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スポナー狩り

「村に火を放てーっ!」


 騎士団長が叫ぶと、騎士は一斉に動き出した。


「させへんっ!狐火・連続点火!」


 キュウが妖術を使うと、騎士たちが一瞬にして燃え上がった。


「ぎゃぁあああっ」


「熱いぃいっ」


「助けてくれぇえ」


 すると、騎士団長が言った。


「お前は、あの時の狐人だな?私を覚えているか?」


「あんさんは確か……そうや、あん時はお世話になりました」


「ふん、貴様が脱獄したせいで、こうしてまた戦う羽目になったのだぞ?」


「ウチには夢があるんや。立派な騎士になって村を守りたいという夢が。そのためには死ねへん」


「そんな事は知らん。我々の目的は、この村を殲滅する事だ。邪魔をするなら容赦はしない」


「そんなこと、させるわけないやん。ウチの夢のためにも、あんたらを倒すっ!」


「面白い。では、始めようか」


「望むところや!」


 戦いは始まった。そして、勝ったのはキュウだった。


「くそ、なぜ勝てん。お前は一体何者なのだ?」


 血まみれの団長は膝をつく。


「ウチは霊狐のキュウ言います」


「霊狐だと?っ!?ランクEのモンスターなのかっ!?」


「せや。ウチ、負けられへんねん。絶対に村を守ると決めてるから」


「ふむ、そうか。だが、こちらも簡単には引き下がれぬ。お前は危険すぎる。ここで殺さねばならぬ」


「ウチはもう、人間の集落を襲わないと約束する。だから、見逃してくれへんかな」


「無理な相談だ。我々は任務を遂行するのみ。それに、お前のような化け物を生かしておく訳にはいかないのだよ」


「前は村の焼き討ちをやめてくれたやん。どうしてそんなにウチを殺したいん?」


「ふん、知れたこと。人間に危害を加えるモンスターは、我々の敵だからだ。それとも何か?人間に味方するつもりなのか?」


「ウチは人間と仲良くなりたいと思ってる」


「戯れ言を言うなっ!モンスターと人間は相容れない存在なんだっ!モンスターなど、この世界に必要ないっ!人間にとって害悪以外の何でもないっ!!」


「それは違うっ!人間だって、他の生き物を殺しすぎやっ!!お互いが傷つけ合って、殺しあって、そうやってしか生きられないんかっ!?言葉が通じるんやったら、分かり合えるはずやろっ!!」


「それができたら苦労はない。残念ながら、我らはモンスターを恐れている。恐怖という感情が消えない限り、モンスターとは共存できないだろう」


「それでも、諦めたくない。ウチは人間とモンスターが仲良くできると信じてる」


「無駄だ。その夢は叶わぬ。どうしてもというなら、お前が魔王にでもなって、無理やり人間に、仲良くしろと要求でもしない限りはな」


「魔王になるつもりなんか無いけど、もしウチが魔王になっても、人間と争うことはしない。争いのない平和な世界にしたいだけなんや」


「甘いな。お前の考えは理想論に過ぎない。モンスターがいる限り、争い続けることになるのだ。ぐっ、ゴホッゴホッ……はぁ……はぁ……で、どうした?俺にトドメを差さないのか?」


「ウチはあんたを殺す気は無い。人間もモンスターも、みんなが幸せになれる方法があると思うから」


「ふん、お前はモンスターなのにか?そんな事ができるとでも思っているのか?……はははっ……面白い奴だ。……だが、お前は間違っているぞ。なぜなら、お前がこの国に仇なす存在だからだ。だから、私は騎士団長としてお前を討たねばならない」


「あんさん……」


「さあ、早くトドメを刺すがいい。私を見逃せば、いずれ多くのモンスターが死ぬ事になるぞ」


「ウチは……」


「何を迷っている?私が生きていたら脅威になるぞ?お前の仲間をたくさん殺すかもしれない。そんなやつを野放しにするつもりなのか?」


「……」


「……お前は甘ちゃんだ。いいか?世の中そんなに甘くない。たとえお前が本気で人間と仲良くしようと思っていても、人間はそうは思わないんだよ。モンスターと人間が手を取り合うなんて不可能だ。お前は間違っているんだよ……」「……ウチは……ウチは……!」


