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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
第6章 疑惑
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第36話 無双

 腕相撲大会の会場は沸いていた。なんだか集まっている人の話だと、1回戦で私と戦った四角いおじさんは、この辺りで有名な力自慢だったみたい。


 それを見た目の大きさは半分くらい、体重で比較したら、三分の一くらいかもしれない女の子が破ったのだ。それは驚くし、盛り上がりもするよね。





「……お嬢さん、一体何者なんだい?」




 主催者さんが尋ねてきた。




 何者って……、私は何者なんだろう? 聖女様の身代わり? ううん……、違う違う。




「ただの、ちょっとだけ力持ちの女の子ですよ!」




「いや……、『ちょっとだけ』って」




「ほらほら! 私が参加したからこんなに盛り上がってるんでしょ? もっと感謝してくれてもいいのよ?」




 見物の人たちへ向けて軽く手を振ると、そこは大きく沸き立った。




 なにこれ!? すっごく楽しい!





「たしかに……、盛り上げてくれるのはありがたいんだけどね」




 主催者さんと話をしていると、私の前に丸々と太った男の人が現れた。急にここらの気温が上がったような気がする。




「お嬢ちゃんがあの『スクアレン』に勝ったのか? けどよ、おいらをその辺の男と一緒にするなよ?」




 四角いおじさんがスクアレンさんだったのかしら? だったら丸いおじさん、あなたはお名前は? ボールさん? そんなことを心で思いながら、私は笑顔で挨拶をした。




「2回戦はおじさまがお相手ですか? お手柔らかにお願いしますね?」




「悪いけど、おいらは女だろうと手は抜かないからよ。その細い腕が折れてもしらないからな?」




 さっきのスクアレンさん……、だっけ? 四角いおじさまも似たような話を試合前にしてたけど、この人の力はどの程度なのかしら?





「はいはい! それでは、2回戦を始めますよ! 手を握って下さい!」




 丸いおじさんの手を奥までしっかりと握る。これまた四角いおじさまのときと同じで表情が変わった。




「お嬢ちゃん……、一体どこで鍛えたんだよ?」




「うーんと、わかんない。生まれつきかな?」





「それでは……、レディ……ゴー!!」





 開始の瞬間、私の顔の真ん前を羽虫が横切った。ほんの一瞬だけど注意が逸れてしまった。丸いおじさんの力が私の手に勢いよく襲い掛かる。




 ――だけど……。





「――お嬢ちゃんは……、岩か!?」





 私の腕は90度の角度で立ったまま静止している。押し倒そうとする丸いおじさんの手が小刻みに震えている。顔には脂汗がにじみ出ていた。




「むんっ!」




 私が手に力を込めると、彼の手は全身をひっくり返しそうな勢いで倒れた。丸いおじさんは汗だらだらで全力疾走した後みたいに呼吸を乱していた。




 勝負が終わった後は、少しの静寂。




 そこから堰を切ったように歓声が沸いた。





「スッゲー!! お嬢ちゃん化け物かよ!!」


「マジで無敵だよ!? 無双だよ!?」


「なんでそんな華奢なのに強いんだよ!?」


「すごすぎるって! ゴリラの血でも流れてんじゃないの!?」





 なんか、褒められてるのか(けな)されてるのかわからない声が私に向かって飛んでくる。――というか、「ゴリラ」ってなによ?


 なにかわからないけど語感で貶されてる気がするわ。私、ゴリラ・クロンじゃなくて、ノワラ・クロンですからね?




 とりあえず、あと1勝で優勝ね! 相手は主催者さんの仕込みかしら?

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