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6.目覚めと恋バナ

 本当に、夢だったよと言われた方が納得出来るほど居心地のいい空間だった。




 目を覚まし、明かりがついていないので夜中だと言うことを悟ると、ぼやける視界で状況を確認する。





 また昏睡していたのだろうか。


 腕には複数の管が繋がれ、何故か布団が重い。





 動きにくい布団に苛立ちながら無理やり起き上がると、何故か黎冥が足元でベッドに座り横たわるような体勢で眠っていた。



 通りで重いわけだ。







 お腹が空いたと溜め息を吐き、周囲をキョロキョロと見回す。



 時間が分からないのでとりあえず本を読んで暇を潰そうと思って視線を本の方に向けた時、ふと視界の端に黎冥が見えた。




 いや、足元で寝ているのだから見えるのは当然なのだが。




 目を開けて一言も喋らず、瞬きもせずアヤネを見ていた黎冥を見下ろして肩を震わせると思わず身を引いた。



 脈が飛び跳ね、腕を胸の前に集めたまま背が壁に当たるまで後ろに下がる。





「怖いんだけど……」

「二ヶ月間」

「……え……?」

「二ヶ月間寝てましたけど」

「にか……に…………ね……て……?」



 頭の中に疑問符が浮かび、混乱と混乱が混ざって大混乱を起こしていると黎冥を体を起こした。




「時の使者と氣の神がアヤネを連れてきてから二ヶ月間寝たきりだった感想は?」

「……夢心地でした」

「それは何より」




 睨まれても困る。

 アヤネも二、三日かと思っていた。



 何故こうも毎回大事になるのだろうか。



 神の種類の中に疫病神っていたっけ。





「……明かりつけるぞ」

「うん……」



 黎冥は壁に吊るされていたランプとロウソク立てのロウソクに火を灯し、またベッドに座った。



「顔色悪いけど」

「お腹空いた」

「まぁ……当然か」

「石どこ行った?」

「棚に」



 引き出しを開け、金の細いチェーンが付けられた神石を首に掛けた。



 五センチほど長さがあるひし形だが、横が細いので派手には見えない。





「なんでここで寝てたの」

「保健室だし。鍵付いてないのに一人寝かせてたらなんかあったら怖いじゃん」

「なんかって何」

「羽鄽とか稔想とか奪とか早津とかセリョアとか」

「……ありがとうございます」




 全て納得したアヤネはおとなしくお礼を言い、眠そうにあくびをする黎冥を眺める。




「あそうだ。今年の土地の祈りも俺とアヤネになったから」

「お告げか」

「よくお分かりで」

「私が言ったんだもん」




 黎冥に、命の神が生の神の首を締めたところから土地の祈りの約束までを一通り説明すると遠い目をしながら頷かれた。






「変に反発しなかっただけ偉い」

「あの空気で反発は無理」

「偉いよ」

「目死んでますけど」

「俺、一回死んでるなら絶対あの時だと思ってんだけど」





 もし一回死んで、また神の力で生き返った場面があるなら絶対土地の祈りの時だと思っている。



 それ以外に死ぬような経験をしたのは女子に刺された時か誰かに毒を盛られた時ぐらいだ。


 ちなみに毒はつい二週間前の話。





「今回は死の女神が降りてくるから暴走はないと思う」

「降臨が確定してる時点で大事になるのが確定してるけど大丈夫か」

「だいじょーぶだいじょーぶ。なんかあったら守ってくれるんでしょー」





 完全諦め顔のアヤネの頭を撫で、可哀想だなと哀れみたっぷりの目で見下ろす。






「……普通の体に生まれたかった」

「普通に生まれてたら目立ちたくないとは思わないだろ」





 世の中に美人になりたかった、芸能人になりたいと思う女子は山のようにいる。

 それこそ、目立たず平凡に生きていたいと思う女子よりも多いだろう。





 顔がいいからこそ苦労するのはよく分かるが、今の状況とアヤネの性格が相まっていないとその感情は生まれない。





「……いっそ開き直って芸能界入りしてみたら?」

「外歩けないじゃん」

「歩ける歩ける。冷酷系でやれば無視しても問題ないし」

「絶対無理」




 黎冥も必要最低限も喋らないキャラで活動していたので完全無視していたが、優しい系でやっていれば変装必須になる。



 出掛けるために毎回メイクするのは面倒臭いと思っていた。

 その後薬とメイクで変装するのだが。





「……アヤネが目立ちたくないのは目立ったらロクな事がないからだろ」

「だってそうじゃん」

「そうだけど。……心配すんな。お望み通り守ってやるから」

「頼りになんねぇなぁ……」

「なんでだよ」





 アヤネはへの字口で顔を逸らし、黎冥はアヤネの頬をつつく。







「なんかさぁ」

「何、照れた?」

「妙にかっこつけてくるよね」

「かっこいいって?」

「腹立つ」

「お前性格ねじ曲がりすぎだろ」

「今更?」






 黎冥はベッドに上がると上で足を組んだ。



 アヤネは足を抱え、顔を半分埋める。





「アヤネは異性に対してなんか意識するものとかないの?」

「ある。あるけどお前に対して意識しても意味ないじゃん」

「羽鄽は?」

「逆効果」




 まぁモテたくないのにモテる技を使っても逆効果か。


 これは質問が悪かった。





「恋愛対象は?」

「それは……好みの話? 男か女か?」

「前者」

「えーと……最低限教養が身に付いてて優しくて浮気しない人。あと粘着しない、自我が強すぎない、弱すぎない、金遣いが荒い人は無理。顔も中の下か中。それ以上は嫌。身長も高すぎず……病気とか外見に理解がある人」

