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青き翼

 ここは辺境の町、ジメハタウン。その冒険者ギルドにて。


「ギルド長、報告です。どうやら、近くの人里がモンスターの襲撃に合い、壊滅したとのことです」


 女のサブマスターがそう報告した。髭を生やした渋い顔のギルド長は、難しげな顔をして答える。


「むぅ……それは由々しき事態だな」


 ギルド長は報告書を確認する。


「ほう。あそこは小さな農村だな。ここが襲撃されて壊滅したのか。しかもたった一日で。これは一大事だぞ」


「はい。ですが、あの一帯には強力な魔物がいるという話はありませんね。F-ランクかFランクの魔物しかいなかったはずです」


「うーん、確かに。だが、念のため調査をしておいた方がいいだろう。よし、今すぐEランク冒険者あたりに依頼を出しておくか」


「わかりました。では早速、手配します」


 女はそういうと、部屋を出て行った。


「さて、また忙しくなってきたな。まずは、近隣の村への注意喚起、それから被害状況の確認と、復興作業も手伝わなければならない。やることが山のようにあるぞ」


 ギルド長が頭を抱えていると、扉が開いた。


「ギルド長、さっそくEランク冒険者パーティーが依頼を受けてくれました」


「おお、そうか。それは助かる。あとは彼らに任せるとしよう。我々が行くまでもなく、解決してくれるかもしれないな」


 ひとまずは安心といった様子で、ギルド長は椅子にもたれかかった。


「それにしても、今回はいきなりだったな。オークの仕業だろうか?」


「いえ、オークの報告は受けていません」


「ふむ。となると、別の何かが原因というわけか……。まあ、考えていても仕方がない。俺達は俺達の仕事をしよう」


「はい、了解しました」


***


「リーダー、いいクエストは受けられたのかい?」


 女魔法使いが、戦士の男にそう言った。


「ああ、バッチリだ。近くの農村が壊滅したっていうんで、そこの調査の依頼があったんだ。で、もし犯人を倒せば追加報酬金がもらえるらしい。うまくやれば、しばらくは遊んで暮らせるだけの金を稼げるかもな」


「へぇ、そりゃあいいな。農村の近くなんてF-ランクの雑魚モンスターしか出ないはずだろ?そんなところで何が起きたって言うんだよ」


 義賊の少年が首を傾げながらそう言う。


「さぁな。とにかく行ってみればわかるだろ?」


 回復術師の青年がそう答えた。


 彼ら四人はEランク冒険者パーティー『青き翼』である。それぞれが魔法、物理攻撃、支援、回復のスキルを持っている。バランスの良い構成であり、実力もそれなりである。


 彼らはこの日、依頼を受けて近くの農村へ来ていた。そして、そこで奇妙なものを発見することになる。


***


「うっひゃー、こりゃひでーな!」


 義賊の少年はそう言った。なにしろ、農村のあちこちがクレーターと血痕まみれにされていたのだ。


「確かにひどいな……。一体ここで、何が起こったんだろうか……」


「まさか、モンスターの襲撃でも受けたのか?だとしたら、まだ近くにいるかもしれねぇな」


 戦士が警戒しながら辺りを見回す。


「焦げた死体や、潰れた死体が大量にありますね。おそらく村人のものでしょう。焼かれた形跡や、潰された痕跡のあるものもありますから、人型ではない、もっと大きな生物による襲撃を受けたようですね」


