20 過密スケジュール
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
結局、結婚式はコームが戻ってくる予定である半年後に挙げることになり、その間にアメリの教育やボドワン家への挨拶の予定も組まれた。
そして、最後にリディの対策について話し合われる。
現在リディは、バロー領にとどまり『シメオンの命の恩人』ということを盾に、好き放題バロー家にも出入りしているとのことだった。
リディがシメオンに招待されたのだと思っていたアメリは、その図々しさに驚き半ば呆れた。これは侯爵令嬢のすることではない。
しかも使用人たちにバロー家の女主人のような振る舞いをしているとのことだった。
リディは侯爵令嬢で辺境伯であるバロー家より地位は低い。といっても相手は侯爵家である。それに、バロー家としても命の恩人とあっては無下にできないという経緯があったようだ。
「彼女は自分が命の恩人だと言っているが、あの時、私を治療してくれたのはアメリ、君だろう?」
その台詞にアメリが驚いていると、シメオンは苦笑する。
「その顔、私が気づいていないとでも思っていたのか? とにかく、それをブランデ侯爵令嬢の前で証明しよう」
シメオンはそう言って微笑んだ。
しばらくブランデ侯爵令嬢がバロー家に現れることはなかったが、アメリが帰って来ていることは耳に届いているはずである。いつ現れてもおかしくなかった。
そんな中でシメオンはエステルと話し合い、ブランデ侯爵令嬢を晩餐会に招待することにした。
「待っているだけなのは性に合わない、こちらから仕掛けよう」
シメオンはそう言うと不適に笑った。
現在、社交期は終わり、城下に集まっていた貴族たちの多くは自身の領地に戻ってしまっていたが、バロー領の近くには避暑と称してシメオン目当ての貴族令嬢たちが家族と共に集まっていた。
エステルとシメオンは、そんな貴族たちを招待することにしたようだった。
執務机で晩餐会の招待状リストに目を通すと、シメオンはソファに座るアメリの横に腰かけた。
アメリは刺繍をする手を止め、それをバスケットに入れた。するとそれを見届けてから、シメオンはアメリの膝の上に頭を乗せた。
アメリがそっとシメオンの頭を撫で顔を覗き込むと、シメオンはアメリの頭に手を添えて自分の顔に引き寄せてキスした。
アメリは恥ずかしくなり、顔を後ろに反らせた。
「もう、シメオン様、急に何をなさるのですか!」
「君が可愛らしく私の顔を覗き込むから、我慢できなかった。早いところブランデ侯爵令嬢と方をつけて、どこか二人になれる場所に出かけたいね」
「でも、相手は侯爵令嬢ですし、すぐに引き下がるとは思えませんわ」
「それは心配いらない。君は私だけを見つめていればいいよ」
そう言って微笑むと目を閉じた。
晩餐会当日、リディが来るということで朝からアメリは入念な準備を施された。
アメリの世話をするメイドたちも、もともとは同僚たちであり友達でもあり少し気まずい気持ちになった。
だが、そんなアメリの不安を察したのかアメリ付きであるメイドのスーは言った。
「アメリ様がシメオン様と婚姻されて本当に良かったです! 周囲の者はやきもきしながらお二人を見ておりましたから!」
アメリは驚いてスーの顔を見つめる。
「そうなんですの?!」
「そうですよ~。シメオン様がアメリ様を特別に思っていることは、この屋敷にいる者は全員知っていましたから。でも、旦那様がアメリ様の意思も尊重しろと仰るから、同僚として働かせていただいてましたけど」
「だんな……お義父様が?!」
「そうですよ?」
アメリは、しみじみみんなに守られていたのだと実感した。
「さぁアメリ様、今日はあんな令嬢に負けないよう力の限りを尽くしますね!」
そう言った後、耳元で囁く。
「大丈夫! だってアメリの方があの令嬢より断然美人ですもの!!」
「ありがとう!」
