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43.離れた腐蝕

「お待たせしました、アヤネです」




 事務室で、渡された受話器を受け取って声を掛けた。


 聞こえるのは久しぶりの祖母の声。




『久しぶりねアヤネ。この前は情報ありがとう。ずっとしっぽが掴めなかった団体だったからこっちはお祭り騒ぎよ』

「役に立てたなら何より。いきなりどうしたの」

『その情報のことで、警察から感謝状を送ろうってことになってね? 今どこにいるのかなーと』

「私は聞いて情報流しただけだから。情報掴んだのは黎冥圜鑒だよ。知ってるでしょ」

『黎冥さん!? アヤネ知り合いなの!?』

「うーん色々とねぇ。てなわけだから私よりそっちに送った方がいいよ」



 アヤネは睨んでくる黎冥に仕草で謝り、警察のなんやらから逃げようとしたが無理だった。




『それじゃあ二人に送るわ! えーと、手紙の住所に詳細送るわよ?』

「私も黎冥も今海外だから行けないよ。どうしてもって言うならそれごと送っといて。いらないけど」

『海外!? どうして?』

「修学旅行みたいなもん。それじゃあ適当に送るか、父さんの屋敷に二人分送っといてくれたら帰ったら見るから」

『そう? 記者会見に出てもらおうと思ったのに』

「生憎そんな時間はない。じゃあね」

『じゃあ感謝状は屋敷に送るから。またね』




 通話を切ると同時に黎冥に頬をつねられ、アヤネは痛がりながら事務室を出る。




 睨んでくるだけで何も言わないのが余計に怖いのでやめてくれないだろうか。



「痛い!……なんか言えよ!?」

「お前は言い過ぎ」

「ごめんじゃん! 私を助けたと思って!」

「助けんのはいいけど変なことやるなよ?」

「大丈夫、一番目立たない方法頼んどいたから」

「まったく……」




 赤くなった頬をさするアヤネを見下ろして溜め息をつき、アヤネがお腹減ったと言うので食堂に向かう。


 途中すれ違ったルベイン兄弟に巫良々を渡して。









 アヤネはショートケーキを食べ、黎冥は自分で淹れた珈琲をすする。


 ここの珈琲は薄いのでアヤネのも全て黎冥が淹れることが多い。




「記憶に関しては氣の神がなんとか出来るって。あの二人に関しては向こうでとっ捕まえるから放置でいい」

「神関係は神が処理してくれんのか」

「うん。こっちは私と父さんのことに専念してって」

「どっかの神様とは大違いだな」

「いい加減忘れろよ」

「一生忘れんし一生許さん」

「執念深すぎ……」




 黎冥は頬杖を突いてムスッとしたまま、アヤネは呆れながらまたケーキを頬張った。



 最近は刺すような視線が減ったので過ごしやすくなったし、何より本校のように()()()()がないので快適だ。






「女神様の生死がかかってんだから慌てるのは仕方ないでしょ。零だって私が死にかけたら神様罵倒するくせに」

「それはそう」

「一緒だかんな」

「アヤネが死にそうになっても女神に文句は言わない」

「私が死にそうになってんのに女神様がなんもしなかったら?」

「キレる」

「それ」





 そんな信徒にあるまじき話をしてから数十分して、アヤネの次に黎冥が昼食を食べ終わって珈琲を飲んでいると突然アヤネがキョロキョロし始めた。


 ずっと本を読んでいたので首を傾げる。




「どうした」

「なんか……気持ち悪い……」

「体調不良? 生理的な?」

「しん……りてき……な……?」

「んなあやふやな。とりあえず部屋戻るぞ」

「うん」









 部屋に戻り、扉に鍵をかけてからベッドに座っているアヤネの前に膝を突いた。



「視線とかそう言うの? フラッシュバックとか」

「違うと思う。なんか、なんもないけどモヤモヤして気持ち悪い」




 脈も血圧も正常、顔色も血色も悪くないし、特に体の不調はなさそうだ。



 もしかして離された力が腐蝕し始めているからか。

 持ち主に影響はあるのだろうか。


 なんせ力が腐蝕など聞いたことがないので何も分からない。それも本人の感覚なんて。






「……腐蝕の感覚と似てる?」

「そんな感じはないけど……力の影響?」

「分からん。……権力酷使で探すか」




 だんだん顔色が悪くなってきたアヤネの頬に手を伸ばし、とりあえず水分を飲ませて寝転がらせる。



「吐くような感じではない?」

「吐き気って言うような感じじゃない」

「……スヒェナ呼んでくるからちょっと待ってて」

「いや一人で大丈夫。気持ち悪いだけだし……」

「無理すんなって言っただろ」

「他の人がいたら休めない。いるなら零がいい」




 アヤネの言葉に面食らった黎冥は目を丸くすると、顔を押えてため息をついた。


