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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
終章 ふたりの聖女
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第65話 間者

 決して疑ってたわけじゃない。それでも、実際この目で見ると驚きを隠せなかった。大神殿の地下に幽閉された少女、手足は部屋の中に鎖でつながれている。短く刈られた髪、よれよれにくたびれた服、やせ細った体……、ここで「生きてる」というより、「生かされてる」んだと感じた。




 彼女の目に私たちはどう映ったんだろう?




 同おんなじ顔した女の子が2人、目の前に現れてびっくりしたかな?




 彼女は言葉を発しなかった。だけど、その表情は救いを求めていると感じた。ロコちゃんの話の通りなら一体どれだけの期間ここに閉じ込められていたというの?





 「むんっ!」





 彼女とここを繋ぐ鎖を引きちぎる。ロコちゃんが準備のいい子でよかった。手袋がないとさすがに手がもたない。




 鎖は思っていたよりずっと簡単に外れた。時の流れによる風化で弱くなっていたのかもしれない。ここにいる彼女はそれと一緒か、それ以上の時間をここで過ごしていたんだ。




「悪ぃけどノワちゃん、この子運べる? 信じられないくらい足が細いや?」




 きっと、ほとんど歩いていないんじゃないかな。当たり前だ。ずっとこんな狭い部屋にいたら誰だってそうなる。私は無意識に彼女を抱きしめていた。




 ロコちゃんはさっき投げ捨てていたウィンプルを拾って彼女の頭に被せた。




「その頭はちょっと目立つからね? ここを出たら髪伸ばさないとね……」




 それからロコちゃんは私に目をやると、にこりと笑ってこう言った。




「一応、服交換しよっか? こっから先も『パーラ様』扱いされたら困るでしょ?」




 うーん……、どっちでもいいような気もするけど、躊躇なく彼女が服を脱ぎ始めたのでそれに従うことにした。もうちょっと恥じらった方がいいと思うんだけどなあ……。





 着替えて、修道女の姿になった私はソフィア様をおんぶした。そして、その軽さにまた驚いた。背丈は私と同じか少し小さいくらいなのに……、まるで中身が詰まっていないみたい。




「やっぱワタシが背負った方がいいかな? ノワちゃんが自由に動けた方が良さげよね?」




「大丈夫よ。普通の人じゃこの階段上がるだけでバテちゃうからね? 私に任せて!」




 私は背中の彼女を軽く揺すって位置を整えた。




「えっーと、『ソフィア様』でいいのかしら? ロコちゃん! ソフィア様! 一気に駆け抜けるからね!」





 部屋を出て、階段に差し掛かったところで気絶している(多分死んでない)サフィール様が目に入った。




 とてもいい人だと思っていた。いいえ、きっと私が聖ソフィア教団について深く知ろうとしなかったら、いい人のままだったんだと思う。




 けど、ガーネットさんたちに聞いた話や、ロコちゃんの言ってたことを含めて考えると、この人はきっと「反・聖ソフィア教団」の人を見つけて潰すために私を利用したんだわ。





 ガーネットさんは、教団内に間者がいると言った。その人が聖女様のご公務の予定とか情報を流して、聖女様誘拐は実行された。だけど、それは反・教団の中心人物、ボルツさんを失う結果となってしまっている。




 最初は深く考えなかったけど、反・教団の人たちはずっと以前から活動していて、聖女様と接触する機会を窺っていたみたいだ。それを実行したら、実は影武者の私でしたって……、彼らにしてみたら運が悪すぎるし、教団側からしたら運が良すぎるのよね?




 他にも、私がガーネットさんたちの話を聞いて教団に疑いをもった時、それを解消するかのようにサフィール様は楽園へと連れて行ってくれた。私の疑いはキレイさっぱり無くなったんだ。




 めぐり合わせ……、と言ったらそこまでだけど、この「タイミングの良さ」に不自然さを感じた。そして、ガーネットさんの間者の話を聞いたとき、ふと思った。




 それが「逆」だったらどうだろうって……。





 ガーネットさんが反・教団側の間者と思っている人が、そう見せかけて教団側の内通者だったら?




 情報を流しているフリをして、罠にはめているとしたらいろいろと辻褄が合ってくる。影武者の私を襲わせて、反・教団を潰す名目をつくったりできる。ガーネットさんたちが私を味方に付けようとしていると知っていたら、それを遠ざけることもできる。




 サフィール様はきっとその「間者」のことを知っていた。ひょっとしたら仕向けた張本人かもしれないわ。ご公務の調整をしているんだから、あえて警備を手薄にするのもわけないでしょうからね。




 涼しい顔してやってくれたわね、ホント。





 内通者の目星も付いている。影武者について知っている人自体が限られているから、絞り込むのは簡単だわ。けど……、それはもうどうだっていい。




 私……、いいえ、私たちはもうここを出て行くんだから!





 ソフィア様を背負って階段を駆け上る。彼女を背負ってなお、足は私の方がロコちゃんより速いようだ。彼女の荒い息がこだましていた。ちょっと大変そうだけど、今はゆっくりしてられないからロコちゃんの手を引っ張りながらここの出口を目指す。




 なんとか一番上まで辿り着いた。ここの扉を抜けた先が問題だ。誰にも見つからずに外までいけるかな? 私1人なら窓ぶち破ってでも外へ逃げるけど、3人じゃそうもいかないからね。




 ロコちゃんの息が整うのを待ってから、意を決して扉を開けた。





「そこまでです。パーラ様……、そしてノワラ・クロン」

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