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50.神の集会

 黎冥を助けた日の午後五時半。




 祈願が終わった黎冥とアヤネは今、会議室の椅子に座り、大神官三立と見詰め合っている。



 後ろには、パーティーの日アヤネに黎冥専用ベンチを進めた張本人、寝丈(ねじょう)とその腹心のチルがいる。


 短い無精髭の寝丈に極度の糸目のチル。

 合わなさそうで合う二人だ。







 本来なら大神官の罰則は大神官長である寝丈が決めるのだが、今回は被害者に権利が与えられた。


 そして被害者は死の神石と稔の神石の持ち主であったセリョアと稔想なのだが、その二人が黎冥とアヤネに丸投げしたため今この状況に至る。



 正直言って、アヤネは全く困っていないので全て黎冥に任せる気だ。

 黎冥本人も上機嫌だし、問題ないだろう。







「こいつらの処分を決めたらいいんですか」

「あぁ。三立交代は確定。黎冥君にはその後の処分を決めてもらおうと」

「その後ねぇ……」




 三人の親が務めている会社を潰すにしても三人は名家の出身なのでさして困らないだろう。

 本人達が交代するのだから職を失わせることも出来ない。



 この三人にとっての最もの屈辱はなんだと考えた時に、やはり一番最初に出てくるのが没落だ。




 自分の家が誇りの三人は自分の職を失っても生まれつきの立場があるので交代になっても涼しい顔をするはず。





 それでは稔想の神石を消し、三十億掛けて落札した星の神石を腐蝕させた三人には見合わないし、何より黎冥が納得いかない。







「……家を潰すか」

「おっ?」

「な……! 私の失態ですよ!? 家は関係ない……!」

「お前がクロルレルの名を継いでルルべリアに縋る限りお前の失態は家の汚点だ。それを知らずに今回の事を起こしなのなら当主失格。俺は黎冥の当主になってでもお前らの家を潰すぞ」





 フレリィは顔を怒りに染め、大神官一立は俯き、二立は顔を真っ青にした。


 二立は水色だったが故の虐待から、紺に上がった叩き上げだったはずだ。

 出来損ないから這い上がったのにまた落ちぶれれば、家のものはなんと言うか。



 どうでもいいので無視する。






「死の神石が消滅しても命の神が降りてこなかったのはアヤネの力で死の女神を降ろせたからだ。アヤネと死の女神がいなかったらとっくに校舎は崩壊してるしお前らは死んでる。死なずに没落するなら安いもんだろ」

