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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
第9章 ふたりの決断
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第60話 哀愁

「サフィール? 前に街を見下ろせる高台に連れてってくれたことあったじゃん? 私とノワちゃんをそこに連れてってくれない?」




 ワタシがノワちゃんと会えなくて癇癪起こした時、サフィールがご公務の帰りに寄り道して眺めのいいところへ連れて行ってくれた。


 その時はワタシのご機嫌取りが見え見えだったから素直に喜べなかったけど、今振り返るといいところだったんよね。





「ふむ……、ノワラ様がお休みの日でもよければご案内できると思いますが?」




「わーった、ノワちゃんに話しとく」




 キレイな景色だって独りで見てもつまんないもん。「キレイだね?」って言い合える人が一緒にいてほしいんだ。サフィールはその辺わかってないんだよね?




 ノワちゃんにその話をしたら即答で「いいよ」と言ってくれた。サフィールにもすぐにそれを伝えにいった。




「わかりました。ノワラ様がよろしいのでしたら、次のお休み、ご公務の場所をうまく調整しましょう。ノワラ様には別で迎えを送るように手配致します」




「さっすがサフィール! けど、ご公務の調整とか急にできたりすんの?」




「お任せを。聖女様にあえてお伝えしておりませんでしたが、神殿を回る日程の調整はほとんど私でやっております。寄り道しやすい段取りをしておきますよ」




 この男、こういうとこは有能なんだよね。大神殿の神官でもかなり若いからきっと仕事()()はできるやつなんだろうな。





◇◇◇





 ノワちゃんが休みの日、神殿巡りを終えてからワタシとサフィールを乗せた馬車は街から少し離れた高台に向かった。天気も良くて、上からキレイな街並みが見下ろせる予感がした。




 馬車が止まり、降りたところには、先に着いていたノワちゃんが待っていた。水色のギャザーセーターに純白のスカート……、初めて出会ったときと同じ格好じゃないかな?




「ノワちゃん、お待たせー! お休みの日にありがとねー!」




「お疲れ様です、パーラ様。今日はお声をかけていただきありがとうございます」




 周りにサフィールと数人の護衛がいるので、ノワちゃんはいつも通りかしこまった話し方になっていた。ただ、ワタシと目が合ったとき表情が少し緩んでいた。




「こっから先行ったとこにさ、崖になってるとこあるんだけど、そっから街を見下ろす景色がめちゃんこいいんだよね!?」




 小走りでノワちゃんの手を取って進むと、後ろからサフィールと護衛が2人ほどついて来た。




「オラッ! ノワちゃんと2人にさせろよな! いちいちついてくんなよ!」




 護衛の2人は指示を求めるように揃ってサフィールの顔を見ている。サフィールは腕を組んで考え込んでいた。




「――わかりました。ここで見張っていれば近付こうとする者がいてもわかりますからね。ただ、この先は崖になっております。くれぐれもご注意ください」




「わーってるよ、子どもじゃないってんだからさ」




「大丈夫です、サフィール様。私もついておりますから」




 ノワちゃんがフォローするように一言添える。




「そうですね、ノワラ様が一緒なら安心ですね」




 なんだよ? ワタシ1人なら安心じゃないのかよ?





 気を取り直して、ノワちゃんと高台の天辺まで上った。崖の手前まで来ると、眼前に小さく凝縮された街並みが広がっている。陽の光を浴びた街は白くキラキラと輝いている。美しい光景にちょっとの間見惚れてしまった。


 ふと隣りを見ると、ノワちゃんも街の光に目を奪われているようだ。ノワちゃんの目にも同じ輝きが映っている。




「どうどう? ノワちゃん? ここすっごいいい眺めでしょ!?」




「うん、とても綺麗……。私たちの住んでる街ってこんななんだね……」




 ワタシたちは無言で同じ街の光景を焼き付けるように見つめていた。




「ロコちゃん、今日はご公務早く終わったんだね?」




 前を向いたままノワちゃんが尋ねてきた。




「うん、サフィールがうまく調整してくれたみたい。実はあいつご公務の調整ほとんどやってるみたいなんだよね? そんならもうちょっと減らす努力しろっつうの」




「うふふ……、聖女様に来てほしいところはいっぱいあるのよ? 仕方ないわ」




「まあ、必要とされるのは悪い気しないけどね?」




 ノワちゃんがワタシの顔を見つめている。その表情はとても優しくて、ほんの少しだけ哀しそうにも見えた。


 ノワちゃんがちょっとだけ下を向いたと思うと、次の瞬間、急に振りかぶって崖の向こうになにかを投げ捨てた。





「むーんっ!」





 なにか光って見えたけど、なにを放ったかまではわからなかった。目で追えるほど大きいものではなかった。それを聞こうと改めて隣りに目をやるとノワちゃんは目に涙を浮かべていた。




「ちょっ! えっ!? なになに!? ノワちゃんどったの!?」




 驚いたワタシが声をかけると、ノワちゃんはにっこり笑って涙を拭った。




「ううん、なんでもないよ? 街の光がちょっぴり目にしみただけ」




 その笑顔も……、やっぱりちょっとだけ哀しそうに見えた。

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