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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
第7章 壁の向こう側
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第49話 機会

 休日、私はバザールに出掛けていた。目的は当然、お買い物、――と、もうひとつ別の用もあった。ヘアバンドで髪をまとめて丸い眼鏡をかけている、ここ最近のお出掛けスタイルだ。今日はさらにアクセントで首に赤いスカーフも巻いている。




 最近はお金に余裕ができてきたから、新しいアクセサリーでも見てみようかしら――、そんなことを考えながら、露店を眺めて歩いていた。サフィール様にもらったネックレスはご公務のときにだけ付けている。




 織物の露店を見ていると、フードを被った男の人が私の横に立った。ちらりと横目で「彼」の顔を確認してから声をかける。お店に並んだ綺麗な柄のハンカチを手に取り、視線はそれを見つめたままにした。




「……グレイ? ガーネットさんはいるの?」




「今日はいない、()を巻いてきたということは、なにか情報があったのか?」




 私とグレイはお互い顔を合わせず、たまたま同じ方向へ歩いているようにバザールの道を歩いた。途中、冷たいレモン水のお店を見つけて、そこのパラソルの下の席に座り、レモン水を2つ注文した。




「そのフード外したら? 逆に目立つと思うんだけど?」




 私は首に巻いていたスカーフを取って、お買い物用のバッグの取っ手に巻き付けた。




「たしかに。オレの顔を覚えているやつは少ないだろうしな」




 彼が顔を晒したときに、ラフな格好をした店員さんがレモン水を運んできた。私は口の中を湿らせるように一口だけそれを飲んだ。レモンの爽やかな香りが口いっぱいに広がる。





 私は先日、ガーネットさんとグレイと話した時に、代々の聖女様についてなにかわかれば赤いスカーフを巻いて外へ出ると約束していた。もし、それを見かけたら話しかけてほしい、と……。





「――それで……、早速だが、なにかわかったのか?」




 私は軽く息を吸って、意を決してから話を始めた。




「先に断っておくわ。これ以降、私に関わってこないで下さい。今日のお話もこれ以上関わり合いたくないからするんです」




 グレイは小さな声で、迷惑をかけてすまない、と言った。一応、そういう自覚はあるんだ……。




「この前聞いた、聖女様が女神様の生贄……、みたいな話は妄言もいいところです。今日はそれを伝えにきました」




 彼はレモン水を一口飲むと、先を促すように私の目を見た。




「先日、エスメラルダ様にお会いする機会がありました。詳しくはお話できませんけど、とてもお元気そうでした。そして、私の両親とも会いました。お父さんもお母さんも元気で健在です」




「エスメラルダに会えたのか? 彼女は今どこにいる?」




 私はひとつため息をついた。




「それは誰にも――、特にあなたたちなんかには話せません。ですけど、間違いなくエスメラルダ様ご本人で、なにもおかしなところはありませんでした」




 彼の返事はないので、そのまま私は続けた。




「教団のすべてが正しい……、とまでは言いませんけど、あなたたちの女神様や聖女様に関する話は単なる妄言です。グレイは一応、手荒な方法とはいえ、襲われそうな私を救ってくれましたし、ガーネットさんも手荒なことはしなかったので、こうしてお伝えだけはしますけど」




 そもそも「反・聖ソフィア教団」の人たちが聖女様を連れ去るなんて暴挙を起こすのがいけないんだけど……、と心の中で呟いていた。




「あなたたちの話は私の不安を煽るだけのものでした。はっきり言ってとても迷惑です。少なくとも、お二人が悪い人には見えないので、治安維持隊に突き出すとかはしません。ですからもう私と関わらないで下さい。ガーネットさんにもそう伝えて下さい」




 グレイは視線を落とし、特に反論もしてこなかった。




「そうか……。両親の話は申し訳なかった。無事だったのならなによりだ。いろいろと巻き込んですまない。今の話をしてくれただけでも感謝している。ガーネットにはオレから伝えておこう」




 彼は一度にそれだけ話すと、レモン水2杯分のコインをテーブルに置いて、席を立った。遠ざかっていく彼の背中になにか言おうとしたけど言葉が見つからない。




 ――いいえ、突き放すのが正解なのよ、ノワラ・クロン。




 たしかに国が閉鎖的だったりするのはよくないのかもしれない。だけど、女神様によって私たちはずっと守られてきた。だからこそ、今のこの国があるんだもの。その女神様を悪く言ったりするのはやっぱりどうかしているわ。




 彼らの話によってもやもやしていた私の心は、先日楽園を訪れたことによってキレイに晴れ渡っていた。まるであの日の天気そのものといった感じだ。




 ただ、「偶然」と言ってしまえばそこまでだけど、疑問がまったくないわけでもなかった。





 タイミングが、良すぎるのよね……。

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