「いいえ! 一生の恥を背負うなら今のここで……!」

「じゃあやってみろよ! 誰も止めないし俺は望んでんだ。今ここで自分で刺せよ。没落より死ぬ方がマシなんだろ?」




 黎冥は立ち上がると机に手を突き、フレリィに美しすぎる笑顔を向けた。




 アヤネはどこからか常備しているナイフを机に置き、黎冥はそれを取ると刃を出してフレリィの腹部に刃先を向ける。





 笑みを深めればフレリィは顔を真っ青にし、少し後ずさった。


 逃がさないとでも言うようにさらに近づければ、こめかみから冷や汗が伝うのが分かった。







「適当なこと言うなよ。お前ら三立が没落に抗うなら問答無用で殺す。神守(みもり)の汚点と思え」





 黎冥はナイフをしまうとアヤネに渡した。




 神石の件もそうだが、黎冥をさらった犯人を探したい。

 アヤネの行動が制限されるのは可哀想だ。





 アヤネと稔想のただれた手は治っていないし、黎冥も解放後から呼吸に違和感がある。


 そのうち治るだろうがなんせ不快なのだ。






「では寝丈さん。三人の処分に関しては黎冥家の方で動いておくので」

「あ、あぁ……。……嬢さん、一つ聞いてもいいかい」

「何か?」

「なんでナイフ持ってるの?」







 寝丈の代わりに抑えきれなくなったチルが代わりに聞いたが、アヤネは首を竦めて戯た顔で笑うだけだった。















 犯人捜索期間中は絶対に離れないようにとアヤネと約束し、契約書の行方を追っていたある日。




 ついに祈願祭典の祈りが終わってしまった。



 と、同時にアヤネは死の女神からの頼み事を思い出す。






「忘れてた……」

「どうした」

「ねぇどっか祈祷室か大講堂か使える場所ない?」

「なんで」

「死の女神から伝言頼まれてたの忘れてた……」





 黎冥に頭を殴られ、痛む頭を痛む手で抑えながら黎冥に腕を掴んで小さめの祈祷室に連れて行かれた。



 そのまま一人突っ込まれ、間髪入れずに閉められる。










 我、時の女神に思はれし信徒なり。


 時の女神ミシェル。我に救ひの手を。




 時を刻むこの世に時の御加護あべく。


 窮地に立ちし我らに偉大なる叡智と恩恵に溢れし慈悲の手を。











 降臨の祈りを捧げると同時に眩しい光が放たれ、小さなヒールの音が鳴った。





 光が収まってから顔を上げる。





「……時の女神様」

『うわぁ本当にお嬢様と同じ顔……!』

「え、あ…………はぁ……?」

『あ、違う。……人の子よ、何を望む』




 いきなり雰囲気の変わった女神に項垂れ、先日の誘拐|(?)事件から死の女神までの言葉の一連の流れを説明した。






『お嬢様が……?』

「あの、お嬢様って……」

『ヴァイオレットお嬢様です。ちょっと待って下さい、ウィリアム様呼んできます』




 時の女神に肩を叩かれ、消えると同時に肩に重い何かがのしかかった。








 また肩に手を触れられると同時に重かった何かがなくなり、見上げると大きなローブに顔が隠れるほどのフードを被った人がアヤネを見下ろしていた。




「立っていいよぅ。疲れるでしょ」

「あ、はい……」



 誰だこれはと思う前に立ち上がり、と同時に時の女神が戻ってきた。



 五大神の死の女神を除いた三人を連れて。







 脈が強く跳ね、意識をしないと崩れ落ちそうな膝に力を入れる。




『あ、ハオラン様!』

「久しぶりー」



 時の女神は大きなフードを被った人に駆け寄り、頭を撫でてもらった。






『ミシェル、再会は後で。その子の話を聞かないと』




 壁にもたれた真っ黒なマントを羽織っている星の神は時の女神を止めるとアヤネの方に顔を向けた。






『ヴァイオレット……死の女神はなんて?』

「わ、私の神石を抑える組編は人の子が作れるものではないと……。神の代物の可能性があるから皆に伝言を……」

『どうして直接会いに来てくれないんでしょう……』

「肉体は生きてても魂は死んでる状態だからね。死んだ魂や肉体は人の目に触れさせちゃ駄目なんだよ」

浩然(ハオラン)、俺はお嬢様に会ったぞ』

『は?』

「生きた肉体と生きた魂と混ざったからじゃないかなぁ。そう長くはいられなかったでしょ〜?」





 命の神は生の神の首を絞め、時の女神は慌ててそれを止め、星の神とローブの男は淡々と予測を進める。





 これが本当に神なのかと、顔面偏差値高すぎないかと顔を引きつらせていると星の神が一度大きく手を叩いた。





『えーと、アヤネ? また時間がある時でいいから死の女神と話してくれないかな。この世界は忙しいだろうから時の狭間には来れないでしょ? またこの部屋で死の女神を呼んであげて』

「あ、は、はい……」

『それじゃあ解散!……調査はこっちでも進めとくからね』




 星の神はそう言うと神三人を連れて姿を消した。


 続いて、ローブの男もアヤネの頭を撫でると消えた。












 祈祷室を出ると、しゃがんで俯いている黎冥を見下ろす。




「何やってんの」

「……神何人呼んだ」

「時の女神呼んだら死の女神以外全員降りてきた」



 黎冥は立ち上がるとアヤネの頭に手を置き、大きな、本当に大きくて重い溜め息を吐いた。







「……ねぇ、神話って事実?」

「聖書とか教科書に載ってるのは」

「死の女神の話したんだけどさ」






 死の女神の魂は死んだ状態で、肉体のみが生きていると言っていた。


 そして、セリョアに降臨した時は生きた肉体に生きた魂と混ざった状態で入ったから、とも。





 少なくとも生の神以外は死の女神に会えていなくて、死の女神は神の前には行けない。

 だからアヤネに伝言を頼んだ。






「女神は死んでるの? 死んだ女神の加護って何?」

「……俺達が住んでいる世界と神が住んでる世界は別物だ」




 別物で、そこに加護という架け橋が出来た。

 だから信徒は神を信仰するし神は信仰する人々を守る。



 たとえ今、死の女神が死んだとしても、時の女神のように二代目、三代目が出てくるだろう。





 星の神と並ぶ古参の死の女神が入れ替わると神の世界は混乱するだろうが、黎冥達が住むこちらの世界にはほぼ影響はない。

 強いて言えば、神話が増える程度。









 だが、死んだという情報だけを伝えれば神が生きる意味の信徒は大混乱。

 それこそ、死の女神が入れ替わった神の世界並に混乱を起こすだろう。




 神の加護がなくなったと思い込んで反乱を起こす奴もいるかもしれないし、死ぬと永遠にさまようことになるかもしれないと怯えて鬱になる人も、これは確実に出てくるだろう。







 死の女神は人が恐れる死と人が縋る優を兼ね備えて信仰を集める女神だ。


 人が恐れ、必ず辿り着く死。

 人が望み、必ずは与えられない優。





 二つを司る女神だからこそ、人々が信仰し、死後を預けるのだ。









「たとえ入れ替わったとしても死の女神は死を司る女神だ。次の死が優しいとは限らないし悪人に裁きを与えるとも限らない。……中には死の女神は不滅だと信じる人もいるだろうし、アヤネが危険になる可能性があるならこれは言わなくていい。肉体が生きてるならまた魂が宿る可能性もあるわけだし」



 死の女神の魂なら、死に導かれることはないだろう。

 死の女神にガチ恋勢の命の神と生の神が死に物狂いで生き返らせるだろう。




 人々に伝えるのは、入れ替わりが確定してからでいい。










 黎冥はアヤネの頭を撫でると、肩に腕を乗せて体重を掛けた。





「まぁ死ぬ未来が確定してるなら時の女神が巻き戻すだろうけど!」

「重いんだけど」

「お前が軽すぎんの」

「関係ないだろ! 退け!」

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