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47.依頼

「……不味い」

「あれ?」






 黎冥救出から四日目。

 あの劇薬のおかげで扁桃腺は治った黎冥は、壁にもたれながらお粥を食べる。



 扁桃腺は治ったのだ。

 扁桃腺は治ったが、頭痛と耳鳴りが来た。あと関節痛も。



 しかも熱が三十八度未満までしか上がらないのでずっと長引いている。

 辛い。





 今はアヤネが作ってくれたお粥を食べて素でそう言ってしまった。



 ちなみに師弟揃って頬ガーゼとなっている。





「ちょっとちょうだい」

「伝染るぞ」

「大丈夫でしょ」



 黎冥が差し出したスプーンに乗ったお粥を食べ、首を傾げる。



 全然栄養が取れていないし、お粥なら食べられるようになってきたので根菜と葉物を少し入れて出汁と醤油で味付けしたのだが、別におかしな味はしない。




「特別美味しいわけじゃないけど普通」

「えぇ……?」

「あの粉薬がまだ残ってんじゃないの」

「なんかそれとは違う味がする」

「あっそ。じゃあ食うな」

「食べるけど……」




 お腹は空いているので完食し、机に容器を置く。





「なんだろ、亜鉛不足かな」

「薬飲みすぎなんじゃない」

「まともなもん食べてない……」

「夜にまたなんか作るよ」

「何読んでんの?」

「ちょっとは黙れよ」

「じゃあ黙ります」




 アヤネが読んでいるのは今朝の新聞だ。


 蘆黎(ろくろ)兄に渡され、目を通している。






 最近の特大見出しは二つ。


 一晩に三人の女子高生が惨殺された事件と、翌日夕方の放火事件。




 後者は犯人が傍にいるので置いといて、いや置いといたら駄目なのだが置いといて。


 気になるのは女子高生惨殺事件。





 知らない高校だが有名な私立学園だ。

 その敷地内で未明、女子高生三人が同時に殺害。


 指ほどの太さの縄で締められたことが死因と考えられており、口にはその場の土やビニール袋が詰め込まれていた。




 犯人の証拠は残っておらず、今は現場検証と聞き込みを進めている、と。






 ここから遠いと言うほどの場所ではない。

 電車で一時間か、一時間半の比較的近いに入るところ。




「ねー、私立星望天(ほしのあ)学園って知ってる?」

「あぁ、殺されたやつ?」

「そう。三人同時だって。一人縛ってるうちに誰かが犯人殴らなかったのかな」

「かなり狭い場所でやられてたらしいな。……気を付けろよ」

「そもそも出ないんで」




 黎冥は寝転がって本を読み、アヤネは新聞と睨めっこ。



 後ろの扉からは四人。


 安定の稔想、紑蝶、羽鄽。と、巫砢々(ふらら)