 キュウは涙を流して震えていた。


「……ガキが……はぁ。おい、撤退だ。引き上げるぞ……ぐぅ……」


「団長、大丈夫ですか?」


「団長、しっかりして下さい」


 団員たちは騎士団長を連れて撤退した。


「……ウチは、やっぱり間違ってたんやろうか……?」


 キュウは空を見上げながら呟いた。


「ウチはただ、みんなと仲良くなりたかっただけやのに」


 こうして、キュウは騎士団を追い返した。しかし、まだ問題は解決していない。


「これから、どないしよか」


 キュウは悩んでいた。


「とりあえず、ギルはんに相談やな」


 人間のことは、人間に聞くのが一番だとキュウは思った。


***


「なるほどな。騎士団長にそんなこと言われたか」


 ギルは腕を組んで考えている。


「せやねん。ウチ、どうしたらええんかわからへんねん」


「うーむ、難しい問題だぜ。お前は人間にとって危険なモンスターだ。人間はモンスターと仲良くできないと思っている。実際、キュウちゃんに助けられるまでは俺もそう思っていた。でもな、キュウちゃんと出会って考えが変わったんだ。仲良くできるヤツもいる。俺はそう思ったぜ。だがな、当然、全ての人間と仲良くできる訳じゃねぇ。中にはお前の敵になる人間だっているだろう」


「ギルはんの言う通りや。ウチの敵になる人間がいるのはわかってる。けど、それでも人間と仲良くなりたい。ウチは人間とモンスターが一緒に暮らせる世界を造りたいんや」


「……人間の俺がこんなことを言うのも変だと思うけどよ、お前の夢は素晴らしいと思う。でもな、現実は厳しい。きっと、モンスターを恨んでいる人間は多いはずだ。そういう連中が、もしも人間を率いて攻めてきたとしたら、どうする?」


「そ、それは……」


「……モンスターと人間を和解させる方法は一つある。戦争に勝って、無理やり仲良くしろと命令することだ。実際のところ、差別だとか、そんなんじゃ済まないくらいの深すぎる溝を埋めるには、もはやそれしかないんだよキュウちゃん。なんせ、殺し合いの歴史を塗り替えるってことなんだから」


「……」


「キュウちゃん。歴史を変える覚悟はあるか?新しい時代を作る覚悟はあるか?」


「……ウチは……」


「キュウちゃん……俺がこんなこと言うのもおかしいとは思うが……世界を征服してみろ。そして、人間とモンスターが仲良く暮らせる時代を作るんだ。キュウちゃんが新しい歴史になるんだよ」


「ギルはん……」


「……まあ、今の話は忘れてくれ。そんなことを言ったところで、子供のお前が困るのは目に見えているしな」


「……ウチ、やってみるわ」


「……ふっ。キュウちゃん。お前は面白い子供だな。がっはっはっはっ!」


「いやぁ、それほどでもないで。あっはっはっはっ!」


 二人は笑った。


「……さて、そうなると当面の目標はブレイブバニア王国だな。まずはここを落とさない限り、何度でもモンスタニア村が焼き討ちにされちまうぜ」


「そうやね。でも、どうやってブレイブバニア王国を攻めたらええんやろう?」


「そうだな……。でも、そんな難しくはないんじゃないか?実際のところ、キュウちゃんはブレイブバニアの精鋭騎士団をたった一人で返り討ちにしているし。正面から乗り込んでも案外勝てそうだけどな」


「いや、あの時はたまたま上手くいっただけやし。それに、ウチ一人やったら絶対に無理やわ。ウチは弱いもん」


「ははは。謙遜しなくてもいいぞ。キュウちゃんならやれる。次に攻め込んで来るまでには時間がかかるはずだ。それまでに鍛えればいいんだよ」


「せやな!ウチ、頑張るわ!」


「ああ。その意気だ」


 こうして、修行を始めることになったのだった。


***


「で、修行をしたいというわけか」


 ウィルバートはそう言って立ち上がる。


「はい。ウチは強くなって、村のみんなを守りたいんです」


 キュウは真剣な眼差しで答える。


「分かった。じゃあ、俺様と一緒にダンジョンを攻略してもらう」


「はい!よろしくお願いします!」


 キュウは元気よく返事をした。


「ふっ。俺様はな、いつか魔王になりたいと思っているんだ。だから、俺様も一緒にブレイブバニア王国を攻め込んでやる。名を上げて成り上がるつもりなんだ。そのためには俺様も進化して強くなる必要がある。さあ、いよいよ出発のときだ。行くぞ!」


