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23.侵入者

 論文にかじりついて神経を整えた、否、消耗して凹凸のなくなったテンションで廊下を歩く。





 昨日の血濡れ体育館のせいで兎童に絞られ、慧にアヤネの事を相談すると黎冥が悪いと言われた。



 そんなことは分かっているのだ。

 分かっている。黎冥が悪くて、アヤネが傷付いた。


 その後、どうやって仲を戻すのかを聞きたかったのに、慧は愚痴られる時間はないと帰ってしまうし兎童には睨まれるだけで話しかけられないし他の教師は黎冥に心酔か怯えてまともに話せないし。




 職員室の椅子に座り、無心で仕事をこなしていると慧がやって来た。


 正直、今かなり苛立っている。

 昨日、あれだけ責めて帰ったくせによくノコノコと。




「……睨まないでくれるかい」

「なんの用」

「アヤネちゃんの様子がおかしいんだよ」

「俺のせいだって?」

「私が責めたことを恨んでいるのかな」

「お前が責めるだけ責めて逃げたことに苛立ってんの」



 慧を睨んでいた黎冥が舌打ちをして顔を逸らすと、慧が驚いたような声で口を開いた。




「じゃあ自分が悪いって自覚してたんだ?」

「当たり前だろ」

「じゃあ何が聞きたいのさ」

「知るか」



 仕事をまとめ、出来た紙束を兎童の机に置いた。




「黎冥、アヤネちゃんがおかしいんだ。話を聞いて……」



 散々悪者扱いしておいて結局は黎冥を使う。


 昔からお姫様のような性格だったが、気の立った黎冥にとってあの態度は不愉快極まりない。




 慧の言葉の途中で扉を閉め、自室に足を向けた。





「黎冥圜鑒(るいが)! 話を……!」

「うっさい黙れ!」



 黎冥の珍しい怒鳴り声に廊下にいた生徒全員が肩を震わせ、黎冥の方を見た。



 息が詰まりそうな程の威圧感を放ち、静かに振り返り慧を睨んだ。




「お前がアヤネが落ち着くまで距離取れっつったんだろ。自分の発言で他人振り回してること自覚しろ」





 黎冥はそう言うと去って行き、慧は額に血管を浮かばせると顔が引きつるほどの怒りを噛み締めた。










 その日の夜、夜中の一時ほどだ。


 七時頃に北校と南校の生徒を見送り、今夜の見回り担当の黎冥が小さなランプの光で歩いているとどこからか足音が聞こえた気がした。




 自分の足を止め、耳を澄ます。


 やはりだ。

 ゆっくりだが足音が聞こえる。




 寮の外出制限はないがこの時間に足音があるといじめやら夢遊病やらで色々とあるので一応そちらに足を向ける。



 時々止まりながら徐々に足音に近付いていると、急に足音が聞こえなくなった。



 他に物音がしないので意図して止まったか。



 正直、ホラーは苦手なので嫌なのだが教師の仕事のうちらしいので意を決して植木鉢と本の山の間を通り、そちらに足を向けた。




 そちらを見ると何かがあり、眉を寄せる。



 ランプの蓋を開けて酸素を入れると火を強くし、それを照らした。




 誰か、生徒だ。




 ゆっくり近付き、そっと背に触れた。



「……アヤネ……」




 顔をうずめたままこちらを見た目と目が合う。


 目は充血し瞼は腫れ、頬に涙の跡が残っている。



 まつ毛はまだ濡れており、いつも以上に酷い顔をしていた。





 黎冥が頭の中に疑問符を浮かべる間にアヤネは眉を寄せ、立ち上がった。



「指輪、誰に渡した」

「……なんの?」

「寮の! 勝手に入られた! なんで勝手に貸すの!?」

「し、知らないって! 何!?」

「じゃあ誰が!」



 大粒の涙を流すアヤネに胸ぐらを掴まれ、混乱するままとりあえず口を塞いだ。



 この辺りに寮は無いはずだがかなり響くので誰かが起きる可能性がある。




「とりあえず俺の部屋行くぞ」

「……行かない」

「はぁ? 勝手に入られたんだろ」

「……もういい。寝る」

「ちょっ……!」




 涙を拭って通り過ぎようとするアヤネの腕を掴み、払われたがまた掴んだ。



「なっ……!」

「いい加減にしろ。寮入られたんだろ? 犯人が指輪持ってる可能性の方が高いのに普通に寝ようとすんな。お前は自分の価値を上げろ」

「価値って何。加護のなんか? 顔ですか?」

