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48.新聞と可能性

「圜鑒さんに協力してほしくて」

「俺?」

「毒の解析と解毒薬を作って下さい」





 卒業後、力持ちながら警察官になった黙部(もくべ)は真剣な顔で黎冥に頭を下げた。




 頭痛で頭が回らない黎冥は黙部を見下ろす。






「いいけど」

「ちょっと待て。お前分かってねぇだろ」

「分かるわ」

「頭回ってないんだから黙ってろ」






 アヤネは黎冥を制止し、黎冥は不服そうながらも黙る。


 稔想の拍手は気にしない。





「あ、あの、なにか……」

「これよりも墓千さんの方が適任だと思いますが」

「あ、はい。いや一応頼みに行きはしたんですが……」





 墓千は殺人事件のみならず、血に耐性がない。



 あと、毒なら黎冥の方が適任だ、と。




「でも体調を崩しているので二、三日は無理ですよ。体調不良の間にやらせたらそれこそ毒を作り出すので」

「体調不良!? す、すみませんそんな時に……」

「テンションが高いので大丈夫ですけど。時間はかかります」

「二、三日なら大丈夫です。こちらも出来る限りの情報は集めておきます」

「じゃ受ける。いいだろ、手伝えよ」

「いいけど未完成品飲まそうとすんなよ」

「したことあるみたいに言うなよ……」

「何を言うか」



 いやない。断じてない。


 そんな軽蔑するような目で見られても、ないものはない。






 イタズラ顔で人の評価を下げるアヤネの額を小突き、完全に信じている黙部を睨む。

 こんな嘘に騙されてよく警察が務まるな。





「騙されんなよ」

「圜鑒さんなら……あいやなんでもないです! お願いします」

「信用されてねぇな」

「まぁいいや。資料送っとけ。終わったらお前宛に出すから」

「は、はい!」





 黎冥はふらふらと帰っていき、アヤネもそれについて行く。





 巫砢々(ふらら)は姿を見られるとまずいのかいつの間にか消えており、稔想と紑蝶は黙部の方に寄って行った。

 姉弟絡みで仲がいいのか。ただ絡んでいるだけか。







「頭いたーい……」

「解熱剤が切れてきた頃だし仕方ない」

「寝る」

「おやすみ」








 アヤネは黎冥が寝たベッドに座り、掴まれた手を握り返した。













 黎冥が完全に寝たところで手を離し、図書館に向かう。


 図書館には新聞も取り揃えられているので事件の概要を調べておこう。








「藥止さん」

「ア、アヤネちゃん……」




 慧が問題を起こしてからというもの、藥止司書は気まずそうだ。




 特に黎冥と弟子のアヤネに対してはだが、二人は対して気にしていない。


 二人とも、犯人が慧という事も疎まれていたことも、誘拐されたことすら気にしていない。

 もう慣れっこだ。




 ただ、それがたまたま同級生で同僚で先生だったと言うだけ。

 同級生に恨まれるのも、同僚に妬まれるのも、先生に襲われるのも、二人にとっては当たり前だ。






「ここ二週間の新聞を借りてもいいですか」

「あぁ」












 事件は全て本校近くのようだ。



 一件目、カフェ 森の湖にて珈琲を飲んだ女性二十三歳が死亡。

 一件目は無差別殺人とは思われずにカフェの調理室に問題があったとされ、カフェに傷害致死罪が科せられいる。



 二件目の駅では、六歳の少女が椅子に置いていたぬいぐるみが原因。

 ぬいぐるみの頭部にカフェと同じ毒が散布されており、それを吸入したせいで昏睡。



 三件目の映画館では十九歳の青年が飲み物を置いてトイレに行った際に混入されたと思われる。

 残り二十分の上映後、死亡が確認。



 四件目の会社のレストラン。

 ここは一般人でも自由に立ち入り可能のバイキング式。

 料理散布されていたと言うよりかは、特定のものに毒が付着し犯行に至った可能性が高い。

 二十六歳男性が死亡。



 五件目はカラオケボックス内。

 十七歳の被害者は一人でカラオケに来ており、部屋の受話器に毒牙散布されていた。

 警察からの生死は未だ発表されていない、と。






 零も生死不明だと言っていたので昏睡と同じか。








 ここまでで一つ言えるのは、経口摂取した者は死に、吸入した者は昏睡状態。


 六歳児が死んでいないのに大人は死んだ。

 強い毒と言うよりかは体内に入ったからこそ効果を発揮すると言った感じか。




 いや、そこはアヤネではなく黎冥が考えるところ。




 今、アヤネに求められるのは犯人の特定と毒の混入、散布方法だ。

 誰がどうしてどうやって、何故無差別殺人を始めたのか。







 まず、新しい毒を作ったのなら本人は研究者の可能性が高い。

 それでなくとも理系のはず。



 まだ毒の成分が分からないので技量は分からないが、ここでは大学研究生としておこう。







 犯人の目的。



 一つ、誰かを恨んでいてそれを殺すため。


 だが被害者に共通点はなさそうだし、一人または恨んでいる複数人を殺すための計画なら無関係の人を巻き込んで罪を重くするとは思えない。


 相当なサイコパスというか異常者なら話は別だが、それはそれで置いておく。




 これの場合なら終わりは近いかもしれない。






 二つ目、本当に快楽目的または優越感目的での無差別殺人。


 ここに関しては解説不要。


 これの終わりに関しては、犯人が捕まるか死ぬか、世間が完全に無視し始める頃か。






 三つ目は自殺志願者。


 よくある話だ。


 死にたい。でも誰にも見られず思われず死ぬのは寂しい。どうしよう。


 じゃあ皆が注目して新聞にも乗るような人物、アイドルよりも俳優よりも早く確実な殺人犯になろう。

 目的は注目されることだから無差別で。



