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8 ヒロイン登場

 視察途中、点在している村に立ち寄っては領民から現状や問題がないか報告を受け、なにかあればそれらを解決し、そして最後に周辺の大地の気の流れを整える。そんなことを繰り返していった。


『地枯れ』であるアメリは気の流れに影響を受けるため、シメオンが調整をすると心なしか体調が良くなる感じがした。


 シメオンはサポートなど必要なかったが、息抜きと称して度々アメリの膝枕を要求した。


「君といると落ち着く……」


 そう呟くと、よほど疲れているのかシメオンはすぐに眠りにつくのだった。


 おそらく、心配をかけないように簡単に気の流れを整えているように見せているが、かなり体力を使うことなのだろう。


 アメリはそっと、シメオンに気づかれない程度にシメオンの体調を治療し続けた。


 そうして、ついにゲーム内でシメオンがリディと出会うバッカーイの町に到着した。


 この町、ゲームの中から飛び出してきたみたい。


 アメリはバッカーイの街並みを見渡し、リディとシメオンのイベントを思い出していた。


「アメリ、どうかしたのか? ここ最近の君はいつもと様子が違うように見える」


 アメリは無理に笑顔を見せると言った。


「それは、毎日膝枕をさせられているからです。枕でいるのも楽じゃないんですよ!」


 そうしてシメオンの前を歩き始める。シメオンはその後から追いかけると、アメリを後ろから抱きしめると耳元で囁く。


「ならいいんだ。最近なんとなく、君が消えそうな気がして時々不安になる」


 アメリはシメオンのこの行動に、胸の中をかき乱されながらも、視察の間自分の不安な気持ちを隠しきれていなかったのだと、申し訳なく思った。


 ここで弱気を見せてはいけない。シメオン様を安心させなければ。私ならできる。


 そう自分を鼓舞し、努めて明るく言った。


「シメオン様? 私は今回初めての同行です。少し緊張していただけです。それと……」


「それと?」


「屋敷の外ではこういったことはしないと約束したはずですが?」


 そう言ってアメリは怒った顔をした。


 シメオンは苦笑すると、アメリを解放し一歩後ろへ下がって言った。


「わかった、わかった。そういう約束だったね。今のところは」


「そうです。でないと示しがつきません! シメオン様は領主様なのですから!」


 そこでバッカーイの町長が出迎え、屋敷で色々な報告を受けた。


 そうしていつもとまったく変わりない行程を経て、翌朝の出発時間まで特に何事もなく過ぎていった。


 出発前にシメオンは大地の気の流れを整える。


 アメリは拍子抜けしていた。もしかしてこの世界のリディはシメオンのルートではないのかもしれない。


 だとすれば、このまま何事もなく過ごしていけるかも。そんな淡い期待をし始めた。


 そのとき、シメオンがアメリを散歩に誘った。


「散歩ですか? ですが出発が遅れてしまいます」


「息抜きも必要だ。ほら、おいで」


 シメオンはアメリの腰を引き寄せ、森の方へ歩きだした。


 この方向は……。


 その先にはまさにリディとシメオンが出会う森があった。


 アメリは絶望的な気持ちになりながら、なんとか歩き出す。


 森の中へ入るとシメオンは少し躊躇(ためら)いがちに立ち止まると、アメリに向き直った。


「アメリ、次のワカナイに行く前に君に話しておきたいことがある」


 アメリは身構える。


 どういうこと? もしかして私が気づかなかっただけで、リディとシメオン様は出会っていて、私が邪魔になったとか?


 混乱した頭でそんな辻褄の合わないことを考えながら、シメオンがどんな話しをするのか黙って待った。


「実は話すか迷っていたのだが……」


 そこで言葉を切り、シメオンはアメリの背後を見つめた。


「シメオン様? どうされたんですか?」


 そう言ってアメリが振り向こうとした瞬間、シメオンは叫ぶ。


「アメリ、振り向くな!」


 そう言ってアメリを抱きかかえて、地面に伏せる。アメリは何がなんだかわからなかったが、シュッという音と続けてタンッ!! と何かが木に当たったような乾いた音がした。


 慌てて、音のした方向を見ると木に矢が刺さっていた。


 アメリはそれを見て血の気が引いた。そして恐る恐るシメオンを見ると、シメオンは真っ青な顔をしている。


「シメオン様、シメオン! ご無事ですか?」


 シメオンは腕に浅い傷を負っているだけで、特に深い傷は見受けられなかった。だが、額にうっすら汗を浮かべており苦悶の表情を浮かべていた。


 そうして怪我の確認をしている間にも、みるみるうちに顔が真っ青になっていく。


 きっと毒矢だわ!


 アメリはシメオンを仰向けに寝かせると、迷うことなく治療魔法を使った。シメオンの前で跪くと、祈るように顔の前で手を組む。


 そして、念じるとアメリの体から大量の光の粒が解き放たれ、そしてシメオンの矢で傷を負った場所から流れ込んだ。


 すると、パン!! と言う音ともにシメオンの体から光の粒が飛び散って消えた。


「アメリ?」


 シメオンがうっすらと目を開いたその瞬間、アメリは激しく真横から突き飛ばされた。


 突然のことでまるで受け身を取れず、アメリは地面に強く額を打ち付けてしまった。何があったのかわからず、打ちつけた場所をそっと触りその手を見ると手に血が付いていた。


 もしかして先ほどこちらを狙った者かもしれないと思い、振り返ってシメオンを見るとそこにはリディがいた。


 そして、リディはシメオンの手を取り話しかけている。


 もしかして、私を突き飛ばしたのってリディ?


