とある海賊の死
体中が痛い。息苦しい。視界が霞んでいる。先程まで仲間の怒鳴り声で喧騒に溢れていたが、胸がかきむしられるような奴の嘲笑だけがこもって聞こえる。
仲間はどうなったのだろうか?誰か生き残っただろうか?それとも、もう先に逝ってしまったのだろうか?
仲間のことを考えたその時、今までの記憶がまるで奔流のように、鮮明に脳内を流れていく。走馬灯だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
“海の覇王”なんていうふざけた名前で呼ばれてきた俺も、どうやらここまでのようだ。これも運命か。世界の真実に触れたかったが、やはり、それを知るのは俺ではないようだ。
震える手で胸元を探る。その時、ようやく自分の大切な物がないことに気がついた。“それ”を繋げていた鎖は途中で断ち切れている。
浅い息が一層浅くなる。
嘘だろ。いつ落とした?“あれ”はどこにいった?
なんとか力を振り絞って辺りに手を這わせる。だが、残された僅かな感覚は、岩の冷たさ感じるだけだ。“それ”らしきものは自分の周りに落ちていない。
「まだ息があったか」
先程までこもって聞こえていた奴の声がハッキリと耳に入り、全身が強張った。奴は小さく笑った後、伸ばした俺の手を剣で突き刺した。新たな激痛が走り、引き攣った声が口から漏れた。
「成仏しろ」
なんとか逃れようとするが、手は磔にされて思うように動くことはできない。磔にされていなくても、手や足を動かす力はもう残っていなかったが、それでもなんとかして逃げようとする。
死ねない。ここで死ぬわけにはいかない。“あれ”を誰かに託すまでは死ねない。
そう心の中で念じながらジタバタする。本当に惨めな姿を晒していただろう。
しばらく俺の様子を見ていた奴は、手に突き刺していた剣を引き抜いた。再び激痛が走ったが、もう声すら出なかった。
剣が大きく振り翳されたのが気配で分かる。心臓が早鐘を打つが、体はピクリとも動かない。
あぁ、くそッ!まだ死ねない!死にたくない!
そんな思いが届くはずがなく、奴は無情に剣を振り下ろした。