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24.来校

 だから何故起きたらこんなことになっているのか。






 いや、今回の原因は明白だ。



 昨日のアヤネの屋敷から帰った夜、黎冥の部屋で休んでいたアヤネが帰ろうとしたら引き留められた。





 これは思った以上に怖がりなようで、たぶん紑蝶よりも怖がっていたのではないだろうか。

 一番はダントツで稔想。




 昨日は部屋の灯りも点けたまま、もう暑いだろうにアヤネを抱いたまま毛布を被って寝た。




 そう、添い寝状態。






 ずっと目を開けて寝ていなかったので花の女神の歌にて強制的に眠らせ、うなされている時はずっと背をさすった。




 ちなみに今はアヤネが起きて、黎冥はアヤネに腕枕をしたまま腰に手を回して枕側の腕で本を読んでいる状態。





「起きたら退けよ」

「おはよ」

「あっつ……!」



 布団を蹴り飛ばし、起き上がると髪を整える。







 アヤネとしては生まれた頃からあれが当たり前で、幼少期はあの離れで一人で過ごすことが多かったので特に怖いと感じたことはない。


 離れ専属の料理人や家政婦、掃除婦はいたが乳母や側仕えがいなかったので基本一人か、両親が揃っているうちは両親の元に行くことが多かった。



 あとは料理人に料理を教えてもらうか。







「夜間当番じゃなくて良かった……」

「もしかして私も付き添わなきゃいけなかったやつ?」

「うん」

「なくてよかったー!」




 アヤネが椅子に座って髪を整え、むくみ取りに顔を揉んでいると部屋にノックが鳴った。





 この部屋にいる時間が増えてから分かったが、黎冥の部屋は案外客人が多い。



 稔想だったり紑蝶だったりはもちろん、慧も羽鄽も兎童も、時々だが匡火(ただび)(にな)も、藥止司書もやって来る。




 あとは嫁陣、墓千、鳴嬪、セリョアや雯麟(ウェンリン)


 後半二人は主にアヤネの居場所を聞きに。







 変な噂が立ちかねないので二人とも息を潜める。



 また強く叩かれ、次第に間隔も遠慮もなくなり、ドンドンドンドンドンと永遠に叩かれ始めた。




「起きろ黎冥!」




 慧と兎童の怒声がする間、黎冥は壁に向かって読書、アヤネは黎冥に背を向けて制服に着替える。



 昨日の夜、せめて着替えさせろと言ったら死んでも見ないから一人にしないでくれと、それはもう死にそうな顔で言われたのでここで着替えた。

 もちろん黎冥を布団に包ませた上で。




 まぁ見られたとしてもアヤネの中で黎冥に対する信頼とようやく上がってきた好感度、それと積み上げてきた僅かな人望がなくなると言うだけ。






 アヤネが着替え終わって黎冥の肩を叩くと、黎冥は本を閉じて扉を開けた。




「何」

「遅い!」

「朝弱いって知ってんだろ。説教より前に本題話せ」

「黎冥先生、職員室にる、ルルべリア当主様と……」

「紑蝶使って五分粘れ」






 黎冥は扉を閉めるとアヤネとお互い背を向けて黒の神服に着替えた。




 アヤネの神服は、一着は黎冥の部屋に置いてある。



 また静蘭(しずらん)のような不法侵入者が現れて切り裂かれないように。

 切り裂かれても、すぐには用意出来ない色の神服が一枚だけでも守れるように。




 こういう時に役に立つ。




「アヤネ、着替えれたか」

「うん」

「さて……昨日と同じだろうな」

「こっちに振らないでよ」

「相手が振った場合は俺に振れよ」





 鍵を掛けて職員室に向かえば、職員室に見えたのはルルべリア当主のリリス。と。



 ハン家長女、ハクサ家長女、それらを食い止めている黎冥家長女と次男。





「聞いてねぇぞ……!」

「零が話の途中で扉閉めたからでしょ」

「うーわ最悪」



 黎冥はハクサ家長女との仲が険悪かつ最悪だ。


 同い歳の二人が何故そんなにも険悪かと言うと、同い歳だから。





 武術体術が才能的に優れたハクサ家長女は、何故か知的面で黎冥に張り合い、黎冥は黎冥で顔が生理的に無理なことに加えていちいち突っかかってくるので嫌っている。



 神話界で犬猿の仲はと聞かれて出てくるのは黎冥長男ハクサ長女か、黎冥長男ルベイン長男のどっちか。






「こんな朝から何か御用ですか」

「黎冥圜鑒、先に挨拶をしなさい」

「さようならとでも言いますか」

「貴方ねぇ……!?」




 早速衝突し始めたハクサ家長女のレチェットと黎冥が睨み合うと、アヤネが黎冥の背をつねってリリスがレチェットを下がらせた。





「圜鑒、この三人がいるということは分かるな?」




 黎冥の椅子に座って皆を見上げたリリスを見下ろし、腕を組む。




「分かりますよ。分かりますけどこんな朝っぱらから前触れもなく来る意味とは? こちらでも動いていますしルルべリア当主様に来ていただくところまでは進んでいませんよ?」

