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40.到着と紹介。そして脱臼

 二週間に渡る船旅を終え、本校、北校、南校の生徒は制服で中心校まで歩く。







 ここは街全体が信徒で溢れているため、制服で歩いても問題ないらしい。


 学校にイタズラをする人は一般人の猛攻に遭うので問題はない。







「なんで知られてんのにこんな路地裏歩くわけ」

「知られてるからこそ表に出たら囲まれる」




 ゴミと腐乱死体と野生動物と逢瀬が見られる路地裏を二人で歩き、屋根と屋根の隙間から見える塔のような中心校を目指す。





 ここからは高い部分しか見えないが、正面から見ると三棟と二本の塔で構成されており、三棟はそれぞれ寮、教室、祈祷室で別れているらしい。

 初めて行くと絶対に迷子にならないようにねと警告されるほど広く大きい。






「私方向音痴なんだけど」

「方向音痴じゃなくても一人行動すんな。誰に狙われるか分からん」

「気を付けます」












 港から三十分ほど歩くと、大きな白い塀が見えた。


 その塀に沿って歩き、皆が集まっている正門に向かう。






「黎冥先生どこ行ってたんですか!」

「裏路地から来た。目立つし」

「せめて一声……」

「来たで」




 兎童の声は稔想に遮られ、黎冥はアヤネの肩に手を回すと少し後ろに下がらせた。






 紺以下はその存在感と圧倒感で離れて行き、アヤネは黎冥に肩を抱かれながら足を進める。





「やぁルイ君、去年ぶり。弟君は夏までいたんだよ」

「お久しぶりです雯麟(ウェンリン)さん。お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。……その子が例の弟子ちゃんかな?」