「はい!」


 キュウは力強く答えた。


***


「ここはネンドロ山やないか。こんなところで修行するのかいな?」


 そこはモンスタニア村の北の山、危険度Eランクの天然ダンジョン、ネンドロ山。


「そうだ。俺様たちはこの山にあるモンスタースポナーを目指している。これからするのはスポナー狩りと呼ばれる超危険な魔素稼ぎだ。短期間で強くなりたかったら、リスクの高い方法を取るしかない」


 ウィルバートが言った。


「スポナー狩り?それって一体何なんですか?それに、どうしてここでするんやろ?」


「まあ、実際に見ればわかる。ここでする理由は、まだ安全なほうだと判断したからだ。こんな危険な狩り、他の仲間たちは連れてできない」


 すると、ウィルバートはキュウに向き直った。


「キュウ、この狩りはジャイアントキリングをし続ける関係上、お前が頼みの綱だ。今回、俺様は悔しいが足手まといだ。せいぜい、お前の足を引っ張らないようにするつもりだ」


「ウィルさん、そんな気にせんでもええんよ。ウィルさんの分もウチがしっかり戦うから」


「……見つけたぞ。あれがスポナーだ」


「おぉ、すごい迫力ですね」


 ウィルバートが指差した先には巨大なクリスタルがある。


「幻影を使う準備をしておけ。使えなかったら、俺様たちは死ぬ」


「はい」


「じゃあ、始めるぞ。コウモリブラスター!」


 無数の闇のレーザーが、スポナーを貫いた。


 次の瞬間、スポナーにヒビが入り、そこから黒い煙が発生する。


 そして、みるみるうちに辺り一面、凶悪なモンスターまみれになった。


「特殊モンスターハウス……これはストーンハウスだっ!」


 ロックゴーレム、アイアンゴーレム、ストーンメイデン、鉄巨人、魔鉄兵、ブラックガーゴイル、パワフルハニワといったDランク帯のバケモノたちが出現した。


「何をしているっ!さっさと幻影を使えっ!」


「う、うん!幻影!」


 モンスターたちを幻が包んでいく。すると、前が見えなくなったのか、同士討ちを始めた。


ドゴォン!ドゴォン!


 凄まじい衝撃波が発生する攻撃の打ち合いが辺り一面に巻き起こる。


「あんな戦いに巻き込まれたくないものだな。さて、殲滅するぞ!状態異常で攻めろ!まともには戦えない相手だぞ!」


「はいっ!呪符・キツネノタタリ!」


 呪符が宙に浮かび上がり、次々とアイアンゴーレムに張り付いていく。すると、スリップダメージが高いのか、嫌な音を立てて崩れ、魔石になる。


「いいぞ!呪縛・命蝕!」


 ウィルバートが呪いをブラックガーゴイルにかける。すると、動かなくなり、壊れて魔石になった。


 こうして、状態異常で攻め続けることにより、比較的安全に狩りを続けることができた。


「危ないっ!避けろっ!」


「ひっ!?霊化!」


 霊化したキュウは、巨大なパワフルハニワの押し潰し攻撃を受けた。地震と衝撃波が巻き起こる。霊化が解けると、そこには無傷のキュウがいた。


「あっぶなかったわぁ……」


「まだ気を抜くな!俺様が援護する!呪縛・命蝕!」


 パワフルハニワは、それでも動こうとする。そして高速でスピンして衝撃波を撒き散らしてきた。


「うわあああっ!?」


 キュウとウィルバートは吹き飛ばされた。


「くそっ、さすがはD+ランクモンスターだな。状態異常にしまくってこの強さか!イカれてやがる」


 パワフルハニワは幻に包まれて前が見えないため、メチャクチャに叩き潰し攻撃をしてくる。着地地点に衝撃波が巻き起こり、大地が崩壊する。


ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!