アメリはそう言って微笑み返した。
晩餐会用のドレスはファニーがデザインしたドレスが準備されていた。
そのドレスは濃紺で錦糸の細かい刺繍が施され、サテンのリボンが装飾されている。襟口が大胆に開いており、ノースリーブでレースのロンググローブがついていた。
そして、ロング丈のスカートの下には布をたっぷり使ったフリルが幾重にもあしらわれている。
「こんなに高価なものを、私が着てもいいのかしら?」
準備されたドレスを見つめ、アメリがそう呟くとスーはクスクスと笑った。
「アメリ様ってば、もちろんですよ! まずは湯浴みをして、全身マッサージ。それに全身パックに……」
「待って! それはすべて必要なこと?」
「はい! これは全部必要なことです。晩餐会が楽しみですね~!」
そう言ってスーは楽しそうに微笑んだが、アメリはこんなにも大事になり緊張してしまってそれどころではないと思った。
すべての準備が整うと、アメリは鏡の前で一回転して自分の全身を眺めた。
「凄い! ありがとう。とっても素敵だわ。私じゃないみたい!」
興奮のあまり、言葉遣いが悪くなった。
「アメリ様、私の腕が良い訳じゃありません。アメリ様はもともと、とても美しい方ですから少し磨けばずば抜けて美しくなるのは当然です!」
そこへシメオンがやって来て、アメリに声をかける。
「アメリ、とても美しいよ」
アメリは振り返ると、恥ずかしそうに言った。
「こんなに豪華に着飾ることが必要なのでしょうか?」
「もちろん必要だ。それにしても、ドレスは君の引き立て役にしかならないね」
そう言うと、無言でアメリを眩しそうに見つめた。
「シメオン様、アメリ様をずっと見ていたいお気持ちはわかります。私もですから。ですが、お客様がお待ちですよ?」
スーに注意され、シメオンは我に返ると苦笑する。
「そうだった。だが、君を社交の場には連れていきたくないな、できれば今日の晩餐会にも。変な虫が寄ると困る。だが、仕方がない」
そう呟くと、アメリに手を差し伸べた。
「さぁ、行こう。私のアメリ」
「はい。今日はよろしくお願いいたします」
そう言い返して微笑むとシメオンの手をつかんだ。シメオンはその手を引き寄せ抱きしめるとアメリに深くキスした。
「アメリ、このまま今すぐに君に溺れてしまいたいよ」
そう言うと、アメリから少し体を離す。
「だが、憂いは早く除去しなければね」
そう言ってアメリに軽くキスし、アメリの腰に手を回し体を引き寄せると歩き始めた。
今日の晩餐会は鈴蘭の間を使用することになっていた。
鈴蘭には『幸福が訪れる』や『清らかな愛情』といった意味合いがあり、婚姻の発表を目的としてこの部屋を選んだのがわかった。
部屋へ行くと扉の前でファニーが待ち受けていた。
「マーーメイドーーー!! お久! やっぱりめっちゃ可愛いなぁ。僕のデザインしたドレスが似合ってるぅ!」
「ファニー、来てくれたのですね? ありがとう」
「もちろん、君のために戻ってきたよ~。結婚式のドレスだってデザインしないとだしね」
そこでシメオンがアメリとファニーの間に入り込んで言った。
「アメリ、今日は発表があるまでファニーにエスコートしてもらってくれ。こんなことをするのは私も本意ではないのだが……」
その後ろからファニーが叫ぶ。
「と、言うわけでマーメイドよろしくね!!」
「こちらこそ、よろしくお願いねファニー」
そう言ってシメオンの肩越しに覗き込むファニーに微笑んで返した。
今日の晩餐会では主催であるエステルが客を待ち受け鈴蘭の間に案内してくれているので、趣向をこらして全員が集まったところでアメリを紹介し、婚姻の発表と挨拶をする手筈となっていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
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