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40.生まれた日

「アヤネ、ルルべリアから手紙届いた」

「レチェットのやつ?」

「たぶん」





 ある日の午後、今日は仕事中だが黎冥は特別に自室に帰らせてもらい、アヤネと二人で手紙を読む。








 内容的にはレチェットのいる場所が分かったと言うのと、下記の日に助けるので黎冥は全面的に協力するように、と。



 アヤネが危ないと言っているのに何故黎冥が。






「稔想どこ行った?」

「知らない」

「稔想に行かせよ」





 ベッドの上で、黎冥の膝に座らされているアヤネは黎冥の手ごと手紙を動かして内容を読む。






「……三日後」

「あの子供は届くのに何日かかるのか分かってねぇんだな」

「期日すぎてないのが奇跡じゃない?」




 黎冥はアヤネは立たせると自分も立ち上がり、紙をペンで塗り潰した後に炙って、細かく破いてから捨てた。





 過去にペンのインクを消して読まれたこと

 焦げの凹みから読まれたこと

 破いたものを組み立てて読まれたこと


 があるので念の為。



 これを解読し終わる頃にはもう終わってるよって言う。




 一番は水に付けて捨てる方法なのだが、ここには水を貯めて紙を浸けれるような器がないので三段活用で。










 部屋を出て校内を回り、稔想を探す。



 あれは本当に神出鬼没なのでどこにいるか予想が付かない。




 時に職員室

 時に実験室

 時に身長よりも遥かに高い木箱の上

 時に寮の密集地帯

 時に謎の空間




 謎行動が多い稔想なのでどういう時にどういうところに行くのかよく分かっていない。









 アヤネと二手に別れて奥の奥も手前の手前も探したが、姿どころか見たという人もいない。


 最近はどこで寝泊まりしているかも知らないし、本当にあの男、神出鬼没すぎやしないだろか。





「いた?」

「全然」

「どこ行ったかな……」




 二人で職員室前で落ち合い、とりあえず午後の授業が始まるので職員室に戻ろうと戻ったら。いた。




 長机に座って優雅に足を組み、午後は授業の入っていない慧と雑談をしている。




「あ、兄さんおかえり〜」

「お前どこ行ってたんだよ……!」

「さっき来たで」

「昼休憩始まってからの行動全部教えろ」

「え〜?」




 お昼前に匡火の授業の手伝い。



 その後に体育館でひとしきり生徒と鬼ごっこをした後に奥の右側にクローゼットの群生を見付けたので上を渡って迷路。

 疲れたので保健室で駄弁ってからここに来た。



 戸永(となが)は午後に会議があるらしい。





 黎冥に肩を掴まれた稔想がそう説明すると、黎冥とアヤネの二人から盛大な溜め息をつかれた。

 そんな顔せんくてもええやん。





「自由すぎ……!」

「なんかあったん?」

「ルルべリアから。三日後の二十三時にレチェット救出に向かうから黎冥は全面協力。アヤネを巻き込む気はないからお前行けよ」

「姉さん貸してや」

「好きに使えよ。俺関係ないし」

「また金で釣っといてー。俺釣れるほどの金ないからー」





 稔想はそう言うと、またどこかに消えて行った。


 一体どこに行く気か。





 と言うか紑蝶も神出鬼没だし、紑蝶こそどこに住んでいるかもそもそも定住しているのかすら怪しいので手紙の出しようがないのだが。




 どうやって呼べと。操れと。

 金を巻いて喰いつく魚ならどれほど良かっただろう。


 金が餌になるなら一本釣りぐらいいくらでもやってやるのに。







「……姉弟の出現率ってどうやったら上がんの……?」

「知らん」




 黎冥は膝を抱えてしゃがみこみ、アヤネは黎冥の頭の頭に手を置くと指先に力を込めた。



「痛い……!」

