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8.神守の集会

「五月三十一日午前十時、神守十二家集会を行う。ルルべリア当主、リリス様のご指名により、進行はシュルト家当主である私が行います」








 召集状には最低限一人は出席するようにと書かれていたが、事が大きくなりすぎたこと、変動が多く起こったことにより、神守のほぼ全員が集まった。



 長机の上座にリリス、左右にルルべリア家が続き、そこから神守十二の同じ家の者同士が向かい合うような形に座っている。



 そして、クロルレルは最下座だ。




 リリスの向かいにフレリィが座り、顔色は真っ青で俯いているが、元当主としての威厳は保っている。



 当主でもないものがその態度を示すなら、ただの傲慢か不敬になるのだが。






 リリスの左後ろに立ったシュルトは資料を確認しながら開会の辞を告げ、議題進行に進んだ。







「まず初めに……黒の序列の変更について」

「皆耳にしていると思うが、黎冥圜鑒が弟子を取り、黒の序列にて一位に上った。弟子のアヤネが二位に続き、三に雯麟(ウェンリン)、シュルト、セリョア。今後の話、及び黒の集会、色の序列は圜鑒、アヤネ、雯麟を筆頭に置くこととする」






 皆が圜鑒と、圜鑒の隣に座っているアヤネに視線をやった。




 アヤネは興味なさそうに窓を眺め、圜鑒は頬杖を突いて何かを考えている顔をする。

 少なくとも今の議題に対しての顔ではない。






「リリス様、一つ質問が」

「許可しよう」

「何故今まで五位の、黒ギリギリだった圜鑒様が上がられたのですか? 御三方が下がったのならともかく、圜鑒様が何かをされて序列を上げられたのなら今この場でだけでも方法を知りたく存じます。後世の教育、聖なる力の増量は急務です」

「それは本人に聞こう。私も詳しくは……」

「俺も知りませんよ」





 と言うか、そんなことはしていないので言うも何もない。

 適当な、とても苦しい言い訳だ。




 刺すような視線を向けてくるアヤネを見下ろし、眉を寄せるリリスを見てニコッと笑った。





「黎冥圜鑒、それは……」

「第八校分校の司書が回復促進薬を完成させました。俺はそれを改良し、シュルト様、セリョア様にも飲ませましたが効果も副作用も強く即効性を上げただけです。ですがそれもあくまで促進薬であり容量を広げるものではありません。今年から変わったことと言えば……直前に腐蝕騒ぎがあった事、アヤネが加わった事、腐蝕のため普段付けている神石を外していた事ぐらいですよ」





 口元に手を当て、少し首を傾げながら自分でも分からない体を突き通す。


 


 その場が静まり返り、皆が訝しんでいるとアヤネが黎冥に服を小さく引っ張った。




「何」

「神石って強いと体調不良引き起こすんでしょ。それが原因で今まで抑えられてたんじゃないの。それか腐蝕しないようにずっと吸収されてたからそもそもの量が間違ってたとか」




