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37.祈願式典の準備と招待状

 黎冥と生咲(きざき)に助けられながらの奉仕祭が終わった。



 いつも通り命の神と時の女神がちょろっと顔を出しただけで特に問題が起こることもなく、三日間のほぼ不休生活が終わった。







 右手が痛むが特に気にすることもなく黎冥と向かい合って昼食を食べる。



 元々左利きなので特に不自由はない。

 肘を伸ばしたら痛い程度だ。





 斜め後ろから稔想と慧と兎童がニヤニヤと見てくるが二人とも無視している。







「はぁ……」

「目の前で溜め息吐くのやめろ」



 本日五度目の溜め息を吐いた黎冥を睨み、アヤネはパスタを頬張る。





「気楽だなぁ」

「だって問題も起こらなかったし」

「神が! 二人! 同時に同じ場所に降りてきて問題にならないとでも!? また中心校が来るぞ……!?」

「でも十一月に行くんでしょ? 調べたら向こうの準備も忙しいみたいだしこっちが行くまでは大丈夫なんじゃない?」

「そん時どうやってかわすんだよ」






 アヤネも事前に聞かされていたので藥止に聞いて調べたのだ。

 こういった事柄に関して、初めて事前に情報を集められた。






 秋の感謝祭と冬の祈願は中心校で一ヶ月間、五時に祈りをする。

 不眠不休というわけではなく、五時に感謝と祈りを捧げるだけ。




 ただその準備が大変で、神像や神石の準備、今年の収穫量や土地の状態などを調べなければならないので時間がかかるらしい。







 で、その祈りが重要。


 これは夏の祈りのように聖なる力が一定以上貯まればいい。

 奉仕祭のようにやれるだけやる、というわけではないので時短が可能だ。




 赤と水色が大半で、紺が数十人いる計算でこの期間に予定されただけで実際はもっと短いかもしれないし長いかもしれない。







 そこで、バケモノのアヤネと黎冥が役に立つ。



 アヤネと黎冥が一日目から本気で祈り、予想の倍かそれ以上を注げば最短三日、例の序列を決めるのを含めて五日間。



 まぁある程度の力を出して祈れば一週間、プラス二日か三日か。



 いつもよりは少し多く、それでも抑えてやれば三週間と二日か三日。



 完全に抑えて紺の少し上ぐらいになれば予測通り一ヶ月。





 他の黒がどんなものか知らないし今年、どんな新入生が入ったのかも知らないが卒業と新入はだいたい同数だろう。

 黒も黎冥のように抑えていない限り変わることはないし、抑えていたとしてアヤネの実力が分からない今回から本気を出す可能性も低い。



 噂でバケモノとい聞いていたとして、まさか最年少が現一位を凌駕するとも考えまい。




 加護数最多の黎冥も最下位なのだからそこまで上位に考えていないと思う。






 まぁ今回に関しては本気は本気で助かるだけ、変わらないなら計算ズレがないのでどっちでもいい。



 序列は力の見せ付けなので今から抑えることはないだろうしあってもアヤネでカバー出来るだろう。

 カバーをしながらも黒一人分の力を出せるほどにアヤネの力は多いらしいし黎冥も本気なら黒一人が抜けたとて、そう痛手にはなるまい。





「何を根拠に」






 パスタを食べ終わった黎冥はコーヒーを飲みながらアヤネの計算を聞く。



 当のアヤネはとっくに食べ終わり、今は課題の最中だ。





「藥止司書に聞いた。生徒と教員以外の普通の信徒も来るんでしょ」




 学校を卒業した力持ちも来るはずだ。

 計算を大幅に超えて一ヶ月を超えることはないと思う。

 ありそうならアヤネも本気を出す。






「来る。……稔想は?」

「行くで〜。この前までおったし近状報告に」

「……は?」

「あ〜、ほら俺、卒業前に海外飛んだやん? 中心校に移籍しててん」




 黎冥は唖然とし、だからあの時、と言葉を続ける。




「あの時って?」