「お返し」

「仕返しって言え。最近なんもしてないじゃん」

「最近は、な? 私仕返ししたことあったか?」

「恨みは怖い」





 黎冥は髪を払うと授業の準備をして、アヤネとともに職員室でローブから白衣に替えると実験室に向かった。



















 その日の夜。



 紑蝶がやってきて、黎冥が掛ける声を無視してアヤネに飛び付いた。





「アヤネー! またヘアカラー標本見せて〜!」

「いいよぅ……」






 紑蝶に抱き着かれたアヤネは遠い目をしながら頷き、紑蝶は気が済むまでアヤネを撫で回したあとアヤネを後ろに向けた。





 今日も黎冥が朝から髪を編んだのだが、皆からはなかなかに好評だ。

 黎冥は上げた髪型しかやらないが、やってと頼めば大抵なんでもやってくれる。




 でもお任せにすると絶対に編み上げられる。




 それもそれで好評だ。

 項が見えると雰囲気が立つというなんとも反応しにくい部分で。







「綺麗な髪ね〜。こんな艶々なら編まずに流しとけばいいじゃん! 勿体ないとは違うけど、流した方が絶対際立つよ?」

「たまに降ろすよ」

「まぁ好きな髪型が一番だよね〜」




 とりあえず黎冥に紑蝶を預け、アヤネは寮にある本を取ってから行くと伝えて二人と別れる。









 かなり前になるが、紑蝶に化粧を教えた時に顔の形と肌の色に合う髪型と色が載った本を見せたのだ。

 紑蝶はそれがたいそうお気に入りのようで、髪が傷むから染めたくないが手入れをすれば綺麗になるなら染めてみても、という話をしていた。




 アヤネは肌が弱いため色素を抜く時点で頭皮が負けて痛くなるので無理だが、髪型は参考にしたりしなかったり。










 アヤネが本を持って黎冥の部屋に行くと、紑蝶の嫌がる声が聞こえてきた。


 鍵を開けて中に入る。




「ねーアヤネー! 私三日後に髪染めに行きたいのー! 四日後には国を出るから三日後がいいのにさぁ!? この男どもさぁ!?」

「でもちょっと置いた方が髪と色が馴染んでいいと思うよ。新しい髪色なら化粧の色も変わるでしょ」

「……それもそうね」





 弟達は内心で単純な奴と呟いたが、心の中に押し留めておく。







 紑蝶は椅子に座り、稔想はベッドに、黎冥は床に、アヤネは扉付近の壁に立ったままもたれ掛かる。






「……いいわ。じゃあ手伝ってあげるけど四に上げてね」

「はぁ? 釣り合ってねぇだろ」

「女子の美容を邪魔するんだから安いもんよ。それとも天下の圜鑒様でも払えない額かな?」

「……別にいいけど。男遊びしときゃ二週間もあれば稼げるくせに」

「弟から搾り取るのに意味があんのよ」




 紑蝶は頬杖を突いて足を組み、黎冥はベッドに腕と頭を乗せる。



 四人とも日終わりなのでお疲れだ。

 ここ最近はずっと慌ただしかったのでそれもある。






「そうだ、るい。アヤネの誕生日って結局いつなの?」

「四月二日」

「へぇ」

「そうなの? じゃあ来年はお祝いしようね!」

「その前に今年の兄さんの誕生日やで」

「そういう稔想と紑蝶の誕生日は?」





 稔想の誕生日は八月一日、紑蝶は十月二十三日。




 それぞれ友人から祝われることはあれど家族間で祝うことはあまりないらしい。




 それこそ、常に二人を操り生かし活かしている黎冥は誕生日プレゼントという名の貢物はあるが、それ以外で誕生日を渡したり渡されたりすることはない、と。







「稔想はついこの前じゃん。言ってくれたらプレゼントあげたのに」

「自分で強請るほど強欲ちゃうもん」

「誕生日を吹聴しててもおかしくないけど」




 強欲ではなくとも、誕生日は言い回ってそうな性格だが。




 何となく、犬感がある顔で言い回ってそう。




「分かるわよ。ただ純粋に伝えてきそうよね」

「自分から伝えて相手の聞いて次に行く、みたいな」