 つまり増えた体は変えず、今までが少なかったと。それでいいや。





「あぁ、その可能性は十分にありますね。幼少の頃から身に付けていたので自分でも気付かなかったのかも知れません」




 演技は三年間で身に付けたし、人を騙し逃げてきたので辻褄の合う言い訳も即興で考えられる。




 黎冥は身の丈にあった行動しかしない。









「……何か分かったら報告するように」

「もちろん」


 黙っておきます。






 心の中で付け足し、表面上はあくまでも協力姿勢を見せる。


 リリスはともかく、アヤネを狙う十二家の奴らに易々と情報を渡す気はない。



 いくら権力者を盾に付けたからと言って、こちらが気を緩めれば弱い所を突かれるだろう。



 弱点が無いよう見せかけなければ。








「……他に質問はありますか」



 シュルトの問いには誰も反応せず、議題は次へ進んだ。








 次は言わずもがな、中心校で起こった腐蝕騒ぎについて。




 死、稔の石の消失。

 二体の神の降臨、一体は実体で。


 アヤネが発熱時に視た夢は誰にも言っていないが、それでも起こったことは事実。





 大神官と校長はあの中で最も権力を持っていた黎冥が簡易的に罰しはしたが、神守十二家になってくるとそんな生易しい話では済まない。



 特に下流だとしても神守に名を連ね、当主として立っていたフレリィは絶対に。








「……この問題に関しては当主のみで処分を付けたい。被害者であるハン・セリョア、黎冥稔想、アヤネの意思は尊重するが十二家の失態は神話界の失態。事を大きくさせすぎるのは私はどうかと思う」




 リリスの発言に、誰も反対することはなく、と言うか出来ないのだが。







 議題の視点は処分ではなく、失った神石に向けられた。








「五大神の神石、しかも死の神石が失われた。今まではセリョアのものが群を抜いており、その他のものになるとかなり精度が落ちる」

「死の神石は最も強いものでなければ威厳が保たれません」

「新しい神石の調査を行った方が良いのでは」

「祈ってお告げを持った方が……」





 皆が騒ぎ、意見の出し合いと対立で騒いでいるとリリスが小さく手を挙げ、それを止めた。




 白熱して立ち上がっていた者たちはハッとして席に座り直す。






「私的に、最も望ましいのはアヤネの神石だ。皆存じているだろうが彼女の持つ神石は非常に多く、数だけでなく質も最上級だ。たぶん、セリョアのものよりもいいだうろ」




 皆がアヤネに注目し、アヤネは居心地悪そうに黎冥を見上げた。





 飽きて頬杖を突いていた黎冥はアヤネを見下ろし、小さく眉を上げる。




「だって」

「だってって……」

「もし嫌なら構わん。だが中心校に神石を置けることはとても名誉なことであり、神石を持つ者は誰もが望む道だと理解してもらいたい」

「それは黒が離れ、腐蝕事件を起こした中心校にも言える言葉ですか」





 姿勢を正した黎冥が聞くと、リリスは少し息を詰まらせた。




「本人の意思とは別にですが。俺はアヤネの神石を中心校に置くことは反対します。そもそも箱を開けた時点でどうなるか分からないのに、紺以下が多く在籍し周囲に一般人もいるような中心校に置けば被害範囲が分かりません」





 アヤネのように特殊な箱に入れて完全に閉じ込めるわけでもなく、組編を使って抑えるわけでもない。


 普通のガラスの箱に入れて放置の、近付けないからとまともに手入れもしない中心校に置く意味がない。




 神石は本来持ち主の元を離れない方がいいし、離れて被害が出たのなら双方に得がない。


 ただ、失態を犯して外聞に傷が付き、周囲の評判が落ちている中心校が見栄を張るためのものだ。




 中心校に在籍しないアヤネには一切の利益がない。





 こんな無い無い尽くしの状況下ではい分かりましたと渡すだろうか。


 黎冥の弟子はそんな馬鹿ではない。






「それにしつこく言うようですがアヤネが神石を保管している箱は開けることが出来ません」

「出来ないとは?」

「出来ないのは出来ないんですよ。力が強く、小さな箱の中に抑え込められているため開けた瞬間にそれが解放されます。……この小さな部屋で開けた場合、少なくともセリョア様以下は気分を害すでしょうね。俺でも気絶するかしないか」

「……それほどとは聞いていないが」





 言っていないので当たり前だ。


 誰が狙われている神石の詳細をペラペラ話すか。





「黎冥圜鑒、報告がぞんざいすぎるぞ」

「何を言いますか。貴方に聞かれたことについては出来る限り詳しく教えましたよ。腐蝕事件についてと旧三立、校長に下した仮の処分、それと俺の弟子であるアヤネについては」