「お前の過去の悔いが全部詰まった人間か」

「言っとくけど男な」

「分かってるよ」




 本当に、過去に何かありましたと言っているような好みのタイプだ。

 何かあったからこうなったのだろうが。






「金銭感覚と異性の距離感が狂ってるやつは無理。遊ぶなとも喋るなとも言わないけど賭博と添い寝は駄目」

「それは人として当たり前だろ」

「そう! 人として一般人として一般的で平々凡々な人がいい。一般より突出したものを全部とっぱらった人! てか元々出てない人!」

「アヤネらしい」





 つまり地味でそこら辺にいるような人でいいわけか。


 これは羽鄽も稔想もシュルトも候補外だな。





「年齢とか顔のタイプは?」

「歳……同い歳か二、三歳差なら気にならないかな。さすがに七つとか八つとか離れてくると話が合わなさそうだけど……。顔についてはとりあえずイケメンじゃないやつ」

「あっそう」





 これ、アヤネの周りにいる人はだいたい除外されたが大丈夫そうか。


 こいつ結婚出来るだろうか。というかそもそも結婚願望は。





「結婚したい?」

「……相手による。どタイプで付き合って三年か成り行きで付き合って七年かでは変わるじゃん」

「願望は?」

「出来るならしたいよ? でもお前らの世代見てるとほぼしてないじゃん?」





 何故ここで黎冥達を出してくるのか。


 黎冥達じゃなくとも教師で結婚している人は生咲(きざき)だけだ。





「そもそも皆の結婚歴とか知らないし」

「それもそうか。……でも結構信徒同士の結婚って聞くには聞くな。言えば同じ宗教で思考も合うわけだし」

「慧先生ぐらい結婚しててもいいと思うけど」

「あれは無理だろ。気が強すぎる」

「なんてことを」




 いや本当に。


 見た目お淑やかなので寄ってくる男は多いだろうが、あの姫系の傲慢さと威圧的な話し方、彼氏がいても他人と距離が近いしすぐに誰かと比較してくるので結婚はしばらく、と言うか一生無理だと思う。


 出来るとしたら羽鄽のような性癖の塊か、ストライクゾーンが広大。言葉を選ばずに言うなら手当り次第か、顔が良ければなんでも良しの男。






 祖母が厳しい人で祖父が優しく心配性のため、もしかするとお見合いや仲人を介して恋人は出来るかもしれないが結婚となると相手も躊躇う気がする。





「お前が結婚出来ない理由がよく分かる」

「性格が悪いからだろ」

「分かってんなら直せよ」

「俺は結婚願望も恋愛願望もないんで」




 それももう飽きた。

 飽きたというか、自分のねじ曲がった性格と合う人がいないと言うのを察してからは全く興味がなくなった。




 男も女も顔と地位しか見ていないし、関わったとしてもクズだとか我儘だとか、そんなことしか言わないので関わる意味が分からない。





 人の性格を理解しようともしない奴らと戯れる気はないし結婚や恋愛など尚更だ。








「ついこの間……数ヶ月前まで付き合ってる人いたんでしょ」

「性格を普通な風に装ったら一年間続いた」

「それは……何より」

「疲れるから全然会ってなかったけど」




 何が普通か考えることすら疲れる。


 周囲が変な人だらけなので普通がいまいち分からない。




 ここで普通と言ったら、それこそ慧や稔想は少し変わっているか。


 アヤネぐらいだと思う。



 兎童は食に対する執着心が強い。






「やっぱり独り身が楽だわ」

「願望がないのに結婚してもなぁ……。面倒臭いだけか」





 美酒美女金地位名誉は人を狂わせる。


 顔、金、地位、名誉。

 自ら望んで得たわけでもないのに他人がそれ目当てですり寄ってきたとして、ただ不愉快なだけだ。


 それが度を越すと本人が鬱になったり、自分自身に自信が持てず自殺、性格や環境によっては殺人が起こったり盗難が起こったり。





 美酒美女金地位名誉は周囲だけでなく、自分自身すら惑わし狂わせる。






「お前が下戸で良かった」

「何いきなり」

「何も」



 黎冥は訝しみ、アヤネはふいっと顔を逸らした。

















 五月半ば。


 アヤネが目を覚まし、男陣が大騒ぎになった数日後。




 アヤネが職員室の黎冥の席を奪って仕事をしているといつも通り手紙が届いた。


 特に抵抗することなく隣の机に退いた黎冥は手紙を受け取り、封筒を見て溜め息を吐いた。




「めんどくさ……」

「五月蝿い」

「お前にも関係あるぞ」

「……だと思った」





 一年間色々な行事に出てみて思ったが、信徒は何かと師弟関係を重要視する。



 一に色、二に師弟、三に家柄、四に職。




 何をするにもどこに行くにも基本一緒に行ってこいなので、黎冥に何かあるとほぼ確実にアヤネも巻き込まれる。







「何?」

「神守十二家の集会。三年に一回と緊急時に開かれる」

「何すんの」

「情報交換とか色々。裏話も」

「黒い話?」

「深淵」



 闇が深そうだ。





 黎冥から手紙を受け取り、目を通す。





「……リリス・ルルべリア……」

「最近変動が大きかったから要出席だし。情報集めにもちょうどいい」

「ふーん」






 五月末日。

 ルルべリア家第一客間にて神守集会を行う。


 ヘラシア、寝丈、黎冥、クロルレルの四家は一同要出席。

 その他は必ず一名以上が来るように。



 弟子のいる者は弟子を連れ、神石のある者は持参し、報告がある者は資料を用意しておくこと。





 ※黎冥圜鑒、フレリィ・クロルレル、シュルト・ルベインは必ず出席するように。









「注意書きされてるし」

「ちょーっと遊びすぎたかもしれない」

「暴走すんなよ」

「頼んだ」

「神に祈っとけ」

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