 この場合、事件の終わりは犯人が満足した時か。






 四つ目。これは身近にいる人に聞いた方が早い話なのだが。


 ただの好奇心。



 被害者を見ていけば

 大人の若い女性、若い男性

 高校生程の男女。

 幼い少女。


 あとは幼い男の子。

 もし犯人がさらに興味を示したなら老いた男女と、赤子や小学生程の子にも、中年にも広がる可能性がある。



 今出てきただけでも四世代。全て男女として二でかけても八人。そして、この動機なら確実に被害に遭うであろう幼い男の子含め九人。




 もし病人や白人黒人、可能性は限りなく低いが信徒の場合は信徒で同じ世代が試される可能性だってある。


 これは被害の数が絞り切れないが、この動機の今までの被害者含めて十二人。



 信徒を含め二十四人、障害者や人種を含めたら人数は爆発的に増えるだろう。



 これを聞いてどう動くかは警察の腕次第。







 次、五つ目。


 これは三つ目の自殺志願と似ているが、刑務所へ入りたいから。

 入りたいから時間も技術も使うし、情状酌量の余地なしとされるため永遠に法を犯す。それも最も重く非道な方法で。




 故意に五人殺している時点で刑務所よりも即死刑の可能性が高いので残念、金のかからない刑務所生活とはおさらばだ。体と魂もおさらばするだろうな。






 動機の可能性としてはそれぐらいか。

 もう幾つかはあるが限りなく低いというかたぶんほぼ零に近いので候補に入れなくてもいい。







 次、犯行方法。


 無差別殺人だとして、その方法が気になる。


 別に自作の毒は珍しいには珍しいが、有り得ないことではない。




 気になるのは、その使い方。


 まず粉末のものと仮定して、それを水に溶かす。

 その場合、乾燥や揮発、蒸発等の気化はどうなる。


 特に受話器。




 終了手前の時間に取ると分かるには分かるが、どうやって散布する。

 無理やり入るわけにもいかないし、事前に入ったとしてもし使わずに外に出たら。もし使うまでに蒸発したら。



 そんなびちょ濡れだったらハンカチで拭くか定員に言うだろうに。





 それを想定していない場合、動機四の好奇心の線は少し薄くなる。

 誰でもいい中での好奇心だと、被害者の特徴が分からないので好奇心どころではないはず。


 もちろん、これを殺したら警察はどんな反応をするかと言う好奇心は除いて。

 そこまで来たら他者が理解するのは無理。






 粉末を穴に詰めたり受話器に擦り付けていたのなら可能性は無きにしも非ず。

 ただ、普通に通話に影響が出そう。


 これは聞き込みで聞いてもらった方がいい。







 ぬいぐるみもそうだ。


 口や鼻にしばらくの間押し付けるとは思えない。


 濡れていたら親が拭いたり取るかも。




 可能性が不安定すぎる。




 ここまで来ると、本当に無差別殺人なのか疑いたくなってきた。



 もしかしたら被害者は何か共通点があるのかも。




 それか、本当に用意周到で執拗な犯人。



 一度狙った人を決めたらしばらくストーカー。

 のちに癖や日課が分かったところで殺す。



 これはカフェやカラオケ、レストランの聞き込みで常連かどうかが分かりそう。





 もし少女が乗っていた電車か駅でぬいぐるみに触れた奴の目撃情報があればそこから性別、年齢、体格。出来れば声や身なりも分かるといいのだが。



 そんなことが分かっていたら今頃捜査に乗り出しているか。















 とりあえずノートにはまとめられたので良しとしよう。


 あとは黎冥が犯行に使用した薬と解毒薬を作ってくれて犯人を確かにするだけ。






 重なったノートと新聞を机の端に寄せ、机に突っ伏したまま久しぶりに送られてきた手紙を眺める。





 薄く綺麗な字で乱れもなく、口調とは違う丁寧語で読みやすい。





 会うのは何年ぶりになるだろう。



 会の解散以来なので、三年か四年か。




 遊ぶわけではないが警察内のカフェで好きに話せるらしい。

 少々楽しみだ。



 あと羽耶と霈霸(はいら)のことも教えておこう。

 アヤネ繋がりで多少面識はあった。



 記憶力はいい方だったので覚えているだろう。






 アヤネは会の中では、自分で言ってはなんだが関係が広い方だったと思う。



 老若男女。

 若ければ四歳五歳の発達障害や身体的障害から、上で言えば八十近い癌患者や難病患者もいた。




 その中で、とにかく多才で頭の良かったアヤネだからこそだろう。

 多くの子が自分の病気や周囲の反応を教えてくれて、その度に励ましてここでは楽にしていていいと言っては仲良くなっていた。




 幼い子達からはお姉ちゃんと慕われ、同世代からは歩く辞書と勉強をねだられ、先輩からは若いのにしっかり者だと、たまには吐き出す側になってみなと気遣われていた。





 最悪だ。

 何故あんないい人達が除け者にされて、使いもしないたった一室を返せと言ってきたのか。



 どれだけ皆の心の拠り所だったか知らないだろう。


 中には自殺志願者もいて、友人が無理やり引っ張ってきたからこそ生き長らえた少年少女だっていたのに。





 人に理解されない体。

 他人に妬まれる頭。

 皆に気味悪がられる見た目。





 理解出来るならあんな爪弾き者にはされていないはずだ。



 仲間外れが集まって仲間を作って生きる道を歩んでいたのに、理解する脳もない鳥頭のせいで。












 まぁ過ぎたことだ。

 いつまでも引きずっていては煙たがられる。



 と言って吹っ切れたらいいのだが。









 アヤネは新聞をカウンターに返すと、久しぶりに自分の家具寮へ帰った。

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