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34.神守会議 中編 二

 アヤネが淡々とレチェットの状況可能性に述べ、色々あって黎冥が殴られた後。






 リリスの頼みでホワイトボードを全て消してレチェットの状況仮説を書き出していき、アヤネはホワイトボード前で腕を組む。




 黎冥の思考がまとまるまで少々待機。





「……これ見たらますます救出を後回しにした方がいい気がする」

「生きてた場合は人質に取られるけど」

「神守見殺しはまずいよなぁ」

「本音は」

「一人死んだぐらいで変わんねぇんだからさっさと終わらせよう」

「黙ってろ」





 アヤネに振り回される黎冥は口を尖らせおとなしく黙り、アヤネは仮説に色々と説明を付け足していく。





 レチェットが一般人として過ごしている場合。

 記憶を戻す方法があるかは知らないが消すというぐらいなのだからないのだろう。


 その場合は嘘を叩き込んで家族の元に戻すか、捨て駒か。





 記憶はあるが監視付きで動けない場合。


 場所にもよるが、この場合は先に神來社(からいと)を捕まえようとするのはやめた方がいい。



 自慢ではないがアヤネの頭は父譲りだ。

 アヤネよりも数倍頭のキレる神來社はこちらの動きを全て把握していると思った方がいい。


 下手するとレチェットを人質に捕らえられるか即殺されるかも。






 レチェットが移動中の場合。

 これに関しては状況と理由で動き方を変えた方がいい。



 神來社がそばにいて一緒に移動しているなら、最悪の場合殺戮兵器と化すので安全な方法とは言えない。


 愛しの妻を半殺しにした人だ。

 言ってしまえば黎冥よりも狂気じみているので下手に刺激しないことが得策。





 もし神來社がいない場合、移動手段は分からないがどれにせよ動かすのは全て人間。

 移動中と言えど睡眠は必要。



 レチェット本人、アヤネが会った限りではかなり真面目で屈しなさそうな人だ。

 たぶん他者が寝ている間も起きて、他者が起きている間に寝ているのではないだろうか。



 乗り継ぎや待ち時間、場所が分かるなら人が多い時間に引き離すことも無理ではない。


 そして、その周りを協力者で固めればより容易になる。








「……零、蘆黎(ろくろ)呼んできていい?」

「なんで」

「なんかおかしい」

「稔想行ってこい」

「弟君の方? お兄さん?」

「上の方」

「はい」





 何故こんなにも引っ掛かるのだろうか。



 トントン拍子に進んでいるからか。

 神來社の思考が読めるからか。







 皆が感心する中でアヤネは一人、謎の気持ち悪さを抱えながら首を捻る。








 欛虂も実はまぁ頭がいいのでいたら便利だったよなぁと考えていると、稔想が蘆黎兄を連れて戻ってきた。





「あ、あや……」

「連れて来たでー」

「蘆黎君、何も聞かずにこれのおかしな箇所を探して」

「えーと、前提条件は?」

「なし」

「うぅんムズい」




 蘆黎はホワイトボードを眺め、いきなりしゃがんだかと思えば口元を手で覆い、瞬きせずにホワイトボードを眺め始めた。




 アヤネは紙を台に挟むとペンと共に渡す。


 と、膝に置いて重なったり明らかにおかしい文字を、紙を見ずに書き始めた。




 内容を整理するだけのものだ。

 読めなくても何を書いたか記憶に残っていればいい。





 その間に黎冥とアヤネもその疑問と可能性の高さを考え始める。










 その場に沈黙が走り、皆が三人に注目して小声で話し始めた時。



 蘆黎が独り言を言い始めた。




「ははーん……なるほどね……? あぁん……はぁはぁ……」



 一人納得し始めたので皆が奇妙な目で見るが、残りの二人は一切聞いていない。






 三人の凄まじい集中力と裏腹に皆の、特にリリスの集中力が切れ始めると蘆黎が立ち上がった。




