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白と黒の聖女  作者: 武尾 さぬき
第6章 疑惑
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第35話 可憐

「お嬢さん、参加するのは構わないけど、これ力比べだよ?」




 主催と思われる、蝶ネクタイをした男が問い掛けてくる。




「わかってるわ! 別に参加条件とかないんでしょ?」




 私は人だかりから前へ進み出て逆に主催へ問い直す。




「条件はないけど……、女の子だからってハンデとか付けられないよ?」




「それもわかってるわ! ほらほら、あと1人で締め切りだったんでしょ? これで始められるじゃない?」




 私が主催を説得していると、その後ろから縦にも横にも大きい男の人がぬっと現れた。顔の形含めてすべてが四角形を思わせる人だ。




「いいじゃないか!? 可愛い子が1人くらい混ざってる方が盛り上がるだろうよ!?」




「あら? おじさまわかってらっしゃる! その通りよ、主催さん!」




 主催の男は、笑顔の私に目を合わせて頷いた。




「怪我しても責任とらないからね?」




「それも大丈夫! それじゃ最後の1人は私で決まりね!」




 こうして私は、たまたま見かけた腕相撲大会に出場することができたのだ。





 一応は、女の子なのでお仕事の荷下ろしを除いて、できるだけ目立ったところで力を振るわないようにしていた。身の危険を感じた時は別として……。




 だけど、今回――というか、今日はなんていうか、思い切り力を使いたい気分になっていたのだ。




 ガーネットさんから、聖ソフィア教団の()の話を聞いて心の中がなにかもやもやしている。それをどこか発散できる場所を無意識に探していたのかもしれない。




 なんであれ力比べだったら、力を振るうのに遠慮はまったくいらないもんね。全力でいくわよ、ノワラ・クロン!





「それじゃお嬢さん、参加費用の銀貨5枚もらうよ?」




 主催の人が参加費を回収にきた。彼が手に持っている麻袋に銀貨5枚を入れる。





 この腕相撲大会のルールはとても簡単だった。参加費用は銀貨5枚、参加人数は8人でトーナメント方式、最後まで勝ち残った人が金貨3枚を手にする。




 金貨1枚の価値は銀貨10枚と同一。つまり、主催は8人から銀貨5枚を回収するので40枚手に入れたことになる。優勝賞金の価値が銀貨30枚と一緒なので、人さえ集めれば主催者は無条件に儲けられる仕組みだ。




 だけど、どうやら今回はもう少しおまけの要素もあるらしい。




 銀貨を払うと主催の人が私の手にピンクの組み紐を巻いた。他の参加者にも同様に、それぞれの色の組み紐を巻いている。よく見ると、色ごとの対戦表がすでにでき上がっていた。


 そして、この会場のすぐ隣りでどうやら優勝予想の賭け事を催してるようだ。色で区別して予想をしているみたい。





 こんな光景を見ると、頭の回転がいいノワラちゃんは気付いてしまいます。




 この腕相撲大会の参加者には、間違いなく主催者が連れて来た「力自慢さん」が混ざっています。彼に優勝させて、掛け金含めてがっぽり儲けようという魂胆かと思われます。




 主催者さんの目のやり方を見ていたら、そういう人がいるのもすぐわかりました。余程のことがない限り負けない自信がある人を連れて来たんでしょう。




 ()()()()()()()()()()、はね……。





「はいはい! それじゃ1回戦を始めますよ!」





 私は自分のピンクの組み紐と同じ色の印の付いた酒樽の前に立った。すると、それを挟んで向かい側に、さっきの四角いおじさんが立っていた。




「お嬢ちゃん! 1回戦からオレと対戦なんてついてないなあ!?」




「さっきはありがとうございます、おじさま! お手柔らかにお願いしますね!」




「悪いけど、オレはどんな相手でも勝負事では一切手加減しない主義なんだ。まあ、怪我だけはさせないようにしてやるよ?」





「対戦者同士、手を握って下さいね! しっかり奥まで握って下さい! 余らせたらダメですよ!?」




 主催者さんの合図で四角いおじさんと手を握る。




 そのとき、おじさんの顔つきが明らかに変わった。




 私も経験あるんだけど――、腕相撲の強さって手を握ったときに、ある程度わかるものなのよね?




「お嬢ちゃん……。いや、あんた! かなり()()()な!?」




「おじさまが言った通りよ? 可愛い子が混ざってる方が盛り上がるわよね?」





「それでは……、レディ……ゴー!!」





 ――木材を強い力で叩く音がこだました。




 私の右手は、おじさんの手を体ごとこちらに巻き付けるようにして酒樽の天板に叩きつけていた。




 そこから、かすかに木の粉が立ち上っている。




 おじさんの顔は目玉が飛び出るかと思うくらいに見開いていた。




「なっ……、なんてバカ力だ…」




「失礼ね? 可愛い子にバカ力なんて?」

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