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5.神の集会Ⅱ

 目を覚ますと、そのまま目を閉じた。




「あ、起きた」

「寝起きでお前の顔見るとテンション下がるって言ってんじゃん」

「そのうち上がるだろ」




 保養後の毒は目に悪い。







 目を開けて体を起こすと小さく溜め息を吐いた。






「……あ、石どこいった」

「これ?」




 ベッド横の机には死の女神から貰った石が置かれており、キョロキョロと見回せばここは黎冥の部屋という事が分かった。



 通りでこれがいるわけだ。






「何時?」

「十一時」

「夜中か……」

「昼間な」

「……一晩寝てたんだ」

「二晩な」

「……わぁお」






 完全に寝すぎた。


 と言うか二晩このベッドで過ごしたのだろうか。




 寮にすし詰めにされた方がマシだったかもしれない。






「本気で心配するから二日間昏睡はやめろ」

「そういや一回死んだって本当?」

「いや生きてるだろ」

「お前の話な」

「俺!? いや、どっからどう見ても生きてるじゃん!」

「生の神が生き返らせたらしい」





 黎冥は自分の手を見下ろし、何も変わっていない事を確認する。

 うん、変化なし。







「いつ?」

「土地の祈りの時」

「……七日間寝てなかったからな。おかしくはない。水も飲んでなかったし」

「……加護が強くて良かったね」

「本当に」





 黎冥は手を組むとそのまま膝に下ろした。




 アヤネは上機嫌に神石の入ったケースを眺める。




「何それ。そんなん持ってたっけ」

「死の女神が創ってくれたやつ」

「……女神が……?」

「人体に影響が出ないようケースで囲ってくれて。あれは本物の聖女」

「……それどうする気だ」

「そんな特殊なものに見えないでしょ。星の神か生の神に頼んだらネックレスかなんかにしてくれるらしいから次の機会にでも頼もうかな、と」





 確かに神の代物に人の手が加わると効力を失うことがあるが。が。




「お前……感覚狂ったな?」

「死の女神の名前出したらやってくれるらしい。女神様は本物の聖女」






 あれだけ目立ちたくないと言っていたのに自ら神に頼み事をするとは。


 最早「私、神に認められてるんです」と主張しているようなものだ。





「見た目普通なら神のものとは思わないでしょ」

「いや……そもそも神石の力を封じてる時点でそのガラスが異常ってことになるから。異常なものを加工出来るのは神だけだし」

「……やめた方がいい?」

「目立ちたくないならな」

「残念」




 アヤネは口を尖らせると石を机に置き、軽く髪を整えた。




「お腹空いた。なんか食べに行こう」

「そういや拒食の方はどんな感じ?」

「最近はマシになってる。ちょっとずつ食べれるようになってきたし」

「いい傾向だ」




 黎冥はアヤネの頭に手を置き、アヤネはそれを静かに払った。















「おや、アヤネちゃん起きたのか」

「ついさっき」

「それは良かった。……中心校が騒ぎ立てるね」

「あー面倒くさ。ほっといてくんねぇかなぁ」




 黎冥はコーヒーを飲むアヤネの向かいで慧と中心校に対し罵詈雑言を吐き散らかす。



 慧も祖父が名の知れた司書なので、少しばかり圧力や情勢変化で中心校に迷惑をかけられることはある。





 そんな鬱憤を溜めていると。

 今日も今日とてやってきた。









「アヤネちゃーん!」

「るいがさま〜!」

「にいさーん!」




 羽鄽は廊下の向かいから見えたアヤネを追い掛け、奪は通りすがりに見えた黎冥に飛び付き、稔想は羽鄽の反応で起きたと察してやってきた。








 当初、アヤネは押す人よりも引く人が好きだと言った。


 結果的にストーカーに成り代わったのだが、ストーカーになった上にこんな抱き着かれてはストーカーの意味がなくなった。





 頭を撫でられながら無心で黎冥と視線を通わせる。



 黎冥も奪に腕を振られ、 黎冥に構っていた稔想は二人の雰囲気を感じ取って静かに身を引いた。

 それが正しい。







「奪、鬱陶しいから離れろ」

「照れないで〜?」

「離れろよ……!」

「ねぇるいがさま、彼女と別れたんでしょぉ? 私とー……」

「無理! 死んでも無理」




 黎冥は奪を突き返すとアヤネの腕を掴み、羽鄽と奪に追い掛けられながら逃げていった。








 慧と稔想はそれを見送り、二人で視線を合わせると仕方なさそうに溜め息を吐く。