「きゃああーっ!!」


 ウィルバートは、かろうじて避けるが、地面が割れてキュウが山から落ちていく。


「ちっ、コウモリども!キュウを助けろっ!」


 無数のコウモリがキュウの下に入り、持ち上げる。


「ありがとう、コウモリさんたち!」


 そのとき、ようやくパワフルハニワが活動を停止して魔石になった。


「はぁ……はぁ……ようやくストーンハウスを攻略したみたいだぞ。キュウ」


「ふぅ、怖かったです……。これは一体何なんですか?」


「スポナーを破壊しようとすると、防衛反応が起きて特殊モンスターハウスと呼ばれる部屋を作り出すんだ。特殊モンスターハウスってのは、必ずDランク帯以上のモンスターが密集している場所で、スポナーを破壊しようとしてはいけないって言われている原因でもあるんだ。俺様たちは今回、その特性を利用して魔石を稼ごうとしたわけだ。ほら、見ろよ?一匹いるだけで国が滅びると言われているDランク帯のヤバいヤツらの魔石がゴロゴロ転がってるだろ?これ食ったら、確実に進化するぞ」


「うへぇ……こんな怖い狩り、もうやりたくないですよぉ〜」


「ハイリスクハイリターンだろ?さて、魔石の数は17個か。おい、まずはお前が進化するまで食え。お前がいなかったら成り立たない狩りだったからな」


「はい、いただきます。むしゃむしゃむしゃむしゃ……」


 キュウは、進化するまで、むさぼるように魔石を食べ始めた。すると、キュウの体が光輝いた。


「ウチ、進化するんや」


 キュウは霊狐から進化して、E+ランクの幻狐になった。


「どうだ?効率の良い魔石稼ぎの感想は?効率が良すぎて、他の方法での魔石狩りがバカバカしくなるだろ?」


「こんな危ない狩り、二度としません!」


「ははは、そりゃ残念だ。じゃあ、次は俺様の番だな」


 ウィルバートは進化するまで魔石を食べ始めた。すると、ウィルバートの体が光輝いた。


「よし、俺様も進化だ」


 ウィルバートはカースヴァンパイアから進化して、E-ランクの鮮血鬼になった。


「ウィルさんのその姿は何というか……禍々しいですね」


「まぁな。だが、俺様にはピッタリだろう?さて、次はお前が食べる番だぞ」


 キュウは、また魔石をむさぼるように食べた。


「おっと、全部食べたのに進化しないのか。Dランク帯への壁は、思ったよりも高いみたいだな」


「そうみたいやねぇ」


「さて、今日のところは帰ろう。疲れたろ?いろんな意味でな」


「はい。今日はゆっくり休んで、明日から頑張りましょうね」


 キュウとウィルバートは、村に帰った。こうして、キュウの〈幻影〉は〈幻惑〉へとパワーアップしたのだった。


***


 地上を見ていたルシファーは、満足そうにしていた。


「これで魔王を目指してくれるようになったわね。嬉しいわ。それにしても、あの子たちはなかなかやるじゃない。特にウィルバートとかいう男、キュウを利用してスポナーを狩るなんて想定外よ。でもね、Dランク帯への昇格戦はボスキャラと戦ってもらうわ。今度は殺意と悪意を込めても良いわよね?楽しみだわ。うふふ」


 ルシファーは、不気味な笑みを浮かべていた。


***


 ここはブレイブバニア王国の王城。


「なんじゃと!?あの精鋭騎士団が敗北したじゃと!?」


 玉座に座っている男、国王が叫んだ。


「はい。それも、たった一匹の狐人によって」


「信じられん。信じたくもない」


「ですが、事実なのです。騎士団長の証言によると、騎士団は壊滅的被害を受け、団長も重症を負いました。生き残った団員はわずか数十名のみ」


「なんということだ……我がブレイブバニア王国が誇る最高の軍事力が一瞬にして崩壊してしまうとは……」


 王は頭を抱えた。


「いかがなさいますか?」


 大臣が尋ねた。


「くそっ。まさか狐人がこれほどの力を持っていたなんてな。一体どうすれば良いのだ」


「現在、モンスターの集落の位置は判明しております。そして団長の証言によると、Eランクモンスターの霊狐という種族の、キュウという女が犯人ということが分かっております。なので、その霊狐に懸賞金を懸け、冒険者ギルドに緊急クエストとして依頼しましょう」


「なるほど。それしかあるまいな」


「では早速手配します」


「うむ」

面白そう、続きが気になると思っていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価してくれると嬉しいです!

ブクマ、感想くれたらめっちゃ喜びます!

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