45.加護と序列
アヤネの加護解析を諦め、起きたアヤネはスカートとローブを整える。
「……知らない人がいる」
「ここの校長と副校長。黒の下にいる人たち」
「あそ。……なんか分かった?」
「なーんも。呼んだ意味なかった。じゃ、外野は帰れ」
「呼んどいて酷ない?」
シュルトが問答無用で扉を閉め、セリョアはアヤネに飛び付いた。
「凄いです! セリョア、感動しました! 正に神に愛された神の子です!」
「早く次やりますよ」
疲れ果てた雯麟が休んでいる間にシュルトが台の左横にしゃがんだ。
気になったアヤネもそれを覗くと、シュルトは台の両角に手を添えてそれを手前に引いた。
台の中から引き出しが出てきて、敷き詰められた赤いクッションの上に置かれた大きな金色の杯が出てきた。
五十センチ近い大きさで、杯の両端には羽を模した左右二本、計四本生えている。
杯の中心にはブローチほどの大きさの夜空を凝縮したような球がはまっていて、その周りを囲うようにビー玉ほどの大きさの五大神色の石がはまっている。
「ここまで腐蝕が……」
シュルトはそれを持ち上げ、音が鳴らないようゆっくりと台の上に置いた。
「羽が少し黒ずんでる」
「どうしましょう……?」
「……まぁいっか」
黎冥はそう小さく呟くと、既にかなり腐蝕の進んだ生の神石を取り出した。
途端、その神石が杯の腐蝕を吸い取り、神石は半分ほど黒ずんで端が欠け始めた。
「神石が……」
「生の神石ですから。別に持っていても変わらないので問題ありません」
たぶん、アヤネと行動したりアヤネに触れている時点で神に存在は認識されている。
後はどう祈って接触するかだが、基本的にアヤネが祈る場所には黎冥もいるので神石を持つ意味はない。
眉尻を下げるセリョアに対して肩を竦め、それをケースに入れた。
「これで問題はなくなりましたよ」
「ありがとうございます」
「助かる。……雯麟様、大丈夫ですか」
「少し休む。シュルトから始めてくれ」
「は、はい……」
シュルト以外の四人はクローゼット側に寄り、シュルトは杯に手をかざすと一つ深呼吸をした。
「……力込めるだけ?」
「うん。試すのに神降りてきたら洒落にならないし」
「どうなんの?」
「杯に液体が溜まるからその量を見る」
「多い方がいいってことか」
「そう。アヤネは一番下だから最後」
つまり黎冥の量を見て適当に止めればいいのか。なるほど。
というか、神の降臨で黎冥より力が多い事は証明された気がするが、大丈夫なのだろうか。
適当に誤魔化してくれるか。
「……出来ました」
シュルトは振り返り、皆で傍に寄る。が、身長が低いアヤネは見えないので待機だ。
「十分の三」
「去年と変わりませんね」
「雯麟様、頑張って下さい」
セリョアが応援すると雯麟は頷き、一度杯を持ち上げてから手をかざした。
どうやら一度持ち上げ、地と離れることで中の水が消えるらしい。
便利なものだ。
雯麟は十分の五、セリョアは十分の二点八ぐらいで、ギリギリシュルトよりも少ないぐらいだった。
「セリョアは去年よりも増えているな。偉い」
「セリョアも成長してますから! いつかシュルト様を抜かします」
「十八ならそろそろ成長も止まるだろう。……ルイガ君、次だよ」
「ドーピングはしてませんからね」
黎冥はそう言うと杯に近付き、片手だけをかざした。
両手でいきなり込めると割れる可能性があるので片手で少しずつ。
たぶんアヤネはこの杯では足りないだろう。が、本人に抑える気があるなら黎冥は杯をギリギリに満たす必要がある。
だって少なすぎるとアヤネの身長では見えないから。
もし見えずにうっかり越しました、では来年も再来年も抑えることは出来ない。
成長が止まった黎冥と成長中のアヤネの力量が入れ替わることはないのだ。
アヤネが今年一位になって、来年二位になると精神的苦痛を与えられて無理矢理力を引き出すため、そうならないように予防線を張っておく。
少々目眩がするが問題はない。
毎朝低血圧で失神寸前になる黎冥に取ってはただ視界が白くなっただけ。
「……こんなものですか」
手を離し、一歩下がるとアヤネを前に置いて背伸びさせる。
三人ともその量に愕然とし、口を開閉した。
「え……なん……で……?……回復薬飲みましたか!? 卑怯ですよ!」
「回復薬を飲んだのはシュルト様ですけど。俺は飲んでませんよ」
「シュルト様!?」
「え!? 飲んでない!」