 グラマー体型に漆黒の神服を着た艶っぽい女性は真っ赤な唇で弧を描き、アヤネの前にしゃがむと手を出した。





雯麟(ウェンリン)、黒の一番だ。ルイ君みたいな知識はないけど仲良くしてね。雯麟でいいよ」

「……純音(あやね)です。お見知り置きを」



 獲物を狙う鷹のような鋭い目を合わせ、軽く握手をした。





「加護が二十以上あるそうだね。ルイ君のところでは満足に学べないだろう。私はいつでも待っているからね」

「私の初めての弟子を取らないで頂けますか?」

「可愛い子は勧誘するのが癖でね! なんならルイ君もおいでよ。可愛がってあげるよ」

「ご冗談を」





 黎冥よりヒールで少し身長の高くなった雯麟は黎冥の肩に肘を掛け、大きく笑った。





「シュルト、セリョア、二人も挨拶するといい」

「では私から失礼して」






 優しそうな雰囲気をした男性はふわりと微笑むと片膝を地面に突き、アヤネの手を取った。




「アヤネ様、私と夫婦になりませんか?」








 肩に回された黎冥の手に力が入り、アヤネは顔を引きつらせた。



 なんだろうか、信徒は会った瞬間アプローチしてくる人が多い。


 神を信じすぎるあまり一目惚れに重きを置いているのか。






「えぇと……」

「全部言っとけ」

「何かあるのか?」

「えっ、と……。……誰ですか……?」




 本当に素朴な疑問だ。


 雯麟はゲラゲラと笑い転げ、もう一人の女子もくすくすと笑った。




 黎冥は無表情でシュルトを見下ろし、シュルトは黎冥を無視して苦笑する。




「私の名はシュルト・ルベイン。黒序列の二位で時の女神の純然たる黒信徒です。これから多くの男性を魅了するのでしょうが、私がアヤネ様と仲良くなった暁には是非」

「……会うのって年に一度だけだよね?」

「うん」





 それ、数十年ほどかからないだろうか。





 アヤネは少し戸惑った様子でシュルトを見下ろし、静かに手を引いた。




「私が成人した時にでもまた……」

「それまでに恋人以上になりましょうね」

「シュルト様、アヤネはまだ十六ですよ」

「十六は立派なレディだよ、黎冥君」

「今すぐから選び出せというのも酷でしょう。これから多くの出会いがある歳です」

「……ふふん?」





 シュルトは黎冥の腕を掴み、三メートルほど離れたところまで連れて行った。

 雯麟も好奇心でそちらに行く。







「……殿方はおいといて、セリョアの自己紹介をしてもよろしいですか?」

「あ、はい……」

「セリョアはハンセリョアです。セリョアとお呼び下さい。セリョアはアヤネ様と一番歳が近い十八歳なので是非仲良くしたいです」

「よろしくお願いします……」





 握手に差し出された手に触れようとした瞬間に向こうから掴まれ、真っ白な肌と赤い目が近付いてきた。





「圜鑒さんは殿方です。お気を……」







 セリョアの言葉の途中で黎冥の叫び声が聞こえ、二人がそちらを見ると黎冥がシュルトに締められていた。



 左腕を背中を通って右に引っ張られ、首を絞められている。

 人間の構造的に不可能な角度だ。





「痛い痛い痛い! 何!? なんで締められるん!? 死ぬ!」

「別にいいよ」





 セリョアは慌てて駆け寄り、アヤネもそちらに足を向ける。





「お、御三方、セリョア、肌が痛くなってきました。中に入りませんか? 皆様をお待たせするのもアレですし……」

「先に入っといていいよ。これ殺してから行くから」

「え、えぇ……」

「シュルト、さっさと離して入るぞ。ルイ君もアヤネちゃんも私のものだ」

「……失礼しました」






 パッと手を離された黎冥は崩れ落ちて肩を抑え、セリョアは黎冥に駆け寄り雯麟はセリョアに自身のマントを頭から掛けた。





「圜鑒さん、大丈夫ですか?」

「……肩が外れた気がします」

「自分で治せよ」

「はー痛った。災難だ」




 黎冥は自分の肘を持って腕を回し、骨をはめた。






 セリョアは顔を引きつらせ、黎冥は肩を振って動くことを確認する。





「あざになる気がする」

「気のせい気のせい」

「適当な」




 黎冥は右手でアヤネの背を押し、先に歩き出した雯麟とシュルトについて行く。






 セリョアは正門の外で待ち惚けを食らっている皆を中に招き入れると、雯麟のマントを押さえて皆を抜かして駆け足で建物内に入った。











 校内は重く、腐ったような嫌な圧が充満しており、黎冥とアヤネは口と鼻を押えて顔をしかめる。





「何これ」

「知らん。去年はなかったのに……」

「二人とも、どうかしたか?」



 雯麟は不思議そうに寄ってきて二人を覗き込んだ。





「この圧はなんですか」

「圧……? 圧なんかあるか?」

「ありませんよ。お二人は力が少ないのでそのせいでは?」

「セリョアも何も……」

「……あぁ神石だ……」



 三人が首を傾げる中黎冥は小さく、アヤネにも聞こえないほど小さく呟いた。






