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22.待ち合わせ

「早いな」

「時間通りなんですけど」





 黎冥は一人でコーヒーを飲みながら本を読むアヤネを見下ろし、向かいに座った。




 稔想と紑蝶が遊びに来た翌日、今は昼の一時半過ぎ。


 アヤネ以外、黎冥が一人目。






「なんで誰も時間通りに来ないわけ?」

「これが黎冥家」

「いつ来るんだよ……」

「さぁ……二時ぐらいじゃない?」

「帰ろうかな」



 黎冥もコーヒーを頼み、小さくあくびをしながら頬杖を突く。





「羽鄽とはどう?」

「しつこい気持ち悪いって言った以来会ってないかな」

「率直すぎだろ……」

「素直が一番」




 確かに羽鄽に関しては遠回しに言っても全く通じないので率直に言った方がいいにはいいが、言い過ぎだろう。


 段々哀れに思えてきた。





「なんでこう変人が多いのかな」

「変人がなる職業だからな」

「私変人じゃない」

「それはごく稀」





 いつも出掛ける時は二人とも化粧をするのだが、黎冥は素顔。


 まぶたに薬品を乗せることが出来なくなったので、変装出来なくなったのだ。

 隈だけ描くと浮いて笑われるし変な噂が立つので、まぶたが無理なら隈も無理。







「アヤネの用事って何?」

紗梨(さり)さんの様子見」

「紗梨?」

欛虂(へろ)の元妻」




 欛虂が、子供を流したからという最低な理由で別れた元妻。


 今はアヤネが住んでいた家に住み、比較的給料のいい仕事にも就けて安定しているそうだ。





「面倒見良いな」

「一応大家って言う立場ではあるから。まぁ……欛虂を繋ぎ止めてくれてたのは感謝してもしきれないし」




 そんなことを言いながら優雅にコーヒーを飲み干すと、店の扉が開いた。



 ようやく来たかな、と二人でそちらを見る。




「でさぁ! そいつ死んでやんの! 気色悪ぃ!」

「ねぇそれあたし達にまで罰金とか止めてよー!」

「だいじょーぶだいじょーぶ! パパが自殺にしてくれたからさ! てか多重人格って何!? 厨二病じゃん!」




 高校生か。


 髪を派手な色に染め、ピアスを数十個付け、大声で笑いながら入ってきた女子三人はそちらを眺めるアヤネと、興味なさそうにあくびをする黎冥に目を付けた。





「なぁあれあいつじゃね!? ほら!」

「黎冥圜鑒! 厨二病が集めてた奴!」

「うっわ顔面良ー! てか相手のブス誰?」




 笑いながら、こちらのテーブルに寄ってきた。



 二人とも関わりたくないのは声に出さずとも分かる。





 無視するか、アヤネの逆鱗に触れているので騒ぎは起こしたくないと思考を回転させているとなんとも素晴らしい拍子に紑蝶達がやってきた。



 神が味方したとはまさにこの事。





「気分最悪なんだけど」

「別に学校でもいい気がする」




 掴んで話しかけてくる女子の腕を払い、アヤネは紑蝶と稔想を掴むとさっさと店を出た。


 黎冥はお釣りを無視してアヤネの後を追い掛ける。




「帰るか」

「えーやだー! ケーキ食べたぁい!」

「ケーキ食べれたらいいんですね」

「ジュースと紅茶と美味しいクッキーとかも!」

「買って私の家に行く」




 三人は目を丸くし、非常に苛立った様子のアヤネを見下ろした。




 二人は黎冥に説明を求めるが、今声に出して説明するとアヤネに嫌われる未来が見える。

 そして、視界で会話できるほどこの二人とは仲良くない。




「どこのケーキ屋がいいの」

「高級なとこ!」

「零、案内して」

「俺が甘味嫌いだって言わなかったっけ」

「言われてないけど見て分かる」

「じゃあ俺に振るな」