「俺が渡した水に入ってます。まぁあの量を見る限り、減っていた量を普通に戻した程度でしょう」
というか、あれはあくまでも回復促進薬であり容量を増やすものではない。
いくら服用したからと言って、自分の容量内では無限に増えるがその容量を越えたら紺以下が中たったような症状が出るはずだ。
後、薬の副作用で大変なことになるはず。
と、言うことでこれは黎冥本人の容量内に溜まりに溜まっていた力量を全て出した結果。
「……十分の九点八だ」
「本当に薬を疑うならセリョア様に渡したものをここの医務室で調べて下さい」
「セリョア、後で貸してくれるね」
「は、はい」
「さ、今日の大目玉だ」
黎冥はアヤネの肩に手を置くと通り過ぎ、四人で角に戻った。
アヤネは全身を伸ばして必死に覗きながら、手をかざす。
黎冥が十分の九ならアヤネは十分の七ぐらいでいいだろう。
というか、それ以下は見えないので見えた瞬間止めよう。
アヤネは神経を尖らせて注ぎ、そろそろ見える気がするという直感で徐々に注ぐ量を減らして、ちょうど見えたところで手を離した。
「アヤネちゃん、まだあるんじゃないかい」
「……でももう出ませんよ」
「本当に?」
「あと気分悪いので座っていいですか」
「大変! すぐに休みましょう!」
黎冥は三人の後ろでニヤリと笑い、アヤネはセリョアに支えられながら柱に寄りかかった。
あいつ、絶対こうなる事を予想してセリョアとアヤネを誘導した気がする。
セリョア一人ならなんともない、か。
「ルイ君、アヤネちゃんはまだ残ってると思うけど」
「そう言われても本人が体調不良を訴えてますし……成長途中ですからそのせいかもしれません」
赤子だって、加護が三十あってもセリョアには敵わない。
アヤネは今まで神とは程遠い場所で暮らしていたから、体も小さいしまだ容量が少ないのかもしれない。
と、適当に誤魔化した。
これで納得するのだからこの二人も馬鹿なものだ。
「……十分の七だ。アヤネちゃん、しばらくここにいていいからしっかり休むんだよ。ルイ君、片付けを頼んだ。シュルトとセリョアは報告に行くよ」
「セリョアはここにいます!」
「ルイガ君を連れて行けばいいでしょう。同性がいた方がセリョアもアヤネ様も安心でしょうし」
「……それもそうか。セリョア、片付けは出来るね?」
「はい!」
シュルトによって上手く言いくるめられた雯麟は頷き、雯麟はシュルトと黎冥を連れて出て行った。
「数十分もすれば戻ってくるはずです。セリョアは片付けますね」
「はい。ありがとうございます」
また微笑めばセリョアは大興奮し、引き出しを開けてから杯を片付けた。
特に気分が悪いわけでも不快感があるわけでもないアヤネはしんどいフリをしながらセリョアと少し話す。
「……少しマシになってきました」
「本当ですか? 良かった! 圜鑒さんが行ってしまったので回復薬がありませんが……」
「大丈夫ですよ。心配かけてすみません」
「いえいえ! セリョアは一生アヤネ様の傍にいます!」
そんなシュルトよりも男らしい求婚のような言葉をかけられても。
アヤネは苦笑し、セリョアが大興奮していると御三方が戻ってきた。
「アヤネー、立てるか」
「圜鑒さん無理させないで下さい!」
「大丈夫ですよ?」
「薬ならあるけど」
「あぁセリョア、薬を貸してくれるかい。ルイ君も」
「はい!」
「どうぞ」
黎冥は自作の薬袋を取り出すとそれを一粒抜いて丸ごと渡した。
「これはアヤネに飲ませるので」
「あぁ。それじゃあ借りるよ」
「どうぞ」
阿呆だなーと思いながらも特に何も言わず、おとなしくそれを渡すとカプセルをアヤネに渡した。
「水は?」
「ない」
「丸呑みしろと?」
「そのためのカプセルだ」
「ちげーよ」
アヤネは渋々それを口に含むと丸呑みした。
黎冥はアヤネを立たせるとずっと扉側から見てくる三人に目を向けた。
「そんなに信用ならないなら俺の部屋にある薬を取ってください」
「……いや、いいよ。ルイ君の事は信用しているからね。これも念の為だし」
「そうですか」
黎冥はアヤネの背を押し、礼拝堂を出ると三人とは反対の寮側に向かった。
「体調は?」
「問題ない」
「お前案外演技派だな」
「過酷な環境を生き抜くためには演技は必須だろ」
「嫌な習得方法」
客間が連なる廊下が見えてきて、アヤネは足を止めた。
「……神服貰ってないんだけど」
「あ」




