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14 逃がさない

「とにかく君が出ていくことを諦めるまでは、ここで過ごしてもらうことになる。君は今まで通り私のそばにいるんだ」


 そう言われても、アメリの気持ちは変わることはなく、返事もせずに黙って床の一点を見つめた。


 そんなアメリの様子を見て、シメオンはため息をついた。


「考えは変わらなさそうだね。ならば君を一生ここから出すことはできない」


 シメオンはそう言うと、アメリの横に腰掛け手を取って優しく微笑んだ。


「私は君がとても大切なんだよ。アメリ」


 アメリはそれを聞いて申し訳ない気持ちになった。


「シメオン様、私の立場を考え同情してくれていることはわかっています。でも、そこまでしていただくわけには……」


 そこでシメオンがアメリを制した。


「アメリ、それは違う。身分とかそういったしがらみなんて、なにもきにする必要はないんだ。なにより私は君を守りたい」


 そう言うと、アメリを抱きしめた。


 アメリはその時、シメオンがアメリはバロー領を出ようとしていると勘違いしているのではないかと思った。


『地枯れ』であるアメリが領地を出ようとすれば引き止めるに決まっている。


 誤解を解くため、アメリはシメオンから少し体を離すとシメオンの顔を見上げて言った。


「シメオン様。私はバロー領からは出たりしません。ただ、屋敷を出るだけで……」


 それを聞いたシメオンは、不機嫌そうに低い声で即座に答える。


「ダメだ。残念だったね、もう逃がさない。諦めるんだ」


 アメリがそれを聞いて驚いていると、シメオンはアメリの額に優しくキスし瞳をじっと見つめ微笑む。


「すまない、不安にさせてしまったか? 大丈夫、君を傷つけたりはしない。ただ君のことになると、私は感情を抑えることができないときがある」


 そう言ったあとアメリを解放すると立ち上がった。


「いつまでも君とここで過ごしていたいが、君が屋敷を出ていったことにみんな気づくころだ」  


 アメリはそこで、あの置き手紙をなんとかしなければと慌てた。


「そうでした、シメオン様。私はこうして屋敷からは出ていないのですから、みんなが誤解して探さないようにしなければ」


 だがシメオンは慌てる様子はなく、顔色も変えずに言った。


「なぜ? そんなことを気にする必要はない。事実、君は今行方不明なのだから」


 アメリは言われた内容がすぐには頭の中に入ってこず、一度言われた内容を頭の中で整理すると、しばらくしてとんでもないことを言われたと気づく。


 本気で言っているの?


 そう思い、シメオンの顔をじっと見つめると、アメリに優しく微笑んで返した。


「これで私が本気なのがわかった?」


「シメオン様……」


 本当に一体どうして? 


 シメオンは唖然とするアメリを引き寄せ額にキスした。


「離れたくないが、私も君を心配して探さなければ怪しまれてしまう。少しの間君を一人にしてしまうけれど必ず戻ってくる」


 そう言って、アメリの頬を名残惜しそうに撫でると部屋を出て行った。


 アメリはシメオンが立ち去る足音が遠くなり、聞こえなくなった瞬間、ドアに駆け寄りドアノブを何度も回した。


 だが、しっかり施錠されていて、びくともしなかった。


 いくらなんでもこんなことをするなんて、きっと一時の気の迷いに違いない。ことが露見して騒ぎになってしまう前に、この状況をどうにかしなければ。


 そう思い、まずはこの部屋から出るためにどこか出られる場所がないか室内を確認して回った。


 隣の部屋を覗くとベッドルームがあり、その奥には化粧室や食堂もあったが、どの部屋からも廊下へつながる部屋はなかった。


 各部屋に窓はあったがほとんど鍵がかかっていて、開けることすらできなかった。


 以前外からこの部屋を見たが、外から中が見えないようにガラスが加工されていたため、誰もアメリの存在に気づかないだろう。


 窓は諦め、アメリはありとあらゆる場所をチェックしてみたが、出られそうな場所はなかった。


 そもそもここを出ることができたとしても、最低限必要なものが入った鞄はシメオンに取り上げられてしまっている。


 鞄を取り戻しここから穏便に外へ出るには、シメオンをなんとか納得させるしかなさそうだった。


 どう説明したら、シメオン様はわかってくれるだろう?

