シンシアとの出会い
モンスタースポナー。それは巨大なクリスタルだ。魔素が固まった物体で、ここから定期的にモンスターが産まれてくる。
「うぅ……」
たった今、狐人の少女が産まれた。彼女こそ、堕天使ルシファーが目をつけた女の子だ。
「ここはどこなん?」
彼女のいる場所は、キレイな泉の近くだった。後ろを振り返ると、ふよふよと浮かぶクリスタルが目についた。
「ウチはこれから産まれてきたんやな。これからどないしよう?」
そう呟くと、彼女は途方に暮れた。普通、スポナーから産まれたモンスターは、このように途方に暮れた後、だんだんと野生に帰るのだ。
「まずはこの体に慣れなきゃなー。せっかく貰った新しい命やもんな!よし!とりあえず走ってみよ!」
彼女が走り出す。
「へぇ〜!なかなか速いやん!楽しいわあ~」
すると突然、巨大な狼が現れた。腹を空かせているのか、彼女を睨んでいる。
「グルルルルッ」
「ひゃあ!堪忍してや~!いきなり死にたくあらへん!」
「グオオオッ!」
「えっ?ちょっ!待って!嫌や!こんなとこで死ぬなんて!」
彼女は死に物狂いで逃げ出した。
「ハァ……ハァ……なんとか逃げ切ったみたいやな……」
すると、前方から豚の頭を持つモンスターがやって来た。オークである。
「おんや?狐人とは珍しいべ」
「ヒイッ!?」
「おっと、驚かせちまったべか?オラ、トンきちって言うだ。近くの村さ住んでるオークだっぺよ」
「あっ!ウチは……その……」
「んー?そうか、分かったべ!お前さん、モンスタースポナーから産まれてきたんだっぺな?それで子供なのに、こんなところに一人でいるんだな?」
「なっ!?何で分かるんですか!?」
「いや、だってここは子供が一人でいるような場所じゃないっぺよ。それなら、お前さん。名前はあるのか?」
「ウチの名前は……まだないんや」
「ほう。なら、オラが名付けてあげるっぺ。そうだな……キュウってのはどうだっぺ?」
「キュウ?」
「そうだっぺ。狐人にピッタリの名前だと思うべ。気に入ったべか?」
「はい!めっちゃ気に入りました!」
「そっか。それは良かっただ」
「あの……ありがとうございます」
「礼なんて要らないだ。それよりキュウはこのあと、いく宛はあるべか?ないなら、オラの村さ来るか?」
「はい!是非ともお願いします!」
こうして、彼女はトンきちと共に暮らすことになった。
***
「ここがオラたちの村、『モンスタニア村』だっぺ。みんなイイ人ばかりだっぺよ」
「おおー!なんか凄そうなところやな!」
「ここがオラの家だ。小さいけど、我慢してくれ」
「いえ、全然大丈夫です。お邪魔しまーす」
「さて、子供が昼間っからウロウロしてたら目立つべ。子供は学校に行かなきゃだべ。ちょっと学校に手続きに行ってくるから心配しなくていいべよ。先生と話してすぐ帰るべ」
「はい。分かりました。行ってらっしゃい」
「ああ、じゃあ行ってくるだ」
こうして、彼女は一人になった。暇なので家の中を散策していると、部屋の隅に古びた本が置いてあった。
「なんやろこれ?気になるわぁ〜」
そう言いながらペラペラと本をめくる。それは童話だった。
~バベルの塔~
むかしむかし、人々の間には、言葉の壁がありました。それを邪魔だと思ったバベルという男が、神様に壁を失くしてほしいとお願いするため、天にもとどく高い高い塔を作りました。神様であるルシファー様は、その願いを聞き届け、今では言葉の壁がありません。魔族も人間も、言葉が通じるようになりました。めでたしめでたし。
「へぇ〜、面白い本やったわ」
すると、トンきちが帰ってきた。
「ただいま。今、学校の先生と話してきただ。明日から学校にいくっぺよ」
「ほんまですか!嬉しいなぁ!学校楽しみやわあ」
「今日はもう遅いべ。ご飯を食べて風呂さ入って寝るべよ」
「はーい」
***
次の日。
「ほれ、キュウ。今日はオラが一緒だ。明日からは一人で学校いくんだど」
「ええー。ウチ一人で行けるんやろうか?」
「大丈夫だべ。オラが教えた道を通るんだど。迷ったらオラを呼べばいいべ」
「はーい」
こうして、彼女は初めての登校をした。
「初めましてキュウちゃん。私は校長をしています。ゴブリンシャーマンのゴブぞうです。よろしくお願いします」
「ワタクシは教頭をしています。ダークエルフのメルと申します。よろしくお願いしますね」
「はっ、はい!こちらこそ、よっ、よろしゅくお願ぃしましゅ!」
緊張したのか、彼女は噛みまくってしまった。
「ふふっ。そんなに固くならないでくださいな。これから一緒に勉強していくのですから、仲良くしていきましょう」
「はっ、はい!わかりまひた!」
「ふふふ。それでは、教室に行きましょうか」
「はい!」
「はい、皆さんおはようございます。席について下さい。今日は転校生がやって来てくれました!どうぞ、入ってきてくださーい!」
ガラララッとドアを開ける音が響く。そして、彼女の姿が見えた瞬間、クラスメート全員が息を飲む。
それはまるで、月の光のように美しく輝く銀髪。そして、宝石のような紅い瞳。誰もが目を奪われるような美貌。しかし、彼女はまだ幼かった。
「あっ、あの、ウチ、キュウ言います。よっ、よろしゅうなっ!」
彼女は噛んでしまった。
「はい!キュウちゃんは、モンスタースポナーから産まれた子なんです。それで、この村で生活したいということです!みんな、優しくしてあげてください!」
子供たちの、はーいという声が響く。
「それではキュウちゃん、貴女はそこのエルフの女の子、シンシアちゃんの隣の席に座ってね」
「はい!分かりました!」
キュウは元気よく返事をして、指定された席に向かった。
「あの……シンシアはん、これからよろしくな!」
「……うん!よろしくね!」
シンシアと呼ばれた少女は、少し照れたように言った。
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