「まぁいいです」

「紺以下が中てられるんじゃないの」

「どうでもいい」

「あそ」




 しかししばらくしてからやって来た紺も、水色でさえなんの圧も感じずケロッとしていた。







 黎冥とアヤネは呼吸が重いのを我慢して客間に案内される。





「どうする、二人は隣か別々かどうし……」

「別々で良いのでは?」

「隣でいいです」

「これの体質上問題が頻繁に起きるので隣でお願いします」

「それは大変だな。じゃあ同室で」



 このペテン師が。





 予め準備していたのか、していなかったのか、シングルベッド一つに椅子も食器も二つずつある部屋に押し込まれた。




 雯麟が高笑いし、シュルトが睨みながら去っていった後、慌ててセリョアが戻ってくる。



「アヤネ様、アヤネ様のお部屋は別にありますよ……」

「すぐに移っても?」

「もちろんです」




 セリョアに案内され、黎冥の二つ隣の部屋に案内された。





 シングルベッドに椅子も食器も二つずつある。



「雯麟様の言葉はだいたいがジョークですから……何かあったらセリョアに聞いてくださいね」

「ありがとうございます。助かりました」








 黎冥に言われていた通りいつもの神服に着替え、何かしらの鍵一式を持って部屋を出る。



 今日も今日とて男避けに素顔だ。

 ちなみに黎冥も素顔。






「零〜」

「入れ」



 中に入ると黎冥は黒の神服を着て机に向かっており、机には神石が置かれていた。





 言われた通り向かいに座って神石を見下ろす。




「どうしたの」

「神石の腐蝕が始まってる」

「腐蝕って……」








 神石が持ち主の傍を離れ、神の力が離れた時に起きるあれの事だろうか。

 確か強い神石が腐蝕した場合、周囲の神の力が宿るものも巻き込まれる、と本に書かれていた気がする。





「……え、盗んだ?」

「違うわ!……たぶんここにある神石の腐蝕が進んで巻き込まれてるんだと思う」

「ここにあるのって最高級ってやつ? それ以外のもあんの?」





 学校が保有するのは最高峰の神石三十八個。

 それ以外は生徒や教師の私物だが、たかがその程度が黎冥の神石を腐蝕させるはずがない。





「つまり最高峰が腐蝕してるって事?」

「たぶ、ん……。……去年はそんな感じはかったし祈願祭典で使うのに用意されてるはずだから誰か気付くはずなんだけど……」

「ねぇ、この腐った圧みたいなのってその腐蝕のせいなんじゃないの」

「……そうだとすると物凄くまずいことになる」





 アヤネはともかく、黎冥まで感じているとなると相当腐蝕している事になる。


 神石の腐蝕が始まったら最後、神に守られたこの学校ごと腐蝕する可能性が高い。

 一度腐蝕してしまえば腐蝕済みの物を直すことは出来ない。


 出来ても最低限、腐蝕の進行を止めて腐蝕で壊れた面を聖なる力で覆うぐらいだ。




 腐蝕した場所は黒く黒ずみ、髪も揺れない程度の風で崩れ落ちる。









 そこまで約二秒未満で考え、黎冥の顔面が真っ青になった。



「あ……」

「何?」

「死の女神の神石が……!」





 女神の神石は赤子の小指の爪よりも小さかったはずだ。


 大きさとは反対に力は最も強かった。




 あれが腐蝕したら即無くなるし周囲への被害も馬鹿にならないだろう。




 黎冥がこの圧に気付いたのもそれが原因かもしれない。







「……アヤネ、神石持ってこい」

「う、うん……」





 黎冥は自身の神石を箱に入れると組編で縛り、まだ腐蝕がほとんど進んでいない空気で空間を切り離した。






 廊下で神石を持って出てきたアヤネと合流し、アヤネの背を押して早足で歩き出す。





「神石が腐蝕でなくなるとどうなんの」

「神にもよるけど死の女神の大岩とか神石が消えた場合。……たぶんだぞ?」

「うん」

「命と生の神が降りてくる」

「……前みたいな?」






 そんな生ぬるい話で済むといいが。




 怒り狂う二人が完全に降臨すると力無しや、状況によっては実質黒最下位のセリョアでさえ瀕死になってもおかしくないのだ。




 降臨するだけならいいが、神様が自分の体ごと降りてきたらアヤネですら生きるか死ぬかの境で苦しむ可能性がある。





 そうなったら校内の力無しは勿論、街の比較的近いところに住んでいなくとも力無しの、特に年少者は死ぬかもしれない。







 これはあくまで可能性で、本体は降りてこないだろうし二体同時に降りてくる可能性も極わずかだが、それでも怒り狂う可能性は高い。と言うかほぼ百だ。




 最近、アヤネが祈ると信じられない頻度で神が降りてくるためもしかすると傷付いただけで怒る可能性も、無きにしも非ず。








 こんなことを考えていたら冷や汗が止まらなくなってきた。





 二人は更に足を速め、雯麟の元へ向かった。

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