【Cats&chips】
さて、この男が所属する組織【Cats&chips】とは一体どんなものなのか。
彼らは突如として頭角を現し、裏の本通りに大きくカジノを掲げ大成功を収めたギャンブルを収入源とする組織である。
基本的にヤクは厳禁。見つかり次第処理対象だ。ただバレなければ良いという謎の風習もある。
次にボスに会えるのは幹部六名のみ。幹部への承認はボスが気に入り次第即手続きという形だ。その基準は不明だが「面白い奴」というのが最大の基準らしい。
だからこそ祷のような規格外の化物もいれば、戦闘能力を一切持たず頭だけでのし上がった者、美貌で選ばれた者もいる。
全てはボスの機嫌次第。そんなボスを、幹部六名は殊の外、甘やかしている。
「ボ~ス! またこんな所にお忍びしてたんですか?」
いかにもチャラそうな男が帽子で髪をまとめた女性客に話しかけた。そして女性客は、「しー」と悪戯っ子のように人差し指を唇の前に当てて笑う。
此処は日本最大のカジノ。違法でありながらも政府御用達である合法。そのオーナー兼社長が、この女性客の正体である。
「最近のお店の調子を内緒で見に来たの。だからしー、だよ。分かった?」
「はぁ~い。ボスが言うなら俺静かにするよ~」
こんなお茶らけた調子で言うこの男は「千歳 千寿」。幹部の一人であり、普段は周りの人間にキレられるほどよく口の回る男である。
なお、ほとんど自覚ありで相手の痛いところを突いてくるため「絶対に友達になりたくない男一位」を毎年の如く獲得している可哀想な奴である。
「ん~、なんか今ムカつくナレーションが通り過ぎたような…?」
「最近恨みでも買ったんじゃない?」
「えぇ~、そんなのいつもじゃん。それより今日はどったの?」
同じく悪戯っ子の生意気な笑みで遊びに誘う千寿に応えるかのように彼女は笑みを深くした。
「南側右の四番テーブル。最近のお得意様だよ」
一切視線を向けることなく答えを返す。その答えを知った千寿も視線を向けることはない。
自分たちの敷地であるカジノの構図は全て頭に入っているのだから。先ほど辺りを見渡した記憶を辿って顔と名前を割り出す。
「処理対象? 観察対象?」
「う~ん…、様子見?」
「ちぇぇ~。久しぶりに大暴れできると思ったのにぃ~」
「よしよし。まだ【待て】、だよ?」
くすくすと笑い頭を聞き分けの良い犬を褒めるかの如く撫でる偉業は、彼女以外許されない。
「あ、そだ。上納金一・千・万。今週の分だけど、遊んじゃう?」
「ダ~メッ。巧さんのとこにご挨拶しなきゃいけないし、顔バレはNGなの」
口元で愛らしく人差し指を交差させた彼女を口をむぅと噤んだまま抱き着く。
「ボスはホント巧さん好きだよね~」
嫉妬から出た言葉だったが、今まで策士の笑みを取り繕っていた彼女がはにかむように恋した乙女の顔を見せる。
「格好いいでしょ? 巧さん」
「どこがぁ? あんなのもう四十過ぎたいいおっさんじゃん」
「こぉら、そう拗ねないの。また今度遊んであげるから。まだ仕事残ってるでしょ?」
「えぇ~? やだよあんなむさい奴らと」
「我が儘言うなら今度からもうちょっと仕事増やしても「行ってきま~す!」本当に調子が良いんだから」
にこやかに姿を消した千寿の背を負って呆れ笑う。
予定のお客ももう帰る足取りを伸ばしているから今日はこの辺でいいだろう。
「さてと、早く寝よ~」
ふぁあぁあと大きなあくびをして裏のスタッフルームから秘密経路を辿って待たせてある外車に乗り込んだ。