第18話 お出迎え
「ノワちゃーん! お疲れちゃーん! どうだった!?」
大神殿に戻ると、ロコちゃんの大きな声が出迎えてくれた。私たちの周りにはサフィール様とルーベン様の2人だけだ。
「パーラ様のご多忙が身に染みてわかりました。改めて尊敬致します」
周りの目もあって、私はかしこまった物言いをした。ロコちゃんも表情からそれを察してくれているようだ。
「ノワラ様、ありがとうございました。おかげで『お悩み書き』もずいぶんと減らすことができました」
ルーベン様がこちらに向かって軽く頭を下げている。私はどう対応していいかわからず、誰にも負けないくらい頭を下げてお辞儀をしていた。
「そだよー。ノワちゃんのおかげでご神託もばりばり聞けたよ、私も女神様も絶好調って感じ?」
女神様にも好不調とかあるんだ……?
ロコちゃんの方に顔を向けると、彼女は両手のひらをこちらに向けてぱたぱたと上下させている。なんだろう? 屈んでほしいってことかな?
私が中腰の姿勢になると、彼女は真横まで歩み寄ってきて耳打ちをしてきた。
『――で、どうよ? サフィールとなんか進展あった?』
――ええっ!?
私は左右に首を振って周囲を確認し、サフィール様とルーベン様との距離を確認した。よし、この距離なら小さい声は届かないだろう。
「なっ……なんの話よ? ロコちゃん?」
できる限り声をおとしてロコちゃんに話しかける。
「なんの話って? ひょっとしてノワちゃん気付かれてないと思ってたの? 超ばればれなんですけど?」
――ええええっ!?
「えっ…とね、それってひょっとしてサフィール様にもってことかな?」
「いやー、ワタシだけじゃないかな、気付いてんの? サフィールは『察する』ってのをどっかに落としてきてるから大丈夫だよ?」
なんか安心したようなそうでないような……。サフィール様が気になっていること、うまく隠してるつもりだったのにロコちゃんに早くも気付かれていたなんて。
「公務のときはさ、サフィールがそっちに行って、ワタシの方には神官長が付くみたいだからうまくやんなよ?」
「う…うん、がんばる」
「ノワラ様、お顔がずいぶんと赤いように見えますが、やはりお疲れではないですか?」
ルーベン様の声が飛んでくる。心中が穏やかでない私に代わってロコちゃんが適当な言い訳をしてくれていた。
「ノワラ様の疲れがとれたら、サフィールは彼女を馬車のとこまでお送りするように。例の通路を使い、くれぐれも人目に付かぬよう注意するのだ」
「かしこまりました。ルーベン様」
ルーベン様はそう言って先にお部屋から出て行かれた。
当然だけど、私の存在は教団の中でもごく限られた人にしか知らされていない。大神殿に入る際は、他の修道女と同じ法衣を着用して入り、途中から目隠しをされてる。
出て行くときも同様に目隠しをさせられ、手を引かれるがままに歩いて行くと外にいて、目の前に馬車が待っているのだ。
帰りの馬車はいつもひとりで乗る。
馭者ぎょしゃの人とは会話を交わしたことがない。いつも同じ人だから、きっと私の秘密を知っていて余計な口を利かないように言われているのだと思う。
いつの間にか黄昏時になっていた。赤々とした夕日と黄金色の空がとても綺麗だ。気持ちのいい風も吹いている。
「ごめんなさい、街でお買い物をしたいの。途中で降ろしてもらってもいいかしら?」
馭者の男性はこちらを一瞥した後、軽く頷いてくれた。
風に当たって歩きたい気分になっていた。
ノワラ・クロンと聖女パーラ様、今日から私は2つの顔をもってこの街で暮らしていくことになるんだ。