表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/20

勇者

「ヘンリー……ヘンリー……私の声が聞こえますね?」


 その声を聞いた瞬間から、彼の心の中を渦巻いていたものが一気に晴れていった。


「ああ……女神ルシファーさま……」


 彼が信仰している宗教の神である女神の声だと確信した彼は、自分の身に何が起きたのかも忘れて彼女の名を呼んだ。


「そうです。私は堕天使にして、この世界の管理者。女神ルシファーです」


「あなた様のおかげです。すべてあなたのおかげなのです。あなた様のために生きられる喜びに感謝いたします。感謝の言葉すら浮かばぬほどの幸福感があります!」


「よかったですね……。ヘンリーよ。王子である貴方に、使命を与えます」


「なんと!光栄なことでしょう!!是非聞かせてください!!」


「ヘンリー。貴方は邪悪なるモンスターを地上から滅ぼすのです。そして、拐われた姫君は既に、魔のものによって邪悪に染まってしまっています。貴方が姫君を救うのです。そうすれば、魂だけは美しいままにしてあげましょう。貴方にチートスキルを与えます。この力を使って、世界を人間だけのものとするのです!」


 ルシファーは彼にチートスキルを与えた。


「おお!これはすごい。これで僕は、世界最強だ。このスキルで僕がモンスターを倒してみせる!」


「うふふ、では、早速姫君を救いに向かうのです」


「わかった。待っていてください。今助けに行きます。」


 こうして彼は、ルシファーに言われるまま、モンスター討伐に向かった。


***


 ここは何年も前のボリトル王国。そこの魔王は人間の姫、シャーロットを誘拐し、妻としていた。しかし、姫は魔王のことを本気で愛していたのだ。


「魔王さん。私、祖国から見捨てられたみたいね」


 姫が誘拐されたというのに、脅しに乗ってこなかったのだ。これはつまり、姫が見捨てられたということになる。


「そうらしいな。お前を人質にしたのに、あっさりと見捨てるとは愚かなものたちだ」


「でもね、魔王さんのことは好いているわ。だから、私が魔王さんの奥さんとして一緒に居てあげる」


「ほう?そんなこと言って良いのか?我は、モンスターの王、魔王なのだぞ?」


「わかっているわ。それに私は、人間だけど、愛する人の力になりたいのよ」


 姫は覚悟を決めた顔をしていた。


「くっくっ、面白い娘よ。ならば我の側にいろ。我が守ってやる」


 魔王と人間は恋に落ちていたのだった。


***


 そして現代のボリトル王国。シャーロット姫は、魔王との間に子供を産んでいた。とても幸せに暮らしていたのだった。


 そんなある日のこと。勇者であるヘンリー王子が単独で攻め込んできたのだ。


「シャーロット!シャーロット!どこなんだ!」


 ヘンリーは、魔王城に侵入後、シャーロット姫を探すが見つからない。


「おい、そこの人間。貴様は何者だ?」


 魔王が現れた。


「よくもシャーロットを攫ったな。返してもらう」


「クックックッ。シャーロットは我が妻となった。もう返すことはない」


「嘘を言うな。なら何故ここにいない!?シャーロットはどこにいるんだ?」


「それは教えられないなぁ。教えても良いが……わかるまい」


 魔王は挑発するように言った。


「この野郎……くらえ!シャイニングソード!」


 光輝く太陽の剣が、魔王を一刀両断した。


「ぐあああああっ!!!」


 魔王は死んだ。


「シャーロット!シャーロット!助けに来たぞ!どこにいるんだ!」


 ヘンリーは魔王の部屋にたどり着く。そこにシャーロット姫がいた。


「ああ、シャーロット姫!助けに来ましたよ!さあ、帰りましょう!」


 ヘンリーは姫に近寄る。


「もう良いんです。私は魔王の妻となりました。それに、祖国から見捨てられた女ですよ。帰らないほうが幸せなのです。どうかこのまま置いていってください」


「何を言っているのです。僕と一緒に国に帰ろう」


「お願いです。一人にしてください。私に優しくしてくれたあなたまで嫌いになってしまいそうです……」


「そんな……シャーロット姫……僕と結婚しようって約束したじゃないか……それなのに……どうして……」


 ヘンリーは涙を流した。


「……ごめんなさい……さよなら……」


「ははは、そうか。君は邪悪に染まってしまったんだな。僕が救ってあげないと……!」