「アヤネの神石を見た時。すぐに中心校が持つ神石より上質だって見抜いたろ。ずっと中心校の神石を見てたからだ」

「そうそう! いや〜寮が近かったからいっつも当てられて気分悪なっててん。災難やわ。あはは!」




 そんな事はどうでもいいと話を戻したアヤネは黎冥のコーヒーを取り、それを飲む。




「紺以下はいてもいなくても変わらないでしょ」

「まぁ三位一人である程度は補えるし」

「……黒の最年少って何?」



 ふと思ったが、世の中の聖なる力を持つ全員を合わせて黒はたった五人しかいないのだろうか。

 新しい赤子が黒なら最年少の黒はその赤子になるはずなのに、何故高校生のアヤネが。





「それは単純な話。成長過程で力が増えて紺が黒になったら黒。稔想は元赤の紺上がり。俺は生まれつき黒」



 なるほど。


 アヤネは紺上がりの黒か、赤上がりの黒かな。

 生まれつき黒ならもっと前にスカウトされているだろうし。





「ちなみに生まれつき黒は存命中の六人で俺だけ」

「自慢か」

「自慢です」



 と言うか六人ってなんだ。


 アヤネが訝しむと黎冥は眉を上げた。




「歴史まだか」

「やってるけど」

「あー……三年だっけ……」



 ここ二十年内の話なのでこの内容を何年生で習うのかがよく分かっていない。

 文系は大嫌いだ。出来るが。




「まぁどうでもいいや。で、どうやってその一週間か二週間を切り抜ける? 行った初日に引き抜かれてもおかしくないけど」

「人脈だけは広いでしょ。えーと、誰だっけ。嫁陣(よめじん)さんと墓千(ほち)さんと一緒にいた……」

鳴嬪(なひめ)さん?」




 たぶんその人。

 金と女の亡者。




 黎冥の一生遊んで暮らせる貯金で釣って向こうで振り回してもらえばいい。

 振り回して、振り回されて、間に入る隙を作らせない。




「それはお前の精神が大丈夫か」

「大丈夫だよあはは」

「壊れてんじゃん……。……そういう事なら他の人でもいいだろ。話通しとくから付き合えよ」

「はい」

「じゃ、解散」




 黎冥は立ち上がるとアヤネが飲んでいた、否、黎冥から取り上げて一口しか飲んでいないコーヒーを取り返して飲み干し、紙コップを机に置くと早足に去って行った。




 入口付近ですれ違った早津が怯える様子に疑問を覚えながら本を持って立ち上がる。




「二人とも息ピッタリになってきたね。兄さんも楽しそうやし」

「尻拭い役が出来たから暴走が増えただけでしょ。私も働く得があるなら働くし」



 そう言って階段を降りていったアヤネを見下ろし、小さく手を振った。




「……冷めてますね」

「なぁ。……高一の考えとは思えんわ」

「元々アヤネちゃん本人が子供らしからぬ性格だからね。似た者同士だよ」













 気のせいなら気のせいでいいのだが。

 絶対に気のせいではない。




「派手になってない?」



 三着目のベストが刺繍出来たと言われ試着したのだが、明らか派手になっている。



 二着目から刺繍の量が多いなーとは思っていたが二着目のマントがほぼ全面刺繍のようなものだったしこんなものかと納得したのだが。


 が、納得したのが悪かったのかもしれない。






 三着目に明らか派手なものが来た。




「似合うよ」

「否定しろや。自覚した時点で直してもらっていいですか」

「楽しかった」

「楽しかったならもういいよね」

「せっかくやったのに?」

「やってもらわなくて結構です」




 アヤネは試着室の鏡を見て微妙な顔をし、残念そうな顔をする黎冥を見下ろす。




 たぶん、化粧しても顔が負けるほどに入っている。

 完全に調子に乗りすぎだ。





「解くより新しいのに変えた方が早いぐらい入ってるし」





 詰まった首元から上から下に徐々に隙間が出来るような、密度でグラデーションが掛かっている。


 しかもこれとセットのマントは背面ほぼ全面刺繍。




「明らか似合わないよね」

「それは似合ってるって」

「ベストは?」

「……やりすぎ?」

「直せ」




 

