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3.訪問

 セリョアが雯麟(ウェンリン)を連れてきたその日、二人とはまた別に寝丈(ねじょう)とチルまでやって来た。




 新大神官三立柱を連れて。






「ずいぶん豪華な所帯で来ましたね。寝丈さん」

「ルルべリアの当主様が連れて行けって聞かなくてな」

「相変わらず本人は来ないんですね」

「引きこもりだし」






 十一月から今日までの約四ヶ月間。

 父親から当主の権利のみを剥ぎ取った黎冥はフレリィをクロルレル家当主から引きずり下ろし、クロルレル家に圧をかけて財産を半分ほど借金に注ぎ込ませた。




 方法としては、まぁ黒い噂を流して契約を切らせたり使用人が離れるよう仕向けたり。


 信徒上流階級がよく使う手だ。



 使う手すぎて家の噂が流れれば誰かが潰そうとしているということだが、上が下にやる場合は下は逆らえないのでそのまま潰される。






 黎冥家とクロルレル家が今回の良い例だ。







「マイナスの家ってそんな上なんだ」

「マイナスって言うな。……一応十二家の中では四位をキープしてるけど。アヤネが思ったより絡まれるから二位にあげてもいいかな、と」

「一じゃないの」

「ルルべリアだからなぁ。……別に一でもいいけどその場合はちょーっと反発が面倒くさいと言うか……」

「黎冥君……暴動が起きるよ……」

「そんぐらい抑えれますよ。人の弱点なんて知れてますから」






 神守十二家は名の通り十二の家で、その中にも序列は存在する。




 一位、リリス・ルルべリア当主のルルべリア家。

 二位、飯遜(ハンソン)(チュン)当主の飯遜家。

 三位、ヘラシア・グラ当主のメルス家。


 四位、黎冥春飆(はるかぜ)当主の黎冥家。

 五位、寝丈(ねじょう)鈴音(りん)当主の寝丈家。

 六位、ラク・チンチェン当主のチケジ家。


 七位、シュルト・ルベイン当主のルベイン家。

 八位、スラド・コルウット当主のハクサ家。

 九位、ハン・スヒェナ当主のハン家。


 十位、ルッド・フゥ当主のルッド家。

 十一位、フレリィ・クロルレル元当主のクロルレル家。

 十二位、チル・ミルダ当主のミルダ家。






 上流階級に数えられるのは七以上で、下流が八以下。

 下流は上流に逆らうことを許されず、下流は黒の信徒を輩出してその黒が上位になるか、相当神に尽くさない限り順位が上がることはない。




 上流の序列は簡単だ。



 どれだけ上位信徒を輩出するか、どれだけ神に尽くすか、どれだけ中心校に貢ぐか。








「案外いいとこの坊ちゃんなんだ」

「言い方どうにかしろ」

「金持ちのお坊ちゃま」

「もっかい言ってみろ」

「……良家の子息」




 頭を掴まれ、命の危険を察したアヤネが言い直すと頭に手刀が落ちた。





 アヤネは頭を抱え、寝丈とチルは顔を引きつらせる。






「……仲良いね」

「これを見ていいと言えるんですか」

「面白いですよ、これ」





 黎冥はアヤネの頭に手を乗せるとニコリと笑った。




 察しのいい良家の子なら気付くだろう。



 これから序列二位になると、()()黎冥圜鑒が宣言し、お気に入りだと言ったのだ。


 これでまだ奪おうとする奴がいるなら周囲から見放されても、黎冥に潰されても文句は言えまい。



 誰も助けてはくれないだろう。

 助けた家は手当り次第潰されるから。






「人をモノ扱いする時点でクズだし私はクズと馴れ合う気はない」

「お前の給料払ってんのだぁれ」

「資料、課題、助手も筆記もやってあげてんの忘れんなよ」

「せっかく守ってやってんのに」

「目立たなかったら守るも何もないだろ……!」




 黎冥はつまらなさそうに口を尖らせると置いてけぼりを食らっている寝丈達の方に視線を移した。




「三立柱の紹介ですよね。興味無いんでもういいですよ」

「えっせっかく来たのに?」

「来てなんて言ってませんし」

「事前に伝えてくれるかなぁ……!」




 寝丈は額を押えて項垂れ、チルは仕方なさそうに眉尻を下げる。




「……と、とりあえずそれは分かった。用はそれだけじゃないんだ」

「中心校関連なら全て断りますよ」

「察しがいいなぁ……! せめてなんか言わせてくれ」

「嫌です」





 黎冥は顔をしかめ、我が物顔でアヤネの肩に肘を掛けた。


 それに動じないアヤネもアヤネだが。






「……嬢さんが五大神と関わりがあるのはこちらも分かっていたんだが」



 四ヶ月前の神々の集会。

 同時に現れた時の使者。

 セリョアに降臨した死の女神も実体で降りてきた生の神も、全てアヤネが呼び出したものだ。





 さすがに上も野放しに出来ないと判断し、アヤネの身の回りや家族関係、友人関係も全て調べ始めた。


 各国の各校長や旅信徒を使い調べたと言うのに。






 出てきたことはほんのわずか。


 親しい友人は数人だけ。

 過去に障害集会の幹部をしていたということ。


 父親には弟がいて、母親は一人っ子。

 両祖父母は生死不明。


 いとこは欛虂(へろ)でバツイチ。赤の底辺。




 両親の名前、兄姉弟妹の有無、生年月日、住所。

 どこで生まれたかも本名も学歴も、姓が両親どちらのものなのか、何故黎冥を凌駕する力を持っているのか。


