手を気にしながらグレイが最後尾を走っていた。ロコちゃんは何度も瞬きをしながら視界を確認しているようだった。




「ノワラ様に言われてまさかとは思いましたが……、本当に女神ソフィア様が人間で、教団に閉じ込められているとは思いませんでした」




「私も急に言われたら信じられなかったかもしれませんが、ロコちゃんがそう言ったのと皆さんから聞いていたお話で信じられたんです!」




「ロッ…、ロコちゃん?」




「えっと! 聖女パーラ様のことです!」





「つまらん話をしている余裕はないぞ? 追っ手が来ている」





 私たちの会話にグレイの冷静な声が割り込んでくる。




 唖然とした表情をしたり、驚いたりしている僧侶・修道女といった教団関係者を後目に私たちは、いくつも扉を開けて走っていく。




「このままだと出口までに追い付かれるぞ?」




 私たちは、ロコちゃんの走るペースに合わせて走っている。速さで劣ってしまうのは仕方ない。




「しゃーねぇな! 大聖堂までいけたらワタシに策があるから任せてよ!」




 ロコちゃんに策? 私はそんなの聞いてないけど頼っていいのよね?




「……しゃーねぇな?」




 私の背中から声がした。ソフィア様がしゃべったんだ。彼女はロコちゃんの……、聖女様の声を覚えていて反応したのか……、それとも耳慣れない言葉に反応したのかな?




()()()()ってこと! やっと喋ってくれてホッとしたじゃんよ?」




 私がちらりとガーネットさんの顔を見ると、なんか不思議なものを見つめるような表情でロコちゃんを見ていた。




「おっ、思っていた以上に個性的な方なのですね、パーラ様は」





「おい! ぺらぺら話してるほど余裕はないぞ!? 次の扉を抜けたら大聖堂に出る。それでなんとかなるんだな? 聖女パーラ!」




「任せなよ! ここまで鈍足で足引っ張てんだから挽回してやんよ!」




 後ろには追っ手の親衛隊とルーベン様が迫っていた。次の扉くらいまではなんとかなりそう。けど、その先はわかんない! ホントに任せるよ? ロコちゃん!?

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