 カーテンを閉めて着替え、神服を黎冥に渡す。



「新しいのに変えるか。……これに合うマントもやろうかなぁ」

「四枚もいらないし。毎日着る制服ですら二着で回ってんのに」

「もうに……」

「十分だっつってんだろ」



 話を聞かない黎冥を睨み、神服のベストを取ると黎冥の寮に戻った。







「どんなんにしょっかな」



 クリップで留められた原案の束を引っ張り出し、ペラペラとめくる。


 アヤネもそれを覗き込み、マントの案と合うものを探す。





「……思ったけどさ」

「何?」

「原案上手くない」




 ここでも謎の器用さが発揮されているのだろうか。


 パッと見左右対称に、ズレなく模様や線が描かれている。




 きちんとデッサンの上に服を重ねているし、プロと言っても遜色ないほどだ。







「褒めてひれ伏せ」

「今の言葉で全部台無し」






 マントと合うものがなかったたのでもう一枚似合うものを描かせ、それに決定した。


 右肩からVカット襟の中心まで三本、左肩から右の腰部分まで三本の線が伸びたような刺繍だ。









 黎冥が刺繍を進めている間にアヤネは引き出しを物色する。

 上から三段目、下から二段目の引き出しを開けようとした時だけ絶対に阻止されるが、他は自由にあされるので結構面白いものが見つかる。




 まぁ多くは未開封の恋文と論文だが。








 未開封の古びた恋文を開けては読んで鼻で笑っているアヤネを奇妙な目で見ていると部屋にノックが鳴った。



「出ろ」

「はいはい」






 黎冥は回転椅子を扉の方に向け、アヤネが開けた扉の方を見る。




「おや、アヤネちゃん。来てたのか」

「ベストの刺繍の手直し中です」

「やり直しが出たんで。……なんか用?」

「祈願祭典の一日目が雯麟(ウェンリン)様の生誕日だから祭りが開かれるらしい」

「興味な……」





 雯麟は現黒序列一位の、神話界での実質最高権力者だ。




 今年二十七か七十二か忘れたが、その誕生日を祝うのに祝いが開かれる。

 数年に一度、誕生日と祈願祭典が被るのだが皆はそれも神に愛された子と言う。たぶん親が出産日を調整しただけだろうが。



 あれの親も相当心酔していたはずなので仕方がないか。







 で、その生誕祭に同じく黒の黎冥とアヤネも出席して親睦を深めよう、と招待状が送られてきたわけか。




 アヤネは慧からそれを受け取り、片方を黎冥に渡した。






「今年の日程は?」

「黒が増えたから先に序列を決めて並び順を決めるらしい」

「じゃあ出ない」



 机に雑に置いた黎冥に慧は顔を引きつらせ、アヤネはベッドに座り直す。






「招待状が来たってことは強制出席だぞ……?」

「あー一日目か。……序列とどっちが先かな」

「生誕祭でしょ。序列が落ちたらやる意味ないんだから」

「いや、黒の誕生日となんかが被ってたら結構お祭り騒ぎはする」



 ただ、雯麟以外の三人は見事に何もない時に生まれたのでお祭りは開かれない。


 それでも本人が成人する、何か神官や大神官になった場合は騒がれるものだ。






「……まぁ先に生誕祭なんじゃない?」

「派手好きだからなぁ……その可能性が高いか」





 刺繍途中のローブに針を刺してベッドに放り投げ、招待状を開けて中を読む。






「……来れる力なしの信徒もほとんど集めてパーティーだと。面倒くさ〜!」



 背もたれに仰け反り、ぶつくさ文句を言いながら招待状に穴がないかを探す。






 アヤネも自分宛の招待状を開け、中を読んだ。




 初めましての挨拶もそこそこに、ドレスアップにお化粧で準備万端で来てね。

 そういうのが苦手なら一日早く来てくれたら準備してあげるから黎冥と一緒においで、と。


 黎冥と一緒においで、の所にマーカーが引かれているのは意味あるのだろうか。あるんだろうなぁ。






「遊ばれる気がする……」

「何が?」

「これ」






 黎冥に招待状を見せるとそれに目を通した黎冥はあからさま嫌そうな顔をし、俯いて眉間を押え始めた。

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