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42.巫良々の話

 巫良々が少女を突き飛ばし、それと同時に首に金の鎖、死の契約に触れた際に発動する鎖が首を締め付けた。




 巫良々に庇われていたアヤネと黎冥の傍に現れたのは時の使者、浩然(ハオラン)で、バチバチと電気のような火花のような音がすると同時にその圧は消え、少女の姿も見えなくなっていた。





 二人から離れた浩然は倒れる巫良々を見下ろし、首の鎖に触れた。




「また夢においで。じゃあね」






 浩然の姿も消え、その場はシンと静まり返った。


 唯一意識のあるアヤネは座り込んで黎冥の肩に手を伸ばす。





「零…………零……!」



 黎冥が失神したのを初めて見たアヤネは黎冥への心配と同時にまだ幼いリリスや力はそれほど強くないはずの月見里、果ては力が今はない状態の巫良々に心配が向き、一瞬視界が点滅した。




 いや点滅したのは混乱や動揺のせいじゃない。



 一瞬だけ意識はあるのに思考が全て飛び、思考も感情も疲労も息苦しさも、全てを忘れたような感覚に陥った。




 直後、黎冥がハッと目をします。



「アヤネ……! ちょ……大丈夫……!?」

「こっちのセリフだわ……!」




 巫良々やリリス、月見里や雲類鷲も目を覚まし初め、皆お互いの顔を見合わせる。




 巫良々は首輪を触り、顔をしかめた。





「な、にが……」

「時の女神が糸を紡ぎ直したんだよ。生の神が死者を生き返らせて、創造神の道筋から外れたのを無理やり戻した」



 巫良々は立ち上がるとアヤネと黎冥に体の異変がないか確認するとアヤネの頭に手を置き、小さくと息をついた。





「……先生大丈夫ですか」




 すぐに踵を返して月見里やリリスの方に歩いていき、アヤネは黎冥を見上げる。



「そんな圧強かったの?」

「脊椎折れるかと思った」

「今ので確実に何人かは死んでたんだよね」

「生き返ったし問題ないだろ。それよりも……巫良々!」

「ちょっ……と、名前で呼ぶのやめてもらっていいかな?」

「は?」



 名前を呼ばれる度に一瞬だけ動きが固まる巫良々はぎこちなく振り返ると、月見里の口を塞ぎながらそう言った。




 いきなり何かとわけが分からなかった黎冥は眉を寄せ、低い自分でも驚くほど素の声が出る。




「昔っから圜鑒君は先生のこと巫良々呼びだったから気恥しいんだよ。ほら、記憶を取ったのに同じ呼び方されてるとさ!」

「いや知らんし……」

「誰君」



 いきなり後ろから出てきた雲類鷲を巫良々は訝しむ顔で見下ろし、雲類鷲は笑顔を固めた。



「雲類鷲ですよ……!?」

「……あぁ雲類鷲君か。すっかり成長して分からなかったよ」

「私は先生の娘様を一瞬で当てたのに! 圜鑒君だって分かりましたよ!?」

「圜鑒君はほら! 顔が変わってないから!」

「アヤネ様だって!」

「そりゃ菜弥にそっくりなんだから分からなかったら逆になんで分からんのってなるよ?」

「厳しい!?」





 もう色々と疲れた黎冥はベッドに座り、アヤネも隣に座った。



 起きたものの少し首に違和感のある黎冥が首を回していると、巫良々はハッと振り返った。



「で、何?」

「あの餓鬼の正体は? 神じゃねぇだろ」

「知らないよ。でも……神ではなかったな。たぶん私と同じ契約なんだろうけど」

「誰との?」

「神様だよ」

「契約の話はどうでもいいけどその鎖どうすんの? ずっとつけっぱでも問題ない?」

「相手の強さによって徐々に締まる。メルス当主が締まって死にかけてたろ」

「そういう種類とかじゃないの?」

「違う」




 こういう契約に関しては神様の種類や強さによって色々と変わるので教科書には載っていない。

 こういうものを教えてもらうための師匠だ。





「たぶん三日、四日後には気管を圧迫するだろうからなるべく早く解きたいけど。こっちから接触は出来ないんだよ。神石の種類もないし。アヤネ持ってない?」

「死の契約?」

「そう」

「ちょっと寝る」




 ソファに移動したアヤネはソファに倒れるように寝ると背もたれに向いて眠り始め、いきなり話をぶった斬られた巫良々は黎冥を見た。




「ナルコレプシー?」

「違う……」




 一番初めに出てくる言葉がそれかと少々呆れながら首を横に振り、神との接触だと伝えておく。


 神を下ろすよりも確実に周囲への負担が少ないので、この後だからこその夢での接触だ。







「神來社、お前ここ数週間姿を見せていなかったがどこにいた?」

「あ菜弥に連絡取らないと……」

「おい無視か!?」

「圜鑒君、楼黎(ろうれい)の子供って第八分校? そもそも見付かってる?」

「知ってんだ」

「アヤネが会で仲良くしてたからね。……歴的には羽耶ちゃんと鈴羅(すずら)君よりも長いから」

「その二人が亡くなったことは?」

「……ほんとに? そっ……かぁ……。仲良かったのになぁ……」




 リリスの言葉を無視して黎冥と話す巫良々は、一度ソファに目を向けると事務室に向かって歩き出した。

 リリスの指示で寝丈とチルが後を追う。




「……圜鑒、何の話だ?」