「……お前の弟子が所有する神石についても書け」

「書いたでしょう。上質な神石を二十四個保有しています、と」

「性格の悪い餓鬼に育ったな」


 お前の方が歳下だろ。







 ニコリと笑って腹の底に押し留め、笑ってなお据わっている目をリリスからアヤネに向けた。



 アヤネに向けた瞬間に光が戻ったので、本気で気に入っているのは一目瞭然だ。




「アヤネ、神石取ってこい」

「先に言えよ……」

「問題起こすなよ。あと迷うな」

「お前ほど問題児じゃない」




 鬱陶しいほど釘を刺してくる黎冥を無視して、部屋を出ると与えられた一室に向かう。






 正直、アヤネも父から貰った大切なものなので他人には渡したくない。

 ましてや管理が疎かな、自分で確認出来ない中心校になら余計に。




 と言うかそんな事をしたら絶対に目立つ。

 何度も言うようだが、アヤネはこれ以上目立ちたくないのだ。





 黒の弟子で序列二位、最年少黒で神を複数回降臨させ、時の狭間に行き時の使者との面識もある、これ以上目立つことがないほど目立っているが。



 黎冥にこれ以上注目されたくなかったら常に黎冥以下でいろと言われたほどだ。

 おとなしく頷いた。










 アヤネが十分ほどかかって戻ると、皆の注目が黎冥に集まっていた。


 とうの黎冥は赤面で肘を突き、額を押えている。




「え、気持ち悪っ……」

「遅い」

「急かされなかったもんで」

「なんでお前の時間を俺が稼がなきゃなんねぇんだ」

「師匠だろ」

「利用しやがって」




 黎冥の前に箱と鍵を置き、席に座り直した。





 一つ息を吐いて無表情に戻った黎冥は鍵を開け、アヤネの前に滑らす。



 前に箱が出てきたアヤネは嫌そうな顔で嫌そうな顔をする黎冥を見上げた。



 視線だけで、師匠だろ持ち主だろと言い合う。







 結果、それを見兼ねたリリス本人がやってきた。




「私そんな嫌われてるか?」

「リリス様じゃなくてシュルト様ですよ」

「珍しい」

「初対面の開口一番で求婚されたらそれはもう……」

「ちなみに彼女持ちでしたよ」




 黎冥が先程の仕返しにシュルトを睨むと、シュルトは至極不思議そうな顔で首を傾げた。



 ちなみに、覚えているだろうか。


 シュルトの水と書いたボトルを置いていたのを。

 夜に見に行くと見事になくなっていた。中身だけ。




 世界は広い。








「……そんなことはどうでもいい」

「ではどうぞ」




 黎冥と稔想は微かに防護効果のあるマントのフードを被り、黎冥に言われたアヤネも被った。




 リリスは覚悟を決めてそれを開け、瞬間閉める。




「居残り決定」

「断ってもいいですか」

「許可し兼ねる」

「では神石を貸し出すのも拒否する形で。本人も嫌がっていますし」




 黎冥は鍵を閉めるとフードを脱いだアヤネに渡し、自分もフードを脱ぐ。



 周囲の皆が吐き気を催し、目眩で机に突っ伏し、赤以下はほぼ失神したのを横目にリリスを席に戻す。



 リリスは赤の上ら辺だが、量こそ少ないものの質は上々のため見た目問題はなさそうだ。

 どれだけ隠しているかは知らないが。




 リリスは席に座ると黎冥を真剣な目で見つめた。



「圜鑒様」

「今さら媚へつらわないで下さい」

「……まぁいいや。中心校が潰れたとして私に問題はない」



 コイツ責任放棄しやがった。







 黎冥が呆れるというか、ほぼ軽蔑する目でリリスを見ると睨まれた。



「お前のせいだぞ」

「俺も関係ありませんので」

「人の心がないのか!」


 あんたに言われたくない。




「アヤネに言わせれば人の心が九割九部欠けてるそうです」

「欠けてるんじゃなくて備わってないって言ってんの」

「だそうで」

「お前はそれを補う仮面が厚すぎ」







 アヤネの耳を引っ張り、体調不良の方々が完全に治るか離席してから、次の議題へと進んだ。

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