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5 命の危険

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「それは残念だ。だが、人前でなければいいってことだね?」


 アメリは一瞬『しまった!』と思ったが、にっこり笑うと答える。


「その代わり、今回のオペラのような対価をいただきますよ?」


 すると、シメオンは声を出して笑った。


「今日のことはすべて私にとってご褒美でしかないのに、君はそれでもいいのか? そんなことなら毎日でも」


 アメリは慌てて目の前で両手を振る。


「ち、ちが、だめです!」


 慌てるアメリを見てシメオンは、アメリを愛おしそうに見つめながら、安心させるように手を取った。


「わかってる。だけど、たまにはこうして一緒にでかけてくれないか?」


 そう言われアメリは不覚にも顔が赤くなるのを感じた。恥ずかしくて俯きながらも、なんとか答える。


「わ、わかりました」


「よかった。君は結構はっきり断るタイプだから、断られるかと思った。流石に無下に断られれば私だって落ち込む」


「申し訳ありません……」


 すると、シメオンは微笑んだ。


「謝る必要はない。君は私のことを思って言ってくれているのだろうから」


 そう言うと、手を放して立ち上がった。


「さて、もうそろそろお腹が減ったんじゃないか? 食事をしながら、オペラの感想を聞かせてほしい」


 そう言うと、アメリに手を差し出した。アメリはその手をつかむと頷き立ち上がった。





 劇場のエントランスを出ると、どこかの貴族と思われる身なりの良い男性がシメオンの横から話しかけてきた。


「バロー辺境伯の令息であらせられる、シメオン様ですね?」


 アメリはシメオンの斜め後ろで、どこの貴族だろうとその顔を思い出そうとするが、まったく心当たりがなかった。


 シメオンは警戒しつつも答える。


「失礼だが、貴方は? お会いしたことはないと思うが」


 その時、アメリはその男が仕込み杖を持っていることに気付き、シメオンの目の前に出た。


 シメオンは驚いてアメリを見た。


「アメリ、なにを?」


 その瞬間、その男が仕込み杖からナイフを抜いた。


「このメイドがぁ! 邪魔だ、どけ!!」


 アメリは咄嗟にシメオンを庇い、腰の辺りに強い痛みを感じた。


 その時、フィリップがその男に飛びかかり押さえつける。


 アメリは、あまりの痛みに動くことも叫ぶこともできずにその場にうずくまり、地面に倒れた。なんとか痛みを堪えながら、刺された場所を恐る恐る触るとヌルリとした生暖かい感触がする。


 そして、痛みと恐怖で気を失う瞬間シメオンが泣き顔でなにかを叫んでいるのを見つめながら目を閉じた。






 アメリが目を覚ましたのはそれから三日後のことだった。


 目覚めた時、自分の部屋ではなかったので驚き少し混乱したが、そばにいたメイドが自分も見知ったキャスだったので安心した。


 キャスは起き上がったアメリを見て、嬉しそうに微笑むと大声で叫んだ。


「アメリ、よかった! シメオン様、シメオン様! アメリが目を覚ましました!」


 すると、廊下から急いで駆けてくる足音がしたかと思うと勢いよくドアが開き、シメオンが部屋に入ってきた。


「アメリ! よかった。本当によかった」


 そう言いながらシメオンはゆっくりとベッドのそばまで来ると、床に膝をついてアメリの手を取った。


「君はとても危険な状態だったんだよ……」


「シメオン様、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。ですが、シメオン様こそお怪我はありませんでしたか?」


「私のことは心配ない。君が守ってくれたから。私は自分が不甲斐ない、君を守れなかった」


 アメリは首を振る。


「いいえ、シメオン様は幼少の頃からずっと色々なことから私を守って下さったではありませんか、だから気に病む必要はありません」


「私が君を守ってきたと? いや、それは当然のことをしたまでだ。それに君を束縛しているのも自覚している。それなのに君は命を張って私を守った」


 アメリは真剣な眼差しでシメオンを見つめると言った。


「シメオン様、これだけは言っておきます。私は束縛されたことはありません。それに、メイドとしてシメオン様に忠誠を誓っております。自分の意思でここにいるのです。ですから今回のことは当然のことをしたまでです」


 そして、シメオンから視線を逸らし前方のなにもない空間を真っ直ぐ見つめると続ける。


「これから先、シメオン様に恩を売るようなことは一切ありません。シメオン様も、今回のことで私に特別の恩義を感じるようなことのないよう、お願いいたします」


 あまりにもはっきり言うアメリに、シメオンは苦笑した。


「では、君は私にこう言うのか? 命を守ってくれた相手に、メイドなのだから当たり前だと言うような人間になれ、と」


「そうです。シメオン様は辺境伯の跡取りとして、バロー家を継ぐお方です。一介のメイドのことなどお気になさらず、少し非情になることも必要だと私は思います」


 シメオンは、じっとアメリを見つめて言った。


「君の言いたいことはわかった。だが、一つ間違えていることがある」


 アメリはシメオンの方を向くと訊く。


「なんでしょうか?」


「私は君のことも、この屋敷にいる者すべての使用人に対しても、一介の使用人などと思ったことはない。すべて大切な者たちだ、だから非情にはなれない」


 そう言って言葉を切ると、悲しそうに微笑む。


「それに特に君は、そんなに簡単には割りきれる存在ではない」


 シメオンに愛おしそうに見つめられ、アメリは思わず目を逸らした。が、気を取り直してシメオンを見つめ返す。


「それでも、です。今すぐには無理かもしれませんが、この件に関しては忘れてください」


 すると、シメオンは諦めたような顔をした。


「君は昔からこうと決めたら、絶対に曲げない人だったね。わかった、君の言うとおりにする。今後なにかあってもこの件について君に恩を感じるようなことは言わないと約束しよう」


「ありがとうございます」


「とにかく、君は傷が癒えたとはいえまだ体力は完全に回復していないだろう? しばらく休んでくれ」


 そう言うと立ち上がり、部屋から去っていった。


 その後、三日間臥せっていた間に何があったのかキャスから説明を受けた。


 まず、なぜシメオンが狙われたのか、そしてその犯人はどこの誰だったのかだが、実はコームが重要な任務を受けており、敵対する組織がコームの気を逸らせるために組織的におこなった犯行だったことがわかった。


 アメリがシメオンを守ったので、敵対組織のもくろみは失敗に終わり、コームは問題を無事に解決し一連の組織も一人残らず捕らえたとのことだった。


 アメリのここ三日間の状態だが、傷はそこまで深くなかったものの、傷口が化膿し高熱を出して意識がない状態で、このままなら一週間持たないと言われていたそうだ。


 シメオンがバロー家のお抱えの治癒魔法の使い手をコームのところから呼び戻し、やっと屋敷に戻ってきたのが昨日だったそうで、治療は先程終了したとのことだった。


 治癒魔法の使い手は年々減ってきており、かなり稀少な存在で、そのほとんどが国王や王族を守るために王宮にいた。


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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