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第7話 同行者



 窓から白い光が差し込んでいる。港の朝は早い。停泊地の方から漁師たちの掛け声が微かに聞こえる。だが、昨夜、夜遅くまで酒を飲んでいた男たちは、まだ店内でいびきをかいていた。空になった酒瓶やコップをかき集め、厨房に持っていく。そして、盆と濡れた布巾を持って、テーブルに突っ伏している一人に近づく。


「ほら、朝ですよ」


 呼びかけるが案の定大きないびきが返ってくる。

 メイリーは盆で男の頭を軽く叩くと、男はハッと目を覚ました。


「朝だよ。体調は?」

「……頭痛ぇ」

「でしょうね。近くに薬屋があるから、頭痛薬もらっておいで」

「嬢ちゃんの魔法でなんとかしてくれよ」

「私は外傷オンリーです。ほら、昼から沖に出るんでしょ?」


 男は渋々立ち上がり、テーブルの脚に寄りかかって寝ている仲間を起こす。まだおぼつかない足で二人は店を出て行った。

 テーブルを拭いて、残りの客も起こそうと踵を変えた時、扉のベルが鳴って来客を知らせる。振り返ると、二人の男女が立っていた。その姿を認めて、メイリーは思わず苦笑を浮かべた。


「また、上手くいかなかったみたいだね、ゲン」

「そうなんだよ。また規律にうるさい奴らだった」

「海賊って規律に厳しいものなんでしょう?」

「そうだが、やっぱり自由にやりたいだろ?上の奴らばっかり好き勝手するのは気に食わねぇ」


 ゲンと呼ばれた男は、不満を口にしながら椅子に腰を下ろした。


「で、ロレンはどう思ったの?」

「特に何も。私は兄さんみたいにこだわりがないから、なんでもいいんだけどね」


 不満そうな表情を一切隠さないゲンの様子を見ながら、ロレンと呼ばれた女はメイリーと同じように苦笑した。

 ゲンとロレン。この港ではよく知られている二人だ。あまり育ちの良くない二人は、漁師や商人には受け入れてもらえず、仕方なく海賊業に就くことになった。

 ハンデルの港は、略奪等を行わないことを条件に、いくつかの海賊に物資を供給したり奴隷商人との取引を認めている。その条件を結んでいる海賊はこの港で三つほど。彼らはそのうちの二つに所属していたが、相性が悪かった。先日、三つ目の海賊団に入ったが、そこも以前と同じ結果になったようだ。

 メイリーは二人を労うように水を出した。朝食も出そうかと言ったが二人は遠慮した。ゲンは水をグイグイと飲み干し、大きな溜息を吐いた。


「で、次はどうするつもり?」

「さぁな。もうここの海賊にはうんざりだ。どこか別の港に行くことになるかもな」

「確かに。最近、港の周りを樹海の大陸から来た海軍が徘徊してるから、新しい海賊団が来ることはないと思う。昔みたいに、偉大な大海賊もいないしね」


 店の窓から外を伺う。掛け声に混じって、海鳥が高く鳴いている。

 その時、ふと昨晩の少年とのやりとりが思い出された。


「ねぇ、二人とも。」


 気付いたらメイリーは口を開いていた。


「大海賊の後継者に、興味はない?」




 アヴォンは船の名前と日時を記録したメモを見ながら、港町を歩いていた。

 荒海の大陸に向かう船は八隻。そのうち二隻は今日のうちに出発すると話していた。一番遅くに出発するのは、四日後だ。その日までには、一人だけでも仲間を増やしておきたい。


「あなたは、いったいどうやって仲間を集めたんですか?」

「俺か?俺は喧嘩だな」

「……喧嘩?」

「そ。喧嘩して自分が強いってことを知らしめるんだ。そしたら、相手が俺に付いていきたいって言い出すんだ。男は強いヤツの背中を追いたがるんもんだからなぁ」

「なるほど、参考になりませんね」

「おい」


 メモを折りたたんでポケットに仕舞い、ランコルトゥルの酒場へと向かう。ロウバーはほとんどの仲間をその酒場で掻き集めていたという。彼に会うために、今よりも多くの海賊たちがこの港に集まっていたので、人員には困らなかったという。


「でも、それは有名になってから。だから、名が知れ渡る前は、仲間になることを賭けて喧嘩してたんだ」

「俺には無理ですね。殴り合いなんかしたことないので」


 アヴォンの故郷であるあの小さな港は、少年が幼い頃に破綻しかけた。港の人々は危機感からお互いの利益を分け合い、協力して港の経済を持ち直した。今でも、その共産主義的な仕組みで港の経済を回している。なので、争いごとは厳しく禁じられていた。

 話しているうちに酒場に着き、扉を開ける。ベルが軽快な音を鳴らした。夜よりも客は少ないが、店が賑やかなのに変わりなかった。


「あ、話をすれば。アヴォン!こっちこっち」


 アヴォンに気付いたメイリーがこちらに手招きしてくる。

 彼女の横には二人の男女がいた。アヴォンが三人の元に歩み寄ると、突然男の方が立ち上がりアヴォンの前まで来て彼を見下ろす。

 背の高い男で、肌は褐色。髪は色素が薄くて灰色に近い色をしている。


「なんだよ、ガキじゃねぇか。お前と大して年は変わらないだろ」

「子供だって言ったら、すぐ興味なくすでしょ?」


 図星なのか、男は口を尖らせて黙り込み、ジッと少年の頭から爪先まで観察する。鋭い視線に、アヴォンはたじろぎそうになった。


「海に出るには申し分ない。細いが筋肉はしっかりついてるし、体力もありそうだ。だが、小僧。お前、スモーキング・ケイブを目指しているんだってな?」

「……はい」


しっかりと頷けば、男はニヤリと笑った。


「だいたいの話はメイリーから聞いた。だがな、俺はお前が目的を成し遂げるのは無理だと思っている」

「難しいことは、十分理解しているつもりです。それに、必ずスモーキング・ケイブに向かうって決まってません。俺に憑いている霊を消すために、俺は旅に出たんです。冒険なんて、そんな立派なことをするつもりは毛頭ありません」

「あくまで、スモーキング・ケイブは手段の一つということか。お前はどうしたい、ロレン」


 振り返って後ろに控えている女に問いかける。白い肌に銀髪の女性だ。


「稼げそうなら私はなんでもいいよ」

「そうか。……あの忌々しい洞窟に行くまでに、海の覇王の財宝が少しでも見つかれば好都合か。……小僧、俺たちを連れて行ってくれないか?」

「え?」

「だが、スモーキング・ケイブに行くまで、もしくはもっと稼げそうな仕事が見つかるまでだ。それと、自分たちが損ばかりするようなら同行をやめる」


 自分の利益を第一に考え、不利益ごとからはすぐに離れる。善意のかけらはない。あるのは興味と物欲だけ。

 アヴォンはこのことから、二人が海賊であることに気付いた。彼らに不満を感じさせれば、殺されることになるかもしれない。だが、それなりに戦力になってくれるだろう。まともな人間はこの旅に参加しようと思わない。なら、野蛮な連中を迎えるしか手段はない。


「分かりました。では、それを条件に」


 アヴォンは片手を差し伸べて握手を求めた。男は笑って快くその手を取った。


「俺はゲン。こっちは妹のロレンだ。よろしくな」


 兄妹にしては、似ていないな。

 海賊二人を前にして、アヴォンは呑気にそんなことを思った。



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