「落ち着け」





 アヤネが牽制すると黎冥は口を閉じ、リリスは少し視線をさまよわせたあとにアヤネを見上げた。こっちを見るな。




「……傷付いたぞ」

「そうですか。で?」

「分かっている現状と相手の動きは紑蝶から聞けたのでもういい。お前の言う通り動きに関してはまだ私が出る幕ではない」



 それはリリスも承知だ。

 改めて言われると結構刺さったが、承知している。




 リリスが言いたいのはアヤネに対して。




「死の女神に会って加護を渡した子について聞いてくれないか。あの宗教内に僅かだが加護を持つ子がいるかもしれない」

「いいですけど。どうするつもりですか?」



 もし力持ちがいたとして、引き抜こうとした瞬間に記憶をいじられるか消息を絶つか、そもそも引き抜くための接触も、検閲があるなら手紙も無理のはず。



 それに全国にいるならどこにいるのかも、どうやって暮らしているのかも定かではないだろう。





「抜け目ない準備が整った上で言っているなら私も協力します。が」



 が、女神様に聞いてみよう。加護持ちがいるんだって。じゃあどうやって引き抜こうか?



 では到底協力する気にはなれない。



 知るだけ知って、気掛かりを作るのもただの聞き損になるのも嫌だし何より面倒臭い。






「それに関してはちゃんと練ってある。居場所も分かるし協力してくれる人も親も分かってる。抜け目無いはずだ」

「……伝える気はないと。そうですか」

「協力してはくれぬか」

「いえ、ちゃんとやりますよ。こちらも伝えることがあるので」

「いつものところ使え」

「うん」




 鍵を取ってフックに黎冥の札を掛け、職員室を出て行く。




「貴方も貴方の弟子も敬意というものがありませんね」

「神話界の最上位は黒の一位だ。二位で一位の弟子なら私よりも上になる。間違っていないだろう」

「彼は黒としてではなく黎冥長男として接するべきです!」

「んな掟も常識もねぇよ。自分の思考を他人に押し付けんな」




 レチェットと黎冥が口喧嘩しているうちに校内に骨が折れそうなほど重い圧が伝わり、扉前に集っていた生徒の数人は気絶、動ける者は皆寮に帰って行った。





「な……なんですかこれ……!?」

「死の女神と接触してんだから当たり前だろ」

「これが……女神の……!」



 この中で最も弱い紑蝶は崩れ落ち、レチェットと、続くハン長女もリリスも稔想も気分が悪そうにへばり始めた。




 今回は少々緊急なので静脈注射で回復促進薬黎冥版を使って回復させよう。


 これらにはさっさとお引き取り願いたい。







 うずくまり机にへばりつく五人を見下ろし、しばらく動けないというのを確認すると部屋に戻り、薬の準備を始めた。






 気絶している中で錠剤を飲ませるのは危険極まりないので、自己血輸血で投与しよう。




 本人から血液を抜いてそこに錠剤を溶かし、また本人に輸血するという方法。






 貧血にはならないはずだ。採った分だけ確実に戻せば。






 乾燥している促進剤の中身をすり潰し、試験官の中に入れてから蓋を閉めた。



















 まだだろうか。

 さすがに遅くないか。




 いつも内容が豊富な時でも二、三時間。長くても四時間前には終わるが、四時間半を立っても圧がなくならない。


 まさか忘れているわけでもあるまい。




 死の女神が引き留めることもないはずだし、アヤネなら事情を説明して理解を得られると思う。







 皆がうずくまり、紺も何人かが失神し始めた時。



 ふっと圧がなくなった。

 と、同時に糸が切れたようにほぼ全員が気絶し、起きているのは黎冥だけとなる。


 たぶん寮に篭もっている生徒も引きこもり中の雯麟(ウェンリン)とセリョアも起きているだろう。









 必要な医療器具を一通り持って、祈祷室に降りる。






 祈祷室に入るといつも通りアヤネは気絶しており、仰向けに変えてから袖をめくる。




 いつも二の腕や素足を見ると、アヤネが露出を嫌う理由が分かる。



 いじめで出来たものだろう。

 痣や傷痕、化膿痕の変色した肌や色素沈着で浮いた痕。



 思春期前に出来た傷は思春期になってから余計に気にするものだ。

 これもストレスの原因かもしれない。






 アヤネから少量の血を抜き、薬を溶かしてからまた戻す。


 医療知識はあるし、医師免許のある墓千から一通りの実務研修は受けているので問題はない。





 血が全て戻ったことを確認して、器具を片付ける。








 すぐに起きるのに保健室に運ぶのは面倒臭いのでそのまま放置して眺めていると約十分してから目を覚ました。

 まだ少し顔色が悪い。





「おはよ」

「だからさぁ」

「いい加減慣れろよ」

「お前の顔に慣れたら負ける気がする」

「なにが? えどゆこと?」

「退け」



 顔を押し退けて体を起こし、痛む腕を見下ろす。






 袖がめくれているのを払って整えると、茫然と扉の方を眺める。



「嫌な話を聞きました」

「そうですか。で、加護は?」

「縁の女神と生の神が大喧嘩して生まれたあとの絆が絡まったらしい。一応死の加護はあるにはあるけど、本来は持つべき子じゃないって」

「そんなんあり?」

「なくてもあった」





 だんだんハッキリとしてくる意識と同時に嫌な記憶が蘇る。


 今日は酷い一日になりそうだ。

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