第39話 お勉強
「この国の歴史と歴代の聖女様について知りたい……、ですか?」
サフィールは腕組みをして、怪訝そうにワタシの顔を窺っている。
「なんだよ? ワタシが国や聖女について知ろうとしたらいけないのか?」
「いいえ、そのようなことはございません。正直、これまでのパーラ様からはあまり想像できないお言葉ゆえに、どういった風の吹き回しかと思いまして……」
サフィールは一度、咳ばらいをしてからそう言った。いちいち癇に障る男だな、ホント。マジでノワちゃんの好みがわかんない。
「ワタシだって聖女の自覚はあるんだよ? もっと勉強して『らしさ』を身に付けたいと思ったらいけないわけ?」
「わかりました。パーラ様のお考えは我々としてもうれしい限りです。できれば、そのお言葉使いから直してほしいのが本音ではありますが……」
「うっさいな、もう! 一言多いんだよ!」
「失礼致しました。それでは、後程資料をお部屋に運ぶよう侍女に申し伝えておきましょう」
サフィールは深く一礼をして、部屋の扉を音もなくゆっくりと閉めた。
「まったく堅物なんだからよ……」
しばらくすると、侍女のマリンがワゴンにたくさんの書物を載せて部屋へ入ってきた。
「パーラ様、お勉強をなされるのですか?」
書物の1つに手を伸ばしたワタシを見て、マリンが問い掛けてくる。
「みんなして……、ワタシが進んで勉強するのがそんなにおかしい?」
「いいえ! そんなことはございません! 申し訳ございませんでした!」
マリンは、天辺に重しが付いてるかと思う勢いで頭を下げた。テーブルの角に当たったりしたら大変そう……。
「そいえば、マリンって聖女の侍女はけっこう長いの?」
「私ですか!? 今21で…18のときからですので、3年になります!」
「へぇー、つまりエスメラルダ様のときからか!?」
「左様でございます」
「エスメラルダ様ってワタシの憧れなのよね? ここではどんな感じの人だったの?」
「それは……。申し訳ございません! 聖女様のお部屋にあまり長居しておりますと怒られますので、これで失礼致します!」
マリンは本日2度目の危ないお辞儀をして、ぱたぱたと部屋を出ていった。ワタシは少しの間、彼女が出て行った部屋の扉を見つめていた。
「さーて……、聖女パーラ様もたまにはお勉強するんだから!」
ワタシは、たくさんの書物の中から歴代の聖女とその出自について記された資料を手に取り、ベッドに寝そべった。




