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23.怪奇現象

「まずは会議の内容と結果報告」

「えー、婚約の話じゃないのぉ!?」

「婚約の話はしない。座れ」




 机に手を突いて立ち上がった紑蝶を座らせ、会議に出席した紑蝶と、主に稔想から内容を説明してもらう。








 会議内容は、最近振興になり始めている宗教について。


 信徒の神を掲げ、人を神の進化前だと説き、多くの無神論者や無宗教を引き入れている。




 どこぞの神がいるから魂が導かれるとか、そんなんじゃない。

 人が発展させてきた技術こそが神の代物で、同じ人間になら同じ、いやそれ以上の事が出来る、と唆す。





 神話と同じ神を掲げていることから信徒が開いたものと思われ、今は怪しい人物を絞っている最中。




 力持ちではバレる可能性があるため力なしの一般人を潜入に向かわせると、その者との連絡が途絶えているらしい。

 それが四人。



 郵便配達員の出入りがあるため文通は可能なはずだが、検閲があるのか力なしでも信徒とバレているのか、今のところ二度目以降の連絡は返ってきていない。







「そんな宗教がまずいの? 国で信者のところもあるんでしょ」

「元々無神論者が大半の国民がいきなり宗教に入ったら何されるか分からない」




 洗脳や詐欺、法の穴も疑問を抱かず使ってしまうため、何が引き起こされるかが未知数だ。


 言ってしまえば宗教に対しての抗体がない人種。

 何が普通の宗教で、何がおかしな宗教なのか、それすら分かっていない。





 その宗教内で収まればいいが、もし生活金のために赤の他人を騙し始めたら、もし儀式のためと称して殺人や遺体泥棒を始めたら。




 信奉者など全国にいるだろうに、この国が混乱に陥ってしまう。








「それに同じ神を語ってんのも問題やねん。もし信奉者の子が力持ちやったとして、何されるか分からん」




 何もされなくとも、同じ神を語るのにこちらには付かないものだ。

 学校から隠す可能性は大いにある。



 そして、正しい力の使い方を学ばず、行き場を見失った力は本人の体内で爆発的に暴走する。





 それが水色なら死ぬまで起こらないかもしれない。

 だが、もし紺だったら。もっと言えば黒だったら、二十も行かずに死ぬ可能性だって大いにある。






「見つかった時点で俺を超えてたアヤネがその歳まで生きてんのが奇跡って思っとけ」

「私って紺上がりとかじゃないの?」

「分からん。でも元紺がそれだけの力を持つのはほぼ有り得ないから……かと言って生まれつきの黒なら今まで中心校が放置した理由も分からない」





 中心校は万年黒を欲している。

 放置する理由が分からないし、そもそも感知出来ていたのだろうか。

 同じ死の女神の加護が強いセリョアならお告げがあってもおかしくはないが、セリョアはそういった話は全くしていなかったはず。




 それにアヤネには五大神の加護があるのだ。

 たとえ現在死にかけている死の女神が無理でも、生の神が黎冥に告げることも、命の神が校長に伝えることも出来ただろう。



 あの神石が出現した瞬間に気付かれないのもおかしな話だ。





 アヤネの力が成長過程で爆発的に増えたとして、それこそ感知しやすくなるのだからこの歳まで放置されることはない。




 黎冥に推薦が回ってきた時、推薦状には黒の()()()()()()と書かれていた。


 決して高いという言葉も、黒だと断定付けることも書かれていなかった。


 中心校ももしかしたらそうかもね、という気持ちで送ったのだろう。





 最終的には黎冥の判断で黒と決めたが、そもそもその時点でおかしかったのだ。



 初めての祈りの時点で、黎冥の力は優に超えていた。


 なのに清々しいほど疑問を持たず、あぁこれは黎冥よりも上を行くバケモノだと、そう受け入れた。




 当時、何故これほどの人材が見つからなかったのか、何故黒を超える少女が放置されていたのか、疑問にすら思っていなかっただろう。

 ただ、アヤネの履歴や過去、血筋や近状を調べるだけ調べて、力のことに関しては一切調べていない。








「……なんで調べなかったんだろ……」

「兄さん……」

「帰ってこい研究者」






 黎冥の目の前で手を叩き、意識をこちらに戻させる。


 ちなみに紑蝶はケーキの半分を食べ終わった。







「その宗教も同じような状況よ」

「どういう事?」

「今まで見つからなかった理由が分かってないの」




 紑蝶はケーキを食みながら皆に説明する。






 こういう界隈のため、全世界に蔓延る神様論議は耳に入ってくる。


 黎冥家長女、ハン家長女、ハクサ家長女の三大長女はこの管轄を受け持っているため、嫌という程情報は頭に入っているのだ。




 特に黎冥家長女は自ら現地に出向き、信奉者や信仰者の懐に入り込んで聞き出すためその情報に詳しい。





 そして、この宗教は今まで見付かっていなかった。


 いきなりこれほど拡大したため、前々から大きくはあったはずだ。

 それなのに、何故か誰の耳にも入っていなかった。



 国を代表する黎冥家長女に責任を問われかけたが、先日までハクサ家長女が来日していたため未だ疑問のまま、今は信奉者の対応に追われている。




 が、いくら頑張ってもあの宗教がどうやって隠れていたのか、何故耳に入らなかったのかが分かっていない。



 これも当宗教が問題視、危険視される原因の一つ。








「教祖か誰か知らないけど、もしそれが力持ちの信徒で人の記憶を操ってるならそれは大罪になるわ。それもこれだけの人数。極刑前に死よりも……」

「姉さんアヤネちゃんに言うことちゃうやろ」

「記憶を消すのは神話界から追放される者に科せられる罰だ。今まで信徒として生きてきた信徒は神や神話に関する記憶を消されたらそれを知る前の記憶だけが残るか、生まれつき関わってたなら最悪の場合は人生の記憶が消える」