 最近は羽鄽の黎冥を刺すような、殺意の篭もった視線が消えている。


 同級生二人がこんなことになったのでそれのせいかもしれないが、どちらかと言うと輝いた目になってきているのだ。


 誰よりもこれの行動が予想出来ないのでなんならいちばん怖いがもしれない。




「れ、黎冥せんせーいー、お手紙ですー……」

「置いとけー」

「アヤネさんの分も置いときますねー……。黎冥先生宛に早便が一通来ていたのでお早めにお願いしますー……ではー……」




 手紙を届けに来た子にまで圧をかけるのはなんなのだろうか。



 アヤネは新聞を閉じると、手紙を取って扉を閉めた。




 もちろん鍵も掛けて。


 紑蝶が未だに鍵を返却してくれないので今度チャイルドロックを退化させて鍵が開いても開かないようにする。





「あ、噂をすれば」

「何?」



 椅子からベッドに移動し、黎冥と並んで手紙を読む。






 先程の惨殺事件の依頼だ。


 どうやら記者は止めているが遺体の損傷が非常に激しいらしく、見るも耐えない姿。

 鑑識や法医学医師でもわけが分からずお手上げ状態。



 で、駄目元で頼んできたらしい。

 これ関係を断っているのは知っているが、上司の娘が殺されて上司が半狂乱なので犯人を見つけないと殺される、と。







「可哀想に。ご愁傷さま」

「受けないんだ」

「ぐちゃぐちゃの内臓とか見たくない」

「え何言ってんの? 頭イカれた?」

「おかしいなぁこれが普通のはずなんだけど」

「一般の普通は零の異常じゃん」



 そんな変人扱いされていたのか。





 黎冥は至って正常だ。



 ただ、整った内臓はいいがこういう内臓の場合は大概素人の切り刻まれた内臓だ。

 切り刻まれた内臓に興味はないし毒がない限り検査する気もない。





 法医学医師も無理だったのだからただの研究者の黎冥には無理。



「断りの返事書いといて」

「私か」

「俺が書いたら読めないもん」





 アヤネがおとなしく書き始めたので、もう一通の親友からの手紙を開ける。






 豐霳(ほうりゅう)悆絢(そはる)もまだこちらにいるらしい。




 いや、一度帰ったが可愛い愛娘がこちらの小学校を受験するので慣れるために引っ越してきた、と。


 小学校受験はする意味あるのだろうか。




 黎冥的には小中高大で違う学校の違う景色を見たかったが、幼少の頃からここに入れられていた黎冥だからこそか。




 小中高大どころか就職までここでやっているのだ。

 いい加減他の景色も見てみたい。










「零、これでいいの」

「丁寧に書いたな」

「書いたのが私だってバレたら雑な人だと思われる」

「保身か」

「保身です」



 それに目を通して、問題がないことを確認する。





「そっちの手紙は誰から?」

「豐霳」

「零と共演してた人だ」

「よく知ってんな」





 誰やねんと返ってくると思っていたが、まさかの知っていた。


 口ぶりからしてファンというわけではなかろうに。



 て言うか豐霳のファンなら黎冥が俳優だと知っていただろう。







 驚いて思わずアヤネを見上げると、アヤネは黒い微笑みを浮かべながら顔を逸らす。



「黒歴史探してたらさ。たまたまね」

「性格悪っ……」

「生まれつきの個性さ」

「便利な言葉」





 どこからか「似たもん同士やろ」と聞こえてきたが無視する。

 きっと空耳。





「なんだっけ、映画で共演して天才コンビだとか何とか」

「周りがはやし立ててるだけだろ。あんなん誰にでも出来る」

「ふーん」






 アヤネは見たことがないのでなんとも言えないが、羽耶が言っていたのは「神の領域神の技」。



 特に黎冥と豐霳は長い掛け合いを一発で決めたり、同時の部分を素でシンクロしたり、二人のアドリブで神作の名場面が生まれたり。




 ファンの間では当たり前と知られている場面も、マニアの中では実はアドリブだったと言うのは常識らしい。









 黎冥は机に手紙を置くとアヤネが使って置いたペンを取り、手紙の最後の方に達筆で断る、と一言。



「出しとして」

「ざっつ!」

「丁寧に書いたら体調不良疑われる」

「書けよ。体調不良だろ」

「……遠慮しとく」




 アヤネに差し出された手紙に背を向け、寝転がってからブランケットにくるまった。





 アヤネは仕方なさそうに溜め息をついてそれを折筋通りに折り、引き出しの中から封筒を取り出し、来た封筒に書かれていた住所と黎冥の名を書いて机の端に置いた。


 後でアヤネのものと一緒に出そう。





 アヤネは自分宛に届いた二通のうち一通目の手紙を開き、いつも通りの殴り書きに読みにくさを覚えつつ目を通す。





 武道繋がりの友人からだ。


 試合に対する意気込み、師範に対する愚痴、仲間への敬意、アヤネへの復活願。







 黎冥から便箋を貰って試合は見に行くこと、愚痴るほど弱い精神は捨てろ、仲間の自慢は聞き見飽きた。あとアヤネは復活しないとも。



 もう相生道はやらない。

 必要な護身術は身に付いたし、弓道も近々やめなければならないのだ。

 再開するのは無理。








 二通目も開き、一通目に対しこちらはかなり綺麗な字で書かれた手紙も読み終えた。















「そういや零」

「何?」

「学校の端ってどこにあんの?」

「端?」




 端って、学校の壁のことだろうか。




「この廊下真っ直ぐ行って階段降りたところ」

「こっから行けんの?」

「徹夜で三泊四日」




 それは行けないのと同じではないだろうか。

 人間三日間寝なかったら精神狂うか気絶するだろうに、だから七日間不眠で祈った零は死んだのだ。生き返ったが。




「零は行ったことあんの?」

「一階から行って階段上がってこっから帰ってきた」




 一階の広間側の奥の奥に行って、階段を上がってここから帰ってきた。




 この廊下、一直線に思えてかなり深部では枝分かれしている。

 それを迷わず帰ってこれれば端まで行くのは簡単だ。長いが。






「行っても意味ないけど」

「なんかあんの?」

「何もない。たぶん未完成に近い」




 ただ、木の板で箱が作るれただけの空間が区切りも道もないままずっと続いていた。

 寝不足でここにいたら精神がやられると悟り、そこで寝てから二階を使って帰ってきた。



 ちなみに方向感覚はある方なので迷ってはいない。








「神様って杜撰(ずさん)よなぁ」

「失礼だなぁ」

「杜撰で鬼畜って最悪じゃない」

「お前が言うと洒落にならん」




 アヤネはそれを鼻で笑い、黎冥はうつ伏せのままアヤネを見上げる。




 神様と接触出来るアヤネだからこそ冗談にならない。

 あとあの性格では普通に言う可能性がある。









 二人が雑談をしていると、既に開いている扉にノックが鳴った。



 アヤネが中を覗く四人を退かして扉を開ける。





「生咲先生、何か?」

「あの、黎冥先生にお客さんが来ていて……その、警察の……」




 ついに何かやらかしたか。



 アヤネが振り返って起き上がった黎冥を見ると、黎冥はまるで思考を見透かしたようにアヤネを睨んだ。




「なんもやってねぇよ」

「じゃあ共犯?」

「やってねぇって。ただの知り合い」


 警察と名乗ったなら依頼なのだろうが。






 ジャージを着て靴を履き、髪を適当に整えてから階段を降りた。





 入り口付近には既に人が集まっており、黎冥ファンは黎冥の珍しいジャージ姿を見て頬を染める。


 黎冥本人、熱で注意力が低くなっているので気付いていない。






黙部(もくべ)、何の用だ」

「圜鑒さん、お久しぶりです。……相変わらず凄い人気で」

「疲れるわ」



 アヤネと黙部はお互い会釈し、黎冥は人集りをかき分けて同期の黙部の前に立った。



 南校に在籍していた同期だ。





「で、用は?」

「最近騒がれている連続毒殺事件は知っていますか?」

「無差別らしいな」

「何それ?」

「新聞に載ってなかったか?」






 二週間ほど前から始まった無差別毒殺事件。


 一番初めはカフェで、そのカフェが問題だと思われていた。

 その翌日、全く関係のない駅で同じ新種毒薬が使われ被害者は昏睡状態。


 三回目は六日前、映画館で毒殺。


 四回目は四日前、とある会社の出入り自由のレストランで犯行。被害者は死亡。




 そして五回目、昨日。高校生がカラオケ内で被害者となり、生死不明。







「それです。圜鑒さんに協力してほしくて」

「俺?」

「毒の解析と解毒薬を作って下さい」

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