「えっ?」


「シャイニングソード!」


「キャーッ!」


 ヘンリーは、かつて愛した女、シャーロット姫を一刀両断した。


「ははは、シャーロット姫。これで救ってあげられた……はは、やった、僕が救ったんだ。はは、はははははは!!!」


 こうして魔王を倒した勇者は、狂ってしまったのだった。


 それからというもの、ヘンリー王子はモンスターというモンスターを虐殺しまくっていた。


***


 ここはドラゴニアタウン。その騎士団ギルドへ、一人の女が駆け込んできた。


「どうか、助けてください!」


「あ、貴方はボリトル王国の王女、オリヴィア姫!?どうなされましたか?」


「実は、ボリトル王国がヘンリーという勇者に滅ぼされたのです。お父様も、お母様も、国民も……みんな勇者に殺されました……」


「そんな……あの王が……。勇者め……それで、姫、貴女はこれからどうなさるのですか?」


「復讐します。私の大事な人たちを殺すなんて許せません!だから私は強くなります。強くなって勇者を倒し、世界に平和をもたらします!」


 オリヴィア姫の目には炎が灯り燃え上がっていた。


 しかし、勇者はすぐにドラゴニアタウンへとやって来たのだった。


「ここにも邪悪に染まったモンスターたちがいるじゃないか。滅ぼさないと……!」


「待て!貴様が勇者だな!この町は我らドラゴンナイツが守って見せる!そりゃ!」


「シャイニングソード!」


 騎士団長がヘンリーに向かって突進するが、一瞬で切り裂かれてしまった。


「う、うわあ!!ば、化け物だぁ!!」


 人々は恐怖に震え上がる。


「モンスターは滅ぼさないと……ふふふふ……モンスターなど、この世界に必要ない……この世界は人間だけのものだ……ははははは!」


 その時、一筋の光が差し込んだ。それは、光の矢だった。


「ホーリーレイン!」


 オリヴィアが放った聖なる雨は、ヘンリーの身体を突き刺す。


「なんだ?この攻撃は……貴様……その顔は……!まさか、シャーロットの娘か!?」


「よくもお父様とお母様を殺したな!お母様は人間だったのに、なぜ殺した!?」


「殺した?いや、違う。僕は彼女を救ったのだ……ははははは!」


「なっ……!?」


 ヘンリーは狂っていた。愛する人を手にかけ、それを正当化したために、おかしくなってしまったのだ。


「シャイニングソード!!」


 再び、光輝く太陽の剣で、オリヴィアの心臓を一突きにしようとした。


「あ、が、は……」


 しかし、オリヴィアを庇ったキュウが貫かれた。キュウはそのまま倒れる。


「そんな!貴女っ、私のために……!」


「ぐ……大丈夫じゃけん……それより、気ぃつけぇ……あいつは強い……あんさんは逃げんと……はよぉ……に、逃げ……」


 キュウはそのまま動かなくなった。キュウはキュウなりに人を守ろうとした。それが彼女の誇りであり、最後の抵抗でもあった。


「よくもキュウを殺したな!この野郎ッ!」


「よせッ!ルーク!こんな化け物には勝てないッ!逃げるんだ!」


 サンセスは叫んだが、もう遅かった。


「邪魔だ。シャイニングソード!」


 ルークは、ヘンリーの剣により、呆気なく殺された。


「さようなら、モンスターたち。はははは!」


「くっ……オリヴィア姫、ここは逃げるんだ!さあ!」


 サンセスはオリヴィアの手を引いて全力で逃げだした。その間、ヘンリー王子による殺戮が繰り返された。


***


「……うーん……はっ!」


 キュウは目を覚ました。復活の腕輪が砕け散っている。


「ウチ、殺されたんやな。……みんなは?」


 辺りを見回すと、キュウの仲間たちの亡骸が転がっていた。


「そっか。みんな死んだんじゃね……。団長はん……ルークはん……ごめんねぇ……」


 キュウの目から涙が溢れてきた。仲間を失った悲しみでいっぱいになった。


「……キュウ?キュウ!生きていたのか!」


 サンセスが叫ぶ。そしてモミジとオリヴィアもやって来た。


「うん。ウチは死なんよ。サンセスはん、モミジはん、生きててよかった。一人ぼっちにならんで済んだよ」


「キュウ、すまない。アタイたちが弱いばかりに仲間を失ってしまった。これからどうしようか。ボリトル王国も、ドラゴニアタウンも滅んでしまった。今、生き残ってるのは、アタイたちだけだ。どこへ行けばいいだろうか……」


