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2 いたずら

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アメリは抱えたシーツをギュッとにぎると答える。


「昔は子どもだったからです。それに今の私はバロー家に仕えるメイドです。雇い主を敬称なしに呼ぶなんてできません」


「君はメイドである前に、私の親友であったはずだ。違うか?」


『親友』その言葉にざわざわとした感情を覚え、だからこそ私は立場をわきまえなければならないのです。と、心の中で呟くと口を開いた。


「そうだったかもしれませんが、今はメイドなのです。そのようなことは許されません」


 すると、シメオンは少し考え溜め息をつくと言った。


「わかった。君がメイドでいる間だけそう呼んでも構わない。それが君なりのけじめなのだろう?」


 アメリはほっと胸を撫で下ろすと答えた。


「はい、そうです。では、仕事に戻ります」


 頭をペコリと下げると、シメオンの横をすり抜けようとした。だが、シメオンに手首をつかまれ引き止められる。


「シメオン様?」


「まだだ、用が済んだとは言っていない」


 そう言って不意にアメリの手に視線を移す。


「その傷はどうした?」


 アメリの手は皿洗いや洗濯で荒れていた。そんな手を見られ、急に恥ずかしくなると慌てて腕を引っ込める。


「申し訳ありません。不快なものをお見せしてしまいました」


 するとシメオンはうつむくアメリに向き直り優しく問いかける。


「違う、どうしたのか訊いているだけだよ」


 そして、アメリの手を取りまじまじと見つめ優しく包み込むように撫でた。


「恥ずかしがることはなんにもない。こんなに手が荒れるのは仕事熱心な証拠じゃないか。君は真面目すぎるから心配だ」


 そう言うと、なにかを思い付いたようにアメリに微笑むと、アメリからシーツを取り上げリネン庫の棚に置く。


「アメリ、おいで」


「あの、でも仕事が」


「私の相手をするのも立派な仕事だと思うが?」


 アメリは戸惑いながら答える。


「そうですが、シーツを持っていかなければなりません」


「それは君でなくともできる仕事だろう? だが、私の相手ができるのは君だけだ」


 そう言うと、アメリと手をつなぎ歩き始める。


「あの、本当に困ります!」


 シメオンは慌てるアメリを無視し、リネン庫の前にいたメイド長のキャスに目を止める。


「キャス! ちょうどいいところにいたね。アメリを少し借りる」


 キャスはなかば呆れた顔で答える。


「それは構いませんが、シメオン様。あまりアメリを困らせないようお願いいたしますよ?」


「わかっている。だが、構わずにはいられないのでね」


「承知しました」


 そうしてアメリに向き直り笑顔を向ける。


「ほら、アメリ。これで問題ないだろう?」


 アメリはしぶしぶ頷くと、そのままシメオンに手を引かれて歩く。どこへ向かっているのだろうと思いながらついていくと、シメオンは自室の前で足を止めた。


 そしてドアを開け、アメリに中へ入るよう促す。アメリはシメオンの部屋には入ったことがなかったし、男性の部屋へ入ってよいものかと戸惑った。


 その様子を見てシメオンは苦笑する。


「大丈夫、君に危害を加えるようなことはしない」


 アメリはそんな心配はしていなかった。ただ、一介のメイドが主人に連れられ部屋に入るという行為が酷くふしだらに感じていた。


 立ち止まっていると、シメオンは畳み掛けるように言った。


「早く入らないと、誰かに見られるかもね。こんなところを人に見られたらどんな噂をされるか、朝からメイドを連れ込むなんて私の評判も悪くなるかもしれないな」


 そう言われ、はっとするとアメリは慌てて中へ入った。


 シメオンはソファーを指差す。


「そこに座って」


 アメリは遠慮がちにソファーへちょこんと腰掛けると、背筋を伸ばして初めて見るシメオンの部屋の中を見回した。


 シメオンは部屋の奥へ行くと、なにかを手に戻ってきた。


「これはこの前行商人から買ったもので、ちょうど君へプレゼントしようと思っていたんだ。買っておいてよかった」


 そう言うと、アメリの横へ腰掛ける。


「手を出してごらん」


 アメリは恐る恐る両手を差し出す。シメオンは手に持っていたビンからクリームを指に取ると、それを両手で優しくマッサージするようにアメリの手に塗り込んだ。


「ハンドクリームだ。君は肌が弱くいつも手が乾燥していたのを思い出してね」


「あ、ありがとうございます。ですがシメオン様にこのようなことをされる資格が私にはありません」


 アメリは慌てて手を引っ込めようとするが、シメオンはアメリの手をギュッと握った。


「これは私がやりたいからやっていることだ、それを君は否定するのか?」


「いえ、そういうわけでは……」


「だったらいいじゃないか。ほら、じっとして」


 アメリは諦めてそれに従うことにした。


 シメオンはそんなアメリをじっと見つめると呟く。


「君は昔から頑固なところがある。君の今後について少し考えなければならないな」


 それが聞き取れず、アメリはシメオンに訊く。


「シメオン様? 申し訳ありません、聞こえませんでした。なんでしょうか?」


「なんでもないよ、君はなにも心配しなくていい」


 そう言って微笑んだ。


 アメリは優しく自分を妹のように思ってくれるシメオンを裏切ることのないよう心に誓い、シメオンがどんなに自分を特別に扱おうと勘違いしないよう自分に言い聞かせた。


 その次の日からアメリは、シメオン付きのメイドになっていた。






 それから数年がたち、気がつけばアメリは十四歳になっていた。シメオン付きのメイドとしても慣れ、シメオンとの距離もしっかり取れるようになっていた。


 朝、シメオンを起こすのはアメリの仕事となっている。


「シメオン様、おはようございます。これ以上寝ていては旦那様に怒られてしまいますよ?」


「アメリ、おはよう。朝から君の声で起こされると、私はとてもいい気分になるのを君は知っていいるか?」


「またそんなことを仰って。どんなにお世辞を言ってもダメですよ? 二度寝は許しません」


 そう言ってアメリは勢いよくカーテンを開ける。


「そう言うなら、こっちに来て起きるのを手伝ってくれないかな?」


 アメリは溜め息をついた。先日シメオンにそう言われて起こそうとした時に、手をつかまれ手の甲にキスされたのだ。


 シメオン様は最近いたずらが過ぎる。


 そう思い、警戒しながらベッドサイドへ行くと案の定シメオンに腕をつかまれる。


「シメオン様、イタズラは困ります。このようなことをされるから他のメイドに任せられないのですよ?」


「まさか、こんなことを君以外にするはずがないじゃないか」


 アメリは言われてみて確かにそうだろうと納得する。シメオンは自分を妹のように思ってくれているのだからいたずらをするのだ。


「では、こんなことが続くなら私はシメオン様の担当を辞退しなければなりませんね」


「そんなこと、させるわけないだろ? 君以外に世話されるなんてごめんだ」


「そう思うなら、イタズラはなさらないようお願いします」


 シメオンにとってはただのイタズラなのだろうがこんなことを仕掛けられて、ドキドキしないと言えば嘘になる。



誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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