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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
第7章 壁の向こう側
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第44話 お誘い

 遠方の神殿をいくつか回って今日のご公務は終わった。陽は沈みかかっている。夜の涼しさを風が少しずつ運んできているようだった。


 以前より多い人数の護衛に囲まれて私は馬車に乗り込んだ。続いて、サフィール様も乗って馬車は走り出す。




 私が影武者を務めている時は、彼と一緒が多いので隣りにいてもあまり緊張しなくなっていた。あまり口数の多い人ではないみたいで、馬車に二人きりでもそれほど会話が弾むわけじゃなく、お互い気まずくならない程度に話をするだけだった。




 もう少し距離を縮めたいような気もするけど、ロコちゃんみたいに気さくに話せる感じではない……。困った困った。




「ノワラ様、少しよろしいでしょうか?」




「はっ、はい! なんでしょうか!?」




 なんだかいつも心の隙を付くように、物思いに耽ってる時に話しかけられる。なんだか落ち着きがない子と思われていそうだわ。 




「明日はパーラ様がご公務に出られる予定で、ノワラ様はお休みの日だったと思うのですが……」




「はい、神官長様からそのように伺っております」




「もし明日のご予定がなければご案内したいところがあるのですが、いかがでしょう?」




 えっ!? なにこれ――って期待してる私はバカなのか……。どう考えても今の()()()絡みの話に決まっている。




「あしたー……、明日ですか? 明日はうんと、はい……、空いております」




 最初から運送屋のお手伝いとお買い物くらいしか予定はないのに、ほんのちょっとだけもったいぶってしまう。なんか即答したらカッコ悪い気がした。




「でしたら、お昼を過ぎた時間にお家までお迎えに上がります。少し遠方に参りますが、陽が沈む前には戻れる予定でおります」




「えっと……、それは、どこへ行くか伺っても?」




「申し訳ありませんが、今は詳しくお話できません。ですが、明日は『聖女パーラ様』ではなく、あくまで『ノワラ・クロン様』としてお連れしたい場所がございます」




 パーラ様としてではなくて、ノワラとして? いよいよその()()の見当が付かなくなってきた。ノワラとしてなら、襲われたりする心配もないだろうけど。




「わかりました。明日お待ちしておりますね」





◇◇◇





「えー! なんかわかんないけどノワちゃんチャンスなんじゃないの!?」




 大神殿に戻ってから、サフィール様に言われたことをそのままロコちゃんに話してみた。彼女は大きな声でそれに反応した。




「ロコちゃん声大きいよ? もうちょっと静かに……」




 2人だけしかいない部屋で私はきょろきょろしながら、人差し指を唇に立てている。誰も聞いてるはずないんだけど、変な汗を搔いてしまう。




「サフィールのやつ、仕事に(かこつ)けてノワちゃんを連れ出すつもりか? 意外とやるじゃんよ?」




「そんなんじゃないわよ……、きっと。だけど、どこに連れて行ってくれるのかしら? 本当にわからないのよね?」




「ノワちゃん。サフィールが変な真似するようだったら、頸椎以外ならへし折ってもいいからね?」




 一体なんの許可なのよ、それ?




「サフィール様に限ってそんなのないわよ、多分?」




「わっかんないぞー? あの堅物も一応『男』だかんな? まあ明日あいつがバキボキになってたら察するよ?」





 ロコちゃんと話していつも通り笑いあった後、私は帰りの馬車に乗せてもらった。すっかり暗くなった外の景色を眺めながら、なにもないのに顔が自然とほころんでくる。


 そんな浮かれた話じゃないと頭ではわかっているつもりなのに、どこかで期待している私がいるみたいだ。

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