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4.二人の会話、一人の言葉

 夢を見た。


 時の女神と星の神が出てくる、死の女神を降ろせというお告げの夢。







 毎月一日にはその季節の果物と流行りのスイーツが出るパーティーが開かれる、と言うのを忘れてはいないだろうか。




 ちなみにアヤネは一度も参加したことがない。



 だって参加する理由がなかったから。











 毎月一日はパーティーのため校内が騒がしくなる。


 そのため、アヤネは図書館に通うのが日課になった。




 本を読んだり、藥止の手伝いをしたり、自主勉をしたり。







 ただ、今日は黎冥に組編を借りて降臨の儀式をすることになっている。



 死の女神を呼んで話を聞けとお告げが来たので、周囲に被害が出ないよう呼ぶための組編。



 黎冥の組編なので多少影響は出るが、灰色と水色が倒れるか気持ち悪くなるか程度らしいので問題ないらしい。


 あれの狂った感覚にももう慣れた。









 我、死の女神の思ひ子なり。



 時の女神よりの告げにより死の女神に祈りを捧ぐ。




 時と星の力のがり、我が前にさま現し給へ。










 組編内が強い光で満たされ、アヤネの頬に冷たい手が触れた。




 ハッと顔を上げれば、この世のものとは思えぬほど美しく整った顔で微笑む死の女神がアヤネを見下ろしていた。





『ようやく呼んでくれましたね』

「……すみません」

『いいですよ。さて、少しお話しましょう』




 死の女神がアヤネの向かいに座ったので、アヤネも向かいに体育座りで座る。






『私が死んでいるというのは聞きましたか』

「えっと……魂は死んだ状態で、肉体は生きてると……」

『合っていますよ。今、貴方が見えている私は魂が変形したものです』

「魂って肉体に触れられるんですか」

『現世では無理です。ここは時の狭間に近いところですから……一瞬だけなら』





 手を差し出されたので、そこに手を合わせると数秒間はしっかり触れたのに突然スカッと通り抜けた。


 固形が気体に変わった。






『早く帰らないと大変なことになるのですが……まだ帰れないらしくて。浩然(ハオラン)と接触しようとしても無理でした』

「浩然……?」

『時の狭間の使者と呼ばれているものですよ。最近は友人も出来たみたいで』

「……あぁあの」





 確かに時の女神も生の神も浩然と呼んでいた。





『……まぁ幸いな事に運が味方したみたいです』








 神の管轄から外れてしまった世界で、一つだけ破滅しなかった世界がある。



 独自の死と生を作り上げ、死に行けなかった人々を生きた人が祓うことで世界の秩序を作り上げた世界。





 そこの世界の住民が特殊な力を持ったまま浩然と行動を共にしているようなので、もし死にこぼれが出ても数人なら大丈夫だろう。




 あの世界のように溢れかえらなかったら、たぶん大丈夫。









『皆には会いましたか』

「はい。……死の女神を心配していました」

『一瞬でも会える方法があるといいんですが。……何か言っていましたか?』

「……あ、あの組編について、何か聞いておいてほしいと」

『あれ……私も完全に分かったわけじゃないんですが』





 あれは確実に神の代物だ。


 人が作れる強さではない。




 人と通じ合える神は少なく、そのためこの世界で言う加護もだいたいが同じ神、女神だ。


 特定はすぐだろうが、たぶん一悶着起きるだろう。




 皆を手伝えないのが心苦しい。






『まぁ面倒臭かったら検討だけ付けて放置でもいいと伝えて下さい。もしやってくれるなら地下牢に』

「分かりました。……あ、星の神がこちらでも進めておくから、とも」

『あぁ、それは心強い。ルーメルウスはあの中では唯一頼りになりますからね』

「命の神が生の神の首を絞めてました。生の神だけ死の女神に会ったから、と」

『あの二人は本当に……!』





 死の女神は額を押えて呆れながらも笑いを零し、アヤネは楽しそうだなぁと眺める。




『……あぁ、いつでしたっけ。アーネストが暴走して貴方のえーと……ウィルの愛し子? が一度死にましたが……』

「……それって黎冥ですか……?」

『たぶんその方。ウィルが戻したのでしょうが、何か異変はなさそうですか』

「いつも通り狂ってますよ。通常運転です」

『それは何より』





 アヤネの中で、一度死んだと言う言葉が引っ掛かりながらも話を進める。





『アーネストは猫のように気まぐれですから。その上暴走しやすいので牽制役が必須なんです。もし次暴走し掛けていたら私の名前を出して止めて下さい。ミシェルでは止めきれないでしょうから……』

