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6 前世の記憶

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 お抱えの治癒魔法の使い手がアメリの治療に間に合ったのは、とても運が良いことだったと説明を受けた。だが、アメリは思う。


 運が良かったのでも偶然でもない。これは必然的なことだったのだ、と。


 ステラが事故で亡くなったのも、それでバロー家に世話になりある程度の教育を受けることができたのも。


 そして、今回の騒動。そのすべては以前から決まっていたシナリオをなぞっているに過ぎない。


 なぜならここは乙女ゲームの世界なのだから。


 アメリは三日間寝込んでいるあいだに一気に前世の記憶を思い出していた。その前世の記憶の中に、この世界が乙女ゲームとして出てきたのだ。


 そうしてアメリは自分が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいたのだった。


 実際にゲームの世界に入り込んでしまったのか、所謂(いわゆる)転生というものをしたのかわからなかったが、それよりもなによりも自分自身が悪役令嬢という立場だということに驚いていた。


 アメリは今までもしかして自分は旦那様の隠し子かもしれないと思ってきたが、それは違っていた。アメリはテランス・フォン・ボドワン伯爵という貴族の娘だったのだ。


 昔バロー家に遊びにきたテランスはステラに一目惚れし、ひたすらアタックした。ステラは最初相手にしていなかったが、その熱意に根負けした形で二人は付き合うようになり密会を重ねた。


 テランスは本気だったが、それに気づいたステラは自分が『地枯れ』だったことから、テランスをこっぴどくふり、ショックを受けたテランスは、自身の領土へ戻っていった。


 だが、その時すでにステラはアメリを身籠っていた。


 そして、アメリはテランスの母親の血を受け継いで治癒魔法の使い手として生まれた。


 ゲームの中のアメリは、自分が治癒魔法の使い手であることから、父親が貴族なのではないかと疑問に思い、エステル・フォン・バロー辺境伯夫人に父親に心当たりがないか尋ね、テランスとステラのことを聞き出す。


 そこでテランスに手紙を書くと、娘会いたさにテランスはバロー家に駆けつけ、そこで自分の母親に似ているアメリを見て娘だと認める。


 テランスはアメリを引き取ろうとするが、アメリは『地枯れ』を継いでいたため、それは叶わずバロー家に土地をもらい、屋敷を建てそこにアメリを住まわせることにした。


 そうして伯爵令嬢となったアメリは、シメオンを庇い大怪我したことを盾にシメオンに婚約を迫るのだ。


 そこで現れるのがこのゲームの主人公リディ・ラ・ブランデ侯爵令嬢だ。


 リディの分岐によってシメオンルートになると、バロー領の近くへ家族が移り住むことになる。


 そして、ある日シメオンが領土内の視察をしている時に怪我をし、リディがそれを介抱する。それが二人の出会いとなり、シメオンは純粋なリディに惹かれてゆく。


 だが、そこで邪魔をするのが悪役令嬢であるアメリなのである。


 アメリは数々の嫌がらせをリディに行い、なにをするにも二人の間を邪魔する。


 主人公のリディがそれをうまく避けて、イベントを成功させることによってエンディングが変わるという仕組みだ。


 ハッピーエンドだと、アメリの嫌がらせの証拠をつかみ最終的にはそれらが公の場で露見し、断罪されバロー領から追放を言い渡される。


 そしてシメオンとリディはなんの障害もなく結ばれ、幸せに暮らしてゆく。


 バッドエンドだと、シメオンは嫌々ながらもアメリを怪我させた責任を取るようなかたちでアメリと結婚。リディは失意の内に城下へ戻って行くというエンディングになる。


 当然のことながらアメリは愛されもしない、同情的な結婚も断罪のどちらも嫌だった。できればこのまま静かにバロー家のメイドとして目立たずに暮らしたいと思った。


 アメリは前世でシメオン推しだった。よりによってその推しを苦しめる悪役令嬢に転生するだなんて、と正直とても落ち込んだ。


 先ほどシメオンに頑なに今回の件を忘れるよう言ったのは、ゲームの世界に精一杯抗おうと心に決めたからだった。


 シメオンがリディに心惹かれるのは変えられないことだろう。ならば自分が変わるしかない。


 そもそも、自分がメイドであり続ければリディとのいさかいも起こることなく平和に暮らせるのではないかと思った。


 できればリディがシメオンの目の前に姿を現さず、アメリはメイドとしてずっと穏やかに暮らす、そんな未来が続けばいいとアメリは願った。






 アメリはこの後、二週間の休みをもらいその間にできるならシメオンの担当を外れたいと申し出た。


 今までも何度か担当を外れたいと申し出たことはあったが、それはシメオンによって却下され続けていた。


 だが、今回こんなことがあったのだからもしかしたら許してくれるのではないかとアメリは考えた。


 すると、思っていた通りアメリは担当を外されることになった。


 次の担当がどこになるのかはシメオンが直接話すということで、アメリは仕事復帰の朝一でシメオンの部屋へ呼び出された。


「シメオン様、おはようございます。長らくお休みをいただきありがとうございました」


 アメリは頭を下げた。シメオンは自室のソファーにゆったり座ったまま答える。


「体はもう大丈夫なのか?」


「はい、お陰さまで」


「そう、それはよかった。とにかく座って」


 アメリは頭を上げる。


「いいえ、今日は新しい担当になって一日目です。早く慣れるためにも、今すぐに仕事に取りかかりたいと思っております。ですから、新しい担当先を教えていただければそれだけで結構です」


 シメオンはじっとアメリを見つめると、しばらくしてにっこり微笑んだ。


「心配いらない。君の担当先は私の隣なのだからね」


 アメリは呆気に取られ、言葉をなくした。


 そんなアメリを楽しそうに見つめると、シメオンはソファーをポンポンと叩く。


「ほら、早くここに座って」


 アメリはなんとか気を取り直すと、シメオンに質問する。


「ですが、シメオン様? 私は担当から外れたはずです。これでは以前と同じではないですか?」


「いや、違うよ。以前は私の身の回りの担当だったが、今の君の担当は私の枕だ」


「はい? あの、何を仰っているのか意味がわかりません」


「簡単な話だ。先日オペラを鑑賞した後で、私に人が見ていないところでなら、いつでも膝枕をすると言ったのは君じゃないか」

 

「あれは言葉のあやというか、少なくともこういった意味ではありません」


 すると、シメオンは諭すように言った。


「アメリ、この前君は自分に恩義を感じるなと言ったね? それで私はそれを承諾した。今度は君が私の我が儘を聞いてくれてもいいのでは?」


「ですが……」


「アメリ、これは交換条件だ」


 アメリはしばらく考えた。どちらにしろシメオンはアメリを枕係か自分の担当にしたままにして、どこへも行かせない気なのだろう。


 それに、もしもリディが現れればシメオンの方からこの申し出は解除するだろうとも考えた。


「わかりました、シメオン様に従います」

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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