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7 視察

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「それはよかった。その前に約束する。君にいかがわしいことは一切しないから、安心してほしい」


「それは承知しております」


 シメオンが自分をそういう対象で見ていないことはわかっていたので、最初からその心配は一切していなかった。

 

「じゃあ、今後の話を少ししたいから、早速お願いする。座って」


 アメリはしぶしぶシメオンの隣に座る。と、シメオンが膝の上に頭をのせた。


「うん、快適だ。ところで君が休んでいるあいだに決まったことなんだが、しばらく屋敷を離れ領地を視察して回ることになった」


 それを聞いてアメリはドキリとした。もしもリディがシメオンルートに入っているなら、この視察のあいだにシメオンとリディの出会いがあるはずだからだ。


 この時アメリはゲームのシナリオと細かい差異はあれど、大筋は変わらないのかもしれないと考えていた。


「アメリ? どうしたんだ、なにか心配ごとでも?」


「いいえ、なんでもありません。視察の道中お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 すると、シメオンは微笑む。


「何をいってるの? 君も同行するんだよ?」


「は、え? なぜです?」


「当然だろう、君は枕なんだから」


 それを聞いてもしかしたら、シメオンとリディの出会いの瞬間を目の当たりにすることになるかもしれないと思ったアメリは、一気に憂鬱になった。


「それは、絶対に同行しなければダメなんでしょうか。膝枕が必要ならば、誰か現地の者に頼むとか……」


 すると、シメオンは不機嫌そうな顔をした。


「君の膝枕でなければ意味がない」


 あまりにも我が儘な言い分に、アメリは思わず笑ってしまった。


「本当に、シメオン様は子どもみたいなところがありますね」


「なんとでも言えばいい。だが、これは譲れない」


 考えてみれば、シメオンは先日命を狙われている。事件は解決し犯人も捕まったとはいえ、周囲にいる人間は親しい相手でないと安心できないのかもしれないと思った。


「承知しました」


「よし。出発は一ヶ月後だ、それまでに君も準備しなければね」


 準備と言っても、アメリはさほど物を持っているわけではない。替えの衣類や制服が数着あれば事足りる。準備に一ヶ月もかからないだろう。


 アメリはそう思っていたが、その後でなぜシメオンがわざわざ準備をしなければと言ったのかを知ることになる。




 シメオンの膝枕というふざけた担当でも、アメリはただシメオンの隣に座っているだけではなく、その仕事をきっちりこなすつもりでいた。


 まずはシメオンのその日のスケジュール管理をし、次の予定に支障がないようにサポートしたり、準備する役割を担った。


 その日もいつものように早朝シメオンの部屋を訪ねると、そこにはピンクのシルクハットにピンクの大きな羽、ピンクの燕尾服にピンクのブーツを着た全身ピンクの金髪碧眼の奇っ怪な男性が立っていた。


「わーお、来たね僕のマーメイド!! いいよ、いいよ~! 彼女なら大歓迎だよ~、僕引き受けちゃう!」


 アメリの顔を見た瞬間にその男性はそう叫んだ。その後ろでシメオンが素早く反応する。


「君のマーメイドではない、私のアメリだ」


 アメリも思わず口を出す。


「私は誰のものでもありません。それに、私はマーメイドではなくメイドです」


「束縛令息もマーメイドもそんなにむきになんないでよ~。それにしても『マーメイドじゃなくてメイドです』ってなんか面白いね! アハハハハ!」


 アメリは戸惑いシメオンを見つめた。


「アメリ、驚かせてすまない。彼はデザイナーのファニー。これから君のドレスのデザインをお願いしている」


「そうそう、マーメイドのドレスいっぱいデザインしちゃうよ~」


 そう言いながら、ファニーはアメリを上から下まで見ながら回りをぐるぐると回りだした。


 アメリはそれを無視し、シメオンに尋ねる。


「ドレスをデザインとはどういうことですか? 私にはそんなお金も余裕もありません」


 シメオンは微笑み返す。


「心配はいらない。これは視察に行くために必要なものだから、こちらで手配しよう」


「そんな、迷惑をおかけするようなことはできません。私は制服があれば十分です」


 そこでファニーが立ち止まり口を挟む。


「マーメイド、遠慮する必要ないって。束縛令息の言う通りにしちゃいなよ! 束縛令息はお金持ちなんだからさぁ~。それに、マーメイドが断っちゃうと僕の仕事が減っちゃうんだよね~」


 それを聞いて、アメリは少し申し訳なく感じた。そこへ畳み掛けるようにシメオンも言った。


「その通りだ。これぐらいは大したことではないし、せっかく素晴らしいデザイナーが他国から来ているんだ、この機会にドレスを仕立ててもらうのも悪くない」


 そう言われ断る理由もなく、アメリは承諾することにした。


「視察まで時間がない。今日は一日ドレスの採寸やデザインの打ち合わせに時間を当ててくれ」


「まっかせておいてよ! じゃあそう言うことだから、僕のお針子たちを呼ぶね! それにしてもわくわくしちゃう。晩餐用に散歩用、部屋で着るドレスでしょ? あと舞踏会用にお茶会用!」


 それを聞いてアメリは慌てる。


「舞踏会用とお茶会用もですか? 散歩用と普段着で十分です」


 そう言ってシメオンを見つめ助けを求める。だが、シメオンは当然とばかりに言った。


「いや、もちろん必要だろう。ファニー、よろしく頼む」


「はーい! マーメイドってばドレス持ってないんだってね、僕がデザインしたドレス以外着ないなんて最高!!」


 そう言うとファニーは手を叩いて、廊下にいたお針子たちを呼んだ。アメリはあっという間にお針子たちに囲まれる。


「お嬢様、(わたくし)たちにお任せください。お嬢様は立ってるだけでいいですから。さぁ、こちらへ」


 そう言って空いている部屋へ連れていかれ、細かく採寸されるとこの日一日ファニーには質問責めに合った。


 それから視察までの間、忙しい日々を過ごすこととなった。シメオンの秘書のような仕事の合間に、時々ファニーに呼ばれてドレスを試着したりした。


 気がつけば、あっという間に視察へ出発する日になっていた。


 エントランスでシメオンがアメリに手を差し出して言った。


「さぁ、行こう。君にとっても、私にとってもこの旅で何か運命が変わるような出来事があるかもしれないね」


 シメオンは何の気なしにそう言ったのかもしれないが、アメリはその言葉に運命は変えられないのかもしれないと思いながらシメオンの手を取った。


 領主たちの視察には領地の様子を見て回ること以外に、魔法を使い自然の気の流れを正常にすることも含まれている。


 それができるのはもちろん魔法を使える貴族たちだけであり、だからこそ魔法を使える人間は王宮からその力に比例した爵位と領地を授かることになる。


 シメオンは土属性の魔法の使い手なので、ボロー領はとても土地が肥えており、農業に適した領地だった。


 馬車の窓から外を見ると、作物がたわわに実り馬車に気づいた農夫たちは作物を手に抱えこちらに頭を下げ、手を振ってくれたりした。シメオンもそれに答えて手を振っていた。


 そんな姿を見て、アメリはシメオンに仕えていることを誇りに思った。

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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