「じゃあ俺が案内する! 高いけど美味しいとこ知ってんで!」




 割り込んできた稔想に案内を任せ、十分ほど人々の注目を集めながら歩く。




 全体的にアヤネのせいだが、黎冥姉弟もまぁ顔面偏差値高めなので、そりゃ目立つ。


 これは仕方がないことだ。




 生きる宿命。






「ここ!」

「あぁここ。確かに美味しいね」

「あれ知ってるん?」

「家の近くの店はだいたい把握するでしょ」




 四人で店に入り、紑蝶は弟の奢りなのをいいことに食べたいものを、と言うかメニュー全てを頼み始めた。




 アヤネはコーヒー一杯で十分、長男は甘味嫌い、次男はクリームとチョコレートが嫌いなので、長女の全品と次男のタルトだけ買う。



 ホールケーキ用の箱三つ分。




「じゃあるいくぅん、支払いお願いねぇ〜」

「だから男にフラれんだよ」

「私がフッてんのよ。古臭い男に興味はないわ」

「いい加減固めな誰も見向きもせん歳になんで」

「見た目が若けりゃ誰でも落とせるわ。それぐらいの腕はあるもの」

「自画自賛か」



 黎冥は稔想に箱を二つ渡し、アヤネにも一つ渡す。




 紑蝶と出掛けるとほぼ毎回こう言う多額の出費をして、全て黎冥持ちにされるのでこう言う場合はいつも多めに持っている。



 まぁこうやって念には念をを入れるからこれの散財が治らないのだろうが。



 黎冥は治すよりも、散財癖を付かせて破産させる方が目的的には大きい。


 打倒紑蝶。






「アヤネちゃんの家ってこっからどんぐらいなん?」

「十分もかかんないよ。すぐそこ」




 たぶん母屋には紗梨と息子が暮らしているはずなので、奥か離れを使わせてもらおう。


 かなり離れているし門で隔てられているので貸してくれるはず。





「……あ、駄目だ」

「え何が」

「あーいや……奥の部屋は使えないから離れになる」

「離れあんの? 大きい家なん?」

「まぁそこそこじゃない? そんな大豪邸ってわけじゃないし黎冥家に比べたらでしょ」




 奥の部屋は紗梨にも立ち入り禁止だと伝えてある。



 売りに出して、客が見付かってから内装を新しくしようと思っていたのを忘れていた。


 あそこはアヤネも入りたくない。






「こっち」

「……そっち?」

「そっちって一軒しかないだろ……」

「その一軒」



 少し坂道になっている道に入ったアヤネに、黎冥は顔を引きつらせる。




 未だ土地勘が養われていない稔想や紑蝶は分からないかもしれないが、この奥には一軒の家しかない。


 家と言うか、屋敷と言いますか。




 下手すると黎冥本家よりも大きい、本当の大豪邸。




 大きな母屋に大きな離れが二つ、池や枯山水付。





 何故こんなに詳しいかって、何度も新聞に取り上げられ、何度も撮影やポスターで使われているから。




「何がそこそこの大豪邸じゃないだよ」

「あんたの実家はもっと大きいでしょ」

「おあいこだぞ」

「へー意外。そんなちっさいんだ」

「お前のがでかすぎんの」




 開拓された都会とは一変。


 坂道を上がるだけですぐに木々に囲まれ、右は石垣の左は崖の道路を上がる。





 二、三分歩いて見えてきたのは大きな大きな門で、今まで見えていた石垣はこの家の所有地だったと言うのが分かるほどに大きく、門の横からは竹垣が石垣を伝って伸びている。





「うわぁ……!?」

「大きい〜! アヤネってこんないい家のお嬢様だったの!?」

「いや祖父が建ててそのまま受け継がれてきただけです」

「お祖父さんって何やってる人やったん?」

「将棋の五冠王」





 門の右側に取り付けられている脇戸を潜り、皆が通ってから静かに閉めた。




「将棋の名人やったん?」

「祖父は将棋の五冠王、祖母は囲碁の五冠王。母方の祖父は医者、祖母は警視監」