「それやったら、モンスタニア村に来んかね。ウチらの故郷なんや。あそこはまだ安全だと思うんよ」


「そうだな。よし、行くしかないようだ。早速出発しよう」


 こうして、四人はモンスタニア村へと向かった。


***


「おんや?キュウ?キュウか!」


「トンきちはん!帰って来たで!」


 キュウは、トンきちに飛びついた。トンきちは、嬉しそうにキュウを撫でている。


 他のモンスターたちも喜んでいる様子だった。


 しかし、そんな幸せは続かなかった。


「あれ?ルークはどうしたべ?」


「……ルークはんは……死んでしもうたんや……勇者に殺されたんや」


 キュウが答え、これまでのことを話し始めた。


「そっか、大変だったべな。それじゃあ、今日から村でゆっくりするんだど」


 キュウたちは、トンきちの家で休むことになった。


 その夜、キュウが眠ろうとした時のことだった。


「よう。お前さん。ちょっと話がある」


 サンセスに呼び出された。キュウが外に出る。


「キュウ、オイラの話を聞け。もう分かったろ?仲良くできない人間もいるってことを。ヘンリーとか言ったか?アイツは狂っている。あの男と和解しようなんて無理だ。絶対に後悔することになるぞ。この世界には、人間がいて、モンスターがいて、争っている。それが普通なんだ。共存なんて、やっぱり無理なんだよ」


「それでも、ウチは諦めない。いつか人間とモンスターが分かり合える日まで……。ウチは和解の道を探り続ける」


 サンセスが笑う。


「へへへ……甘いなぁ。ま、それがお前さんらしいな。オイラはもう疲れた。もう寝るぜ。おやすみ」


 サンセスは去って行った。


(はあ、なんか眠れへん。ちょっと夜風に当たろうかな)


 キュウが外に出てみる。そこには、長身のイケメン青年がいた。


「よう。ずいぶんと久しぶりだな。キュウ」


「えっと、あんた誰やったっけ?」


「ふっ、俺様の見た目が変わりすぎて誰か分からないか?では、改めて自己紹介しよう。俺様はワールドヴァンパイアのウィルバート。人類を滅ぼす魔王だ」


「……ウィルバートはん!?ウィルバートはんなんか!?」


 キュウが驚く。まさかこんなところで、ウィルバートに会うとは思っていなかった。


 しかも、敵として。キュウは、緊張して震える。


(こ、これは戦う流れなんやろうか?)


「そんなに緊張するな。お前と戦うために来た訳じゃない。手を組みにきたんだよ」


 キュウが警戒を緩める。


「は?アンタがウチと組む?何を言っているのか分からへんわ……」


「勇者ヘンリーのことは知っているな?ヤツは危険だ。俺様の目的と、お前の目的がぶつかる敵同士ということは知っている。だが、ここは手を取り合うべきだと思う。そうだろ?キュウ」


 キュウは戸惑う。確かに、勇者は危険な存在だとキュウも感じていた。しかし、ウィルバートは人間を滅ぼそうとするので、キュウは彼を止めたいと思ってきたのだ。だが、今は状況が違う。


 キュウが迷っている間に、ウィルバートは両手を広げた。まるで何かを受け入れるかのように。ウィルバートは優しい笑顔を浮かべながら言う。


「お前は俺様を止めるんだろ?なら、ヘンリーに邪魔されたら困るよな。それに、俺様と組んだ方が安全にヘンリーを倒すことができるんじゃないか?その後で、俺様を止めてみろよ。なあ?キュウ」


 キュウは悩んだ。確かにウィルバートの言い分にも一理あると思った。


 キュウがウィルバートを見ると彼はニヤリと笑った。そしてキュウに向かって歩いてくる。


「ほら、一時休戦だ。昔みたいに、仲良くしようぜ?」


「……うん、わかった。よろしく頼むわ、ウィルバートはん!」


 キュウとウィルバートの友情が成立した。キュウはウィルバートに手を差し出した。握手である。


***


 地上の様子を見ていたルシファーは喜びに悶えていた。


「いい!凄くいい!なんてドラマチックなの!これよ!こういうのを求めていたのよ!」


 ルシファーは感動していた。自分の想像を越える素晴らしい物語を見せてくれる。やはり、キュウを選んで良かったと心から思った。


「こんな激アツ展開、最高ね!さすが私の選んだ魔王よ。これは面白くなってきましたね。ふむ、そういえば……。これは使えるかもしれません。試してみる価値はあるでしょう。よしっ!次はこのイベントを発生させましょうかね。楽しみになって来ました!うふふふふ!」


 ルシファーはワクワクした気持ちで、また新しい資料を作り始めた。

面白そう、続きが気になると思っていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価してくれると嬉しいです!

ブクマ、感想くれたらめっちゃ喜びます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