16 バロー領を抜ける
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
アメリはシメオンにつらそうな顔を見せてはいけないと思い、微笑むと頷いた。シメオンはそれを見て一瞬つらそうな顔をしたがすぐに微笑み返した。
「以前会ったファニーを覚えているか?」
何故今ファニーの話を? そう思いながら答える。
「はい。お世話になりましたし、その……印象的な方でしたから」
シメオンは苦笑した。
「彼は独特のセンスの持ち主だから忘れるわけもないな。そのファニーなんだが、彼は近々バロー領を出ていくそうだ」
「バロー領をですか?」
「そうだ。だから君も一緒にバロー領を出てはどうだ?」
その台詞で、アメリは自分がシメオンにとって邪魔な存在なのだと確信した。『地枯れ』であるアメリに領地を出るよう促すのは、死刑宣告に等しい。
やはり、ゲームの内容通り追放される時がきたのだ。ある程度頑張ってきたが、やはり物語の強制力には勝てないのだと呆然とした。
今までシメオンは散々アメリを心配し、気にかけてくれていた。だが、とうのアメリはシメオンを散々拒み続けてきたのだ。守っているのに拒否され続ければ誰でも愛想が尽きるのも当然のことだろう。
考えてみればシメオンは、自分が本来一番愛しているリディを差し置いてアメリを優先させくれていたのだろう。
私は決断が遅すぎたんだわ。
そう後悔しながらも思う。ゲーム内のアメリは大勢の前で断罪され領地を追い出されていた。それを考えれば、今回のやり方ならばシメオンもアメリも名誉を守ることができる。
これだけでも十分な配慮だろう。そう考え、アメリはシメオンの下した判断に従うことにした。
「シメオン様、わかりました。今までありがとうございました。私はバロー領を出て行きます」
その瞬間、シメオンは複雑な表情をした。
「そうか、とても残念だがそれが君の判断なのだから、私はそれに従う」
そこで思い出したようにシメオンは言った。
「ところで、君の話したいこととは?」
アメリは泣きそうなのをなんとかこらえて答える。
「私も、シメオン様の意向に添えるようにとお話しようと思ってました。ですから大丈夫です」
「そうか……」
アメリが深々と頭を下げると、シメオンはアメリに鞄を返した。
「今日、ちょうどファニーが屋敷にきている。直ぐに会いに行くといい。案内しよう」
そう言うと、アメリを部屋から外へ出るように促した。アメリはこの部屋を出ればシメオンとの関係ももう終わりなのだと覚悟しながらその一歩を踏み出した。
シメオンに連れられ客間へ行くと、部屋ではファニーが座って待っていた。そして、アメリが来たことに気づくと嬉そうに言った。
「あっ!! マーメイド! なんか久しぶりだね~。待ってたよ~。一緒にお出かけ楽しいねぇ!」
ファニーのその反応を見て、アメリはもうシメオンから話が通っているのだと思った。
「ファニー様、お久しぶりです。よろしくお願いいたします」
「ファニー、アメリを頼む」
シメオンはそう言って、アメリにソファに座るように促し、微笑むとその場を去っていった。
その後ろ姿を見てアメリは我慢できずに涙をこぼした。
「マーメイド、どうしたのさ~!! いずれきっとバロー領に戻ってくることができるって! 泣かないで~!!」
ファニーの慌てた様子に、アメリは思わず笑ってしまった。
「ファニー様、ありがとうございます。ですが、領地を出ればバロー領に私が生きて帰れることはないかもしれません」
「えっ? はい? どゆこと?」
アメリはファニーに微笑む。
「なんでもありません。今言ったことは忘れてください」
「忘れることなんて、できないんですけどぉ? 納得できないと連れて行けないっていうかさぁ……」
「それでもシメオン様がバロー領を出ろと言ったのですから、ファニー様もそれを尊重すべきでは?」
ファニーは少し考えてから答える。
「確かにそうかもしれないけど~。なんか、話が違うっていうか……、引っ掛かる言い方だな~」
そう言って不満そうな顔をした。ファニーはアメリが『地枯れ』なのを聞いていないのだろう。アメリは涙を拭うと強引に話を進める。
「私はバロー領を出ていこうと思っています。ファニー様が領地を出るのなら一緒に連れていってもらえると嬉しいと思っています。可能でしょうか?」
ファニーは渋々答える。
「可能っていうか、乗せてやってってあの束縛令息に言われてるから、それは問題ないけどさぁ……」
「そうなのですね、ではよろしくお願いいたします!」
アメリがそう答えると、ファニーは不満そうに頷いた。
ファニーが出発するのは明朝とのことで、アメリはそれまでファニーが借りている屋敷に匿われることになった。
アメリは今までのことを考え、やはりゲーム内の強制力のようなものを感じた。ゲームの中でもアメリは領地から追放されている。
少しはあがいてみたものの、結局自分はこうなる運命で諦めるしかないのだと思った。
ファニーには迷惑をかけられないからと、一緒にいる間メイドとして働きたいと話したが、それは拒否された。
「マーメイド、君は僕にとって客人なんだよ? そんなことできるわけないじゃ~ん!!」
そう言うと、少し考えてから続けて言った。
「う~ん、今後僕の仲間として働きたいならそれも構わないけどね~。てか、このまま僕と逃避行しても良いんじゃない?」
「ありがとうございます。ですが、今後は保護施設でお世話になろうかと思ってます」
領地を出た後の自分の運命を考えると、それが一番なのだろうとアメリは思った。それに対しファニーは不満そうな顔をした。
「君の世話はずっと僕が見たいとか思ってるんだけど、それはどうなの?」
「ありがとうございます。そんなふうに声をかけてもらえただけで救われた気がします。ファニー様は面倒見が良すぎるのではないでしょうか。そんな優しさに漬け込むわけにはいきませんから」
アメリがそう言って笑顔を返すと、ファニーは不満そうにした。
「本気なんですけど~。僕にもメリットがあるから言ってるのにねぇ、ま、いっか。とりあえず移動中に気がかわるかも知れないしね」
「すみません」
本気かどうかわからないファニーの申し出に、アメリは作り笑顔で返した。
そうして、次の日の早朝にはそこを経つことになった。アメリは追いかけてくることなどあり得ないと思いつつ、もしかしたらシメオンが引き留めにくるのではと、遠ざかる生まれ故郷を眺めた。
そんなアメリにファニーは慰めるように話しかける。
「今はつらいかもだけど、きっと良いことあるって!!」
ファニーにそう言われ、アメリは心配させないよう笑顔になると答える。
「ありがとうございます。そうですよね」
そう答えたあと、この先のことを考えると落ち込んだが、ファニーにそれを悟られないよう気丈に振る舞った。
アメリたちは数日間、要所要所で宿に泊まりながら隣の領地であるケルヘール領へ向かった。バロー領を抜けるのには十日ほどかかったが、特に問題もなくケルヘール領へ抜けることができた。
バロー領を抜けたあと、最初は特になんの症状もなかったが日に日に体から力が抜けていく感じがあり、一週間も経つ頃にはアメリは常に軽い倦怠感に襲われるようになった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。