「仲良いのはいんだが、なんせ騒がしいな」

「兄さんってあんな五月蝿い性格やったんや……」

「元々一人の方が多い環境だったからこの歳になって意外な発見」

「アヤネちゃんにも感謝せなな。兄さんも俺も助けられてるし」

「不思議な力を持った子だからね」


















 祈りを捧げ、死の女神を除く五大神を降ろした。


 あと時の使者も。





『ヴァイオレットには会えたかな?』

「の前に狭間に飛ぼうか。ウィリアムが降りてきたから何人かが中たってるよぅ」




 星の神の問に答える前に使者の声で景色が変わり、死の女神と会った真っ白な空間に再びやってきた。



 使者は九歳か、それより幼そうな時の女神の頭を撫でる。





「……で、会えた?」

「あ、はい。皆によろしく、と」

『早く会えるといいんですけど……』



 時の女神は眉尻を下げ、浩然(ハオラン)は女神の頭を撫でて元気付ける。




「あ、それと命の神が生の神の首を締めていたことを伝えました」

『それは……お嬢様の呆れた表情が浮かぶな』

『呆れられとけ』

「土地の祈りの時に私が行くと降りやすい、と」

『え、やってくれるんですか』

「神の頼み事とあらば……」





 命の神は拳を握り、生の神は命の神を睨み付ける。




 本当に信頼されて、望まれているようだ。


 お嬢様と言うなら従者関係なのだろうが、それでも仲がいいなら羨ましいものだ。





『私にも何か言っていませんでしたか? お嬢様から!』

「……特には……」




 時の女神は項垂れ、そのまま崩れ落ちると地面に手を突いた。




『おじょうさまぁ……』

「命の神……」

「名前で呼んでいいよ。なんやらの神って面倒臭いでしょ」



 実際そうだったので小さく頷き、名前で呼ばせてもらう。




「アーネスト様の暴走と皆さんの自慢……? が多かったです。あと私と似てるところとか」

『私! なんと仰られていましたか!』

『ミシェル、押されてますよ』

『良かったですねウィリアム様は! お嬢様私だけ何もなしは酷いです……!』




 ミシェルはその場にうずくまってしゃがみこみ、ひとしきり叫んだ後重く、本当にどんよりとした溜め息を吐いた。




『失礼しました。続けて下さい』

「ミシェル様はお二人の暴走と浩然様の我儘を牽制しているのでとても助かっている、と……。物凄く失礼なことを言った気がします」

「言ったねぇ……」

「すみません」




 女神様が言っていたことだから許してね、と謝ってからミシェルを見下ろすとミシェルは静かに拳を握り、深く頷いた。



 この子供はいったい何を悟っているのだろうか。






『三人とも、話は終わったかな』

『はい。満足しました』

『それは何より。……えーと、アヤネ? ヴァイオレットはあの代物に関して何か言ってたかな』

「特に詳しいことは……。人に加護を与えている神は少ないのでたぶんすぐ分かると。一悶着起きて面倒臭いなら検討だけ付けて放置でもいいらしいです。見付けたら地下牢の伍に突っ込んどいて、と」




 ルーメルウスは小さく頷き、ウィリアムはそれを聞くと腕を組んだ。




 この中では一番顔がいいし、動きの一つ一つに品があるのでどこぞのお貴族様のようだ。


 女神様が従者がいるほどの立場なので、それに伴って皆教育されているか。





『……どの神が怪しいなどは言っていませんでしたか』

「はい。……ルーメルウス様がこちらでも進めておくから、と言っていたと言うと頼もしい、と……」

『……遊んでいらっしゃる……』

『何が楽しいんだか』




 ウィリアムとアーネストは呆れ、突然辺りを見回し始めたミシェルは浩然の手を引くとアヤネがいる方を指さした。



『ハオラン様、誰ですか』

「あぁ、ミシェルがイタズラした子だよ」

『……まだいたんですか?』

「そりゃ神の管轄から外れた世界の住民だからねぇ。死の概念が違うから一度引き入れたら自分では戻れないよぅ。それこそヴァイオレットに連れて行ってもらわないと」





 浩然はアヤネの横を通り過ぎると、どこか遠くに歩いて行った。





『お嬢様は他に何か言っていましたか』

「神石を貰いました。ウィリアム様かルーメルウス様に頼むとネックレスか何かにしてくれるだろうから、と」




 アヤネが神服の中から石を出して見せると、皆がそれを覗き込んだ。





 ミシェルの背が届かないのを、ウィリアムが抱き上げて片腕で支えたまま覗き込む。




『綺麗ですね!』

『この石は僕じゃ無理だね。純粋な死の力で作られてる』

『私も無理ですよ。硝子が強すぎます』

『……少しお借りしても?』



 