「アヤネは自分の中身に対して理解力がなさすぎ。アヤネの価値はそれだけじゃないだろ。……とりあえず部屋行くぞ」

「離してよ……!」

「暴れんな」




 アヤネの手首が赤くなるほど力を込めて掴み、無理矢理黎冥の自室に連れて行った。




「叫ぶぞ」

「肉食動物前にした小動物みたい」

「は?」

「何があったか話せ」

「もういいって……」

「諦めれるようなもんなら初めから泣くな。このまま放置したら第一にお前が危ないだろ」





 ベッドに座って、人の腕の構造を理解した上で無理矢理抜けば関節が抜ける角度に掴んでくる黎冥を睨む。



 いつもなら睨まれて、喧嘩になって終わるのに、今返ってきたのは今まで向けられたことのなかったほど真剣な真面目な眼差しで。



 ボロボロと涙が零れ、抵抗する気力もなくなると黎冥が涙を拭った。




「ほんっとに泣き虫」

「……うるさい」

「初めからそうすりゃいいのに」

「お前の信用がないせいだろ」

「信用しないのはそっち。……あ、いや信用してんのか」



 飛んで来た言葉に、指輪を誰に渡したと問うものはあっても指輪の持ち主である黎冥を疑う言葉はなかった。




 嫌われた直後だがとりあえず安心しておこう。



「とりあえず何があったか話せ」





 事が起きたのは昨日の夜。


 アヤネが夕食を食べている間に誰かが寮に入ったようで、荷物が荒らされて制服が切り刻まれていた。



 鍵付きの箱に入れていた印鑑や通帳は問題がなかったが、箱に入り切らなかった大切なものがなくなっていたのだ。



 神服も裂かれていたし、制服は汚したと言って新しいものを貰ったが初めのものはボロボロ。


 盗まれたものに関してはもしかしたらどこかに捨てられているかもしれないと探していたがどこにもなく、今日は一日中ずっと探していた。




「……盗まれたのは?」

「……箱。黒いベロア生地のペンケースぐらいの」

「中身は?」

「……ただの石だと思う。宝石とかじゃない」




 何故それが大切なのだろうか。


 分からないがここで聞くとまた変にこじれそうなので黙っておく。




「俺は指輪を貸してないから新しく作られたことになるけど。作った?」

「どうやって作んの」

「だよな」



 アヤネの自己管理能力がどれほどのものかが分からなかったので指輪の作り方は教えていない。




 指輪の作り方は至って簡単。



 教師に頼んで無地の指輪を貰い、それをドアノブの持ち主に触れさせるだけ。


 黎冥の場合はわけの分かっていないアヤネに無理矢理やらせた。



「あれか」

「あれ。……触ってないだろ」

「うん」

「なんかぶつかったとか?」

「……特に何も」



 いよいよ分からなくなってきた。





 まずは無地の指輪がどこから来たのか。


 あれは教職員しか持ち得ないため普通の生徒は手に入れられない。



 それこそ、師弟関係が認められて弟子に許可されたり兄弟間で作ったりするだけだ。



 もし盗んだ、または協力した教員がいるのならそれ相応の罰を下さなければ。







「とりあえず今日はここで寝ろ。襲われたら困る」

「別に……」

「良くない。男付き合いが多いなら怖さ知ってるだろ」

「……なんでそんな気にすんの」

「書類上の弟子だろ。師匠が心配すんのは当たり前。お前が異常な環境で育ってきたってことはよく分かったから他人に心配されてるって認識を身に付けろ。話はそれから」





 ベッドから立ち上がるとアヤネを座らせた。



 黎冥の膝枕で寝れたのだ。抵抗はほとんどないと思う。





「お前は」

「ちょっと確認してくる。じゃ」




 黎冥は部屋を出ると鍵を閉めた。








 指輪が新しく作り出されたか、ドアノブ自体が変えられたか。


 ドアノブを変えるには本人が行う必要があるし、そんなことをするぐらいなら指輪を作る方が手っ取り早いので後者の可能性は極わずか。




 有力候補、と言うか最低限可能性があるものとしてはすれ違いざまに触れさせたかどこかに忍ばせて無意識に触らせたか。





 最近、さらにストーカー化して校外にまでついて行っている羽鄽なら知っているだろうか。





 なんにせよ取ったものは返してもらわなければ。


 アヤネの機嫌が損なわれて損をするのは黎冥だ。

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