「皆ん中で俺はどうなってん?」

「癒し系」

「犬」

「自由人」






 アヤネの癒し系は分かる。

 よくふわふわした雰囲気でいると気が楽になると言われるし、嫌ではない。



 紑蝶の自由人も分かる。

 実際、物凄く自由奔放で自分で自分に貸す縛りなどない。






「兄さんの犬って何?」

「人懐っこいじゃん」

「そっちの意味? 従順な駒って意味で言ったと思ったけど」

「そっちの意味もある」

「兄さん!?」




 アヤネの予想が見事的中し、稔想が黎冥の怪我のない方の頬だけを引っ張る。




 常アヤネをつねるくせに引っ張られ慣れていない黎冥の顔は新鮮だ。

 面白い。






「そう言えばるいの頬っぺはどうしたの? 誰かに叩かれた?」

「え、いや血まみれになった」

「……どういうこと……?」

「ガーゼ替えるしついでに見せたら」

「なんかやだなぁ」




 黎冥はベッドに上がり、アヤネは黎冥の薬品箱から軟膏と消毒液、器具からガーゼとハサミ、ピンセットやコットンも取り出した。







 紑蝶と稔想は興味深そうに寄ってきて、黎冥はアヤネに頬を見せると自分で髪を上げた。




 本当に患部が広く、テープで貼っている場所も皮はめくれているし頬側に関しては血が出ていた場所だ。


 剥がすのも痛いだろう。




 でも三日経ったので剥がさなければならない。






 アヤネが一気にガーゼを剥がすと黎冥は顔をしかめ、紑蝶は口を押えて絶句した。





「なん……削られたみたいな……」




 本当に、荒いヤスリかおろし金で切られたような傷に、頬全体から血が出て固まっている。





「何この傷……!?」

「私の屋敷に行くとたまにこうなるんだよ。なんでか知んないけど。心霊現象の類」





 正直、凹凸一つなかった黎冥の頬に怪我をさせたことをかなり後悔している。



 あの日も日が暮れる前に掃除は終わってさっさと帰らせたし、それ以来行くにも行き先を伝えずに行っている。








 アヤネは首や腕、腹部だけだったので化膿程度で済んだが、黎冥のこれは痕が残ったらどうしようとずっと気が気じゃない。


 黎冥もあの屋敷は怖がっているし、今度本気でお祓いをしてもらおう。

 お祓いをしてもらって、屋敷を片付けて、あの屋敷には絶対に行かせないようにしよう。




 ホラー映画やドラマ撮影も不運な事故で中止が相次いでいるような本物の心霊屋敷。

 これ以上黎冥を傷物にしたらアヤネが殺される。












 消毒後に軟膏を塗ったガーゼを貼って、口が動くかを確認してから手当は終わり。




「なんか呪いでもかかってそうな傷口ね」

「……お祓い行こう」

「まぁ三ヶ月後に治ってなかったら」

「せめて一ヶ月にしぃや」




 黎冥は頬に触れると、大丈夫だとでも言うように笑って見せた。






 アヤネは申し訳なさそうな顔のまま消毒した道具を片付けて、ついでに薬の期限の整理をしておく。





「あそうだるい君。アヤネちゃんとはどうなったの」

「フラれました」

「聞いて! 兄さんおかしいねんで!」




 黎冥が首を傾げる中、稔想は紑蝶に黎冥の言葉を伝える。





 あの『一番楽な道』で伝えたと言うと、紑蝶は紑蝶から黎冥へ綺麗な三度見をした。




「でアヤネちゃんは恋愛感情湧かへんねやって! 当たり前やろ!」

「当たり前じゃボケ! お前頭腐ってんの!? はぁ!?」

「五月蝿い……」

「五月蝿いじゃないわ! ちょっとこっち来い!」





 黎冥は紑蝶に耳を引っ張られ、稔想は黎冥の背を押すとそのまま出て行った。







 いつ帰ってくるか分からないので、アヤネは鍵を閉めると黎冥のベッドに寝転がった。

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