 アヤネは頷き、アーネストに石を渡した。




 アーネストはそれを受け取ると、手袋を外してそれを上にかざした。




『……ノエルなら出来ますね』

『分かるんですか?』

『腐っても命の神ですから。誰が何を出来るかは分かりますよ』

『自分で腐ってもって言ったな』

『お前と違って腐っても力は保てるからな』



 ウィリアムとアーネストが喧嘩を始め、ウィリアムがアーネストを締めている。



 と、同時にルーメルウスが氣の神と想いの神を連れて来て、浩然のもう一人の使者を連れて戻ってきた。






「あれぇ、皆来たんだぁ」

「なんか多いね」

『誰だそれは』

『あの二人は何やってるんですか』




 浩然は手を振り、氣の神ノエルは喧嘩中の二人を引き剥がした。



 ミシェルが慌てて二人を引き取る。



 神も人間らしい。






『浩然、それは?』

「神よりも神らしい神々(みわ)火光(かこう)君です」

『……東欧の住民か』

「僕とは違う国だけどねぇ。えーと……日本?」

「うん」

「神の管轄から外れて唯一残った世界の住民って言えば分かる? ミシェルのイタズラで来ちゃったんだよねぇ」





 浩然は百九十ほどある男性の肩に手を置き、楽しそうに皆に紹介した。




「ちなみにこの中では一番進歩した技術のある世界だよぅ」

『一番?』

「医療面では特にそうじゃない? 不治の病とかあるの?」

「そりゃあるよ。同僚の姉が医者だったし妹も同僚も医学はある程度学んでたから色々出来るけど、僕は専門用語は分からないよ」

「医療もそうだしさ。娯楽とか連絡手段とか国際交流とか! 移動手段とか凄いよあれ!」




 唯一見ていたのが浩然だけなので皆よく分からないような表情をするが、火光はさも当たり前のように淡々と答えていく。




「移動手段? えーと……車とか電車とかそういう系?」

「そう!」

「……世界軸が違うんだっけ。歴史の知識は通用しないのかな」

「えーっとねぇ……僕らのところは歴史は違うけど世界線的には一番近いはず。……ってヴァイオレットが言ってた」

「本当?」


 なら伝わるか。





 そもそも車の原型が出来たのが十八世紀の中世。

 当初は機関車と同じ、水蒸気で走るものだった。


 それが二十世紀になるとエンジンの発明、ガソリンで走るようになり、二十一世紀には電気に変わろうとしている。





「電気で走るの?」

「うん。二十一世紀で電気が消えたら即世界崩壊だよ。ほとんど電気化して今は太陽光を電気を使ってエネルギーにしようとしてんのに」

「面白いことしようとしてるんだね」

「環境問題が深刻だからね〜」





 火光が腕を組み、懐かしさに浸っているとふと下から刺さる視線に気が付いた。




 見下ろすと、いつかに助けた少女が真顔で火光を見上げている。





「……本当に同じ顔なんだね」

「また死の女神の話ですか」

「その人は会ったことないよ。同じ顔なのは僕の妹。……写真見せてあげたいなぁ。マジでめっちゃ美人なの。頭いいし世界一の富豪って言われてたんだよ? 世界的会社の社長で婚約者もめっちゃイケメン。ほんと、完全無欠なの」

「ここでも見れるよぅ」

「見よう!?」




 浩然は想い神エリックとアヤネをしゃがませると、地面を撫でて水溜まりを作り出した。




 水に映ったのは数年前の妹で、傍には火光ともう一人の兄、婚約者に弟子と同級生も。




「うわぁ懐かしい……!」

『美人だな』

「骨格が同じならこの顔に生まれたかったんだけど。環境に影響されない体が欲しい」

「それは無理じゃない……?」



 火光は楽しそうにずっとそれを眺め、浩然は色々と場面を変える。





 すべて浩然が見ていた時のもので、それを巻き戻して映し出しているだけだ。


 時の狭間だからこそ出来て、思い出せる光景。





「……マジで美人じゃない? 婚約者も顔面偏差値高いしさ。しかも愛妻家だよ。ほんっとにどこでもイチャつくの。でも可愛かったなぁ……!」





 火光の自慢を聞きながらその映像を眺めていると、突然後ろからミシェルの大声が聞こえてきた。




『あぁアヤネ様! すっかり忘れてました! もう真夜中です!』

「あ、帰ろうか。黎冥君も心配してるだろうからね」

『アヤネ様、あれの牽制を頼みます。いちいち神に文句を付けられても困るので』

「期待しないで下さい」





 浩然はアヤネの肩に手を置くと、ウィリアムとの話が終わってから元の世界に戻った。

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