「あや、分かったよ。合ってるか知らないけど」

「……アヤネちゃん」

「え何」



 稔想に肩を揺すられたアヤネはハッと二人を見上げ、蘆黎の考えがまとまったことを聞くと黎冥の耳元で大きく合掌した。




「零、終わった」

「ふーん……」

「何が分かった?」

「え、えぇと……」



 全く関心を示さなさい黎冥を放置して、蘆黎におかしなところを聞く。







 そもそもの話、前提条件のなかった蘆黎には『留めておけるだけの状況』があるのに『移動させる』理由が分からなかったらしい。



 誘拐するにしても下手に移動するよりその場に立て篭もるか、篭もれる場所に連れていく方が明らかに有利だ。

 だって移動するにはどうしても人数制限が出てしまうから。



 百人で一人を固めているとして、それなら百一人でいれる個室を選ぶ。

 わざわざ十人ずつにならないと移動出来ない場所になど行く必要はない。






「つまり行く必要を見付けたらいいわけだ」

「えいや……本当に前提条件ないの?」

「あるけどなしでいい。私が選別するし」

「あっそう……」





 神來社は聖なる力を作り出す実験で二人だけ人体実験を行っていたはずだ。

 その実験に力持ちが必要となればどうだろうか。



 レチェットをさらう理由として、不自然ではないが疑問が残る。


 それなら二人を連れ去った方が必要なものは多く手に入るだろうし、レチェットのみが持っているものもないだろう。







「……あぁそう。分かった。もういいよ、助かった。じゃあね」

「え、ちょ……!?」

「ん?」

「ん? じゃない! 呼んどいて扱い酷くない!?」

「お時間を割いて頂き誠に有難う御座いました。忙しいかと思いますので今日のところはこの辺で。じゃあね」

「あや……!」




 扉を閉め、黎冥の頭を叩いて思考を戻ってこさせる。





 なんだろうか。

 皆の視線が感心したものから奇妙なものを見る目に変わっている気がする。

 まいっか。






 いきなり頭を押された黎冥は我に返り、慌てて頭を庇う。



「何!?」

「呼んだ時に帰ってこい」

「呼べよ」

「呼んだっつってんだろ」

「……あれー」

「うっさい」




 黎冥は髪を整えると、アヤネを見上げた。


 幾分かスッキリしたような、納得したような雰囲気に変わっている。




「原因は?」

「そもそもさぁ」




 そもそも、スヒェナが帰ってきたところでおかしかったのだ。



 何故レチェットだけをさらったのか。

 何故一緒に入ってきたスヒェナは帰したのか。




 内部がバレても問題ないなら記憶は消さないだろう。

 レチェットが必要で、レチェットだけで足りるならスヒェナも一緒にさらって必要なものだけ取り出すはず。

 後は喰うなり捨てるなり知らないが、でも予備として保管すると思う。



 何故スヒェナを帰したのか。



 この時点で違和感がある。





 どちらがなんの情報を掴んでいるかも、ましてや神來社がいない寺で二人が力持ちなのかも分からないのに何故スヒェナだけ。




 考えられる説は二つ。


 一つ、レチェットだけで事足りるから。

 スヒェナが要らないほどに、それはもう完成完結完了間近だから。



 でもその場合はスヒェナが記憶を持っていることが不思議だ。


 もしかしたらその情報がバレてこちら側に伝うかも。



 それならスヒェナの記憶も消して改竄して帰した方が向こう的には安全。






 二つ。

 何気にこれの可能性が一番高いかもしれない。




 こちらの誰かをおびき出そうとしている。


 それも、この事が起こると必ず関与する誰かを。





「誰か? レチェットは囮ということか?」

「十一年間、記憶がある中でも約八年間。神來社と親子として過ごしてますけどあの人の性格からは有り得る話です」




 神來社、父は非常に用心深く、針しか通らないような穴をも塞ぐような、そんな抜かりない人だった。



