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25.再会

 加護持ちの経緯を省いていることだけを伝え、その日のうちに三人を帰らせた翌日。







 気分の上がらないアヤネは寮で本を持ったまま、それを開かず茫然とする。




 昨日の記憶が朧気で、もしかしたら夢だったと思うほど本当に朧気で、ただ茫然と壁を眺める。









 今日は一度も外に出ていない。

 外に出ていないし、明かりも点けていない。


 今日はそんな気分。







 アヤネが本を軽く振りながら昨日の女神様の言葉を脳内で反響していると、部屋にノックが鳴った。



 この部屋に訪ねてくる人などたかが知れているので無視して、本の角で壁を叩く。





「ノックをノックで返すな」

「んの用だよ」

「お客様」

「私に用がある人なんていない」

「それ自分で言ってて悲しくないの」

「ないね。それが私の人生だから」

「開けるぞ」





 開きかけた扉をドアノブに足を引っ掛けて閉め、ドアノブを持つと後ろにもたれながら壁に足を置く。




「客人いるんだけど」

「どうぞお帰り下さい」

蘆黎(ろくろ)君」

「関係ないじゃん」

「仲良いじゃん」

「気のせいだろ」

「はぁ……!?」




 そこまで仲良くなった覚えはない。



 確かに高校の話で盛り上がりはしたが、話が盛り上がるのと仲がいいのは別。


 嫌いな奴でもやろうと思えば出来る。





「……まぁいい。弟子だろ」

「いつもの無茶ぶりに戻んなよ」




 アヤネは致し方なく扉を開け、素顔黎冥と驚いた顔をする蘆黎(ろくろ)を見上げた。




「お前が案内しろよ」

「用件分かってんじゃん。話が早い」

「やる気ない」

「なくても動け」




 て言うかそれこそ稔想にでもやらせておけばいいものを。





 アヤネがあぐらをかいて黎冥と睨み合っていると、心の中で呼んだからだろうか。


 半泣きの稔想が黎冥に飛び付き頭突きをした。





 ゴンッと鈍い音が鳴り、蘆黎が驚いてその場を飛び退く。





「いっ……た……!?」

「兄さぁぁぁん!」

「んだよ……!?」

「もう姉さん嫌いぃぃ!」

「二十二になってまで泣くなや泣き付くな鬱陶しい!」

「そうや、兄さんプレゼントちょーだい」




 稔想の頭に手刀を落としてその場を退かせた。



「……閉めてるし」

「そ、その人が来たあたりから……」

「嫌われてんな。ご愁傷さま。稔想、蘆黎の案内と寮決めたのんだ」

「俺教師ちゃうやん」

「頼んだよ」

「……はい」





 稔想はおとなしく蘆黎を連れて行き、いつも通り生まれつきの話術で仲良くなり始めた。




 黎冥はまたアヤネの寮をノックして開け、しゃがんで扉前で待っていたアヤネに視線を合わせる。




「どうした」

「気分が乗らないだけ」

「じゃあ暇なんだ」

「……まぁ……」

「この前の約束果たしてもらおうか」



















 ということで黎冥部屋。



 アヤネは黎冥に鏡を借りながらブラシで色々と塗り重ねていく。





「なんで赤系メイクなの? もっと暗い色の方が零との相性はいいでしょ」

「相性と好みは違うだろ」

「……そうですか。案外好みハッキリしてんだな」

「芯が強いっつったじゃん」

「ブレねぇな」




 こういう、涙袋と唇を目立たせてハイライトを白抜きするメイクは細かいので面倒臭い。




 元々まつ毛は上がっているのでそのままマスカラを塗り、ダマを取ってから束にする。




「メイクしてるところって見られたくないんだけど」

「なんで」

「してる途中が一番気持ち悪いから」

「あっそ」



 こいつの顔を踏み倒したい。



 罰則に、なんなら退学になってもいいから踏み倒したい。





「こういうメイクって難しいんよ」

「ふーん」

「興味無さそうだなおい」

「完成系が見れればそれでいい」

「顔洗ってきていい?」

「また一からになるけどどうぞ」

「自分でやりゃいいものを……」





 おとなしく頬と鼻、額と顎にも少しチークを入れて、最後にハイライトを入れた。






「完成」

「なんでも似合うなその顔」

「なんでもなれる顔だから」

「便利」

「男装が出来るのは便利」

「え男装出来んの!?」




 遊びでたまにやっていた。

 今は道具もやる気も意味もないのでやらないが、前はたまに。



 ちなみに『塩顔イケメン』らしい。

 一重にするのでそれが原因か。





「えー見たーい」

「えー死んでもやだー」

「じゃあ殺す」

「やってみろよ」

「……今度稔想に教えてあげよ」




 何故かアヤネが舌打ちして、黎冥の気が済むと蒸しタオルを作り始めた。


 どうやら未だ避けられているらしい。

 我が弟ながら愚かというか阿呆と言うか。







 蒸しタオルを顔に当て、毛穴が開いたところで化粧落としシートで落とす。





「今年の夏は暑くなるらしい」

「この学校って気温変化ないよね」

「万年二十二度」

「快適気温だ」

「日光も入らなければ風も入らない。雨漏りどころか下が土なのかどうかも怪しい」

「環境変化のないわけだ」





 今度、死の女神に箱庭について聞いておこう。

 一番聞きたいのは、何故生徒は家具に閉じ込められるのか。


 あと扉の仕組みも聞きたい。



 女神様と話すのは突っかかりももどかしさも、息苦しさもないのでとても楽だ。


 同じ顔と言うのが関係しているのだろうか。







 アヤネが顔を拭いていると、本を読んでいた黎冥がふと顔を上げた。