 そう思いながら、二人に気づかれないように治療魔法で自分を治療する。そして、スカートについた土を払っていると、リディが振り返りアメリに言った。


「ちょっと、そこの。何してるの? ボケッとしてないで早く誰か呼んできなさいよ、役立たずね」


 そう言うリディの後ろでシメオンが何か言いたげに口を動かす。


 それに気づいたリディがシメオンに向き直り声をかける。


「大丈夫ですか? 今(わたくし)が治癒魔法で治療をしましたわ。でも、しばらくはじっとなさってくださいませ」


 アメリは二人を見つめ一瞬呆然としたが、我に返ると急いでフィリップのところまで走ると、森での出来事を話した。


 それを聞いたフィリップは、何人かの領民を連れて慌てて森の中へ入っていった。


 アメリは今あったことにショックを受け、森に戻る気にはなれず馬車の中でフィリップたちが戻ってくるのを待った。


 数十分たち、シメオンがフィリップに肩を貸りて戻って来た。その横にはリディもいる。


 馬車の前で何か揉めているようだったが、しばらくしてシメオンたちは馬車に戻らず向きを変え向こうへ歩き始めた。


 そして、馬車の御者が戻ってくるとアメリに言った。


「シメオン様は体力を回復するために、森で会ったあの令嬢の屋敷で少し休まれるそうだ。私たちは昨日世話になった屋敷で待機だと」


「シメオン様は大丈夫なのですか? 毒の影響は?」


「大丈夫だ、あの令嬢治療師らしい。一瞬で解毒したそうだ」


「リディ様が治療師?」


 確か主人公の属性は誕生日で変わったはずだ。この世界のリディは治療魔法の使い手なのだろう。


 ならば、自分の出番はない。


 あの毒を解毒したのはリディではなく自分だったが、そんなことはどうでもいい。二人が出会ったということが大切なのだ。


「わかりました。では、私は控えておきます」


 恐れていたことが起きた、やはりシメオンはリディと出会い結ばれる運命なのだ。


「こんなこと、覚悟していたはずなのに」


 そう呟くと、馬車を降り屋敷へ戻った。  


 部屋へ戻ると特になにもすることがなく、一人で部屋にいるとシメオンとリディのことをどうしても考えてしまい、気が滅入って仕方がなかった。


 今頃二人は……。


 そうして二人が仲睦まじくしているところを想像してはリディに対して嫉妬し、変えられぬ自分の運命を憎悪した。


 シメオンが毒にやられ、臥せっているときにそんな浅ましい考えをもつ自分自身も嫌だった。


 そんな気持ちを振り払うように、屋敷にいる婦人たちに混ざり、なにも考えられなくなるまで食事や洗濯の手伝いをした。


 そうしてアメリにとってのつらい一夜が明けると、不意に今日から自分の仕事がなくなるのではないかという不安に駆られた。  


 そうなれば、ここに残って仕事をもらい生活するしかないかもしれない。だけど、そうすれば幸せな二人の邪魔になることもなければ、二人を間近で見る必要もなくなる。


 そんなことを考えながら、ぼんやりと厨房で朝食の片付けを手伝っていると、厨房の入り口の辺りが騒がしくなった。  


「アメリ!!」


 自分の名を呼ぶ聞き覚えのあるその声に、胸の奥がぎゅっとする。


 まさか……。


 そう思いながらそちらの方をゆっくり見ると、そこにシメオンが立っていた。


「シメオン様? なぜここに」


「アメリ、探した。なぜこんなところにいる。いやそれよりなにより、君が無事でよかった!」


 シメオンはそう言って、アメリに駆け寄ると力強く抱きしめた。


 そこにいた者たちが、一斉にアメリとシメオンを驚いて見つめていたが、シメオンはそんなことまるで構わないようだった。


 アメリはこんな姿を他の者に見られるわけにはいかないと、慌てて体を離そうとするがシメオンにさらに強く抱きしめられ、逃れることができなかった。


「シメオン様? あの、どうしたというのですか?」


 一体どういう状況なのか、アメリは理解できずにシメオンに質問するが、シメオンはアメリの質問には一切答えず、少しだけ体を離すとアメリの顔をまじまじと見つめる。


「アメリ、怪我はどうした? 大丈夫だったのか?」


 その問の意味がわからず、アメリは困惑しながら答える。


「怪我? 怪我をしたのはシメオン様です。私はシメオン様に守っていただきましたので大丈夫です」


 すると、シメオンは額を撫でた。


「いいや、君は昨日、ここを怪我していた」


 いつ見られたのだろう?


 そう思いながら、魔法を使ったことがばれてしまっては困るので慌てて誤魔化した。


「シメオン様、なにを仰っているのですか。私は怪我などしていません」


 すると、シメオンは何かを思い出したように一瞬怒りに満ちた顔をしたが、アメリの視線に気づくと、優しく微笑みもう一度強くアメリを抱きしめた。


「怪我をさせてしまったが、君が無事でよかった。本当によかった」


 そう呟くと、その後もずっとアメリを離さなかった。アメリはそんなシメオンを落ち着かせるために、優しく背中を撫で続けた。


 毒矢を受けて、もしかしたらシメオン様も混乱なさっているのかもしれない。


 そう考えた。


 その後、シメオンの命令で早急にバッカーイを発つことになり、アメリはシメオンに抱きかかえられて馬車へ乗り込んだ。

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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