 

 アメリは途方に暮れ、ソファーへ座り込むと改めて室内を見渡す。


 部屋には生活に困らない程度のものが取り揃えられており、チェストには数十着のドレスやアクセサリー、小物まで取り揃えられていた。それらは明らかに昨日、今日で揃えられるものではなかった。


 もしかしたら、大切な誰かのために準備をしていたのかもしれない。それならば、あまりこの部屋のものを使用しない方が良いだろう。


「シメオン様には迷惑をかけっぱなしだわ」


 そう言ってため息を付いた。


 妹扱いでもいいから、このままシメオンのそばに居たいという気持ちはもちろんあった。


 だが、リディとシメオンの二人のことを思い浮かべると、それが無理なことなのはもう十分わかりきったことだった。


 それに、リディはシメオンにとって運命の相手だ。そんな二人を羨んでいれば、きっと自分はゲーム内のように悪役令嬢になってしまうだろう。


 アメリは一人でそんなことを考えていた。そうして色々考えつづけていたが、どうすれば良いのか一向に答えは出なかった。


 そうこうしているうちに昨日からの疲れもあり、アメリはそのまま眠りに落ちていた。






 目が覚めると、ベッドの中で誰かに抱きしめられていた。まさかと思いながら見上げると、面前にシメオンの顔があり目が合う。


 顔が近い!!


 シメオンの唇に触れそうになり、アメリは慌てて下を向いた。アメリの心臓は早鐘のように脈打ち、一瞬でカッと顔が熱くなるのを感じた。


 なにがどうなってこの状況になったのか、まったくわからず少し戸惑っていると、シメオンに声をかけられる。


「アメリ、起きたのか? ソファーにうたた寝していたからベッドへ運んだ」


 いつの間に? そう思いながら答える。


「も、申し訳ありません」


 抱きしめられ、密着している肌からシメオンの体温が伝わり、いつもシメオンから香る甘い香りにアメリはクラクラした。


 今までもシメオンに抱きしめられることは幾度となくあったが、不意に訪れたこの状況にアメリはとても緊張していた。


 アメリがそっとシメオンを盗み見ると、シメオンは愛おしそうにアメリを見つめ微笑んでいた。


 いつもなら冗談として軽くあしらってしまうのだが、アメリを見つめるシメオンの眼差しはそれを許さないといった雰囲気があり、身動ぎもできずに俯いた。


 その時、シメオンがそっとアメリのうなじを撫でた。


「ひゃ!」 


 思わず変な声を出し、アメリの体はびくりと跳ねる。


「アメリ、ここまで赤くなってる。恥ずかしい?」


「もう! またそんなこと。シメオン様、お願いですから放して下さい」


 そう訴えたが、シメオンはアメリを抱えるその手を緩めることはなかった。そして、アメリの耳元で囁く。


「もう少しだけこのままで。こうして君が腕の中にいても、直ぐにでも君が離れて行ってしまうのではないかと不安になるんだ」

 

 シメオンは、アメリを更に強く抱きしめた。いつもと雰囲気の違うシメオンに、こんなにも不安にさせてしまったのだと申し訳なく思った。


 グルグルグルギュルルルグウゥ~


 アメリのお腹が鳴った。アメリは恥ずかしくて、いたたまれない気持ちになったが、シメオンはそんなアメリを見てクスクスと笑った。


「お腹がすいたのか?」


 そう言ってアメリの頭にキスをすると、シメオンはやっとアメリを解放した。アメリは慌てて起き上がると、恥ずかしくてシメオンに背を向け俯いた。


 そこで自分が寝衣に着替えていることに気づく。


「あの、私の着替えはどなたが?」


 振り返りながら恐る恐るシメオンに訊くと、シメオンは楽しそうに答える。


「もちろん、私が着替えさせた。君が外着のままで窮屈そうだったんでね」


「な、なん、シメオン様が?!」


 アメリは恥ずかしさと申し訳なさで、顔が更に赤くなるのを感じ頬を両手で押さえた。


「私がここへ君を閉じ込めているのだから、世話をするのは当然のことだろう? これからはこんなことにも慣れてもらわないといけないな。さて、朝食を準備させよう」


 そう言ってシメオンは部屋を出て行った。


 シメオン様が私の着替えを?


 シメオンは妹として扱っているから平気かもしれないが、アメリはそうではない。


 シメオン様は一体、どこまで見たの?!


 アメリは恥ずかしさのあまり、ベッドにある枕に顔を押しつけ叫ぶ。


「むぎゅ〜!!」


 そこではっとする。シメオンが戻ってきたら、また着替えを手伝うと言い出すかもしれないと。


 シメオン様は責任感が強すぎるんだわ、ここまでする必要はないのに。


 そう思いながら、シメオンが戻る前に急いで身支度を整えていると、朝食のトレイを持ってシメオンが戻ってきた。


 テーブルにトレイを置くと、突然素早くアメリを抱きあげ膝に乗せて座った。


「シメオン様、今度は何を?」


「何を? って、朝食だよ。お腹がすいているんだろう。私が手伝おう」


 アメリはここまでするのかと驚き、身をよじってシメオンの顔を見つめて言った。


「食事は自分で食べられます。それと、膝の上では落ち着きませんので膝から下ろしてください!」


「アメリ、先ほども言ったと思うがこれからはこんな生活が当たり前になるんだよ? だから慣れてもらうしかないね。さぁ、まずはパンかな?」


誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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