 体調不良で頭が回っていないのかわざとか、無意識か。




「……分かった。一緒にいるけどちょっと待ってて。神石取ってくるから」

「うん」






 隣の部屋に行くと中にはルベイン兄弟と巫良々がいて、黎冥は引き出しの中から神石の入った箱を取り出す。




「巫良々、アヤネの力どこにやった?」

「言わないよ」

「それで本人が倒れたとしても?」

「……どういうことかな」

「自分で考えろ」




 本人に影響が出るほど腐蝕が始まっているなら神が感じ取れるかもしれない。

 聞いてみるか。下ろせるかな。





 箱からずいぶん小さくなった神石を取り出すとアヤネの手の甲に当てた。


 それがアヤネの中にあった不快な何かを吸い取り、内側から黒ずんでいく。

 神石の腐蝕を吸い取った時は表面から黒くなったが、やはり力と神石は違うのか。





「……どう?」

「だいぶんマシになったけど……まだちょっと違和感ある」

「吐き気止めだけ飲んどくか。吐きたくないだろ」

「うん」



 と言いながら水と睡眠薬を渡して、まるで疑わずに飲んだアヤネが眠ったのを確認する。あとで怒られるだろうな。




 そう言えば、アヤネが夢で神と会っている間に黎冥が神を呼んだらどうなるのだろうか。

 他の神が降りてくるのかな。






 ずいぶん黒くなった生の神石を持って、そのまま祈祷室に向かった。














『……アヤネが倒れたな』



 よかった、呼べた。



「腐蝕の場所を教えて下さい。あと力を戻す方法も」

『アヤネの力が腐蝕して死の大岩に腐蝕が移った。アヤネしか感じ取っていないが。力は大岩の傍だ。岩の傍で下ろせ。神の力は神しか扱えん』

「分かりました。すぐに動きます」






 神と接触した直後にアヤネが倒れていた理由がよく分かった。

 戻った直後、気を抜いたら失神するかと思うほど意識が遠のいた。



 アヤネが最近倒れないのは神の力に近付いたからか。






 廊下や部屋で気分が悪そうに倒れている生徒たちを無視して、図書館や教室を回ってリリスを探す。


 あれは赤色なので失神しているかもしれないと思いながら会議室を開けると、会議室に机で伸びていた。




「起きてるか。……だらしない」

「誰のせいだと……!?」

「アヤネの力の場所が分かった。一箇所行くところがあるからお前も一緒に来い」

「……三十分後に来い……」



 限界か。




 唯一動ける黎冥は廊下を進み、部屋へ戻った。


 あの超短い会話しかしていないのに経った時間は一時間。アヤネは既に起きていて、黎冥が戻るとベッドでクッションを抱えたまま壁にもたれ座っていた。




 黎冥がハッとすると同時にクッションが飛んできて、それを顔面の目の前で挟み止める。




「いきなりだな……!?」

「睡眠薬なんか飲ませんくてもおとなしく待ってますけど? 私そんなに信用されてないの?」

「いや、さっき眠そうだったのに寝れてなかったから……!」

「取ってつけたような嘘つくなよ」

「……ごめんじゃん」



 いい嘘だと思ったが、アヤネの目、いや耳は騙せなかったか。




 黎冥は口を尖らせながら謝るとベッドに座った。


 拗ねるアヤネの頭に手を置き、こいつも不調になると精神年齢下がるよなぁと愛でながら思う。





「寂しかった?」

「何してたん」

「……アヤネって俺が神と話してる時何も感じないの? 圧とかじゃなくても接触してるんだなぁぐらい」

「なんにも」



 力が強すぎるが故の欠点か。いや普通はそうそうないことなので欠点にはならないはずだが。



 圧を感じないというのも難儀なものだな。




「アヤネの力の場所が分かった。……また三週間ぐらい行ってくるけどいい?」

「ほぼ一ヶ月じゃん。零が行く必要あるの?」

「死の大岩に腐蝕が移ってるって。どうなるか分からないから一応」

「じゃあ私も行く。私の力でしょ」

「巫良々の見張りが必要だから。俺がいなくてもアヤネなら大丈夫だろ」





 アヤネの頬を両手で包み、離れたくないなぁと言う気持ちを抑えながら薄く笑うとアヤネは不機嫌そうに口角を下げて黎冥を睨んだ。




「大丈夫ですけど? 戻ってきてから泣き付いてくんなよ」

「えー駄目?」

「私は止めたし。自業自得」




 手を払って布団に潜ってしまったアヤネを見下ろし、頬をつついた。

 しかしアヤネは完全に布団に隠れてしまう。




「……拗ねなくてもいいじゃん」

「拗ねてない。寝るから出てって」

「……すぐ帰ってくるから」





 これは完全に嫌われたなと誰でも分かる状況で、黎冥はそう一言残すとそのままリリスの元へ戻った。

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