14 逃がさない
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
「とにかく君が出ていくことを諦めるまでは、ここで過ごしてもらうことになる。君は今まで通り私のそばにいるんだ」
そう言われても、アメリの気持ちは当然変わることはなく、返事もせずに黙って床の一点を見つめた。
そんなアメリの様子を見て、シメオンは言った。
「考えは変わらなさそうだね。ならばここからは出せない」
シメオンはため息を付くと、アメリの横に腰掛け手を取って優しく微笑んだ。
「私はね、君がとても大切なんだよ」
そう言われ、アメリは、シメオンがこんなにも家族のように大切に思ってくれていることに申し訳ない気持ちになった。
「でも、私はシメオン様にそんなに恩情をかけていただけるような人間ではありません。それにご存じの通り私は……」
そこでシメオンがアメリを制した。
「アメリ、それは違う。身分とかそういったしがらみなんて、なにもきにする必要はないんだ。なにより私は君を守りたい」
そう言うと、アメリを抱きしめた。
アメリはその時、シメオンがアメリはバロー領を出ようとしていると勘違いしているのではないかと思った。
『地枯れ』であるアメリが領地を出ようとすれば引き止めるに決まっている。
誤解を解くため、アメリはシメオンから少し体を離すとシメオンの顔を見上げて言った。
「シメオン様、私はバロー領からは出たりしません。ただ、屋敷を出るだけで……」
それを聞いたシメオンは、不機嫌そうに低い声で答える。
「残念だったね、もう逃がさない。諦めるんだ」
アメリがそれを聞いて驚いていると、シメオンはアメリの額に優しくキスし瞳をじっと見つめ微笑む。
「不安にさせてしまったかな? 大丈夫、君を傷つけたりはしない」
そう言ったあとアメリを解放すると立ち上がった。
「いつまでも君とここで過ごしていたいが、君が行方不明になったんだ。私も君を心配して探さなければ怪しまれてしまう。少しの間君を一人にしてしまうけれど必ず戻ってくる」
そう言うと、アメリの頬を愛おしそうに手の甲で撫で部屋を出て行った。
アメリはシメオンが立ち去る足音が遠くなり、聞こえなくなった瞬間にドアに駆け寄りガチャガチャとドアノブを回した。だが、しっかり鍵がかけられていて、とても開けられそうになかった。
いくらなんでもこんなことをするなんて、きっと一時の気の迷いに違いない。ことが露見して騒ぎになってしまう前に、この状況をどうにかしなければ。
そう思い、まずは部屋から出るために室内を確認することにした。
隣の部屋を覗くとベッドルームがあり、その奥には化粧室もあった。そのどの部屋からも、廊下へつながる部屋はなかった。
各部屋に窓があったがほとんど鍵がかかっていて、開けることすらできなかった。
窓は諦め、アメリはありとあらゆる場所をチェックしてみたが、出られそうな場所を見つけることはできなかった。
そもそもここを出ることができたとしても、最低限必要なものが入った鞄はシメオンに取り上げられてしまっている。
鞄を取り戻しここから穏便に外へ出るには、シメオンをなんとか納得させるしかなさそうだった。
どう説明したら、シメオン様はわかってくれるだろう?
アメリは途方に暮れ、ソファーへ座り込むと改めて室内を見渡す。
部屋には生活に困らない程度のものが取り揃えられており、チェストには数十着のドレスやアクセサリー、小物まで取り揃えられていた。それらは明らかに昨日今日で揃えられるものではなかった。
もしかしたら、大切な誰かのために準備をしていたのかもしれない。それならば、あまりこの部屋のものを使用しない方が良いだろう。
「シメオン様には迷惑をかけっぱなしだわ」
そう言ってため息を付いた。
妹扱いでもいいから、このままシメオンのそばに居たいという気持ちはもちろんあった。だが、リディとシメオンの二人のことを思い浮かべると、それが無理なことなのはもう十分わかりきったことだった。
それに、リディはシメオンにとって運命の相手だ。そんな二人を羨んでいれば、きっと自分はゲーム内のように悪役令嬢になってしまうだろう。
アメリは一人でそんなことを考えていた。そうして色々考えつづけていたが、どうすれば良いのか一向に答えは出なかった。
そうこうしているうちに昨日からの疲れもあり、アメリはそのまま眠りに落ちてしまった。
目が覚めると、ベッドの中で誰かに抱きしめられていた。まさかと思いながら見上げると、面前にシメオンの顔があり目が合う。
顔が近い!!
