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第10話 二代目の覇者



 注いだラム酒を水夫はグイと飲み下す。水夫はグットと名乗った。彼はアヴォンを連れて船内へと入り、ラム酒とエール酒を開けてそれぞれのコップに注いだ。

 一緒に飲む相手が欲しかったのだろうかと、ほんのり朱色を帯び始めた水夫の顔を眺めながら、アヴォンはエール酒を一口飲む。


「アヴォンと言ったな。出身は?」

「リーテン・ハムンです」

「あぁ、あの小さい港か。嫌気が差したのか?」

「いえ……出ていかなくては、ならなくて」


 寂しさが声に滲み出たのか、グットは同情の眼差しを向けた。


「追い出されたのか?」

「この旅を終えるまで、帰ってはならないと」

「そうか。気の毒に」


 そう言って、グットは注いだ酒をコップの中で揺らした。

 他の者たちはメインマストの周りで酒を飲んでいる。賑やかな声が二人のいる船内にまでよく聞こえてくる。


「少年、旅を続けるのなら、一つ警告しておく。海賊には気を付けろ。特に、シーボーグの海賊団を」

「シーボーグ?」

「やはり、まだそっちに奴の噂は流れてなかったんだな。とんでもなく強い海賊だ。自ら“海の覇王”の後継者だと名乗っている」


 隣の幽霊がピクリと反応を示した。それを視界の端で見ながら、アヴォンは続きを促した。











 リー・ジャクソン・シーボーグ

 年は確か十八だったか。聞いた話によると、もともと両親が海賊だったらしい。幼い頃から残虐性と底なしの欲望を抱いていた。まさに、海賊になるべくして生まれた存在だ。おまけに、“海の覇王”と同じく、いくつもの魔法を使える。

 ……さぁな。“海の覇王”と直接的な面識や関係があるかは、奴の仲間にならない限り分からない。ただ言えることは、自他ともに認める大海賊の卵だ。

 シーボーグの野郎が自分の海賊団を持ったのは、奴が十二の時だ。親を殺して権力を強奪したんだとさ。

 なに驚いてる?権力欲しさに親族を手にかけるのは、海賊だけじゃなく王族や貴族の間でもよくあることだろう。

 まぁ、つまり、あいつはそうやって海賊団を結成して活動を始めたんだ。奴は奴隷を多く市場に出荷して、港から奪い、財力をつけていって、今ではあちこちの船乗りから恐れられている海賊だ。

 あの“海の覇王”が生きていた間は息を顰めていたが、日の目を浴びてきている。北の港はほとんどやられた。物は盗まれ、船は壊され、老人や子供は片っ端から殺され、労働力になる多くの健康な若者は市場に売られた。

 俺の息子も、そのうちの一人だ。











 なんと声をかければ良いのか分からなかった。親を知らぬアヴォンに、子を失った親へ、慰めの言葉をかける術はなかった。グットはそんな少年を他所に、ラム酒を煽った。


「なぜ、その話を僕に?」

「……どこか息子に似ていてな。物静かで働き者。そんな君を見ていると、あの子の姿が思い浮かんでね」


 水夫は自嘲気味に笑って、空になったコップにラム酒を注いでいく。トクトクと酒が注がれる音が心地よい。

 アヴォンは彼の表情を伺った。変わらず仏頂面だが、目に悲哀の色が見えた。それが少年には、羨ましく感じられた。


「少年、これをやる」


 そう言って、足元に置かれていた袋をこちらに寄せてきた。袋を開けるよう促されたので、袋の口を広げる。すると、中からピストルといくつかの銃弾、火薬箱が入っていた。思わず顔を上げて水夫を見る。


「市場で売ってる一般的なものだ。そんなに長く使えないだろうから、本当に危険な時にだけ使え。」

「……どうして、ここまでしてくれるんですか?」


 アヴォンとグットには面識がない。今日初めて会った相手に、ここまでよくされる理由が、アヴォンには分からなかった。


「……さぁな」


少年から逸らされた虚ろな瞳は、どこか遠くを見つめているようで、何も映していなかった。



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