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3 朝のルーティン

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アメリは今でもシメオンのことが好きだった。だが、ここ数年シメオンと一緒にいるからこそ自分とシメオンとの身分差を身に染みて感じてもいた。


 シメオンは一介のメイドとどうこうなるような相手ではない。それはアメリ自身もよくわかっている。


 アメリはシメオンにつかまれた腕を振り払おうとした。が、その瞬間に腕を引っ張られベッドの中へ引き込まれる。


「シメオン様?!」


 気がつけば背後からしっかり抱きすくめられ、身動きが取れない状態となっており、アメリはシメオンに身を任せるしかなかった。


 シメオンはアメリの背後から耳元で囁く。


「あと五分このままで。そうしたらちゃんと起きるよ。そもそもアメリが私の抱き枕になってくれれば、毎朝問題なく起きることができるんだが」


「そんなこと、できるはずがありません」


「できるさ、いずれはそうなる」


 アメリは冷静に答える。


「シメオン様、とにかく放して下さい。ふざけている暇はありませんよ? 今日はお出掛けの予定がありましたでしょう?」


 シメオンは大きく溜め息を付いた。


「仕方ない、時間に遅れてあとで君に迷惑をかけるわけにはいかないからね、君を解放するとするか」


 そう言ってアメリを抱きしめる手を緩めた。アメリはシメオンの腕から逃れると、慌てて立ち上がり髪の乱れを直しながら文句を言った。


「本当に、いつまでたってもこんな子どもみたいなイタズラばかりなさって。はやく支度なさってください」


 シメオンは上半身を起こすと思い切り伸びをしてベッドから出た。


 アメリはそれを見届けると、その場を離れシメオンの洗面の準備や朝食のセッティング、外出着の最終チェックをしてから食堂でシメオンを待ち出迎えた。


 これらはアメリの朝のルーティンだ。


 アメリがシメオン付きになったとき、シメオンはアメリになにも仕事をしないように命令した。


 だが、アメリ自身がそれを強く拒否したため、ならばとシメオンの身の回りのことはほとんど一人でこなすことを条件に働くことを許された。


 もちろん担当はアメリ一人ではなく、メイド長のキャスも担当していたため、休みの時はキャスが出てくれていた。


 それに、シメオンの担当しかしないアメリは他のメイドよりも手持ち時間が多かったので、そこまで忙しくもなく苦ではなかった。


 こうしてシメオンは、アメリをとても信頼しすべてを任せてくれていたが、そんなアメリも一つだけ触れてはいけないことがあった。


 それはシメオンの部屋の奥にある、鍵のかかった部屋の存在だった。


 そこは使用人たちの間で通称『開かずの間』と呼ばれており、ほんの一部の限られた人間しかその部屋がなんのための部屋なのか知らされていなかった。


 だがアメリは、領地のことや王宮に関係ある極秘の書類があるのだろうと考え、特に気にはしていなかった。






 食堂で朝食を取っているシメオンを見つめながら、今日の段取りを頭の中で復習する。


 今日、シメオンはオペラを鑑賞する予定が入っていた。見る予定のオペラは『双子の炎』というラブストーリーで、女性にとても人気のある作品だった。


 そこでアメリは、恐らく今日のお相手は女性なのだろうと予測した。


 かくいうアメリも一度鑑賞したいとは思っていたが、チケットが高額なうえ簡単に手に入らないので鑑賞することを諦めていた。


 相手の女性が羨ましい、一体どなたと鑑賞なさるのだろう? でも羨ましがろうがなんだろうが、シメオン様は自分のての届く相手ではないのだし、そんなことを考えるだけでもおこがましいことだわ。


 アメリは自分にそう言い聞かせた。


 シメオンは辺境伯の跡取りであり、しかも容姿にとても恵まれていたので、縁談の申し込みやお茶のお誘いなどの招待状が毎日山のように送られてきていた。


 積極的な令嬢の中には、偶然を装いシメオンに近づく者もいたが、シメオンはそれらすべてをにべもなく断っているようだった。


 そのせいか、社交界の間でシメオンは冷酷な辺境伯令息と噂されており、アメリは内心会ったこともない人間がなんてことを、と憤りを感じたりもしていた。


 だが、それでも令嬢たちからのシメオンの人気は陰ることはなかった。


 そうしてアピールしてくる令嬢たちの中から、いよいよ誰か良いお相手を選んだのだわ。


 そんなことを考えながら、シメオンが女性のエスコートを失敗しないようしっかりサポートしようと、気を引き締めた。


 シメオンは外出時に必ずアメリを同行させたが、流石に今日は連れていくことはないだろう。


 ベッドメイキングを済ませると、アメリはシメオンの外出中にやらなければならないことリストを手に取り、掃除用カートの見やすい場所へ置いた。


 食事から戻ってきたシメオンの身支度を手伝うと、数歩下がって全身をくまなくチェックする。


 よし、完璧だ。


「シメオン様、今日のお夕食はいかがなさいますか?」


「まだ、決めてないんだ。場合によっては遅くなると思う」


 アメリは胸の奥がズキンと痛んだ。うまくいけば、夜までその女性と一緒に過ごすということなのだろう。だが、当然そんな(よこしま)な気持ちは一切顔に出さずに返事をする。


「承知いたしました。馬車の準備はできております」


 そう言って一礼しさがろうとしたが、シメオンに呼び止められる。


「アメリ? どこへ行くんだ」


 アメリは戸惑い質問する。


「シメオン様、まだ私にご用がありましたでしょうか?」


「ご用もなにも、君も行くんだ」


「ですがシメオン様、本日は執事のフィリップをお連れになる御予定なのでは?」


「フィリップも連れて行く予定だが、君が来ないのなら意味がないだろう」


 アメリは不思議に思いながら答える。


「仰っている意味がわかりません。フィリップはとても有能です、彼一人でも外出先で困ることはないと思いますが」


「そういうことじゃない。君は一緒にいくと言ってもかたくなに断るだろうから黙っていたが、今日は君と一緒に行く予定にしている。とにかくもう時間がない」


 そう言うとシメオンはアメリと手をつなぎ歩き始めた。


 アメリは慌てた。屋敷内ではアメリとシメオンが幼馴染みで兄妹のようだと知られているので問題ないが、他の令嬢の前でそのようなことをすれば完全に誤解されてしまう。


 それにもし、本当に自分がバロー家の隠し子でそれが露見したときは、周囲になにを言われるかわかったものではない。


「シメオン様、ご一緒するのはかまいませんが、外でこのような振る舞いをしては誤解が生じてしまうかもしれません。手を放して下さい」


「なぜ? 誰かに誤解されても困ることは何一つないだろう?」


 大ありだ。アメリはなんとかシメオンの説得を試みる。


「シメオン様? 世間はそんなに甘くありません。貴族がメイドと兄妹のように接するなんて、なんと噂されるか。それにシメオン様の品位を下げることにもなりかねません」


 説得するアメリの気持ちが通じたのか、シメオンは立ち止まりつないでいた手を放した。

誤字脱字報告ありがとうございます。


 ※手持ち時間:実際に業務に従事し、作業をしていなかったとしても、使用者から指示があった場合は、すぐに作業に取り掛かれるような状態で待機している時間のこと。



※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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