「ふーん、アタシらが勝てるモンスターかしらね?F+ランクまでの魔物なら、大したことないけどさ」


「ああ、そうだな。だが、油断するんじゃねえぞ。どんなヤツがいるかわかんねえんだ」


「わかっているわよ、リーダー。慎重に行くわ」


 しかし、いくら調べても何も出てこない。


「うへ~、おっかね~!敵は炎使いで巨大なモンスターってことくらいしかわかんねえけど、それだけで十分怖いぜ!」


「とりあえず報告に行きましょう。これ以上ここにいても意味はないと思います」


「あぁ、そうだな。おい、帰るぞお前ら」


「ほいよっと。ん?なあ、あそこに倒れてるの冒険者じゃね?ほら、胸にギルドの紋章がある」


「え?本当だ。これはFランク冒険者みたいだな。全身大火傷ってところか。ひでえことしやがる」


 回復術師が確認する。


「ダメか……完全に息絶えているようだ。だが、何か手がかりが残っているかもしれない。一応、死体の所持品を調べよう」


「おう。それくらいお安い御用だぜ」


「えー、面倒くさいわねー。でも、しょうがないからやるわー」


 四人組は文句を言いながらも、冒険者の荷物を調べることにした。


「うぅむ……こいつは、ハルクと言うのか。にしても妙だな。Fランク冒険者なら、巨大で火を使うモンスターなんて、見たらすぐ逃げ出しそうなものだが。このあたりには戦った痕跡があるぞ?まさか、見た目は対して強くなさそうなモンスターが犯人なのか?」


「確かに変だよね。ほぼ一般人のFランク冒険者が戦うとは思えないもん。逃げた方が無難だと思うんだけどな」


「あぁ、それに村の人も全員殺されてやがった。一人も生き残っちゃいねえ」


「うん……。ちょっと不自然過ぎるわね。これが強盗の仕業なら、金目の物が何も取られていないのも、モンスターが犯人だって証拠になるんだけど。それはそれで、わざわざ全滅させるなんて、よくわからない行動ね」


「村を襲うような凶悪なモンスターが、金目のものに興味がないってのは納得できるが……。それにしても皆殺しにする理由がわかんねぇんだよな」


「……あのさ、リーダー。この足跡見てくれよ」義賊の少年が、戦士の男を呼んだ。


「なんだ、どうした?」


 男が近寄ると、そこには子供のような靴の血の跡があった。


「これ、まっすぐ森に続いてるんだ。変じゃないか?子供が一人で森に入るなんて。モンスターの襲撃から逃げるにしても、ジメハタウンの方向とは全然違うし、そもそも森にはモンスターがいて危険だ。それなのに足跡が続いてるってことは……この足跡の持ち主が犯人なんじゃ?」


「なるほどな……。確かに怪しいな。よし、その線を追ってみよう。森の中で犯人が見つかるかもしれねぇ」


「了解。でも、犯人がわかったとして、そいつを倒せるかな?」


「さあな。とりあえずやってみるか」


***


「大変だべ!村に火が放たれたべ!キュウ、急いで避難するべ!」


 トンきちがキュウにそう言った。


「なんやて!?」


 キュウは慌てて走り出す。


「そんな!?なんでや!?なんで村が焼き討ちに遭うんや!」


「わからんけど、とにかく急ぐべ!」


「わかっとるがな!」


 二人は全速力で走る。すると、キュウはシンシアが男たちに捕まっているのを発見した。


「ラッキー!エルフの女の子捕まえたよリーダー。コイツを奴隷商に売れば高く買い取って貰えるぞ」


「おう。でも、まさかこんなところにモンスターの村があるなんてな。こいつはいい収穫だぜ。へっへっへ」


 青き翼がモンスタニア村を襲撃してきたのだ。


「ウチの村に何してんねん!!」


「うるせぇ!!俺達は『青き翼』様だぞ?逆らう奴はぶっ殺す」


戦士が剣を抜き放つ。


「やめてーや!あんたらが何をしに来たんか知らへんけど、村はウチが守るで!狐火!」


 狐火の炎が戦士たちに向かって飛んでいく。だが、炎は戦士たちに当たる前に消えてしまった。


「あぁ、無駄だよ。炎対策ならバッチリだからな」


「炎無効のスキルストーンを四人分なんて、なかなか出費が高すぎるけどね。おかげでスッカラカンだよ。まあ、エルフと狐人を奴隷商に売り飛ばせば、このくらいの金額すぐに取り戻せるけどな」