シメオンの唇に触れそうになり、アメリは慌てて下を向いた。なにがどうなってこの状況になったのか、まったくわからず少し戸惑っていると、シメオンに声をかけられる。
「アメリ、起きたのか? ソファーにうたた寝していたからベッドへ運んだ」
いつの間に? そう思いながら答える。
「も、申し訳ありません」
密着している体からシメオンの体温が伝わり、アメリの心臓は跳ねるように脈打った。
今までもシメオンに抱きしめられることは幾度となくあったが、不意に訪れたこの状況にアメリはとても緊張していた。
アメリがそっとシメオンを盗み見ると、シメオンは愛おしそうにアメリを見つめ微笑んでいた。
いつもなら冗談として軽くあしらってしまうのだが、アメリを見つめるシメオンの眼差しはそれを許さないといった雰囲気があり、身動ぎもできずに俯いた。
その時、シメオンがそっとアメリのうなじを撫で、アメリの体はびくりと跳ねる。
「アメリ、ここまで赤くなってる。恥ずかしい?」
「シメオン様、お願いですから放して下さい」
そう訴えたが、シメオンはその手を緩めることはなかった。そして、アメリの耳元で囁く。
「もう少しだけこのままで。こうして君が腕の中にいても、直ぐにでも君が離れて行ってしまうのではないかと不安になるんだ」
シメオンは、アメリを更に強く抱きしめた。いつもと雰囲気の違うシメオンに、アメリは戸惑いどうして良いかわからず緊張して固まっていた。
と、その時突然アメリのお腹が鳴る。
グルグルグルギュルルルグウゥ~
アメリは恥ずかしくて、いたたまれない気持ちになったが、シメオンはそんなアメリを見てクスクスと笑った。
「お腹がすいたのか?」
そう言ってアメリの頭にキスをすると、シメオンはやっとアメリを解放した。アメリは慌てて起き上がると、恥ずかしくてシメオンに背を向け俯く。
そこで自分が寝衣に着替えていることに気づいた。
「あの、私の着替えはどなたが?」
振り返りながら恐る恐るシメオンに訊くと、シメオンは楽しそうに答える。
「もちろん、私が着替えさせた。君が外着のままで窮屈そうだったんでね」
「はえ、なん、シメオン様が?!」
アメリは恥ずかしさと申し訳なさで、顔が更に赤くなるのを感じ頬を両手で押さえた。
「私がここへ君を閉じ込めているのだから、世話をするのは当然のことだろう? これからはこんなことにも慣れてもらわないといけないな。さて、朝食を準備させよう」
そう言ってシメオンは部屋を出て行った。
気づけば窓の外はだいぶ明るくなっていた。
シメオンが戻る前に急いで身支度を整えていると、朝食のトレイを持ってシメオンが戻ってきた。そして、テーブルにトレイを置くと、突然素早くアメリを抱きあげ膝に乗せて座った。
「シメオン様、何を?」
「何を? って、朝食だよ。お腹がすいているんだろう。私が手伝おう」
アメリはここまでするのかと驚き、身をよじってシメオンの顔を見つめて言った。
「食事は自分で食べられます。それと、膝の上では落ち着きませんので膝から下ろしてください!」
「アメリ、先ほども言ったと思うがこれからはこんな生活が当たり前になるんだよ? だから慣れてもらうしかないね。さぁ、まずはパンかな?」
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