 何事にも順序を立て、その順序から仮説と未来予測。

 その未来に必要最低限なものを必ず身に付けるような。




 宗教に依存して離婚し、たとえ腐ったとしてもこれは再婚後の話。

 たぶん正気に戻って宗教を操り社長として立つ人がこんな単純な穴を塞ぎ忘れるだろうか。



 答えは否。






 たとえ逃がしたとして、今頃血眼で探しているのだから何らかの報告は入っているはず。



 今までま消えた人もそうだ。


 全員力持ちで、神守からの依頼として送り込まれ姿を消した。




 神來社の狙いの条件は、最低限神守に係わり、レチェット捜索に関して必ず神來社に接触する人。


 又はその人が持つ何か。

 物の場合は常に身に付けている物の可能性が高い。


 あんな危険な場に行くとして、普段付けないような物は付けて行かないだろう。







「……あくまでも仮説ですよ」

「一番可能性が高そうだけど」

「零はなんか分かった?」

「えいや特に。でも今の話から目的の人物は何人か候補がある」



 今の一瞬でか。




 もう黙っているしかない皆が黎冥に注目し、黎冥は指を三本立てた。





「一人目、黎冥稔想」

「おれぇ!? なんでぇ!?」

「ちょっと黙ってろ」

「無理や!」

「稔想五月蝿いわよ」




 紑蝶の言葉で稔想は口を閉じ、不安そうに黎冥を見た。




「これは完全に直感だけど。……昔、神來社と話した時に稔想の話をしたことがある」



 その頃から兄弟仲は完全に縦の関係だったので紑蝶が弟達を虐げていたのだが。




「ちょっと言い方悪いわよ。可愛がってただけでしょ」

「親猫が子猫を本気で噛むようなもんやろ」

「あれは完全ないじめ現場」

「んな事どうでもいいから続けろ」



 バッサリ切られた黎冥はおとなしく続きを話す。






 神來社と話した時、神來社は稔想よりも命の加護というものに強く反応した。



 神來社は黎冥達よりも一世代上だ。

 アヤネ達の世代になると黎冥達の下になる。



 あの頃から実験を予定していて、追放されると分かっていたのなら後世の加護情報は必須。




 そこで、唯一の黎冥からの確かな情報。


 黎冥稔想は命の加護がある。




 他人を一か八かで連れ去り、結局加護はありませんでした、では警戒された校内から次の標的を連れ出すことは難しい。




 そんなことを繰り返していれば何年かかるどころか、警戒を緩めるために記憶をいじって返すと神來社の足が付く方が早い。





 それならアヤネの言う綿密な計画の後、少し扱いずらいかもしれないが弱い稔想をさらった方が調教方法はいくらである。



 神來社が求めるのは扱いやすさよりも正確さ、量より質だ。

 そして、黎冥の血を僅かにでも引く奴なら最高品質が大量に手に入る。





「で、二人目。量より質。最高品質が大量繋がりで可能性は限りなく低いけど俺」

「あーあるね。でもほぼないようなもんでしょ。意味ないじゃん」

「そー。だから限りなく低い」

「おい他人を置いていくな」



 時々リリスが声を掛けないと二人で先々進めるので何も分からない。




 そう言うと、黎冥は面倒臭そうに説明し始めた。


 自分のことになるとこうも嫌がるのは何故か。




「簡単な事だろ。俺は稔想より質がいいし生まれつき黒だし黎冥の血筋。しかも神來社と面識がある。誘拐するにも使い潰すにも一番価値がある」

「……鼓の言う意味がないというのは?」

「追放される前に零をさらっておけば捕まる前に完成させられたのでは、という話です。それこそ、命の加護が必要なら零を人質に稔想を使えばいいだけですし」

「なるほど……」




 これ、話を聞いている親と姉は気が気ではなさそうだ。

 両親は既に顔面蒼白。優しいね。






「……三人目は?」

「これがたぶん一番可能性が高い。自分の娘、鼓アヤネ」

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