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21 晩餐会

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 先に部屋で来客を出迎えているシメオンの周囲には令嬢たちが群がり、どうにか話をしようと取り囲んでいる。


 シメオンは、そんな令嬢たちに不機嫌そうに淡々と挨拶を返していた。そっけない態度をされそれでもなお、そんなシメオンを令嬢たちはうっとりとした眼差しで見つめている。


 それを後方で静かに見ていたファニーはアメリに心配そうに言った。


「マーメイドってば、気になる?」


「いいえ、シメオン様を信じてますもの。大丈夫ですわ。だって、あの人当たりの良いシメオン様が令嬢たちにあんなにも冷たく接するなんて、ありえないことでしょう? きっと(わたくし)に気づかってくださってるんですわ」


 ファニーはそれを聞いて微笑む。


「わーお、ごちそうさま~。でもね~あの束縛令息は、外ではいつもあんななんだけどね~。ははは~」


 そう言うと、小声で言った。


「ところでさぁ、今日来た招待客たちの中に君に物凄く注目している奴らがいるの気づいてた?」


「えぇ。だってファニーのデザインしたドレスは素敵ですし、そんなドレスを着た正体のわからない令嬢がいるのですもの。気になるのは当然ですわよね」


「違う、違う! マーメイドわかってないなぁ~。妹や姉に付き合わされて仕方なしにここに来た、あの令息たちの眼差しのことだよ~。あぁ、可愛そうに~。君が婚姻してると知ったらさぞがっかりするだろうねぇ」


 アメリはそれを聞いてクスクスと笑った。


「ファニー、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。でも他にもこれだけ美しい令嬢たちがいるのですもの、(わたくし)のことをそんなふうに見る方なんていませんわ」


 するとファニーはアメリをじっと見つめ、苦笑した。


「こりゃ~、あの束縛令息も苦労するわぁ! んじゃ、変なのに絡まれる前に僕らも座ろ!」


 そう言ってアメリを席までエスコートした。


 招待客は近隣に来ていた貴族たちや町の有力者、それにリディも含め結構な人数が集まっていた。これだけ人目があれば、リディも大きく騒がないはずだ。


 シメオンとアメリの婚姻について文句を言ってきたとしても、淡々と話をつけることができるだろう。


 全員が揃い、席に着いたところでエステルが発言する。


「実は、今日はとても喜ばしい報告がありますの。シメオンのことですわ」


 招待客たちは、エステルのこの一言で一斉にシメオンを見つめた。


 シメオンは立ち上がると、軽く会釈する。


「本日は集まってくれてありがとう。今日は私の大切な伴侶を紹介したい」


 すると、その発言に室内はどよめいた。アメリは緊張しながらも名を呼ばれるのを待っていた。ところがこの時予期せぬ事態がおきる。


「ご紹介に預かりとても光栄ですわ!」


 そう言ってリディが突然立ち上がり、シメオンの横に並び腕を絡ませたのだ。そして、驚いているシメオンをよそにリディは堂々と言った。


「鈴蘭の間で晩餐会と仰るから、(わたくし)たちの婚約発表だと思ってましたわ」


 そしてリディはうっとりシメオンを見上げる。


 アメリは驚きのあまり呆然としたが、ファニーがそんなアメリを立たせてシメオンの元へエスコートした。


 すると、それに気づいた招待客たちがアメリを一斉に見つめる。


 その視線に気づいたリディは、アメリの存在に気づくとアメリを上から下まで見つめ、クスクスと笑った。


「あら、嫌だ。なにその格好。貴女まさかシメオン様の婚約者になれるとでも? それにそのドレス、貴女には不釣り合いよ。どこから盗ってきましたの? まさか貴女、シメオン様が(わたくし)のために準備したドレスを勝手に着たわけ?」


 すると、リディの横に立っていたシメオンが鬼の形相で言った。


「気持ち悪い。君こそ何を考えている? アメリの着ているドレスは私がプレゼントしたものだ。それに、君は私の恋人でもなんでもないのに、こんなことをして恥ずかしいと思わないのか?」


 そう言うと、唖然とするリディの手を振り払いアメリのところへ向かった。


「アメリ、大丈夫か?」


「はい。少し驚きましたけれど」


 シメオンは素早くファニーからアメリを奪うように引き寄せると、手を取り腰に手を回し招待客へ向けて言った。


「紹介しよう、私の大切な女性であり生涯の伴侶でもあるアメリだ。私たちはこの先人生を共にすることに決めた。未熟者だが、よろしく頼む」


 招待客は困惑し令嬢たちの中には悲鳴を上げる者さえいたが、しばらくすると拍手を贈り次々に祝福の言葉を口にした。


 そこへリディが割って入る。


「シメオン様?! 何かのご冗談ですわよね? 確か私が知る限り、そのアメリという女は卑しい出自だったはずですわ。しかも自分のことを勝手に貴族の娘だと語っている詐欺師みたいなこともしているそうです。そんな方と婚姻だなんてありえませんわ!」


 そう言って憎々しげにアメリを見つめた。と、そこで招待客の中にいたテランスが立ち上がると、微笑みながらゆっくり低い声で冷静に言った。


「ブランデ侯爵令嬢が発言中に失礼いたします。ブランデ侯爵令嬢が仰る内容に、少々齟齬(そご)があるようですので訂正させていただきます。アメリが卑しい出自とのことですが彼女は私の娘であり、決して卑しい出自などではありません」


 リディはテランスに同情するような眼差しを向ける。


「ボドワン、(わたくし)以前忠告したわよね? あの女が貴方の娘だと主張してくるかもしれないけれど、騙されないようにって。それなのに騙されてしまったようね。残念だわ」


 テランスは呆れたように答える。


「えぇ、それなんですが……そもそも、アメリは自分から私の娘だと名乗ったことはありません。私は旧友からの手紙で娘の存在を知ったのです。貴女は私の旧友をも侮辱するおつもりですか?」


 そこでエステルが発言した。


「少しよろしいかしら?」


 リディはエステルに向き直って答える。


「お義母様、もちろんですわ! お義母様からもボドワンに忠告してくださるのですね?!」


 リディは目を潤ませながらそう訴えた。エステルは困惑したようにそれに答える。


「リディ、申し訳ないのだけれどテランスの言っている旧友とは、(わたくし)のことなの。それに貴女、先ほどからこの場を自分の独壇場のように振る舞ってらっしゃるけれど、その振る舞いについて自身でなにか思うことはないのかしら?」


「え? あの、お義母様?」


 そのやり取りを聞いていた招待客たちが、クスクスと笑い始めるとリディは無言で押し黙る。


 そこにシメオンが口を挟んだ。


「ところでブランデ侯爵令嬢、そんなにはっきりと私のアメリのことを侮辱するとは、なにか確証があって言っているのだろうね?」


 すると、リディは悔しそうな顔をしたあとなにかを思い出したようにニヤリと笑って答える。


「シメオン様、(わたくし)にそんなことを仰っても良いのかしら? この命の恩人である(わたくし)を侮辱するなんて、礼を欠いていらっしゃるのではなくて?」


 シメオンは溜め息を付いた。


「そのことなんだが、君が治癒魔法の使い手というのは本当なのか?」


 その質問にリディは明らかに動揺した様子を見せたが、気を取り直したように答える。


「それはシメオン様が助かったことで証明済みですわ。(わたくし)がわざわざ証明することではありませんわね」

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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