「……出来る限りは」

『もちろん。……そうだ、今年も北の土地に祈りに行くんですよね』

「た、ぶん……?」

『なるべくですよ? 本当に出来る限りでいいんですが。貴方が向かってくれたら私が降りやすいので助かるなー……と……。本当になるべくで!』






 神のなるべくは人にとっての絶対と、どこかのお偉い詩人と作家が言っていた。




『私の名前を出したらアーネストは瞬間降りてくるでしょうから死にかけることも……ないと思います……?』

「不安……」

『出来る限りでいいんですけど……。まぁそちらの事情もあるでしょうから。また貴方が暇な時にでも…………ねぇ……?』

「ねぇ……? うーん……」





 二人で何とも言えない反応をし、アヤネの独断では決められないので悩んでいると死の女神が苦笑いを零した。





『まぁ少し聞いてみるだけお願いします。生き返って一番求婚されても困るので』

「それは……困りますよね……?」

『あ、経験済みですか』

「初対面で求婚は」






 シュルトと初めて会った時のことを話し、昔の死の女神の日常話を聞く。



 命の神と生の神と時の女神が死の女神に仕え、浩然と星の神達が居候していた時の話。







 それを語る死の女神の表情が酷く寂しげで、悲しげな雰囲気をまとっていた。




 見た目まだ十三前後のはず。




 今まで共に暮らしていた皆と突然会えなくなったのだ。


 アヤネが思う以上に寂しく、辛いと思う。







『どうしましたか』

「寂しいのかな、と」

『……そうですね。ずっと一人ぼっちですから。でも後悔はしてませんよ。ミシェルを助けるためにやったことですから。……それに、絶対に助けてくれると信じてますから』




 死の女神に手を伸ばし、真紅の髪が流れる頭に手を置いた。






 死の女神は目を丸くし、アヤネは透けないよう一回一回手を離して頭を撫でる。





『……あの……?』

「私、それだけ信用出来る人がいないんです。女神様が生き返るために私が何か出来るなら何でもしますよ」






 親に裏切られたアヤネは、最早心の底から信用しているものは誰一人としていない。



 羽耶も霈霸も黎冥も、頼み事は出来るが宝物は任せられない。

 なので、少し死の女神が羨ましい。






 それと同時に、そんな人と無理矢理離れ離れになったらどんな気持ちかと考えると本当に可哀想になってくる。



 そんな人がいないアヤネよりも、皆から望まれ皆を望む死の女神の方がよっぽど生きる価値がある。








 アヤネが薄く笑うと、死の女神は花が綻ぶよりも美しい顔で笑った。




『ありがとうございます』

「神様って美男美女が多いんですね」

『あ〜……確かにそうですね。皆美人ですし……』

「女神様が一番美人ですけど」

『浩然から聞きましたか。私と貴方って同じ顔らしいですよ』

「肉と隈って重要なんですねぇ」





 死の女神がアヤネの頬に指の背を滑らせ、何かを思い付いたようにアヤネに近付いてアヤネの真正面に座った。





『私、石を作るのが得意なんです』

「石……神石ですか」

『ここの世界ではそう呼びますね。幼い頃は作りすぎてルーメルウスに怒られていたんですが、今はいいでしょう』




 死の女神は両手を合わせると徐々に広げ、クルクルと回した。




 死の女神と同じ紫色の、ひし形の綺麗な石が創られる。





『……どうですか』

「綺麗です」

『強すぎると駄目なんでしたっけ。えーと……あぁこの強さじゃウィルの愛し子も中てられてしまいますね……』






 黎冥が中てられるというのは相当ではないだろうか。



 こんなんを聞いていたらそろそろ自分が異常だと自覚しざるを得ない。





 死の女神はひし形の石を持って何度もそれを指で撫で、これは駄目だこっちも駄目だと何度も何度も撫でて強さを確かめる。






『あ、これぐらいでいいはずです。人体への影響はないはずですよ』

「本当に……?」

『はい。一応、全世界の人の基準は頭に入ってますからね』

「信用しますよ」

『して下さい』




 死の女神は透明なガラスケースに入った、ケースに浮いた石の入ったそれをアヤネに手渡した。




『ルーメルウスかウィルに頼むとネックレスにしてくれるはずです』

「これ……人工加工が加わると効果失うやつですよね」

『よくご存知で』

「本で読みました」

『似てますねぇ』





 読書家も、人を信用しないところも、口調も顔も。


 昔、浩然が言っていた通りだ。






『……あぁ、日が暮れ始めましたね。もう戻った方が良さそうです』

「分かるんですか」

『今の季節は初春でしょう?』

「はい」

『六時頃に日は落ちるでしょう?』

「はい」

『六時ですからもう日暮れでしょう?』

「……はい」




 神に常識は通用しないか。






 アヤネは小さく頷くと、その石を握り締めた。





『とても楽しい時間を過ごせました。皆によろしくお願いします』

「はい。また祈ってみます」

『お願いします』




 そのまま、死の女神に目を塞がれ意識はそこで途切れた。

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