「……超人家系じゃん」

「その息子が宗教依存で娘が浮気女」

「不思議な血筋ね〜……」




 飛び石の並ぶ道を歩き、玄関前で呼び鈴を鳴らす。




 ビビーという機械音の後、屋敷の中からドタドタと聞こえてきた。






「待って蓮杏(れあ)……!」




 広くなって随分元気になったようだ。



 勢いよく扉が開けられ、慌てて走ってきていた紗梨と目が合った。


 瞬間、紗梨はつまずいて勢いよく転ぶ。





「いたっ……!」

「だ、大丈夫ですか……」

「ママァ……」

「だ、大丈夫! 平気です!」

「ならいいですけど」




 蓮杏は紗梨の方に駆け寄り、まだ一人では框を上がれない蓮杏を登らせるとアヤネに深くお辞儀した。




「さっきぶりです。どうしました?」

「離れを使わせてもらいたくて」

「あ、は、はいもちろん!」

「ありがとうございます」

「何か淹れます?」

「離れの方で済ませますよ」




 靴を脱いで角に寄せ、蓮杏を抱き上げた紗梨と少し話してから離れに向かう。




「ホンマにええ屋敷やなぁ」

「るい君、箱入り娘は狙い目よ!」

「いちいち繋げてくんなよ。……てかさぁ」

「何」

「……俺ここ来たことある気がする」




 驚いたアヤネは勢いよく振り返り、二人も黎冥を見下ろした。




 口元に手を当て、不思議そうに首を傾げている。






 何故こんな既視感があるのだろうか。

 こういう建築はだいたい同じ作りなので空似かもしれないが、実家とは違うしこんな豪邸に行く機会滅多にない。


 信徒関係は基本的に洋風建築なので木造が少ない。




 社長の繋がりだろうか。

 俳優関係か。研究者関係か。

 何故だろうか。


 全く興味のない家なら道どころか行ったことも覚えていないのに、この屋敷は確かに覚えている。




「……空似じゃない」

「そう……かもしれないけど……」

「早くしないとケーキ溶けるよ」

「えぇ大変! 早く行こう!?」



 紑蝶に急かされ慌てて歩き出し、皆で回廊から繋がった離れに移動した。



 こちらは白い木材を基調に作られているが、妙に不気味な気配がする。



 稔想と紑蝶は、怖さとは違う不安で黎冥の袖を握る。




「ここっていわく付き?」

「屋敷自体は何もないと思うよ? 父さんが母さん殺しかけたぐらいだと思うけど。前の建物の時になんかあったぐらい。両親の時も母屋の奥だったし」






 先に客間に案内し、アヤネはコーヒーと紅茶とジュース、それとケーキを皿に移し、カトラリーを準備してからお盆を持って客間に戻った。




 客間では稔想と紑蝶はピッタリと黎冥にしがみつき、黎冥は面倒臭そうに茫然としている。





「……電気のせいかな。変えるよ」




 柱横にあったスイッチを切り替えると、青白い光から本校のような温かみを帯びた橙色の光に変わった。





 そうすると少しは落ち着いたようで、二人とも少しだけ離れる。少しだけ。




「離れって二つあるんやろ? なんでもう一個の方にせんかったん……?」

「え、殺人映画に使われた方よりこっちの方がいいかなと思って……」

「正しい選択だろ」

「うぅ……」



 もう一つの離れは先代が住む用の離れ。

 ここは七歳未満の子供が住む離れ。


 母屋は七歳から現大黒柱が住む場所。




 と言ってもそんな名家や家督があるというわけでもないので、ただ家庭内いじめが起きないようにするだけの措置。


 この家系はいじめや暴力関連が切っても切り離せない。








 怯える二人と、どこか不安そうな黎冥の向かいに座ると、本題の報告会を始めた。

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