第40話 目的
聞こえたのはガーネットさんの声。
だけど、この声に安心している私はどうかしている。
彼女は「反・聖ソフィア教団」で、私を連れ去った人たちで、ロコちゃんを危険な目に合わせるかもしれなくて――って……。
あれ……、そういえば、なんで「パーラ様」じゃなくて、「ノワラ」の家に現れたの?
私は無言で立ち上がった。家の扉は閉められており、玄関にはガーネットさんとグレイの姿がある。ガーネットさんは床に目を落とした後、転がったトマトを拾って、落とした袋に戻して手渡してくれた。
「本当に申し訳ありません。ですが、こうでもしないと貴女と落ち着いて話ができないと思いまして……、『ノワラ・クロン』さん?」
今、「ノワラ・クロン」って言った。やっぱり聖女パーラ様じゃなくて、ノワラに会いに来たんだ。
「とりあえず、その拳を下げてくれないか、怪力? 手荒な真似はしない」
「だっ…誰が『怪力』よ!? 失礼ね!」
グレイの怪力発言に思わず反応してしまう。でも、彼の前で力を振るったことなんてあったかしら?
「なんで!? なんで私が力持ちって知ってるのよ!?」
「ノワラ様、私たち実は……、腕相撲大会のときからあなたを追っていまして――、はい」
ええーっ!! なんか急に恥ずかしくなってきちゃった……。
「あんな怪力があるなら、そもそもなぜ捕まった? 魔法で強化された腕に力勝ちするなんて初めて見た」
ちょっと……、一度にいろいろ言わないで。情報の大洪水が起こっているわ。落ち着いて、落ち着くのよ、ノワラ・クロン。
「うん…と、とりあえず、お部屋で話しましょうか? 食材も片付けたいし」
私は普段滅多に使わない来客用の椅子を2つ引っ張り出して、彼らに座ってもらうよう伝えた。一応、私が逃げ出さないかを警戒しているのか、食材を仕舞って私が座るまで、2人とも立ったままだった。
少し間をとったので、頭の整理ができた。
「おふたりは、『ノワラ』に会いに来たんですよね?」
自分で言っていて、ものすごく変な問い掛けと思ったけど他の言い方を思い付かなかった。
「はい。あなたが聖女様の身代わりだったと後から知りました。そうとも知らず先日は怖い思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません」
身代わりの話は公に伝わっていないはずだから、きっと彼らの中に独自の情報網があるんだと思った。パーラ様が本物でも連れ去ったらダメなんだけどね?
「魔法で強化された、というのは?」
「この国の人間はほとんど気付かないと思うのですが、腕相撲の主催者は魔法を使って、ノワラ様の対戦相手の腕を強化しておりました……、まぁ、それでもノワラ様は勝ってしまったわけですが」
たしかにゴリラさん(仮称)の右腕は淡い光を放っていた。そうか、あれって「魔法」なんだ……。
「おそらく彼らは他国からやってきた者です。魔法を使うなんてイカサマ。きっと、不当な方法で一儲けしようと企んで入国してきた者どもなのでしょう」
「神託、神託……、と言っているが、魔法や他国の技術から隔離されたままでいると、近い将来、ああやっていいように搾取される時代がくる。力で魔法をねじ伏せるなんて普通はできない……。普通は」
グレイは最初に介抱してくれた時こそよかったけれど、女の子に対するデリカシーが欠けているわ。私の力(物理)を強調するような言い方はやめてほしい。
「それで……、私を身代わりの『ノワラ』と知った上でどんなお話があるんでしょうか?」
ガーネットさんとグレイは一度お互いの意思を確認するように顔を見合わせた。そして、問い掛けてきたのはガーネットさんの方だった。
「ノワラ・クロン様……、率直に言います。私たちの仲間になってくれませんか?」