「くっ……!」


「おい、お前ら。エルフのガキを連れてけ。俺はこっちの狐のガキを捕まえておく」


「了解。リーダー」


 シンシアは必死に抵抗するが、とても力では敵わない。


「いやっ!離してっ!」


「大人しくしろ」


「ウチが相手やで!かかって来いやー!!」


「ふん、威勢だけは良いな。だが、いくら叫んでも助けは来ないぜ?」


「助けなんか呼ばんでも、アンタらをボコって、村のみんなを助けるだけやで!!」


「言うじゃねぇか。なら、試してみるとしようか」


 リーダー格の男は拳を振り上げ、拳がキュウの顔面に迫る。しかし、そこにキュウのクレーターパンチが炸裂する。


「うおっ……」


 リーダーは弾け飛んで死んだ。肉片が空から降ってくる。


「な、なんだ今の威力……。それになんだあのスピード……。ガキのパワーじゃないぞ……。しかも、無傷だと……?あり得ねえ……。あんな小さな身体のどこにそんな力が……。」


「次はどいつが死ぬ番や?」


「ひっ……。お、覚えてろよ!」


「逃がさへんで!!」


 キュウは地面を強く蹴って、一瞬で逃げようとする義賊の少年に追いつき、背中を思いっきり殴った。少年は粉微塵になり、肉片が飛び散った。


「な、なんて馬鹿げた攻撃力……。」


「さあ、残るはアンタら二人やで」


 回復術師の青年と、魔法使いの女は恐怖に震えている。


「ふ、ふざけんじゃねぇ!ファイアーボール!」


 キュウは魔法をヒラリと回避すると、女の顔面に蹴りを入れた。パァン。頭部が弾け飛ぶ。


「ひぃっ……!!化け物……!!」


 男の目の前に立ち、睨みつける。


「ご、ゴメンなさい……。許してください……」


「この世界は殺すか、殺されるかや!死にたくないんやったら、殺るしかないで?」


「え……?」


 キュウのクレーターパンチが青年に炸裂する。


「がはぁッ!?」


 辺りに肉片が散らばる。


「さすがやな……。ウチ一人で全滅させてもうたわ……。」


 キュウは返り血に染まりながら呟いた。シンシアはキュウに駆け寄る。


「キュウちゃん!大丈夫!?」


「ああ、平気やで。シンシアはんが助かってホンマに良かった……!」


 キュウはその時、光輝いた。


「あ、ウチ、また進化するみたいや!」


 キュウの進化が始まった。キュウは白い光に包まれ、その光が消える頃には、キュウの姿は変わっていた。


 Fランクの九尾人から進化して、F+ランクの妖狐になったのだ。


「おお、キュウちゃんは進化したのね!金色の毛並みが綺麗だわ!」


「ありがとうな!ウチ、めっちゃ嬉しいで!」


 キュウの尻尾がブンブン揺れた。


「そういえばスキルストーンを持ってるって言ってたわ。戦利品として回収しましょう?」


 二人はスキルストーンを回収した。しかし、4つのうち、3つは粉微塵になっていたので、1つしか回収できなかった。


「これは『炎無効』のスキルストーンよ。キュウちゃん、どうぞ!」


「いいんですか?シンシアはんが持ってても良えんですよ?」


「これはキュウちゃんの戦利品よ。炎耐性があると便利だから、貰ってくれると嬉しいな」


「あ、ありがとうな!大切に使わせてもらいます!」


「おーい、キュウ、いきなり人間に向かって走り出したからどうするべかと思ったけんど、キュウは強いんだべな!あっという間に倒してしまったべ!オラも負けてられねぇな!」


「えへへ、ありがとうございます!」


「とりあえず、村の復興作業を手伝うべ」


「分かりました!」


 こうして、キュウは新たな力、〈幻影〉を手に入れたのであった。


***


 ルシファーはキュウの戦いをみて満足そうだ。


「うふふ、キュウちゃんは強くなったようですね。すべては計画通りよ」


 彼女は上機嫌に新しい資料を作成している。


「さて、彼女もF+ランクになったことだし、Eランク帯への昇格戦はボスキャラと戦って貰うわよ。うふふ、楽しみね」


 ルシファーは怪しく微笑むのだった。

面白そう、続きが気になると思っていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価してくれると嬉しいです!

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