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15.暴走神の大暴走

「まずいことになったねぇ……」



 真っ白なローブを着て大きなフードを被ったその男二人は、真っ白な空間の水溜まりを覗き込む。


「何がどうなってんのあれ」

「どうなってると思う〜?」

「分かんないから聞いてんだけど」





 大きなフードを脱ぎ、深緑の髪にわざと伏せたような目をした中国人は少し眉尻を下げる。


「これは僕の妹の執事ねぇ。執着心の塊」

「女の子が妹蘇生に必要な子だっけ」

「そうそう〜。全員同じ顔ってのは教えたでしょぉ」

「髪とか目の色は違うんでしょ。肉付きも違うし隈も酷い」




 もう一人も俯いたら勝手に被れる大きなフードを脱ぎ、その朱色の髪と紫の目を現した。




 神々(みわ)火光(かこう)

 生前、妹と兄のために生き、教師になり、妹と生徒のために死んだ非常に献身的で、妹大好き兄大好き同僚大好き生徒大好きの読んで字のごとく神のような男である。


 時偶後光が差す。






 神の加護が離れたあの世界で、死に損ないと言ってはなんだが、死に選ばれずこの時の狭間に取り残された。



 が、時の女神と縁の女神のイタズラにより一人取り残された結果、この気障な男、浩然(ハオラン)と旅をすることになった。


 生前太陽、死後は後光が差すほど優しいのに不運な残念男だ。




「火光がいた世界とはまた別だよ」

「パラレルワールドみたいなもん?」

「……何それ」

「えーと、平行世界って意味だったはず。こっちの世界とは違うもう一個の世界、みたいな」




 火光が身振り手振り説明すると、浩然は合点して大きく頷いた。



「そうそう! 僕がいた、この神様が存在してる世界ねぇ。ここを中心に色々と広がってるのぉ。行くところはまだまだいっぱいあるしすぐ分かると思うよぉ」

「そんなことよりさぁ、もう五回六回ぐらい日が落ちて昇ったけどこの人ら大丈夫なの? 人の構造まで違うとかある? 妖力の有無みたいなもん?」



 浩然の話をぶった切った火光が水溜まりを指さすと浩然は慌ててフードを被った。




「そんなわけないよぅ! 死んじゃう死んじゃう! 寝なかったらどうなるか知らないけど!」

「精神狂うらしいよ〜」


 浩然はいつもの先に宇宙を凝縮したような球が浮いた金の杖を持つと火光の手を掴み、杖を下に突いた。




 一瞬の浮遊感の後、久しぶりのちゃんとした地面に足を着く。






「アーネスト! 今すぐ離して!」


 浩然の叫び声に祠に座った命の神、アーネストは顔を上げた。


 跪いて七日間不眠不休で祈り続けている男は半分意識がない。

 圧で固まって根性で唱えているようなものだ。




 気絶した女子の髪をいじっていたアーネストは顔を上げると浩然を見下ろす。



『旅に出たんじゃなかったのか』

「その子! その子が死んだらヴァイオレットが死ぬんだよ!?」


 だんまりを決め込むアーネストに対し、浩然はフードを脱ぐとにこりと笑った。



「あっそう。やっぱ顔なんだねぇ?」

『お嬢様の方が美人だろ』

「ヴァイオレットが死ぬって言っても離さないってことはヴァイオレットよりその子がいいんでしょ? いいよ別に、ウィリアムが勝つだ……」

『黙れ』




 アーネストは女子は離すと祠の上に立った。



『お嬢様はいつ帰る? お前の使命はいつ終わる?』

「急かすなら時の狭間で待ってて。凄いよ、数秒で数日間もすぎる」

『ウィリアムもお嬢様のためなら力を使うと言っている』

「別にいいよ。感情も思考もない抜け殻の人形になってもいいならね。一生話さないし求めることも求められることもない人形にしたいならどうぞご勝手に」



 浩然は火光に少女を預けると不眠不休で祈っていた男の肩に触れた。


 その瞬間、糸が切れたように横に倒れ崩れ落ちる。



「何したの」

「何もしてないよぅ。アーネストが消えたから圧が消えただけ。悪いけどちょっと借りないとねぇ」



 二人は男女を連れて他の人に見られる前にさっさと時の狭間へ帰った。




 浩然は息と脈の止まった男を横たえると杖を突き、ウィリアムを呼ぶ。



「ウィリアム、治して」

『誰これ。それも誰』

「ミシェルのイタズラだよぅ。この人はヴァイオレット蘇生に必要な子に必要な人」

『ややこし』



 青髪に赤い目をした燕尾服姿の十五ほどの少年は男の頭側にしゃがむと額に指を突いた。



『……ん、寿命あるし何とかなる』

「ごめんねぇ、アーネストが暴走して」

『あのクズが』




 ウィリアムは人には聞こえないほど小さく短く呟くと額から指を離し、颯爽と消えた。




 男の胸が上下に動き始め、また脈が戻る。


「うんうん、大丈夫そうだねぇ」

「歴史に干渉したら駄目なんでしょ。生き返らせて大丈夫なの?」

「そもそもアーネストの暴走自体が歴史とは違うことだからねぇ」



 ここで死者や怪我人、病人を出してしまうと歴史が歪んでしまう。


 例えば分かりやすいのは死者か。





 一人の女の子がいます。

 その女の子は未来で轢かれかける所を助けられ、そこから仲のいい友人が出来ます。


 でも歴史が変わったせいで友人は神が原因でストレスにより死産してしまいます。


 結果、女の子は事故で助からず死にました。





 これは死の連鎖が続く最悪の場合だが、神が気まぐれで起こした歴史上に存在しないものに死者、怪我人、病人を出してはならない。



 歴史が歪んだ瞬間、一つの惑星と言っても過言ではないその世界が神の管轄から外れてしまう。


 神が中心で回っているこの世界で、神の管轄外になったものは簡単に壊れてしまうので、一つの死が世界崩壊に繋がることもあるのだ。




「二人は死ぬ予定がなかったから大丈夫だよぅ。あとは時の女神が死ぬ気で頑張ってくれるだろうからねぇ」

「そっか」

「その子は大丈夫そう?」

「大丈夫ではないんじゃないかな。脈弱いし極度の脱水症状。七日、六日間水なしで生きてるって奇跡だよ。気絶してるからかな」

「そうだと思うよぅ。見せて」




 浩然は火光に少女を渡してもらうと立てた膝に座らせ、背を支えるとみぞおちに触れた。



「内臓障害でほとんど機能してないや」

「どうするの?」

「もちろん治るよぅ?」



 浩然は少し力を込めると自身の水分を与え、内臓の動きを取り戻した。


 真っ青だった血色が良くなり始め、呼吸が深くなる。




「よし。早く帰そう」

「何日経ってるかな」

「たぶん一ヶ月ぐらいじゃないかなぁ。ウィリアムが来て時間がちょっとズレちゃったからねぇ。早く行こう」





 火光が男を抱き上げ、浩然は少女を抱えると二人でまた祠に戻った。





「早く目覚めてねぇ……」



 男に生の加護があってよかった。

 神の力で無理やり治したため、普通の人なら人形のようになるのかもしれないが男の場合は加護と直前まで瀕死で生きていたのでそれが相まったのかもしれない。







 祠の前に二人を寝かせると浩然と火光は人に見られないようすぐに時の狭間へと帰った。

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