「子供は知らなくていい話」

「そうやってすぐ年齢差別する!」

「年齢じゃなくて中身な」

「同世代はだいたいこんなもんだぞ!」

「まだ幼いとも馬鹿とも言ってない」

「言われる前に分かったからもう」




 完全悲観中のリリスはすっと真顔になると、慰めるように肩に手を置いてくるアレイとシュルトの手を払い落とした。





「圜鑒、お前本当に記憶思い出せないのか」

「思い出せるならとっくに思い出してる」

「記憶力だけが取り柄なのに」

「そもそも思い出せないとか忘れたとかよりも知らないって言う面の方が強い。知らないことは思い出すも何も出来ないし」

「……そうか」

「あと家柄だけが取り柄のお前に言われたくねぇよ」

「私は可愛いから!」

「その言葉が可愛くない。可愛いって言えるなら俺と並べるかアヤネと大差ない顔になれ」

「こいつ嫌い」



 リリスは拗ねながらアレイとシュルトを掴んでどこかへ行き、月見里と雲類鷲以外の神守も皆散っていく。





 黎冥はベッドから机に移動し、そのまま仕事を始めた。








 しばらくして、月見里と雲類鷲も黎冥の部屋でくつろいでいると巫良々達が戻ってきた。



「アヤネ起きた?」

「まだだよ」

「まさか何十時間と寝たりする?」

「そこまでは寝ないけど五、六時間は寝るだろうな。話したいことでも?」

「前に家に行った時に母さんと何話したのか聞きたくて」

「知ってんだ」

「そりゃ全部報告されるからね。知らなかったら中心校で倒れたりしないさ」




 ソファの後ろから丸まって眠るアヤネの頭に手を伸ばし、久しぶりに見た寝顔を眺める。



 本当に母親そっくりな子だ。





「月見里先生……! 先生が成長してる……!」

「今まで私が成長してなかったみたいな言い方しないでくれるか」

「神來社君はずっと幼稚だったからね。驚くのも無理ないだろう」

「二十歳の頃から今と変わらない雰囲気だった先生に言われたくない……」



 巫良々は顔を逸らして小さく悪態をつくと、仕事の手を止めてこちらを見ている黎冥に顔を向けた。



「仕事続けたら?」

「んなもんとうに終わってる」

「今までやってたのは」

「論文。それよりお前が関係してる神かなんかがラムスとルルべリア乗っ取った。どうにか出来るならどうにかしろ」

「……ラムスって誰?」

「リリスの実兄!」

「……あぁあれ。ルルべリア当主の証明書は今も変わってないんだろう? 問題ないよ。あれは相応しくない当主だと勝手に名前が変わるから。前にリトル・ルルべリアになってるならすぐに戻るはず」




 そんな初耳情報をさも当たり前のように言う巫良々に目を丸くし、しかしすぐに疑う。




「そんな話聞いたことない」

「本人が焦ってるなら本人も知らないんだろうね。ずいぶん前に廃れた知識じゃないかい?」

「なんでお前が」

「ほら、暇だったから」

「意味分からんし」

「そんなことより圜鑒君はずいぶん上方語が抜けたね」

「それこそどうでもいい。戻るのはいつ?」

「さぁ、でもアヤネが神様と接触してるならすぐに戻るだろうね。たとえあれと手を組んで何度変えても勝つのは五大神さ」





 上手く核心から逃げていく巫良々を睨み、雰囲気を感じ取った月見里と雲類鷲が少し心配そうに顔を見合わせていると、扉にノックが鳴った。



 皆がそちらを見る。




「し、失礼します。あの、鼓アヤネ様はいますか……?」

「いますけど」

「お電話がかかってきていて……。えっと、(つずみ)奏陽(そうよう)と言う方から……」

「すぐに行きます」



 確かに黎冥の声で返事がされたが、何も言っていない黎冥は勢いよく巫良々を見て、巫良々は体を起こすアヤネを手伝う。




「なんで俺の声……!」

「巫良々七不思議の一つだよ。声真似」

「気持ち悪っ……」



 黎冥の言葉に巫良々は胸を押え、起きたアヤネは背もたれに座っている巫良々を退かした。



 手櫛で髪を梳いてあくびをする。




「よく起きたな」

「時の使者だけだったから。……どういう状況?」

「電話だって」

奏陽(そうよう)さんからだよ」

「用件が思いつかん……」

「前に情報流したからそれだろ」

「眠い……!」

「なんで起きたん」




 アヤネが寝ている途中に触られかけると起きるのは昔からだ。


 今は巫良々に頬をさされそうになったから。




「俺が揺すっても起きないのに」

「父さんには何されるから分からないから」

「そんな信用されてない?」

「微塵も」

「嘘でしょ……!?」

「哀れな人だ」





 アヤネは櫛で髪を整えると黎冥から渡されたマントを留め、黎冥とついてくる巫良々とともに事務室に向かう。




「触られたら起きんのに人と一緒に寝れんの?」

「そもそも人と一緒に寝ることがなかったから」

「なんか……巫良々が父親って嫌だなぁ」

「なんで」

「複雑な気分。犯罪者とかなんかそんなんじゃなくって……人柄と関係性的に?」




 眉間を押さえた黎冥は後ろからついてきている巫良々に視線を向け、すぐに前を向くとため息をついた。

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