「そういや今回の女神様との会話長かったな」

「体感二十分、脳内四十分ぐらい」

「実際には四時間半」

「時の狭間だから時間軸が違う」

「でも長かったのに違いはないだろ」

「ふーん」





 適当な声で返事をすれば、黎冥は微かに眉を寄せた。




 これは変に聡いので嫌なところまで踏み込んでくる。


 黎冥とアヤネが衝突する一番の理由だ。





「今日の気分が低いのはそれが原因か」

「さーねー」





 メイクが落ちたことを確認して、最後に右瞼を軽く擦った。



 右目を閉じると、左は視力がないので片目開けて視界真っ暗状態になる。

 なので右瞼の見落としが結構多いのだ。




 目尻も汚れがないことを確認して鏡を置いた。








「……何」



 睨んでくる黎冥を睨み下ろせば、黎冥は眉を寄せる。



 不満と言うか心配と言うか、目が揺れている。



「なんかあったろ」

「言わない」

「なんで」

「お互い言って聞いて後悔するのが目に見えてるから。不幸になる道を進むほど被虐性はないんだよね」

「俺があるみたいに言うなよ」

「言ってねぇよ」

















 アヤネが隈だけ隠して馴染ませるためにチークを入れていると、部屋にノックが鳴った。




「にいさーん、寮決めと案内終わったでー。お兄さんも来たみたいやし」

「お兄さん?」

「蘆黎兄。アヤネが元々行ってた高校と同じところからの転校生」

「一ヶ月しかいなかったからな……」




 アヤネが立ち上がり、黎冥が後ろから手を伸ばして扉を開ける。




 稔想は何故か顔を引きつらせたが二人は平然と外に出て、稔想を置いて職員室に降りた。













「兄って何歳」

「アヤネと同い歳」

「……気分悪いから帰っていい?」

「悪いのは気分じゃなくて機嫌だろ」

「お前の悪評流すぞ」

「風評被害止めろ」





 職員室前に着いたアヤネは盛大な溜め息を吐いて項垂れ、黎冥は軽く首を傾げて覗き込む。



「面識あり?」

「ありまくり。転校前高校もだけど中学も一緒」

「へぇ。仲良い?」

「さぁ。いい方なんじゃない。お前とよりは」




 ドスの効いた声を出す黎冥を無視して、黎冥を押して職員室に入った。






 中に弟と仲良さそうに話しているアヤネと同い歳の、アヤネより遥かに身長の高い男子。

 黎冥より少し高いぐらいか。




「蘆黎兄弟」

「あ、初めま……し、て……」

「ほら兄さん。言ったでしょ」

「あ……あやー!? あや!?」

「ひ……さしぶり……」



 黎冥の後ろからひょっこり顔を出し、それと同時に肩を掴まれ強く振られる。




 必死に首に力を入れて頭への振動を抑えているが無理だ。太刀打ち出来ない。



 半瀕死になっていると弟君が兄を止め、黎冥がアヤネの意識を戻す。





「アヤネー、起きろー」

「きもちわる……」

「吐くなよ」

「ほん……も……!?」




 兄は弟の後ろに隠れて絶句し、黎冥は床に手を突くアヤネの背をさする。




 数分してアヤネは黎冥の袖をガシッと掴むと全体重を掛けながら立ち上がった


 黎冥を杖にするな。





「……久しぶり蘆黎君」

「あ、あや……あや……その、人……」

「あぁ〜……ファンだっけ。言ってたね」

「顔面……良……!?」




 蘆黎兄は完全文系で、理数系に憧れて理数系の科学者にだけは詳しい。



 アヤネは理数系、蘆黎兄は文系。




 高校の入試でアヤネから首席を奪い、実力試験でアヤネに蹴落とされた人。


 つまり学年一位と二位。




 大丈夫、そんなライバル関係じゃない。仲はいい。



 馬鹿中だったのでお互いに得意分野を教え合うしか高校に受かる方法がなかった。

 その結果、衝突に衝突を重ねてすり減って丸くなって仲良しに。




 蘆黎兄はすり減ったのは苦手という意識で、減ったのではなく得意という枠に引っ込んだと言っていたが、何言っているか分からなかった。


 すり減ったという言葉はなくなった際に使うものだ。

 減れば同じものは二度と戻ってこない。







 そんな蘆黎兄が二番目に尊敬しているらしい人。


 会ってみれば案外クズだった。




「期待しない方がいいよ。ことごとく期待を裏切ってくるから」

「ほぇ……?」

「感動で泣く人っているんだ。初めて見た」

「お前は血も涙もねぇだろ」





 しゃがみ込んだ蘆黎兄は潤んだ目で黎冥とアヤネを見上げ、感動ものでは毎回泣く稔想は黎冥の頬をつつく。




「兄さん二位やって」

「一位は誰だっけ」

「ほ、墓千様……!」

「あぁ、よかったね」





 案外普通の回答が返ってきたなと、面白味のない回答に適当に返事をする。





「サインぐらい貰っときなよ」

「う、うん……!」

「アヤネちゃん優しいなぁ」

「人間いつ死ぬか分からないし」

「そんな脆ないよ」

「脆いよ。ロープで十分、喉元掻っ切られたら五分、水中に三分もいれば死ぬんだから」

「……アヤネちゃんなんか……」

「稔想退け。人に乗っかる癖やめろ」




 これ以上行くとまずいと悟った黎冥は稔想を退かし、表情が死んだアヤネの頭に手を置く。と、指先に力を込めた。



 反射的に逃げたアヤネは頭を抱える。




「頭いい人が頭でっかちって言うじゃん」

「何も言ってない」

「……言うと思って」

「無意識にやってんなら最低」

「わざと」

「は? 止めろよクズ」



 どっちに行っても貶されるではないか。

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