 そして記憶が消えた者は第三分校の運営する施設に強制入所。

 嘘の記憶を教え、嘘で記憶の穴を埋めて生活の面倒を見る。




 黒に危害を加えた者、または聖なる力に関する人体実験、神を使った非人道的実験、禁忌実験や禁忌の祈りを行った者が行くところ。







「……ねぇ、それに神來社(からいと)はいないの」

「あれは記憶消される前に逃げてる。今も裏賞金首で探されてるし」

「神來社って……神來社巫砢々(ふらら)?」

「そう。その話は関係ないから置いとくけど」

「え、なんで神來社が出てくるん?」

「罪人に科す罰を一般人、それも無関係の信徒にまでやってる可能性があるならそれは大罪になる」





 黎冥に無視された稔想は紑蝶と顔を見合せながら、致し方なく本題に戻る。




「じゃあ最終目的は教祖捕まえるってこと?」

「まぁそれもそうなんだけど……」




 自身が学校に見つからないよう誰かに教祖を代わらせてい場合や、一般信奉者として教祖をおだてて拡大させている場合もある。



 前者は黒幕も教祖も手を組んでいる場合。

 後者は黒幕が相当な策士の場合。





 今回の最終目標は宗教解散、場合によっては教祖の記憶を抜き、黒幕を捕まえて記憶を抜くこと。


 そして抜いた記憶から本人の当時の意識をある程度確認すること。




 何が目的か、どう行ったか、誰を使ったか。








「兄さんはなんで出てないのに分かるん? 盗み聞き?」

「この手の内容はだいたい同じだろ」

「えーもしかしたら神話界に引きずり込むーかもしれんで?」

「上のお偉いさんが許せばの話な」





 説明する気満々だった稔想は口を尖らせ、黎冥は鼻で笑いながら少し引っかかったような顔をするアヤネに視線を移す。




 帰って聞いておこう。

 今聞かないということはたぶん神來社に関することだ。


 稔想達に神來社の事を知られると真っ先に中心校に伝わるので、絶対乗り込んでくる。








「姉さん、会議の内容は終わり?」

「終わり、稔想?」

「終わり」

「じゃ婚約の……!」

「じゃ帰るぞ」

「さっさと帰ろ」





 アヤネと黎冥が立ち上がった時、黎冥と紑蝶がハッと廊下側に視線を移した。



 稔想は片耳を塞ぎ、片腕で黎冥にしがみつく。




 足音だ。

 子供の小さなものでも、女性の高いものでもない、男の重い足音。




「ア、アヤネ……」

「何?」

「なんか……足音聞こえる……!」

「……あーうん、よくあるよ」



 そう言うと、アヤネは五枚ある障子のうち四枚を端に寄せた。




 廊下には誰もおらず、ただ足音だけが聞こえる。




「ほら」

「余計に怖いんだけど……!?」

「怖がる性格じゃないでしょ」

「いや怖いわ! これなら血まみれの方が見慣れてる!」

「それはお前だけだよ」




 アヤネが荷物をまとめてコップや皿をお盆に乗せているうちに足音は消え、アヤネが廊下に出ようとした時、ガシッと腕を掴まれた。



 お盆を片手に持ち替え、振り返れば顔面蒼白の黎冥がアヤネの腕を掴み、稔想は黎冥に、紑蝶は稔想にくっ付いている。


 いや、稔想は紑蝶にもしがみついている。




「何」

「……早く出よう……?」

「夜間確認の方が怖いでしょ」

「学校はそんな怖い雰囲気ないじゃん……!」

「どっちもどっちだと思いますけど」




 アヤネは黎冥に腕を掴まれながら台所に移動し、食器に水を貯めてから離れから母屋に戻った。


 食器は明日洗いに来よう。





「紗梨さーん!」

「はーい」

「そろそろお暇させてもらいますね〜。食器は明日洗いに来ますー」

「はーい」




 同じような返事が二回返ってきて、四人が屋敷の外に出ると、ちょうど飛び石の道で蓮杏と紗梨に出くわした。


 手に砂遊び道具を持ち、蓮杏は砂だらけだ。





「あれ……」

「純音ちゃん、もうお帰りですか?」

「はい。洗い物は明日洗いに来ます」

「え、洗っておきますよ! 離れも掃除しなきゃですし!」

「でも……」

「れあもお手伝いするー!」



 砂で汚れた手を大きく挙げた蓮杏を見下ろし、しゃがんでから頭を撫でる。




 大人よりも子供が好きだ。


 純粋無垢で、親しくなれば言うことを聞きやすい。

 自分の欲のために動かしやすい。




「それじゃあお願いしようかな。お母さんのお手伝い頑張ってね」

「うん!」

「また来た時は皆で美味しいもの食べようね」

「やったー!」




 大喜びする蓮杏に手を振り、顔面真っ青の三人を連れて屋敷を出た。




 この屋敷があるここは、元々小さな民家が三つと馬小屋のある場所だった。


 そこに、地震で土砂が流れて馬三頭に住民十人が亡くなった土地。


 怪奇現象が起きても何ら不思議ではないだろう。



 ただ、それが霊感がない人にも分かるって言うだけ。
































「ま……た、ね〜…………」

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