 死の女神と瓜二つの顔も神を前にして動じない精神力も。



 何故あれほどの神石を持っているのかも、神石が入っている箱もどこで手に入れたのか。




 何故今まで発見されなかったのか。

 何故高校に入るタイミングで見付けることが出来たのか。






 調べても何も出てこなかった。






 出てこなかったと言うより、出てこないよう、耳に入らないよう消された。



 情報漏洩を防ぐため文通で情報を掴んだことを知らせても、数日以内に本人は消息生死不明。


 機密文書も届く前に炙られ破り捨てられていた。




 本当に、神隠しの如く消えてその前後は誰も見ていないと言う。



 二、三件の話ではない。


 寝丈が来る途中の伝書鳩で受け取ったので三十人目の報告だった。

 二十九人目はつい三日前に消えたばかりだ。





 何故アヤネだけが、肉親も不明のアヤネのみがこんな異常体質に変わったのか。



 血か、育ちか、祈りか、神か。




 何故それほどまでに人と異なる体質に生まれ落ちたのだ。







「何故君は神に愛されたのだ」

「私に聞くな。私は自分の身を危険に晒す気はないし神とも中心校とも戯れる気はない」





 アヤネが寝丈を睨み上げると、アヤネにもたれていた黎冥がケラケラと笑い始めた。





 笑って、光の入らなくなった目を寝丈に移す。




「強ぇなぁ……。ねぇ寝丈さん。上の言いなりで自分の意志の欠片もない貴方たちとは真逆ですよ。自我が強すぎて人の話を聞かない弟子だ」

「褒めるか貶すかどっちかにしろ」

「褒めてんの。素直に受け取っとけ」

「はいはい」

「腹立つなぁ……」





 黎冥に()された寝丈は僅かに足を引き、後ろの三立柱も壁のすぐ側まで下がった。






 今回の三立柱は旧三立柱を越えて立柱に上がったわけではなく、旧がいなくなってしまったので仕方なく降りてきたが故に立柱になれた三人だ。


 簡潔に言うと、旧三立柱より弱い立柱。




 その三立柱が、旧三立柱でも圧される黎冥を前にして平然といれるはずがない。


 今後、中心校が三立柱をどう扱うかが楽しみになった。








「……で、アヤネの素性でしたっけ」

「怖いんだが……」

「俺が分かってることは中心校も掴んでいるでしょう。俺が掴めないことは全員が無理だと分かってここに来たんですか。俺と本人に期待されても無駄ですよ。中心校に付く気もアヤネを売る気もないので」

「……はい……」

「アヤネがみつかっ……」

「重い、退け。あと五月蝿い」

「照れてんの?」

「退けよ」





 アヤネは黎冥の腕を払い、黎冥はアヤネの頬をつつく。





 額に青筋を立てたアヤネが黎冥の背をつねっていると、黎冥の肩に誰かがのしかかった。



 それを見上げれば、何故か鳴嬪(なひめ)が寝丈に手を振る。





「よぅカズっち〜。俺の後輩に絡むなよ」

「鳴嬪さん……知り合いですか……」



 重い。




「おん、俺ら同級生だから」

「同級生……三十八……」

「え、見えなっ……」





 アヤネの素の声に黎冥は鼻で笑い、寝丈は不満そうな顔をした。



 鳴嬪は大笑いし、アヤネに近寄っては静かに避けられる。




「俺は見た目若いし! カズっちはおっさん臭いんだよ!」

「父親が若々しかったら娘が複雑だろ……」

「子持ち……」

「十七歳の娘がいんの。……あと十歳の息子も」

「まぁそんぐらいの歳なら普通か。……そう考えたらお前の同級生誰も結婚してないじゃん」

「別にいいじゃん……!」




 アヤネに背を叩かれ続けている黎冥は嫌そうに顔を逸らし、鳴嬪は寝丈から娘の話を聞き出そうと執拗に聞き続ける。





 そもそも黎冥達の代は、女っ気のない慧がいたせいで同級生恋愛というのが全くなかった。いや同性に襲われかけたことはあるのだが。




 本当の恋を知らないストーカー

 男に微塵も興味を示さない大工

 人気すぎて興味が尽きた難癖野郎




 こんな奴らが結婚出来ると誰が思うか。





「……人生損してそう」

「依存よりいいだろ」

「依存してたお前に言われたくねぇよ」

「痛っ!? したことねぇよ!」



 アヤネは黎冥の足を思い切り蹴り飛ばすと踵を返して歩き出した。






 黎冥は足をさすり、アヤネを睨む。





「……ルクソウに必要ならリリス様連れてこいって伝えとけ。あと自分が動かずに頼めるなとも」

「……無理……」

「なら俺がそっちに付くことはない」





 黎冥の断言に寝丈は深く項垂れると、アヤネを追いかけて行く黎冥を見送った。





 チルは寝丈の肩に触れる。



「あの方……中身入れ替わりましたか」

「本当、明るくなったよ」

「あの子の影響ですかね」

「アヤネちゃんが来てからよく笑ってるからなぁ」




 チルも寝丈もこの第八分校出身だ。

 黎冥とは数年間在籍期間が被っていたが、学校唯一の黒で黎冥家の次期当主として毎日のように噂は聞いていた。



 その噂の一つに、喋らず笑わず人の心を持っていないと言うのがあったが。





「……成長したのかな」

「おっそい成長だなぁ」

「成長してくれただけマシかと」



 三人は顔を見合わせると、静かに息を吐いた。

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